番外編2
Mont~光の国の魔法使い~ 番外編2
カルガントはかなりの時間をかけ、ようやく指示通りの場所に廃棄物を運び終えた。
「…ふぅ」
大きく息をつき、近くの岩に腰を下ろす。
(…もし、魔導具の魔力の逆流を防げたら…)
--自分にも、魔導具の整備ができるだろうか。
(必要なのは対魔法術式と、それを装着した布か繊維…)
--それを使って、手袋のようなモノを作れば…
カルガントは目を閉じ、対魔法術式を組み立てるべく集中した。
不意に集中が途切れた。辺りに不穏な空気が満ちている。カルガントはそろりと立ち上がった。
--黒い森の中を風が吹いた。
「…っ⁉︎」
背後から、異常な何かを感じ急いで振り返る。
そこにいたのは…
"異形の化け物"
そう呼ぶのがふさわしいモノが立っていた。
全身は真っ黒、首だけがひょろりと長い人のような姿をしている。腕も奇妙に長く、爪は鋭く尖っていた。
「…あ…」
カルガントは一、二歩後ずさった。
(…動けない…)
化け物の口が裂けた。黄ばんだ鋭い歯が剥き出しになった。辺りに甲高い音が鳴り響く。
(こいつ…笑って…)
化け物は鋭い爪を振り上げた。膝から力が抜け、地面に尻餅をつく。カルガントは歯をくいしばって目を閉じた。
--硬いモノがぶつかり合う音がした。
カルガントは恐る恐る目を開けた。
化け物の爪がバッサリと切られていた。そして自分を背にかばうように黒髪の少年が立っている。
「おい!」
呆然とするカルガントに黒髪の少年が声を発した。
「何ボサッとしてんだ!さっさと逃げろ!」
振り返ることなくそう言い放つと、左手を化け物に向かって突き出した。
轟音とともに白い閃光が大気を貫く。
(…雷撃…⁉︎)
カルガントは目を見開いた。
--強力な魔法使い…即ちあの少年は兵士だ…
雷撃に貫かれた化け物は叫びながらのけぞる。少年は止まることなく右手を化け物の心臓めがけて動かす。そこには漆黒の細剣が握られていた。細剣はあっさりと化け物の体を貫き、化け物は黒い液体となって崩れた。
「…おい、なんでこんなところに…」
不機嫌そうに少年が話しかけてくる。しかし、その顔はすぐに心配そうなモノに変わった。
「お前、顔真っ青。大丈夫?」
自分の顔を覗き込んでくる。カルガントはハッとして答えた。
「あ…大丈夫…です…。ありがとうございます」
やっとの事で立ち上がり、お礼を言った。
「あの…あなたはもしかして…」
「ん?」
カルガントは相手の表情を伺いながら質問する。
「…アルヴァー?」
相手はきょとんとした。
「…あ!すみません人違い…」
「いや、あってる!あってるけど…」
少年、アルヴァーは不思議そうに聞き返してくる。
「…なんで知ってんの?」
カルガントはうつむきながら答えた。
「えっと…工場のリーダーが噂してまして…」
「…あぁ、レッツェルグのおっさんか」
アルヴァーは腕を組み、溜息をつく。
「噂好きだねぇ、全く…」
カルガントはふと思い出し、質問を重ねた。
「…さっきの化け物は一体なんなんですか?」
「…は?」
アルヴァーは呆れたような驚いたような顔をした。
「あ、僕まだ来たばかりで…」
「なるほど、そゆことか」
カルガントの釈明に納得した様子でアルヴァーは説明する。そういえばこの人を始めてきた時の集会でも、それ以外の集まりでも見たことがないとカルガントは思った。
「さっきのアレがいわゆる"ヒトガタ"。でかい、強い、怖いの三拍子揃った敵で、時々大量発生する」
アルヴァーは苦笑いして続ける。
「君ら魔導具整備師はもちろんのこと、オレたち兵士だって一人で戦うと危ないこともある」
「え…でも、さっき一人で倒したじゃないですか」
カルガントの言葉にアルヴァーは笑みを深くした。
「さっきのヤツは弱かったからな。昔、バカでけぇヤツに挑んで殺されかけてからはその辺見極めるようになった」
「…こ、殺…?」
カルガントの顔が再び青くなる。
「あ、ごめん…」
アルヴァーが慌てて謝った。
「なんというか、そのこっちにとってはよくあることっていうか…まぁとりあえず今は生きてるし?な?そんな顔しないでくれよ…な?」
「…よ、よくある…?」
もはや眩暈がしてきた。
(ソルジャーに一度でも憧れた自分を殴りたい…)
「え…あのーもしもーし…あ!そういえば名前聞いてないんだけど…」
アルヴァーは不安げにカルガントを覗き込みながら右往左往していた。
--その時、再びあの甲高い声が聞こえた。
アルヴァーは一瞬で右手に剣を喚び出し、音のする方をにらんだ。
「…新手か…」
しかも声は一つではなかった。
「…流石にヤバそうだな…」
そう呟くと勢いよく振り返った。
「逃げろ!複数相手じゃそんなに時間も稼げない!」
「でもっ!一人じゃ危ないってさっき…」
「応援が来るまでの時間稼ぎだ…なんとかなるさ」
カルガントは立ち上がった。確かに自分がここにいては彼の邪魔になりかねない。震える足を鞭打って必死に集落の方へと走った。
--しかし…
目の前に、ヒトガタが現れた。
「…う、うわぁぁぁぁっ!」
カルガントは叫び、転がるように元来た道を駆け戻る。何度も転びながら必死に走る。そんな彼の背をヒトガタは笑いながらフラフラと追う。
「アルヴァー!助けて!」
カルガントは叫んだ。
--その声に呼応するように雷光が彼の頭上を駆け抜けた。ヒトガタは呻き、しゃがみこんだ。
「…どうしたっ⁉︎」
いつの間にか元の場所に戻っていたようだ。泥だらけになりながらカルガントはアルヴァーに駆け寄る。
「…む、む、向こうにも、ヒトガタ…」
アルヴァーは唇をかんだ。
「…最悪だ…」
「…まさか…」
カルガントは目を見開く。アルヴァーは呻くように声を絞り出した。
「…囲まれてる…‼︎」
ぐるりと見渡せば、気味の悪い笑みを浮かべたヒトガタが完全に二人を囲んでいた。アルヴァーは忌々しげに奥歯を噛み締め、左手を軽く振り上げる。轟音とともに雷がヒトガタの群れを貫くも、ヒトガタ達が倒れる気配はない。それどころか鋭い爪をこちらに向かって突き立ててきた。
「…くっ…‼︎」
アルヴァーはカルガントを抱えて後ろへ大きく飛び去る。それでも爪が頬を掠めて、鮮血が滲んだ。
「…オレの後ろから動くなよ」
アルヴァーの言葉にカルガントはびくりとした。
「…なにを…」
言いかけたとき、アルヴァーはおもむろに指先で頬から流れる血をすくい、言った。
「"鮮血魔法"を発動する」
そして、血の付いた指先を軽く唇に当てた。それから真正面のヒトガタの群れに向かって腕を伸ばし、指を鳴らした。
--乾いた音が響いた。
次の瞬間、赤黒い炎の様なものが渦巻きながらヒトガタを包み込んだ。
--凄まじい断末魔がこだまする。炎の周辺の木が枯れ、草がしおれた。
炎が通り過ぎた後にはヒトガタが倒された後に残る黒い液体ばかりが残っていた。更に、炎に包まれなかったヒトガタもミイラの様に干からびていた。干からびたヒトガタは、潰れたカエルの様な声を出して倒れ、そして消えた。
「オレの鮮血魔法は、対象の生命エネルギーを吸い取るのさ」
アルヴァーは不敵に笑いながらさらりと言う。
鮮血魔法は個人によって全く効果の違う魔法が発動する。アルヴァーの場合は彼の通常の魔法をはるかに上回る威力だが、通常の魔法が強くても鮮血魔法は微弱なこともある。無論、その逆も然り、だ。
アルヴァーの鮮血魔法に貫かれ、ヒトガタの群れに隙間が生まれた。
「…この隙に…!」
カルガントが言うと、アルヴァーは頷いた。
そして、カルガントをひょいと持ち上げる。
「えぇっ⁉︎ちょっと…」
驚いてアルヴァーを見上げる。
「この方が逃げやすいだろ。ゴチャゴチャ言うなって!」
そう言ってアルヴァーは走り出した。
(…ちょっ…速い…!)
周りの木々や草が飛ぶ様に後ろへ去っていく。しかし、それだけのスピードを出していてもヒトガタは追いかけてくる。更には時折長い爪を突き出して襲いかかってくる。アルヴァーも雷撃を叩きつけながら応戦するも、ヒトガタはすぐには倒れない。
(…こんなに強力な雷撃魔法でも、一撃では倒せない…)
カルガントは背後のヒトガタを見て震えた。
「…ヒトガタはもともとあんまり魔法が効かなくて…。心臓をブッ刺して殺すのが一番さ」
アルヴァーは走りながら囁く。さすがの彼も息が上がってきているのだ。
すると突然アルヴァーは向きを変え、追いついてきたヒトガタと対峙した。
「くらえっ‼︎」
地面を強く蹴って飛び上がり、ヒトガタの心臓めがけて黒い細剣でまっすぐ貫く。ヒトガタは断末魔をあげて崩れ去った。
「キリがない…」
アルヴァーはもう一度剣を構え直す。すぐ目の前にまたヒトガタがいた。もう、殆ど追いつかれているのだ。
「…オレの後ろからうごくなよ…」
アルヴァーに地面に降ろされたカルガントはただ呆然と目の前のヒトガタの群れを見つめた。
「…こんなにたくさん…か、勝てるの?」
--いくら彼が強くとも、これだけの数を相手に、しかも自分を庇っていては勝ち目が薄い…
それでも、今はとにかく言われた通りにするしかないと、カルガントはアルヴァーの背に隠れるように立った。
--ヒトガタが爪を伸ばす。それが肩や腕を掠めても、アルヴァーは全く動じなかった。剣で相手の攻撃を捌き、隙をついて雷撃魔法で動きを止める。動きを止めたら、心臓を剣で貫きとどめを刺す。そうやって一匹倒す間に幾度もヒトガタの攻撃が二人を掠めていく。
--不意に、一匹のヒトガタが大きく膨らんだように見えた。
「避けろ!」
アルヴァーの叫ぶ声と同時に、身体が彼に突き飛ばされる。見れば、さっきまで立っていた場所が黒く焦げていた。
「…進化してんのかよ」
受身を取って立ち上がったアルヴァーは正面から襲いかかるヒトガタを串刺しにしながら顔を顰めた。
カルガントは突き飛ばされた勢いのまましりもちをついてその戦いを見つめていた。
(…あ…)
--アルヴァーの左側からヒトガタが爪を剥き出して迫ってきている…!
「ヒトガタっ!左側!」
カルガントは叫ぶ。その声で左側を振り返ったアルヴァーに爪が振り下ろされる。彼は応戦しようと鋒を向けた。
その時、突然ヒトガタが悲鳴をあげた。二つの目に矢が突き刺さっていた。
「…リリアか。遅い!」
アルヴァーは矢が放たれた場所を見極め振り返る。そこにはウェーブのかかった黒髪の女性が矢をつがえて立っていた。
「あんたがどこにいるのかわからなかったせいよ!」
女性、リリアはそう言いながらもう一度矢を放つ。矢が風を纏い加速した。今度はヒトガタの心臓を貫いていた。
「…やれやれ、危うかったな」
今度は男性の声だ。黒い短髪の男が槍を持ってアルヴァーの横に並んだ。
「あははっ!ルキフェルさん、今回はアルヴァーのサボりも文句言えないですね」
その横から、身長を上回るほどの大鎌を担いだ淡い金髪の女性が顔を出した。
「ヴィエラ、そうは言ってもね…」
ルキフェルと呼ばれた短髪の男は肩をすくめる。大鎌の女性、ヴィエラはまた笑っていた。
「なぁ〜んだ、アルヴァー、こんなのに苦戦してたわけ?」
更には、刀を片手にした銀髪に近い髪色の男まで現れた。
「…うるさい、サティグ」
アルヴァーが睨むと、サティグはニヤリとする。
「…え…?皆さんは…」
カルガントは状況が理解できず、きょろきょろした。
「…ああ、新入りの魔導具整備師くん。我々こそモーントの平和を守る精鋭部隊、ルキフェル隊だ!覚えておきたまえ」
妙に陽気な--恐らく隊長なのだろう--ルキフェルはカルガントに向かって手を差し出す。それを遮るようにヴィエラが口を出す。
「ルキフェルさん、挨拶は後にして取り敢えずヒトガタを倒しましょう」
リリアも頷いた。
「そうねぇ。にしても、今回の定期訓練をアルヴァーがサボってたおかげで1人の命が助かるとは面白いわ」
リリアがチラリとアルヴァーを見ると、彼は目をそらす。
「昔に比べれば、真面目ないい子になったと思ったんだけどなぁ〜?」
サティグもそれに乗っかる。
「あぁ、昔は酷いもんでしたね。『オレは強いから、そんなモンやんなくてもヒトガタ退治なんて余裕だ!』とか言ってましたからね」
ヴィエラはニヤニヤしながらアルヴァーににじり寄る。
「…で、命令違反して巨大ヒトガタを1人で倒しに行って死にかけるっていうね」
ルキフェルは盛大にやれやれといったポーズをとった。
「まぁでも、あの頃に比べればぁ〜」
「やめろ!それ以上言うな!」
サティグがさらに話を続けようとするのをアルヴァーは必死で遮る。
「え?今更なに?もうみんな知ってるじゃない」
リリアは肩をすくめる。
「こ、こいつは知らなかっただろ!」
突然指さされ、カルガントは固まった。そんなカルガントの肩をルキフェルはポンと叩く。
「ま、アレだ。こいつは協調性皆無、自信過剰、性格最悪なのさ」
「ふざけんな!なんで現在形なんだよ!」
「あ、言いましたね?じゃあ昔のことは認めるんですね?」
「…スミマセンデシター」
「あれぇ?反省の色が見られないよ?アルヴァー君?」
「それなら、現在形で妥当じゃない」
わやわやと盛り上がっている彼らを見ていたら、なぜか不安が消えた。カルガントは吹き出した。
「…仲いいんだね」
その呟きに、一瞬沈黙が流れる。
「…まぁ、付き合い長いし」
アルヴァーがぶっきらぼうに答えると、周りも適当に同調した。
「さ、早くヒトガタやっちゃいましょうよ」
リリアが改めて宣言した。
「そうだな。ルキフェル隊、ヒトガタ殲滅作戦開始‼︎」
ルキフェルが声を張り上げる。
「妙に気合い入ってますね、隊長」
ヴィエラは笑いながら、軽く鎌を振り上げた。刃から水が迸ったと思えば、それは一瞬で氷に変わりヒトガタを貫いていく。
「んじゃ、ボクも〜」
サティグが刀を一振りすると地面が盛り上がり、土が鋭い針となった。
「貴方は、危なくないように隠れていてね」
リリアはカルガントの肩に手を乗せてそう諭すと、矢をつがえて放った。矢は疾風とともに敵陣を貫く。隊長のルキフェルが槍を振るうと、炎が生き物のように飛び出し、ヒトガタを焼き払う。
アルヴァーも剣を天に向かって振り上げた。すると目を焼く閃光が放たれ、敵を砕いていく。
(…すごい…)
一人一人の実力だけでなく、チームとしての連携が完璧に取れていた。
--それからものの数十分後、すべてのヒトガタは倒された。
ようやく西の森から帰還したカルガントはレッツェルグに骨が折れそうなくらいきつく抱きしめられた。周りの魔導具整備師の仲間たちも心から無事を喜んでくれた。
「あのアルヴァーがまず助けてくれたんだって?お礼を言っとかないとなぁ!」
レッツェルグはそう言っていた。
--ヒトガタの襲撃から一日だった夕方、カルガントは工場の奥の机で、小さく歓声をあげた。
「…出来た…!」
前々から考えていた自分専用の抗魔法の手袋が完成したのだ。これで安心して仕事ができる。カルガントは出来立ての手袋を抱えて、アルヴァーの元へと向かった。
アルヴァーの部屋の前に立ち、カルガントはそっとドアを叩いた。するとすぐにドアは開いた。
「…ん?ああ、どうかした?」
アルヴァーは一瞬きょとんとしたのち、カルガントを部屋に招き入れた。
彼は見たことのない、白と黒の詰襟の服を着ていた。何かの制服にも見える。
「その服って…」
カルガントが問いかけるとアルヴァーは肩をすくめた。
「兵士の正装。ほら、魔導具整備師にもあるだろ?族長に謁見する時とか、式典の時に着ろっていうやつ」
「あれかぁ。ほとんど着たことないや。でもなんで着てるの?」
アルヴァーはベッドにひょいと腰掛けながら溜息をついた。
「昨日のヒトガタ大量発生について指導者会議に報告しに行ってたから」
カルガントはアルヴァーの隣に座る。
「そうなんだ…。あ、昨日はありがとう…」
カルガントの言葉にアルヴァーは少しだけ笑った。
「あ、いやまぁ、うまく退路を開けなかった結果ああなった訳で…」
「でも助けてもらったのは事実だし、何かお礼がしたくて」
カルガントはアルヴァーをじっと見つめる。
「そう言われても…」
アルヴァーは少し考えてから、徐に壁際に立てかけてあった鞘を持ち上げた。滑らかに剣を引き抜くと、カルガントにその刀身部分を示した。
「この剣トニトルスっていう剣で、昨日も使ってただろ?でもほら、ここ、ちょっとヒビが入ってるんだよね」
アルヴァーは困ったように笑って続ける。
「トニトルスは昔、天才魔導具整備師が作った剣で誰も使いこなせなかったせいで長らく放置されてたらしいんだ。で、そうしたら魔法術式の解読ができなくなってて、整備も強化も出来ませんってわけ」
カルガントは頷く。
「そのトニトルス、ちょっと見せてもらっていい?」
黒い細剣、トニトルスを受け取り、その刀身じっと眺める。アルヴァーも興味深そうに覗き込んでいる。
「その手袋は?」
カルガントの手袋に気づき、アルヴァーが質問してきた。
「僕の魔力は弱すぎて、魔導具触っただけで魔力が逆流しちゃうんだ。だからそれ防ごうと自作の抗魔法術式をつけた手袋でガードしてるんだ」
「へぇ…凄いな…」
アルヴァーが呟くもそんな声は耳に入ってこない。カルガントは集中してトニトルスの魔法術式を読み取った。そして、数分後、
「…ちょっと解決策が見えてきたかも…トニトルス、しばらく借りてていい?」
カルガントの言葉にアルヴァーはびっくりしながら頷いた。
アルヴァーから預かったトニトルスを前に、カルガントはそれこそ寝食を忘れて魔法術式の解読に勤しんだ。
そして一週間近く経ったある日、ついに彼はその解読に成功した。
カルガントは大急ぎでトニトルスを抱え、アルヴァーの部屋に突撃した。
「カルガント、めっちゃ目の下にクマが…」
完全にその勢いに気圧されたアルヴァーが若干引き気味に言う。
「大丈夫!それより、解読成功、強化成功だよ!」
興奮しきっているカルガントはふらふらとベッドに座った。アルヴァーも取り敢えず隣に腰を下ろす。
「…トニトルスの術式を解読?」
驚いているアルヴァーにカルガントは胸を張る。
「うん‼︎」
アルヴァーの顔がさらに驚愕に染まる。
「すっげー、カルガント凄い!」
「今回は取り敢えず刀身のヒビの修復と、剣自体の強化をしたよ。新しい魔法術式を作り出せたら、また強化する!」
カルガントは満面の笑みを浮かべた。と、それからアルヴァーの肩に頭を乗せた。
「おい?何かあった?」
心配するアルヴァーににっこり笑いかける。
「疲れただけー」
そういった直後にカルガントは眠ってしまった。
呆然とそれを見ていたアルヴァーも諦めたようにカルガントの隣で横になった。
カルガントが読み解いたトニトルスの術式を教えてもらおうとやってきたレッツェルグが、いつまでたっても部屋から出てこない二人に痺れを切らす。ついに、部屋に侵入した時、カルガントとアルヴァーは仲良く寄り添って寝ていた。
「…いつの間にか、仲良くなってやがんの」
Mont~光の国の魔法使い~番外編 完
これにて番外編は終了です。
次週からは本編の連載再開です。
<次回5月29日更新予定>