パン屋!
俺は大臣の選んだカードを、彼の目の前に持っていく。
「どうして私の選んだものがわかったのですか!?」
「『タネ』があるのさ」
カードをつかんだ左手を空中でひらひらと動かす。能力で作り出したものなので、出したり消したりは自由自在だ。
「さすがは王子です!素晴らしい!」
「まあな」
「私にもやらせて!」
寄ってくるやつら一人ひとりの相手をする。満足してくれて大変結構。
「すごい!どうやってるのー?」
「さあなぁ?」
本当は時間を止めて何を選んだのか確認しただけである。
*********
「まだ燃えてんな」
「本当ですねー」
炎はとうに幹部の城を焼き尽くし、それでもなお消える気配がない。全く凄まじい魔法を使ってしまったものだ。
「あなたね!このとんでもない事件を起こしたのは!」
振り向くと、女神?らしき人物が立っている。だが髪の色が水色である。
「なんだお前。俺をここに送り込んだ女神にそっくりだな」
「それは私の双子の妹よ!よくもこんなことにしてくれたわね!」
髪の青いやつはおなじみのステッキ(ザコ)を取り出すと、燃え続ける炎に向かって「水の魔法」なるものを唱えた。
みるみるうちに火が消えていく。
「へえ、やるじゃん。その髪は水の女神だから、青色ってわけ?」
「あなた!妹に何をしたの!?」
話が噛み合わねー。
「あいつの髪の毛、アルミホイルみたいな色だったけど、何の神様?空き缶の神様?」
青いやつは俺にお怒りらしい。
「ちがーう!違う!妹は光の女神よ!それにそんな変な髪色してないわ!あなたって本当に失礼で最低なやつね!妹を侮辱するなんて許せないわ!こうなったら力づくで聞き出すまでよ!」
はー。気が短いやつだ。
「覚悟なさい!」
「【記憶消去】」
「なっ.......あっ......ん......」
女神はあっけなく地面に倒れる。ちょっろ。
「おーい、大丈夫かー?」
近くに歩みよって、意識を確認する。ダメ、らしい。
「しょーがねーなー」
頭から思い切り水をかぶせる。こうすれば起きるだろう。
「あれ.......ここはどこ......私は誰.......?」
「おっ、目覚めたな」
【書き換え】を発動させる。
「お前は平民でこの王宮のパン屋で働いている。それも毎朝俺のところに届けにきてたじゃないか。枝豆が大好きで毎日6食は食べるって聞いたぜ?ほら、将来は枝豆でイノベーション起こすとか何とか言ってただろ?」
大嘘。
「枝豆......パン屋.....イノベーション......思い出したわ!私は枝豆が大好きな、あなた専属のパン職人だったわ!!なんで忘れてたんだろう!!なんだか猛烈にパンを焼きたい気分になったわ!」
俺はあまりにもおかしかったので、笑いをこらえられなかった。
「さすがは王子!素晴らしい!」
周りから拍手が起こる。
「パンは何がいいかしら!?」
「んじゃ、俺はメロンパンがいい」
異世界では通じないだろうと思ったので、女神もとい、パン職人の記憶をいじってイメージを固めてやる。ついでに知ってる限りのパンの種類もぶち込んでやった。
「メロンパン......メロンパンね!いいわ!さあ!私の厨房はどこかしら」
俺は城に帰ると新たに仲間に加わったパン屋に、立派なベーカリーと生活のための一部屋を増設してやった。