女と女とドライブスルー1
恋は盲目、なんて言いますよね。
盲目っつーか、近くにいる同姓が全員敵に見えちゃったりして……
それでは本編どうぞ。
まず将平を送る事にした昂は、将平の家の近くのコンビニにナビを設定して車を走らせた。
車が走り出してから十数分、いつもは図々しい位に話し掛けてくる千歌が何も喋らないことが不自然に思えた。昂は何か違和感を感じて千歌に向かって声をかけた。
「そういえば、相沢って俺んちの近くに住んでたんだな。全然知らなかった」
そう声をかけると千歌は、
「あぁ、実はさっきの嘘だったんだぁ。二次会には行きたくないし、終電も間に合わないっぽいから。嘘、吐いちゃった、ごめんね」
と、窓の外を見ながら言った。
目線の先には道路に沿って植えられた銀杏が等間隔に並んでいる。鮮やかな黄色の葉は、夜の闇に映えていた。
「ねぇタッキー。窓、開けていい?」
「どうぞ」
千歌は窓を開けて顔を少しだけ外に出した。
途端、ゴウッと冬の空気が車の中に入ってくる。
運転をするときは上着を脱ぐタイプの昂はブルッと大きく身震いした。
「あ、やっぱり寒かった?閉めようか?」
「いや、いいよ開けたままで」
昂自身、運転中は速度を感じるために窓を開ける人間なので、むしろ千歌や将平らに気を使って今まで閉めていたのだ。
「良かった。私、こうやって助手席に座って窓開けて顔出すの好きなんだぁ。て言うか、これが出来るのが助手席最大のメリット、的な?」
「俺もよく窓開けて運転するよ。風の音しないと運転してる気にならないんだ」
「何それ、レーサーみたい」
そう言った千歌の後ろ髪が小さく揺れる。
車に乗ってから初めて笑ったようで、それを見て昂は少しだけ安心した。
話しているうちにナビに設定したコンビニの近くの交差点まで来ていた。
赤信号で止まっている間にナビを終了する。この交差点を左に曲がればコンビニが見えて、そこから少し進んだところに将平のアパートがある。
「ねぇ、次からはさ」
千歌が不意にこちらを向いた。
「なに?」
少し間を置いてから、
「千歌って呼んでよ。仲の良い人達は皆そう呼ぶから」
昂は喉まで出掛かった、そこまで仲良くないだろ、という言葉を必死に押し込めた。流石にそこまで馬鹿ではない。
どう返答するべきか迷っているうちに、信号が青になって後ろの車にクラクションを鳴らされた。慌てて交差点を左に曲がる。
そして、
「今さら変えらんないよ。もう相沢で慣れちゃったから」
と無難に答えた。
「なら私も今度からタッキーじゃなくて昂って呼ぶから、それでお相子。ね」
昂は、「えー」とだけ答えて問題を先延ばしにした。
いきなり名前で呼ばれるのは自分の領域に土足で踏み込まれたみたいで凄く心地悪かった。
アパートに到着し車が停車した。昂は将平を車から引っ張り出しそのまま担いでアパートへ向かった。
車内には当然、千歌と露が残された。
「つーちゃん先輩、起きてますよね」
千歌はスマホを弄りながらぶっきらぼうに聞いた。
しかし、答える者はいない。
スマホを仕舞い後部座席を見るも、露は本当に寝ているように見えた。
「狸寝入りですか。まぁ良いですけど。起きてる体で話進めますね」
そう言ってから一度前を向いて一呼吸置き、そして再び後部座席を見て、
「私は昂の事が好きです。先輩も気付いているとは思いますけど。いや、思うからこそなんですけど、今日、何で私が昂と話してるときに割り込んで来たんですか?確か先輩は、将平君と付き合ってる筈でしたよね?将平君だけじゃ飽き足らず昂にまで手を出そうって言うんですか?わざわざ酔ってる振りまでして後ろから抱き付いて…今だってそう、寝てる振りして私の話を聞いて心の中で笑ってるんでしょ!」
千歌は独りで喋りながら、どんどん自分の気持ちがエスカレートしていくのを感じていた。始めはただの語りだったものが次第に叫びに変わっていく。
「何で先輩なんですか?何で昂は私を見てくれないんですか?何で先輩にはちゃんと対応するのに、私には素っ気ないんですか?ねぇ、先輩。教えて下さいよ!何で?ねぇ!起きてるんでしょ?黙ってないで教えろよッ!!何で…何でなのよ……」
千歌はうんともすんとも言わない露を見て高ぶっていた気持ちが段々と冷めてきて、そして虚しくなって涙が溢れた。
自分でも何がしたくて、何が答えで、何を求めてるのかわからなくなった。
本当は先輩が何の企みもなく、昂を後輩として可愛がっていただけなのかも知れない。
だけど今の自分にはどうしてもそうは見えなかった。
恋に浮かされた頭では、昂に近づく女の全員が敵に思えた。
周りの女の一挙手一投足全てが昂を狙っているように見えて気が気じゃ無かった。
「今すぐ自分の物にしたくて、盗られる前に奪いたくて、今日は思い切って車に飛び乗ったけどさ、結局、いつもと何も変わんないじゃん。距離だって特別縮まった訳じゃないしさ…こんなの確実に脈無しだよ……」
露に向けて話していたものは、いつの間にかただの独白になっていた。
千歌はこのサークルに入った当時の事を思い返す。
大学に入ったのを機に今までの地味な自分から卒業するぞ、と意気込んで飲みサーに入ったものの、周りのテンションに付いていけず、端の方で中心のドンチャン騒ぎを羨ましそうに見ていたあの頃の私。
同じように端の方で座って、しかし、千歌とは違って冷めた目で中心を見つめる、場の雰囲気に不似合いな男の人。
それなのに親友らしき人に連れられて場の中央に行くと、皆と一緒に盛り上がって楽しそうにしている彼。
初めはシンプルにウザかった。
あんたはこちら側の人間なんじゃないの?なんて口には出せないけど、静かな嫉妬と対抗心を抱いていたのは間違いない。
彼とはいつも端の席で一緒になるから名前もすぐに覚えた。
喜多見昂と言うらしい。
喜多見から喜と多を取って雑にタッキーというあだ名をつけてあげた。
するとそのあだ名は端の席から順に拡がり、いつしか彼のあだ名として定着してしまった。
ざまぁ見ろ、あんたは私が適当に付けたあだ名でこれから呼ばれることになるんだ、って当時は喜んだんだっけ。
彼は私を相沢、と呼び捨てにした。
別に相沢と呼ばれることに抵抗は無かったけど何だか少しモヤモヤした。
彼はいつも端の席に座る。
そうしていつも冷めた目で飲み会の中心を見つめるのだ。
楽しく無さそうだね、と聞くと、これでも楽しんでるんだ、なんて返してくるもんだから私は大いに戸惑った。
今までこんな冷めた目をしたのに楽しんでたのか?
彼は私の中で少しずつウザい奴から不思議な人へと変わっていった。
その頃から彼に対する皆の見方も変わっていったのかもしれない。
時々、物好きの先輩が数人、端の席に来て彼にちょっかいをかけるようになった。
人気者と言うよりかは珍獣のような扱いを受けて可愛がられていた。
私は目を付けていた玩具が人に取られてしまったような気分になった。
いつしか私は彼にではなく、周りの人に嫉妬するようになっていった。
その頃からだろうか私が彼に淡い恋心を抱いていたのは。
初めは好きなのかそうじゃないのかわからなかったけれど、飲み会でいつも前に座る彼を見ていく内に少しずつ惹かれていった。
いつも彼の事を考えるようになって、やっと彼の事が好きなんだと自分で自分の心を認めた。
認めたは良いものの、彼の私に対する態度はぶっきらぼうそのものだった。
どう話し掛けても素っ気なく返してくるだけで何だかもどかしくて凄くモヤモヤした。
そんな時、彼に良く絡みに来ていた先輩の池田露という女性に彼氏ができたと言う噂を耳にした。
相手は彼の親友の宇賀将平だという。
私はその時、やった!ライバルが一人減った!なんて思ってたんだけれど、実際問題そこから私たちの関係が発展することは無かった。
ライバルが一人減っただけ、他にもライバルは沢山いたのだ。
いや、いたかはわからないけれど、もう私の目には全ての女が敵に見えていた。
そこからは、あれやこれやとアピールしまくって気を引こうとして空回りしてっていうのを繰り返してきたんだけど、今日、思い切って彼の運転する車に飛び乗って、二人きりで何か話そうと思ったのだ。
結局、これも空回りで失敗したようなものだけれど。
いや、でもまだチャンスはある。よね?
回想から現実へ戻ってきた千歌は後ろを振り返り、
「つーちゃん先輩。起きてるなら先に送ってもらって私と昂を二人きりにしてくださいね」
と言った。
そうは言ったが、昂はまだ帰ってこないので、静かになった車内で一人、SNSを見ていた。
いつの間にか涙は収まっていた。
露は千歌に気付かれないようにニヤリと笑った。
はい。
乙。
露パイセンのクソアマに痺れるね。
当方クソアマ大好き人間です。
千歌ちゃんの激情は凄く書いてて楽しかった。
なりふり構わずって感じがTHE恋って感じですねぇ。
胃と食道が縮みそうです。
黙ってないで教えろよッ!って女性に言われてみたい……
はい。教えます…って速攻折れる未来が目に見えますね。
そういえば、いろんな作品見てて思ったんですけど皆さんあんまり後書きとか前書きとか書かないんですね!
なんで?
自分出して行こうぜ。
な?
まぁなんかまだ続くので宜しくね。
当初の目的のBLに全然到達しないのが癪ですが。
ではまた。
感想とかブクマとかその他色々待っている。
私は待っている。