さらば宿屋!
「ベリザーナさま、昨晩はお楽しみでしたね」
宿屋を出ようとすると、従業員たちがベリザーナにだけきまって同じような言葉をかける。
「ベリザーナさま、昨晩は.......」
「ちょっと!なにこれ!?あなた何かしたでしょ!?」
「んー?いやぁ.....事実を言ってるんじゃない?」
「そんなわけないでしょ!!こんなのセクハラよ、セクハラ!今すぐやめさせて!」
「わあ、頬赤らめちゃってかわい〜!それにしてもなんでだろうね〜?全然心当たりないやー」
まあ実は例の「神様のボード」で本当に設定をいじれるかどうか試してみただけなんだけど。せっかくやるならマイハニーに何かいたずらしないと、みたいな発想で。
「あ、言わなくなった」
やはり飽きさせない反応をしてくれて、大変面白い。
*********
宿を出てしばらく歩き、どこに向かっているのか問うメンバーたちに答える。
「今日はね、早速レベル上げする」
「ほう?ザコキャラを潰して歩くのか?」
「そうじゃない。いや、厳格にいえばそうじゃないと言ったほうがいいか」
「どういう意味なんですかー?」
「本来なら中盤の敵キャラなんだけど、場所が近いから竜王倒しにいく」
俺の言葉に対し、ポカンとした表情を見せる。その言葉をそのままとらえるのではなく真意を問おうとする。
「あなた本気で言ってるの?」
「本当さハニー。心配なら俺が守ってあげるけど?」
「余計なお世話よ。それにその呼び方やめて」
「はいはい。つまるところ、強いのを倒して一気にレベルを上げようって話。本当なら危なくてできないような芸当だけど」
歩みを進めると、クリスタリアが甲高い声をあげた。
「王子様!敵がこっちに来ますよ!」
ザコキャラ・オブ・ザコキャラのスライムである。その正体が俺と同じ異世界からの転生者、なんていうのは無いようである。
「ふははは!こんなもの我が吹き飛ばして.....」
『ギイイイ!』
「蒸発.....した.....?」
こちらに近づいて来たスライムは一瞬にして煙と化した。
「そう。周りに結界張ってるから俺たちの半径2メートル以内に入ったザコキャラは死ぬ。便利だろ?さすがに中ぐらいのやつは手で倒さないといけないけど」
『テレレレ テッテッテー』
「なんか音が鳴りましたよ!?」
『全員のレベルが1上がった』
聞き慣れた音に、見慣れた表示。
「竜王のほこら行くまでにもレベル上げしとこうみたいな感じ」
「へえー!こんなふうになるんですねー!」
「考えたなアキヒサ。我はそこまでレベルなるものが重要だとは思えないが」
「そんなこと無いぞ」
表示が移り変わる。
『火の魔法を覚えた』
「な?こういうのがあるわけ」
バルバロスは不思議そうな顔をしている。まるで喋らないオウムを見るような目つきである。
「ん?なにを言う。こんな炎ごとき地球を焼き尽くすほどの大きさで出せるぞ.......む?」
「出せないよ。本当の力は制限されてるんだ」
「何?これでは竜王など倒せないのでは無いか?」
「それは大丈夫だ。竜王のほこらは地下深くまで広がってる。1日で攻略するわけじゃない。少しずつレベル上げしながら攻略するのさ。チートは使うっちゃ使うけどね。微課金程度に」