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part13

Mont~光の国の魔法使い~


その頃、モーントの中央集落で、アルヴァーの友人カルガントは溜息をついていた。またしても、彼はどこかに行ってしまった。いや、どこかではない。あの美しい北方民族の娘、リフィアの元へ、だ。

もう周りの仲間たちも何も言わなくなっている。まあ、もともと彼が何をしていようが気にしない人のほうが多いのだが。

カルガントはもう一度大きく溜息をつくと、クリスタルと蔦が絡み合った仕事場を後にした。

(…あれ?)

斜め前方、暗がりへと続く道は族長ダヤルクの居城へと連なる道だ。そこを誰かが歩いている。それだけなら何の不思議もないのだが、その人物は何やら顔を隠すような服を着ている。連れの者もなく、急ぎ足で道を通って行った。

(…だれだろう?)

族長に害をなすような危険な空気はなかった。でも、何か良くないような、そんな感じが消えなかった。

--後をつけてみようか?

そう思った時だった。

「カルガント、何してんだ?」

聞きなれた声が背後から聞こえてきた。

「…アルヴァー、君はまた突然帰ってくるね」

「そう?」

肩をすくめる友人にカルガントは今日何度目かわからない溜息をついた。

「で、何してんの?」

もう一度森の奥を見通してみても、もうその人影はない。

「…さっき変な人がここを通って行ったんだよ。顔を隠して一人でね」

「族長に来客ね。珍しいな」

アルヴァーは興味なさそうにあくびを噛み殺す。

「普通はそんなことがあったら心配するんだよ?」

カルガントはアルヴァーを見上げた。彼にはどうも族長に対する畏敬の念というか、大切に思う気持ちが欠けている気がする。

「…大方、他集落の長でもやってきたのだろう」

突然目の前に人影が現れた。落ち着いた女性の声だった。

「あ…ヴェラトゥーラ様」

アルヴァーは引きつった笑みを浮かべた。この族長の側近が現れるときは、大概面倒なことがおこる。

「顔を隠す理由はわからんが、何か問題でも起きたのかもな」

ヴェラトゥーラはしばらく森の奥を眺めた後、こちらに向き直った。

「…本日はどのようなご用件で…?」

アルヴァーは恐る恐るといった様子だ。

「…族長がお呼びだ。行くぞ」

いかにも嫌そうな顔をしているアルヴァーの背をカルガントは押した。

顔を顰めながら、アルヴァーはようやく歩き出した。


「よく来たな、アルヴァー。此度は少し重要な話を」

壮麗な部屋の中、族長は細かな装飾のついた大きな椅子に座っていた。

「…少し前、カトリーナの話をしたな」

ダヤルクの深い声が空間に染みる。アルヴァーは緊張を感じながら頷いた。

--裏切り者のカトリーナ。風の魔法を扱う最強の兵士(ソルジャー)。一族に尽くし、そして恐れられ、孤独の中で裏切ったという女。

「彼女が再び姿を現したらしい」

静かな言葉だったが一気に空気が凍りつくのがわかった。

「…なぜでしょうか?かなり長い間姿をくらませていたのに」

アルヴァーの問いかけにダヤルクは目を瞑った。

「…わからぬ。その目的も。だが、備えておくに越したことはないだろう」

--備えておく。彼女がモーントの村を襲ってくる事に、だろう。

「では、以前お話しになっていた究極魔法を扱う事になるのでしょうか」

ダヤルクは無言で頷いた。そしてこう言った。

「…カトリーナが襲いかかった時、斃せるのはお前だけだろう。当代最強の兵士(ソルジャー)として、一族に尽くしてほしい」

この時を恐れ、そして待っていたような気がする。

カトリーナと闘い、例えそこで死んだとしても、自分は兵士(ソルジャー)としての務めを果たせる。彼女と戦うことが、対立することが、自分の存在意義を確固とさせる気がした。それなら別に死んでもいい。

(…彼女と戦って…)

--消さなければ。ここから出て行こうとする、モーントの兵士(ソルジャー)でなくなろうとする自分自身を。

一族を守る、そのためだけに自分は存在するのだから。

「…喜んで。一族のため、持てる力の全てを尽くします」

アルヴァーは静かに族長の眼を見つめた。


「…そっか、カトリーナが…」

アルヴァーから話を聞いたカルガントは顔を曇らせた。満天の星空の下でエルバ(淡黄色に光る植物)のランプだけがぼんやりと辺りを照らしている。集落の外縁に向かう細い道の途中で二人は話していた。

「…じゃあ、いつか戦う事になるかもしれないんだね」

不安そうなカルガントの肩をアルヴァーは軽く叩いた。

「心配するなよ。死なない程度にするし。それよりお前、もしそんなことが起きたらすぐ逃げろよ?お前の魔力じゃ太刀打ちできないのは明白だし」

そう言って快活に笑っている。それからカルガントの持っているカゴを指差した。

「…でさ、さっきから気になってんだけど、その光キノコ何に使うんだ?」

話を逸らされたような気がするが、カルガントはとりあえず答えた。

「新しい明かりを作ろうと思って。エルバの光じゃ弱すぎると思うこともあるでしょ?」

「まあ、確かに。そのキノコの方が明るいといえば明るい、かな?」

青白く発光するキノコを気味悪そうにアルヴァーは眺めている。

「でもこれ、触るとかぶれるんだろ」

「それを解決して明かりにするんだよ」

そのための材料をこれから取りに行くんだと続けた。アルヴァーは興味があるのか無いのか微妙な反応をしていた。

「…まあ、気をつけて行けよ。じゃあ」

そう言って手を振って、彼は集落の中心に帰っていく。カルガントはその後ろ姿をじっと見つめていた。

(…君は…)

--嘘が上手い。表情や口調だって完璧だ。でも、わかった。カトリーナとの戦いで君は死んでも構わないと思ってる。いつもなら「活躍をよくみとけ」とかふざける癖に、今回は「すぐ逃げろ」だ。珍しく簡単にわかった。でも、本当に死んでもいいと思ってる?自分の心にさえ嘘をついているんじゃないか?今日だってリフィアさんと次に会う約束をしたんじゃないのか?それなら本心は死にたくないはずだ。

(…何かできることあるかな…)

--彼のために、何かできないだろうか。自分が下手に動けば足手纏いなのはわかってる。だから、せめて…

--死にたくないと、思わせたい。


≪次回は6月19日更新予定≫

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