街へ
一行はイダルダ村で食料などを買い込んだ後に、一番近くの比較的大きな街に移動することになった。
私以外の3人は馬がないため、徒歩で街まで行かなくてはならなくなった。どうやら、この村では馬は調達できなかったようだ。どうせ他の3人が徒歩で行くならと、私の馬はみんなの荷物持ちにすることにして、私も徒歩で街まで向かうことにした。
街までの道を歩きながら皆で談笑していた。
「なあ。今更だけど、フィリスは防具を付けないのか?」
とはレオ。
「付けたいんだけどね。師匠は防具なんていらないとか言ってくれなかったし、さっきの村で売ってた防具は私にはどう考えても大きすぎて合わなかったから」
「なるほどな。それなら次に行く街でオーダーメイドの防具を作ってもらえばいい。何なら短刀なんかもあるといいな。獲物の皮を剥ぐ時や、肉を切る時、護身用にも使えるな」
「なんか生々しいですけど、そうします」
「そういえば、フィリスはイダルダ村の前はどこに?」
とはユーリ。
「師匠のいた森の中の家で10年近く魔法を学んでいました。ちなみに、その間森から一度も出ていませんよ」
「すごいですね。ということは、森から10年ぶりに出て、初めて出会った人が私たちということですか?」
「そうですよ」
「それは何というか、いろいろと凄いですね。私たちはあなたが10年ぶりに出て来てくれたお陰で今こうして皆そろって生きているわけです。運命の巡り合わせでしょうかね」
「フィリスちゃんかわいいー」
とはミリンダ。
ミリンダ、暑いから抱きつくのはやめてくれ。それに歩きづらいんだが。
そんなこんなで街道をひたすら進んでいく一行。そして、早速3匹ほどの魔獣とエンカウント。草原にはよくいるターニップと呼ばれる比較的弱い生き物だ。名前の通り、丸っこい姿をしている。こちらを見るなり襲いかかってくる。
折角なのでミリンダの魔法の腕を見せてもらう。
「レオとユーリは、ターニップを倒さずに足止めしてくれますか?ミリンダの魔法を見せてください」
「わかったぜ」
「了解」
「わかったわ。見ててね」
ということで、レオとユーリがターニップを足止めしている間にミリンダが杖をターニップに向け、魔法の詠唱を開始する。
「火の神よ。我らに力を与え給え。汝の炎は全てを焼き尽くす。汝の炎は息もつかせず飛来する。激しき炎は全てをなぎ倒す。その炎で我の敵をうち滅ぼし給え。エクスプローシブフレーム」
ミリンダの詠唱が終わる。
すると杖の先に炎が点り、それが小さな火球になる。火球は徐々に大きさを増して行く。
火球の直径が50cm程になったところで、ミリンダ曰くトリガーワードを唱える。
「行くわ、2人とも離れて。ファイア」
すると火球がそれなりに早い速度で、ターニップに迫る。
ターニップの1匹に火球がぶつかると共に、火球が爆発する。
爆発音が辺りに響く。
炎が収まった後には、丸焦げのターニップが1匹、無傷のターニップが2匹。
・・・詠唱長。それも発動遅っ。それに火球のサイズが大きくなるまで時間かかってるし。イメージで魔法を使うとここまで効率が悪いのか。
そんなことを考えながら、私はミリンダが同じように残りの2匹を倒すのを見ていた。
それから5分ほどして、ミリンダは全てのターニップを倒し終えた。
すると私に振り返って、
「どう、フィリスちゃん」
「詠唱長い。それに発動が遅い」
「えー。これでもBランク冒険者なのに」
「Bランクって強いのか?」
「まあ、それなりにかな」
そうなのか。魔法技術はまだまだ未熟ということだろうか。そう考えると師匠は一体。
「ねえ、ミリンダ」
「なに?」
「魔法の発動速度って、あれが普通なの?」
「まあ、普通はあんなものよ。私より下のランクの人はもっと発動が遅いわ」
まじかい・・・。とりあえず、魔術師とやらがソロだと速攻でやられる存在ということがわかった。
「それじゃ、まずミリンダにはイメージだけで詠唱なしで魔法の火を灯すことができるようになってもらうよ」
「そんなことできるかな」
「原理的には十分可能。というか、私はできてるわけだし」
「わかったわ。私頑張る」
一行はお昼休憩を挟みながら街道を進んでいった。
そして夜になって、野宿することになった。
「よし、テント張るぞ」
レオの指示に従って、テントを張る。
「そっち持って、フィリスちゃん」
「わかった」
私も協力していた。
昼間のうちに拾っておいた枯れ木にユーリが火打ち石で火を点けるのを見ていた。
最初に木屑に火打石で火花を散らし、火をつけた後に息を拭くかけて火を大きくする。枯れ草を足していき、ある程度大きくなったところで枯れ木を足していく。
「めずらしいかい?フィリス」
「めずらしいというより、懐かしい。師匠の家で暮らす前に、実家で母がこうやって火を点けるところを見ていたから」
「そうか」
私とユーリで火に枯れ木をくべながら火を大きくしていった。
「よし、ターニップを焼くぞ」
テントを張り、荷物を降ろし終えたレオがそんなことを言い出した。
「あれって食べられるんですか」
「食べられるさ。味はまあまあだな。味付けすればそこそこいける」
「料理は私に任せて!」
ミリンダが張り切って料理をするようなので、私は手伝いに入る。
そんなこんなでできたスープとターニップ焼きをみんなで食べた。
熱いけどおいしい。ターニップは硬い豚肉のような感じかな。
皆が食事を終えた後、私はミリンダに魔法について軽くアドバイスした。
詠唱の際にイメージすることを実際に魔法を発動しながら把握すること。そして、そのイメージだけで魔法を発動できるようにすること。私が伝えられるのはこんなことだけだった。
「わかったわ。まずはイメージの把握ね」
ミリンダは嬉々として練習を始めた。さて、無詠唱での発動ができるようになるのか楽しみだ。
必死に練習するミリンダを眺めながら、レオとユーリとハーブティーを飲みながら焚き火を囲んで雑談していた。
しばらくしたら止める気配のないミリンダに声をかけ、皆で同じテントで寝ることにした。
一つミリンダに聞いてみる。
「男女が同じテントってどうなの?」
「レオとユーリなら問題ないわ。だからフィリスちゃんも安心していいわよ」
という、よく分からない返答を得た。
それから一行は、ちょくちょく出てくる魔獣を倒したり、談笑したり、休んだりしながら街を目指した。
1週間ほど歩いて、翌日には街に着くというタイミングでミリンダは無詠唱での発動に成功した。
「できた!できた!本当にできたわ!ありがとう、フィリスちゃん」
ミリンダの掲げている杖の先には火が灯っていた。それも無詠唱で発動させて魔法でだ
「おー、すごい。おめでとうございます!」
「ありがとう、フィリスちゃん。あなたのおかげよ」
そういってミリンダは私に抱きついてきた。
まあ、今回はいいか。
そんなことを思いながらも、内心ミリンダが無詠唱での魔法を成功させたことをとても喜んでいたし、驚いてもいた。
「ねえフィリスちゃん。これなら遅いって言わないでしょ?」
「そうですね。次は、他の魔法でも同じことができるようになることとイメージ構築の高速化が目標ですね」
「よーし。お姉さん頑張るよ」
狂喜乱舞しているミリンダを横目に、レオとユーリは
「まさか本当に無詠唱を習得するとは。これで戦略の幅が広がるな」
「私の弓と合わせての先制攻撃の効果が上がりそうです」
ミリンダとは別の意味で喜んでいた。
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そんなこんなでイリアスの街が見えてきた。
「おー、大きい」
私が驚いているとレオが話しかけてきた。
「嬢ちゃんは街が初めてだったか」
「はい。私は村に住んでいたあとは、森にずっと住んでいたので」
「それならこれからもっと驚くぞ」
私たちは、街の入り口の門までやってきた。街は高い壁で囲まれていて、ここからでは中の様子をみることはできない。門の前には中に入るための行列ができていた。
「結構人がいるもんですね」
「俺たちが通ってきた道はあまり人通りが多くないが、いくつもの人通りの多い道がここには続いている。だからこんなに人がいるんだろう」
列に並んでいる人たちをみると、冒険者や商人、馬車に乗っている身分が高そうな人など多種多様な人たちがいた。そう言った中を見渡すと、猫耳のようなものを生やした人が何人かいる。
「レオ」
「なんだ?」
「あそこにいる耳を生やした人って何?」
「お前は見るのが初めてか。あれは、猫族の獣人だ。他にも狼、犬、虎、兎、狐なんかの獣人もいるな。あいつらは身体能力が高かったりするだけで、基本的には人とほとんど変わらねえよ」
「そうなんですね」
ケモミミ族がいるのか。もふもふしてるのかな。仲良くなって、触ってみたい。
しばらくすると、検問所にやってきた。
「身分証明書を見せてください」
「はい、どうぞ」
他の3人は冒険者証を役人に渡してチェックされている。
「問題なし。そこの娘は?」
「この娘は俺たちの連れのフィリスだ。身分は俺が保証する」
「了解しました。紅の剣のレオがフィリスさんの身分を証明するという形で仮証明書を発行します。手数料として銀貨1枚をいただけますか?」
「わかったぜ」
レオが役人に銀貨1枚を渡すと、役人に名前を書くように言われたので私は用紙にフィリスと記入した。書き終わって返すと、役人がサインをしてから仮証明書を私に渡してくれ、声をかけてくれた。
「ようこそイリアスへ、フィリスさん。この街はあなたを歓迎します」
私はそうして初めての街イリアスに足を踏み入れた。