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part16

Mont~光の国の魔法使い~


リフィアは戸惑っていた。確かに、カルズ家の長男との縁談など滅多にない良縁だ。だが、ここに嫁げばもう自由はない。これほどの名家である以上、しきたりも周囲の目も厳しい。万が一、人の前で恥を掻くようなことがあればオーリエ家の未来は暗澹たるものになるだろう。しかし、その未来は縁談を断っても同じかもしれない。両家の力関係が明らかである以上、できることなど何もない。

--アルガス・カルズが他の娘を見つけることを祈るしかない。

母の部屋を辞し、自室へと戻る途中、ジャルエンとすれ違った。この男もまたリフィアの縁談の相手を知っている。いつもなら顔を見ただけで始まる嫌味は無かった。

(もし…)

--アルガスとの縁談を成功させれば、この男ももう私を侮辱できない。何よりも、父が私のことをより一層誇ってくれる。それは私にとってもこの上ない喜びだ。

自室の扉を開き、中に入る。顔を上げて部屋の中を見る。リフィアは少し驚いた。下女達が行ったのだろう。部屋は春に合わせて明るい色に変わっていた。そして何よりも目を引いたのが部屋の中心に置かれた衣装立てだった。そこには煌びやかなドレスが飾られていた。舞踏会用のもので、肩や背中を大胆に露出したものだった。彼女はあまりこのようなデザインのドレスは好きではない。ただ、これの色は気に入った。上から裾にかけて白から真昼の海のような淡い青に、やがて夕凪の海の紫へと変わっていた。

(…これを着て…)

アルヴァーに見せたら、彼は驚くだろうか。

そう考えたら、少し楽しくなった。



モーントの森では、不思議な形をした色とりどりの花が咲き始めていた。オーリエよりも南にあるここは春の訪れも早い。カルガントは広間の椅子に座って、ペラペラと手元のリストをめくっていた。リストに載っているのは武器の名前。モーントの兵士(ソルジャー)達が用いる特殊なもの--魔導装備だ。魔導装備は材料も特別なら作るのも大変だ。例えば、アルヴァーの魔導装備、細剣のトニトルス。あれはトップクラスの装備だが、つい最近までその魔法術式は解読されていなかった。カルガントがなんとか解読し、ようやく改良ができるようになったのだ。

--そんな貴重な魔導装備だ。全ての装備はその名前と使用者とが一覧にまとめられている。

指を滑らせてリストを上から確認していく。その指がアルヴァーの名前のところで止まった。

(…あれ?)

リストにはこうあった。


使用者 アルヴァー 装備名 トニトルス、テンペスタージ


魔導装備を一人で二つ持っている。こんなことは聞いたことがない。それに、テンペスタージという魔導装備の名前も初耳だった。

(…アルヴァーに聞いてみようか)

そう思ってカルガントは立ち上がった。そこでふと思う。彼は今どこにいるだろうか。どこにも出かけていないなら、自室か訓練場だろう。

(…まあ、ゆっくり探すか)

まだ昼間だ。


その頃、アルヴァーは集落の外れの訓練場にいた。かといって訓練に励んでいるわけでは無かった。アルヴァーはぼんやり木の根元に座って、服のポケットから、小さな赤い石を取り出す。それはリフィアに渡したものと同じものだった。

--呼石。モーントはそう呼んでいるものだ。魔力を持ったこの小さな石は、モーントの者は大抵が持っている。ひとつひとつ少しずつ異なる石は内部の魔法術式も異なっている。誰のものでも、その術式を貰ってこの石の内部に沈めておけば、相手の居場所を知りたいときに光を放って教えてくれる。そして、相手の石も光り、誰が自分に会いたがっているのかを知ることができる。

アルヴァーの石の中の術式は今まではたった四人分だった。中央集落の兵士(ソルジャー)で同じ隊の仲間達の分だ。しかし、リフィアに呼石を渡したことで五人分になった。万が一、彼女がモーントの森に立ち入った時すぐに気づけるようにと渡したのだ。森の中は獣もさることながら、部外者の集落への立ち入りを防ぐための魔法も危険だからだ。

(…危ないのはわかってるけど…)

--多分、彼女の方から訪ねてきて欲しいような、つまらない欲求があるのだろう。

そういえば、とアルヴァーは思った。カルガントは呼石を持っていなかったような気がする。彼と会ったら呼石を手に入れてもらってその術式をもらっておこう。


感謝祭まで、あと一日。モーントの祭事は知っていても、外の民族のことは全く知らない。オーリエの感謝祭とはどんなものだろうか。

(…きっと…)

綺麗だろう。あの整った街並み、開けていく海。祭りの景色は輝かんばかりだろう。

アルヴァーは期待しながら、今日一日が平和に終わることを祈った。


次回は7月10日更新予定

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