飲み会にて1
特にないですが、これは挑戦の多い作品です。
言うなればエクストリーム現代文。
体の絡みを一切書かない(当方ノンケなので書けない)BL小説を作ろうという思考から生まれた作品です。
誰かがこれをBLじゃないと言ったとしても私は声高に宣言します。
これはBLである!
11月後半、金曜の夜7時、大衆居酒屋にて。
「えー、どうも!今日はお集まり頂きありがとうございます!今日からこのサークルの新しいリーダーを務めさせてもらいます、三浦颯人です!」
「よっ!新リーダー!「颯人ー!挨拶堅いぞ~「そんなの良いからさっさと飲もうぜー!」
今日新しく決まったサークル長の挨拶に、店の至るところからヤジが入り、どっと笑いが起きた。
飲み会はまだ始まっていないのに、皆のボルテージはだいぶ上がっている。
喜多見昂は、そんな光景を店の端の方でつまらなそうに頬杖をついて見ていた。
目線の先にいるのはサークル長の三浦颯人、ではなく、その近くで絶賛盛り上げ中の宇賀将平だ。
「タッキーまた面白く無さそうな顔してる。しっかも~、頼んでるのウーロン茶じゃん。今日飲まないの?」
昂は目の前に座っている相沢千歌に話しかけられて視線を彼女に移した。
因みにタッキーとは昂のサークル内でのあだ名である。喜多見から喜多を取り、さらにそれを逆から呼んでタッキーというあだ名が付けられたのだ。
「今日は車で将平を送らないと駄目だから、飲めないんだ。次の飲み会は飲むから、な」
「え~!一杯くらい良いじゃん!ちょっと飲んだくらいじゃ変わんないって!はじめだけ、飲も!ね?」
そう言うなり千歌はテーブルに備え付けのタブレットで勝手に生ビールを注文した。
くそ面倒くさい女だな、と昂は思った。
人が車に乗るって言ってるのに酒を頼む奴がいるか?
それも俺が嫌いなビールを、だ。
完全にわざとやってるとしか思えない。
あぁ、でも。
「はぁ…はじめの一杯だけだからな」
社交性、社交性。
昂は、そう唱えてから自分の思いと全く違う言葉を吐いた。
実際、飲み放題なのに一杯も酒を飲めないのは癪だったというのも少しあるだろうが。
「さっすが~!話がわかる!」
一番端の席で行われているこの会話を聞いていた者はいない。
皆がサークル長の挨拶を聞いていたからだ。
聞かれていたら、きっと誰かが止めてただろう。そう昂は思った。
「それじゃあ皆さんお待ちかね!乾杯の音頭を取らせて貰います!」
いつの間にか颯人の挨拶が終わり、いよいよ飲み会が始まろうとしていた。
昂の目の前には入れたての生ビールがある。キンキンに冷やされて露を纏ったジョッキの側面を、今すぐに飲んでくれと言わんばかりに、泡が一筋、二筋と流れ落ちた。
「このサークルの益々の繁栄を願って「かんぱーい!!!!!!!!」
颯人が乾杯と言おうとした直前、急に将平が立ち上がり、乾杯の音頭を盗った。
『かんぱーい!!!!!!!!!!!!!!!!』
飲み会が始まり、店は大爆笑に包まれた。
店の中央では颯人と将平がビールの一気飲みをしている。
昂は騒がしくなった店内を見ながら自分もテンションが上がっているのを感じた。やっぱり、騒ぎを端から見ているのが一番楽しい。
「タッキーかんぱーい!」
「あぁ、乾杯」
千歌とグラスを突き合わせた後、昂もビールを一気飲みする。
ゴク、ゴク、ゴク。
「ぷはぁ!あぁ!クソ不味い!」
ゴトリ、と飲み終えたジョッキを雑に置く。
「ほんと、何で嫌いなのに飲むの?いっつも不思議に思ってるんだよね。それ」
「ワイワイした雰囲気で一気飲みしてクソ不味いって言うのが楽しいんだよ」
「何それ。タッキーってやっぱり変わってるね」
そう言って千歌は笑った。
昂は、初っぱなから安パイにメロンサワー飲んでる女に言われたかねぇよ、と心の中で愚痴った。
店の中央では、まだイッキ飲み大会が行われている。後から何人かが参戦したようでさっきよりも騒がしくなっていた。
羨ましいやらバカらしいやらの複雑な感情が昂の中で渦巻く。
「2回の諸君、飲んでる~?」
突然テンションMAXの声が聞こえ、昂は後ろから抱きつかれた。その途端にキツい酒の臭いが鼻をつく。
「うわっ!酒臭っ」
このテンションの高い声は…昂が嫌々後ろを見ると、サークルの先輩の池田露が抱きついていた。
その顔を見るにもうかなり出来上がっている様子だ。
「先輩…先に飲んでたんですか?」
昂は非難とも諦めとも取れる語調で言った。
「え~?そんなわけ無いじゃ~ん」
これは完全に酔っている。
目の前のちらっと見ると千歌が凄く不機嫌そうな顔をしていた。
死ぬほど面倒臭いな。
昂に抱き付く露を見ていられなくなった千歌は、凄く疎ましそうに、「つーちゃん先輩。こんな端っこの方に何か用ですか?」と鋭く切り込んだ。
「可愛い後輩と喋りに来ただけだよ~」
露は千歌の攻撃を華麗にいなす。
「タッキー困ってると思うんですけど」
「困ってないよね~?喜多見君!」
昂は面倒臭い二人の女に挟まれて困った。
「えっと」こういう時は先輩の肩を持つべきだよな…「特別困っては無いですよ。今は」
「ほら~!困って無いって言ってんじゃーん!」
「今は、とも言いましたよね」
尚も言い争いを続ける二人にうんざりした昂は無になった。
※ここからは無になった人間の思考がそのまま流れます。
飲酒運転を促す女に、飲み会が始まって間もなく酔いまくってる女。なんなの?でも池田先輩の胸が背中に当たって気持ちい、いややっぱり酒臭ぇわ、この人。てかまだイッキ飲みやってんのかよ将平のやつ、今日は俺が送るって言ったからって飲み過ぎだろ。車に吐いたらぶっ殺してやる。それにしても今日は特にうるさいな。いや、うるさいのはここにいる二人の女か。池田先輩、これ酒臭いだけで普通にシラフでは?相沢は完全に言い負かされて半泣きになってやがる。ウケ。あー、やっぱ飲み会はこうでなくっちゃなぁ、酒飲めてたらもっと最の高なんだけど。次は駅近の居酒屋にしてもらお。颯人は何だかんだで皆の言うこと聞いてくれそうだし、前の先輩達よりも楽そうで良いなぁ。そういえば池田先輩、就職とかどうすんだろ、もうそろそろ始まってんじゃねぇのか?まぁこの人の事だろうから、ちゃちゃっと内定貰って帰ってくるんだろうけど。変にエリートなの最高にムカつくわぁ。あー、だりぃ体がだりぃ精神もだりぃ。酒なんか飲んだところで何も忘れられないんだし、次の日肉体がぶっ壊れるだけなんだけど、この空間にいるのは好きなんだよなぁ。何かビール一気飲みしたら頭痛くなってきたな。小便行くついでに顔でも洗ってこよ。
「すいません。小便行ってきて良いっすか。」
「どうぞどうぞ、私はここで千歌ちゃんと楽しくお喋りしてるから~」
昂はようやく露から解放されて座敷から降りた。
近くにいた店員を捕まえてトイレの場所を聞く。
「あの~、すいません便所ってどこっすか」
「こちらになります」
言われた方に向かうと将平もちょうどトイレに行くところだった。
「何、もう吐くの」
昂が嫌味ったらしく言うと、「いや、まだ大丈夫…うぷっ」と今にもゲロが出そうな調子で将平が答えた。
「俺の車では絶対に吐くなよ」
「おう、任せろ…」
昂がトイレから戻ると、露がグラス片手に机に突っ伏していた。目からは涙が流れている。
「一応聞くけど。どうしたの、これ」
昂は渋々千歌に聞いた。
「いや、何か、つーちゃん先輩が蜂蜜レモンチューハイとかいうやつ頼んで、飲んで、死んだ」
「分かりやすい説明をありがとう。先輩、そこ俺の席なんでちょっとどいてくれませんか。おーい」
肩をバシバシと叩くが反応がない。
昂は諦めてさっきまで露が座っていた席を探した。
「はぁ……嘘だろ」
席を発見した昂は本日最大級のため息を吐いた。
席は飲み会の中心。
将平の隣の席だった。
飲み会はまだ始まったばかりである。
はい、お疲れさまでーす。
他の作品もチマチマ更新していきますので良しなに。
現実世界で最高に追い詰められてて新しい作品を書きたくなるんです、許してね。
俺の挑戦は続くのでお前達も止まるんじゃねぇぞ………………