ピザ!
「ここでおしまいさ。豊太郎は国に帰っちゃうんだよ」
軽い気持ちで語り始めたのだが、よくよく見てみると3人はどんよりとした表情をしている。
「こんなのエリスがかわいそうじゃないですかあ......。私なんだか泣けてきちゃいました......」
そう言うとクリスタリアは手で目のあたりを抑えて泣いた。
「豊太郎は本当にひどいやつね!作者の森鴎外とかいうやつもひどいやつに違いないわ!」
「いやぁ......そう言われても......。でも『舞姫』は名作としてよく知られてるんだよ。俺は教科書で初めて読んだけどね」
「アキヒサよ、他にこの作者の本を読んだことはないのか?」
「んー、もう一個の方は中学生の頃の教科書で読んだ。どっちも暗い話だし、内容が深すぎて学生にはウケにくいんだ」
「どんな話だったんだ?」
「『高瀬舟』っていうやつで、安楽死は許されるのかっていうテーマを含んだ作品で........まあ、また今度ね」
目の前で料理を取り上げられた子供のような表情を見せる。
「今の日本人の半分は森鴎外で出来てるんだ」
「あとの半分はなんなんですか?」
「バファリン......じゃなくて、優しさ。優しさで出来てるのさ」
ソファとテレビのある部屋でくつろぐ。NHKしか映らないテレビだが。昨日ファルファットを倒した後地下四階層まで降りて、そこを生活部屋に改装した。
無論、邪魔なものはベリザーナの【閃光連鎖召起】で消しとばしてある。四階層は他の階とは解離してあるので、敵に襲われる心配はない。
「ピザのお届けでーす!」
インターホンに答えて、ドアを開ける。
「ピザの宅配もできるんですねー!」
「ああ、なんか現実世界の味が恋しくなったから頼んでみた。出せないこともないんだけど、久々に宅配ならではのワクワクを味わってみたくなった」
「今の時代、異世界ビジネスっていうのも重要なんですよ!なかなかニッチな産業のような気もしますがね!」
「そうなんですかぁ.......。ところで、どうですお兄さん?もしよければ、ごちそうしますよ?」
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「だいぶレベル上がってきたな」
初めはそれこそカスが多かったが、だんだんと手応えのある(チート少なめなので)敵になってきた。
「王子様、だいぶ力抑えてませんか?」
「あんなクソチート、使いすぎたら面白くないからな」
ベリザーナを除いて大体レベル30後半に落ち着いてきた。八階層までで、ここまでの力ならまあ順当だろう。次の八階層はすでに主がいない空っぽの部屋になっているはずなのだが.....。
「アキヒサ、なんだか妙な気配を感じるぞ」
「おかしいな。ここのボスだったファルファットは既に倒してあるはずなのに」
階層を示す、8と書かれた扉に手をかける。すると扉は力を入れずとも一人でに開いた。
「何だ?」
真っ暗闇の中、中央で炎が燃え盛る。扉の内側に入ると、それは天井にまで届きそうなほど高く大きくなった。
「我こそが竜王!このほこらに足を踏み入れし者、何人たりとも生きては返さぬ!!」