転生、そして出会いと別れ
「お疲れー」
「お疲れ様」
大学で友達と一緒に課題をやっていて、やっと終わったところだ。
やっと終わった。
そんなことを思いながら帰路につく。
既に、陽は落ちて夜の闇に包まれている。
正門から出て、駅に向かう。
駅に向かう途中のこの道は交通量が少なくて、今は歩いている人も車も何もいない。
冷たい風が頬を撫でる。
既に季節は秋。夏の暑さが過ぎ去って、最近は徐々に寒くなってきている。
地面の落ち葉を踏む音だけが、周りに響く。
駅に向かって歩いていると、対向車線から車が向かってきた。
ヘッドライトが眩しいな。
そんなことを思いながらも歩き続ける。
あれ?もしかしてこっちに車が向かっててきてる?
避ける間も無く、私は車にはねられた。
痛い。
痛い。
痛い。
はねられた後に空を飛び、道に叩きつけられる。
強い痛みに襲われる。
意識が遠のいていく。
私死ぬのかな。
死にたくない。
動かない身体。
薄れゆく意識。
駆け寄ってくる誰か。
もうだめかな。
そう思いながら私は意識を手放す。
私、相坂 光はそこで死んだ。
享年18才。
早すぎる死だった。
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暖かい何かに包まれている。
ここはどこだろう。
病院かな。
それじゃ、私は助かったのかな。
身体は動かない。
何も見えない。
でも、死んでないなら何とかなるかな。
眠い。
眠い。
少し寝よう。
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目が覚めた。
なんか、ごわごわした所に寝かされている。
上を見ると、木の天井が見えた。
ここどこだろ?
病院ではなさそうだけど。
周りを見てみると、随分質素な家の中のようだ。
ほんとどこだ、ここ?
しばらく呆然としていると、上から女の人が覗き込んできた。
灰色の髪と茶色の瞳。
綺麗な人。
「起きたの?フィリス」
フィリス?誰のこと?
そもそもこの女の人は誰だろ?
女の人が私の背中に手を回し、私を持ち上げた。
随分力持ちだな。
あれ、でもなんか変な感じ。
床に降ろされる。
「ご飯にするから、いらっしゃい」
すぐに違和感の正体に気づいた。
自分の手を見るととても小さいのだ。
それにさっきから話している女の人の言葉が日本語じゃない。
なのに私はその言葉を普通に理解している。
私が話せるのは英語ぐらいなのに。
・・・・ん?
ん〜?
あ、これ転生ってやつか。
何このラノベ展開。
案外、すぐに気づいた。
普通なら慌てたり、驚いたりする所かもしれないけど、なぜか大して動揺しなかった。
たまに読むファンタジー系のラノベではよくある展開だからかな。
とりあえず、現状確認からかな。
さっきの女の人はおそらく母親だな。
私の名前はフィリスか。
いい名前じゃん。
どうやらこの身体は女の子のようだ。
さて、ここは地球なのか、それとも異世界なのか。
よくわからないけど、そのうちわかるでしょ。
母親が向かった先に移動する。
そこには、机があって母親に椅子に座らせられ、母も机に座った。
その場には父親らしき男の人と兄らしき男の子が一緒に座っていた。
「おはようございます、父様、母様、兄様」
「ああ、おはようフィリス」
「フィリス、おはよう」
「おはよう」
どうやら正解だったようだ。
食事は黒パンと野菜のスープという質素なものだった。
この家は貧乏なのかな?
それともこれがこの辺だと普通なのかな?
そんなことを思いながら、もそもそとパンを食べる。
正直、味は微妙・・・。パンはなんか酸っぱいし。黒パンなんて初めて食べた気がする。
「あなた。ここ最近の作物はどう思う?」
「今年の作物は育ちがいい。今の所順調だな」
「それはよかったわ」
どうやらこの家は農家のようだ。
とりあえず不作じゃないことは良いことだ。私が生きていくためにも。
食事を終えると、父親は外に出て行った。おそらく農作業をするのだろう。
食事の後、私は兄と話していた。
「ねえ、兄様」
「なんだ、フィリス」
「私っていまいくつだっけ?」
「たしかお前は今3才だな」
「今日は何日かわかる?」
「日付か・・・。気にしたことないからな。村長にでも聞けばわかるんじゃないかな」
「兄様はいくつ?」
「俺は今6才だ。お前の3才年上だぞ」
「わーすごーい(棒読み)」
「おい」
そんなこんなで色々話していると、状況がわかってきた。
母親はエリス22才、父親はリック25才、兄はテトで6才、そして3才の私を含めて4人家族。父の仕事は農家。兄は父の手伝いをしているみたいだ。ちなみに、この国はオーラトス王国というらしい。
オーラトス王国。聞いたことないな。たぶん、ここは地球じゃないことが確定したような気がする。もう、友達とも親とも会えないんだろうな・・・。
少し寂しさを感じながらも大体聞きたいことは聞けたので、せっかく何なので外に出て行こうとする。
「お前、外出たことないだろ。気をつけろよ」
「わかったよ」
兄に見送られながら、外に出た。
上を見ると、満天の青空。周りには木造の家が建っている。
辺りを歩いてみると、畑が広がっていた。畑では男たちが土を耕している。
すぐ近くには森がある。
どうやら自然に囲まれた場所のようだ。
畑と家ぐらいしかないな。
東京に住んでいたので、あまり空気が綺麗ではなかったし、コンクリートとアスファルトに囲まれていた。それに比べると、随分と良い所だ。
空気を胸いっぱいに吸い込む。
うん、すごく気持ちいい。
しばらく村中を歩いていた。
すると、子供が声をかけてきた。
「お前誰だ?初めて見る顔だな」
同じくらいの歳の男の子みたいだ。
日焼けしていて元気そうだ。
「私はフェリス。リックとエリスの娘。よろしく」
「俺はケイトだ。よろしくな、フェリス」
同じ所には他の子もいた。
「よろしくね、フェリスちゃん。私はアリス」
髪が長くて、可憐な感じの女の子。
「僕はリックだよ。よろしく」
落ち着いた感じの男の子。
そんなこんなで、彼ら3人に出会った。
試しに話しかけてみた。
「ねえ、君たちは何してたの?」
「遊んでたんだよ。お前も混ざるか?」
「うん」
ということで、この子たちと一緒に遊ぶことになった。
「何して遊ぼっか」
とリック
「鬼ごっこでいいんじゃない」
とアリス
「いいね、そうしようか」
とケイト
ということで鬼ごっこをすることになった。
ルールを聞くと、私が知っている鬼ごっこと同じだった。
「まず、じゃんけんで鬼決めようぜ」
「いいよー」
「「「「じゃんけんぽい」」」」
あー、負けてしまった。
「それじゃ、フィリスが鬼な」
「わかった。それじゃ10数えるからみんな逃げてね」
みんな急いで逃げていく。
「1・2・3・4・5・6・7・8・9・10!」
さて、探すか。あっ、リックがいる。捕まえよう。
全力で追いかける。そこそこ早く走れるな、私。
「わっ、こっち来た」
気づかれたか。
「まーてー」
手加減など不要。最短距離でフェイントをかけながら追いかける。
「捕まえた」
全力で離脱だ。
「1・2・3・・・・・』
リックの数える声が後ろから聞こえる。
家を曲がりながら、走って逃げる。すると、家の陰にアリスがいた。
「アリスちゃん、いた」
「あっ、フェリスちゃん。もう捕まえたの?」
「リックを捕まえたよ」
「すごいね。リックって足速いのに」
2人で隠れていた。
「やばっ、見つかった」
「待ってよ、ケイト」
どうやら、ケイトが見つかったようだ。
「どうやらケイトが見つかったみたいだね」
「ケイト君、基本的に隠れないタイプだからね」
「アリスは隠れるタイプ?」
「私はあんまり走るの得意じゃないから。でも隠れるのは得意だよ」
「そうなんだ」
ということで、2人で隠れていた。
「そろそろ、私は行くよ」
「じゃあね、フェリスちゃん。頑張って!」
あんまり隠れていてもつまらないから、煽りにいこう。
どうやら、ケイトが捕まったようだ。
あえて、ケイトに姿を晒す。
「フェリス、いた」
案の定すぐに見つかった。
さて、純粋にこの身体でどのくらい逃げ切れるのかやってみるか。
「まて、フェリス。というか速いなお前」
どうやらこの身体は意外とハイスペックなようだ。結構走れている。
しばらくすると普通にケイトを巻いてしまった。
そんなこんなで、しばらく鬼ごっこをしていると日が暮れて来たので終わることにした。
「お前って足速いんだな」
とはケイト
「フェリスちゃんすごい」
とはアリス
「次は僕と足の速さで競争しようよ」
とはリック
3人とそこそこ仲良くなってその日は解散することになった。
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あれから、3年経った。月日が流れるのは早い。
ケイト、リック、アリスとはよく遊んで、かなり仲良くなった。そしてなぜか、私がその中でリーダー的な存在になっていた。なぜだ?
そして、家族の手伝いをしていたり、村長さん家で文字を学んでいたりした。
どうやらこの世界では、識字率が低いようだった。両親も読み書きはできない。
よく晴れた春のある日、みんなでいつものように遊んでいた。
鬼ごっこだったり、かくれんぼだったり、私の知っている遊びを教えたりしていた。
そんな中、その人は現れた。
「おーいみんな、魔法使い様がいらっしゃったぞー」
見張りの男の声が聞こえる。
魔法使い?
そんなのいるんだ。
「魔法使いだってよ。なあ、フェリス。行ってみようぜ」
ケイトにそう言われたので、みんなで見に行くことにした。
「はじめまして、魔法使い様」
魔法使いらしき男の人に近づくと、私はスカートの裾を少しつまんでお辞儀をする。
「礼儀正しい子だね。初めましてお嬢さん。私はゼイダという」
ゼイダと名乗る魔法使いは、黒いローブを身にまとっており、手には大きな杖を持っていた。歳は40代ほどであろうか。
「ゼイダ様はこの村に何の御用でしょうか?」
私は聞いてみた。こんな辺鄙な所に目的があるのかは謎だけど。
「私はただの旅人だよ。でも、目的があるんだ。一つ君に頼んでいいかな」
「はい、何なりと」
なんだろ、この人。そんなことを思いながも話しを聞く。
「私は魔法の才能を持つ子供を探しているんだ。この村で6才ぐらいまでの子はいるかな?」
「私と、今ここにいる3人です」
なんか、他の3人はびびってるようだ。まあ、この村に他人が来ることなんてめったにないからな。来ると行っても、顔なじみの行商人ぐらいだし。
「なんだか、君以外の子には怖がられているような気がするんだが」
「申し訳ありません。この村には外から人がやって来ることがあまりありませんので。ですが、ゼイダ様に興味を持っているようですよ」
「それはよかった」
「ねえ、3人とも挨拶して」
「ケイトです」
「リックです」
「アリスです」
「はじめまして、3人とも」
ゼイダはそう笑顔で3人に話しかけていた。
「それじゃ、フェリスちゃん。村長さんの所まで案内してくれるかな」
「かしこまりました」
村長の所まで、ゼイダさんを案内した後、村長さんの家の外に出た。
「ねえ、何で3人ともビビってるの?」
「ビビってないし」
「魔法使いの人って初めてみたから」
「なんか少し怖かった」
まあ、そういうものなのかな。
しばらく3人と話していると、村長が呼びに来た。
「そこの4人。こっちに来なさい」
村長に連れられて、村長宅に入った。
どうやら村長とゼイダさんの話は上手くいったようで、私たち4人は魔法使いの適正があるかどうか調べることになった。
「どうすればいいんですか、ゼイダ様」
「それじゃ、3人共こっちに来てくれるか」
「わかりました」
みんなで、ゼイダの近くに向かう。
「それじゃ、そこの椅子に座ってくれるか」
「はい」
ゼイダに言われるがまま、彼の近くに置かれていた椅子にすわる。
「まずは私が手本を見せよう」
そういいながらゼイダが取り出したのは、50cmほどの木の棒。
彼は説明を始める。
「これは魔法の杖。魔力をその杖に注ぐと、杖の先が光るんだ。こんな風に」
そう言うと、彼は杖を手に持ち、掲げる。
そして、次の瞬間まばゆい光が杖の先に灯る。
眩しい。
「すげえ」
ケイトが驚いている。
私だって驚いている。
というか、本当に魔法なんてあるんだな、この世界には。
そんなことを考えていると、ゼイダは説明を続ける。
「それでは、魔法の使い方を説明しよう」
そういうと、彼は魔法の光を消す。
「まあ、魔法をこの杖に注いでくれればいいんだ。魔法使いの適正があればこの杖は光る。それでは、魔法の使い方の説明をしよう」
「魔法。それは、この世界にはエーテルというものに満ちている。魔法使いはそのエーテルを体内に貯めることができる。魔法使いは体内に貯めたエーテルによって、世界に満ちたエーテルに干渉することができるんだ。それによって、火や水や光を出すことができる。そもそもこの世界はエーテルをもとに作られたと考えられている。法則を歪め、万物を生成することができる。それがエーテルだ。魔法使いが魔法を使い時には、魔法使いが体内に貯めたエーテルを魔法の杖に注ぎ、世界に満ちたエーテルに干渉する。世界に満ちたエーテルに干渉するためには、魔法使いが魔法式を構築しなければならない。けれど、簡単な魔法であれば、魔法式を杖に刻むことが可能だ。この杖には、光を出す魔法式が埋め込まれている。君たちには、この杖にエーテルを注いで杖を光らせてもらいたい。それでは、エーテルの注ぎ方を教えよう」
「エーテルそれは、魔法使いが体内に貯めている世界に干渉する力。その体内のエーテルを魔法使いが認識して、コントロールすることで体外に放出することで魔法は発現する。君たちにその方法を教えよう。目を瞑って、精神を集中させる。何も考えずに無心になるんだ。そうすると、体内の奥底に温かい何かを感じることができる。それがエーテルだ。次にそれを体内で動かす。それができるようになったら、手にエーテルを送り、手からエーテルを放出する。こんな感じだ。正直、人によって感覚が違うから、私に説明できるのはこんなところだ。それじゃ3人とも、始めてみようか」
他の3人が椅子に座りながら、杖を手に持って目を閉じて集中し始める。
私も同じように、杖を手に持ち、目を閉じて瞑想を始める。
さて、瞑想。無心。無心。無心。
しばらくそうしていたら、体の奥の方に何かがあるような気がした。
さらに、意識を研ぎ澄ませると、その奥の方にあるものが温かい気がした。
これがエーテルかな?
とりあえず、動かしてみるか。
にして、どうやって動かすんだ、これ。
あーでもない、こーでもないと格闘していると、何となくこつが掴めてきたような気がする。
おっ、身体の中を動かせるようになってきた。
なんか、くすぐったい。
本来ない第3の腕を動かすようなものだろうか。本来ないものを動かす。
我ながら、よく動かせるな。
エーテルを体内で徐々に自由に動かせるようになると、次の段階に進むことにした。
このエーテルを手に持っていくんだよね。
・・・むずい。
腕を通じてエーテルを手から放出って、言うのは簡単だけど難易度高すぎ。
20分ほど苦戦しながらも徐々に感覚を掴んでいく。
あー、こうすんのか。分かれば簡単じゃん。
やっと感覚を掴めると、手に持っていた杖にエーテルを注ぐ。
目を開けると、そこには眩い光が灯っていた。
おー、やっとできた。すごいなこれ、というか眩しい。
そんな風に達成感に浸っていると、ゼイダが手招きしていたので、一緒に隣の部屋に移動する。
そこでは、村長が椅子に座って待機してた。
「すごいね君。まさか、本当にエーテルにコントロールできて、あんなに杖を光らせることができる子がいるとは」
ゼイダが話しかけてきた。
「その言い方だと、居ないこと前提な気がしますが」
「まあ、半年近く多くの村を巡って、同じことをしていたからね。大分諦めていたんだよ」
すごいなこの人。
「魔法使いって貴重なんですか?」
「それはそうさ。まあ、あの杖を光らせる子は何人か会ったよ。でも、君レベルに明るく光らせる子はいなかったんだよ。それに、エーテルを体内に持っていても、それをコントロールできない人も多くてね。そういう意味で君はとても稀な才能をもってるよ。出力の強いエーテルを放出できる子はいるいるんだけど、基本的にほとんどが貴族だったりするんだよね。親が強い魔法使いだと、子供も強い魔法使いになる可能性が高い」
「そうなんですか。それでは、なぜ私は光らせることができたんでしょうか?」
「君の先祖が魔法使いの貴族だったか、たまたまか。理由はわからない」
なんなんだろうね。まあ、魔法使いっていかにもファンタジーっぽいからね。なれるものならなってみたい気も、前の世界で小説を読んでいるときに思ったりしたから、ちょうどいいかな。
「1つ聞いてもいいですか?」
「1つと言わず、何でも聞いてくれ」
「なんでエーテルを操ることができる人なのに、魔法使いって言うんでしょうか?」
「さっき説明してなかったね。それは、体内のエーテルによって世界のエーテルを書き換えて発生する現象を魔法というからだよ。正直、エーテル使いの方が正しい気もするけど、随分昔の人が魔法使いって言い始めたから、その理由は当時の人に聞くしかないね」
「そうなんですね」
へー。まあ、エーテル使いなんてダサいと思うし良いんだけどね。
「他の3人が魔法使いの可能性ってあるんでしょうか?」
「さあ?」
「さあ?って・・・」
「正直わからない。あと2時間ぐらいやってみて駄目なら可能性は無しってことでいいんじゃないかな」
「アバウトですね」
「魔法使いの適正検査なんて人によってまちまちだからね。少なくとも私はこの方法で大体の魔法使いは見分けられると思ってる、たぶん」
適当だな、この人。
「とりあえず、お茶でも飲みながらあと2時間ほど待っていてね。私は隣の部屋で他の3人を見守っていないといけないから」
「わかりました」
ゼイダはそう言うと、隣の部屋に行ってしまった。
「フィリスちゃん。おめでとう」
「ありがとうございます」
村長が話しかけてくれた。
「まさかこの村から魔法使いが生まれるとは」
「今までいなかったんですか?」
「居なかった。正確に言えば、魔法使いの適正を測る方法がなかったのだよ。そもそも、魔法使いがこの村にやってきたのが初めてだからね」
「ここ、辺境ですからね」
「うるさいわ」
村長は50代ぐらいの人で、私はよくこの人から色んなことを教わっているので、仲が良い。
「だけど、魔法使いが見つかったということはフィリスちゃんはこの村を離れるのかな」
「どういうことですか」
「ゼイダ様がおっしゃっていたんだよ。魔法使いの適正のある子を弟子にするために長年探し回っていたと。だから、フィリスちゃんは選ばないといけない。この村に残るか、ゼイダ様に付いて行って魔法使いの道を歩むか」
「なるほど」
うーん。どうしようかな。正直、ここの生活は気に入っているし、わざわざリスクを冒して外に出て行く必要もないような気もする。けど、このままここにいたら、一生この村にいることになりそうだし。悩むな。
「数日中に決めなさい。私はどちらの選択をしようと、君を応援しているよ」
「ありがとうございます、村長」
良い人だな、この人は。本当はこの村に残って欲しいんじゃないだろうか。
そんな葛藤を見透かしたように、村長は続ける。
「たしかに君にはこの村に残って欲しいという思いはある。君はこの村の中では頭がいいからね。きっと、これから村に居てくれたら、君はこの村にとって重要な人になるだろう。
けど、それと同時に君には才能があるにも関わらず、この村にいるのはもったいないとも思っている。それに、この村の外の世界を見ることも大切だ。それに、外の世界が嫌になったらこの村に帰って来てもいい。いつでも歓迎するよ」
本当にいい人だ。さて、どうするか。確かにこの村の外を見てみたい気もする。折角、転生したにも関わらずこの村にずっといるのも勿体無い気もするし。
そんな風に悩んでいると2時間ほど経って、ゼイダと3人が部屋に入ってきた。
「フィリスちゃん。私は駄目だったよー」
アリスが抱きついてきた。
「俺も、リックも駄目だったぜ」
ケイトもリックも魔法使いの適正はなかったようだ。
「村長さんから説明を受けたと思うけど、私に付いてくるか、それともこの村に残るのか数日中に決めてくれ」
ゼイダが私に告げる。
「えっ、フィリスちゃん。この村出てっちゃうの。そんなの嫌だよー」
「まだ決まったわけじゃないからね、アリス」
「そうだね」
そんなこんなで、私は家に帰った。
そして、両親に説明した。
「私はフィリスのしたいようにすればいいと思うわ」
「俺も同じだな。フィリスの選択次第だ。俺たちがどうこういうもんだいじゃないからな。じっくり考えろ。この村を出て行くにしろ、俺は応援するぞ」
「私も同じよ。どちら選んでも応援するわ」
母も父も、結局私の選択次第ということだ。
ほんとどうしようかな。
それから1週間経った。
「さて、フィリス。君はこの村に残るか、それとも私についていくか。どちらを選ぶんだい?」
ゼイダに問いかけられる。
「私は、ゼイダ様に付いていこうと思います」
「そうか!それは良かった」
ゼイダは心の底から喜んでいるようだった。
それから数日。私は発つことになった。
「フィリスちゃん。また会えるよね」
とはアリス
「うん、きっと帰ってくるよ」
「フィリスが居なくなると張り合いがなくなるぜ」
とはケイト
「私がいなくなると寂しいのか」
「そんなわけないだろ!」
「さみしくなるね。いつでも帰って来ていいからね」
「ありがとう、リック」
とはリック
「みんな、さようなら」
村人全員に見送られながら、私はゼイダと共に旅立った。
未知の世界へと。