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異世界転移物を書いてみたかったんです。
初投稿・初小説です。
不慣れで至らない点も多々ありますが、生暖かい目で見守っていただけると助かります。
鬼首 唯17歳。珍しい苗字だが、しかし平々凡々の、どこにでもいる女子高校生だ。
平々凡々と書いたが、実は彼女には瞠目すべき才能がある。それは、非常に手先が器用で、なんでも手作りしてしまうところだ。
手芸をはじめ、絵画、粘土細工、日曜大工とその範囲も広く、さまざまな手工芸品の製作に日夜没頭しているのである。時折、仲の良い同級生にアクセサリや―布小物などをプレゼントすることもある。
同級生曰く、「商売としても十分に通用する出来栄え」で、唯本人も将来はこういった創作の道に進みたいと考えていた。
唯の器用さは生来のものとはいえ、ここまで手作り好きになったのには一緒に暮らしている伯母の鬼首 町子の影響が大きい。実母の鬼首 弥生の長期海外勤務のため、唯は小学生のときから母の姉である町子の家に寄宿しているのだ。
伯母の町子はいまだ未婚の自立心旺盛な女性で、和裁と洋裁の資格と技能を生かし、地元の商業施設の一角で服飾のリフォーム店を営んでいた。仕事が丁寧と評判で、そんな伯母の仕事ぶりを幼いころから見ていた唯は、伯母の手ほどきでもあって中学生の頃にはすでにワンピースやブラウスを生地の裁断から仕立てるほどの腕前になっていたのである。
二人は某地方都市郊外の新興住宅地に住んでいた。
新興住宅地といっても山野を造成したわけではなく、農家と田畑が点在する地域を開発した住宅地で、新旧の住民が入り混じっており、鬼首家は代々農業を営む旧住民であった。
唯の祖父母、つまり母弥生と伯母町子の両親は既に鬼籍で、長女の町子が家屋と土地を継いだ。農業のほうもすでに廃業して農地も大部分を処分したが、自家用の野菜を作るために70坪あまりの畑だけは残した。
伯母は仕事の合間を利用して野菜も作っているのである。畑は自宅と隣接しており、夏はキュウリ、ナス、トマト、トウモロコシ、冬は大根、ニンジン、ネギ、白菜を栽培していた。
伯母は公私ともに精力的に働く人だった。仕事がどんなに忙しくても家事は手を抜かず、三度の食事は手作りで、食卓には季節の野菜料理が所狭しと並べられた。
当然ながら、唯も料理が得意だ。高校に進学すると、毎日のお弁当を自分で作って持って行った。厚焼き玉子、ハンバーグといった定番のおかずはもちろんのこと、佃煮や梅干しでさえ手作りだ。
そのため、学校では「お祖母ちゃん」などというあだ名がついてしまったが、唯自身も「昭和してるなぁ」と自覚していたので、うら若き乙女に「お祖母ちゃん」はないよな、と思いつつもあだ名を受け入れていた。
4月。唯は3学年に進級した。
彼女が通う「私立双葉高校」は進学希望者が多く、学生たちは受験の準備に余念がない。唯も地元の服飾専門学校への推薦入試がほぼ決まっていた。推薦入試なので大学の受験組と違って多少の余裕はあったが、毎年この時期になると唯は別のことで忙しくなる。伯母の店の手伝いである。
伯母の店はリフォーム店だが、入園・入学のシーズンになると入園グッズや通学グッズの「手作り代行」でてんてこ舞いになるのである。制服のお直しも集中するので、従業員一同フル稼働だ。
唯は主に入園グッズの製作を担当した。弁当袋に上履き入れ、コップ入れ、体操着入れ、などなど。伯母の町子は「今時の母親は袋も縫えないのね」とボヤくが、店にとっては書き入れ時である。
4月某日深夜。唯は自宅2階の自室で3つ目の弁当袋を手掛けるところだった。布地は基本的に客の持ち込みなので失敗は出来ない。そのうえ、あそこにリボンをつけて欲しいとか、ここにファスナーをつけて欲しいとか、要望が細かく、ひどく神経を使う。
3つ目の弁当袋は、青地のキャラクター柄だった。最近流行りの戦隊シリーズのキャラで、いかにも小学生の男の子が好きそうな柄だ。
それは、ミシンの糸を布地と同じ青色に変えようとしたときに起きた。
唯は激しい目まいに襲われた。
――なんだろ、疲れているんだろうか?
視界の端が波打ち、やがて焦点がぼやけ、身体が真っ白な光に包まれていくのを感じた。光は天井から覆いかぶさるように襲ってくる。
唯はその光の中に、抗えない強い力を感じた。
意識が遠のく中、聞き覚えのある声が頭の中で響く。
「早くおいで、こっちは楽しいよ」と。