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Part10

Mont~光の国の魔法使い~


ユフェルナ王国南部の都市。南方王朝が中心となるその街は、明るい太陽の陽の光を浴びて活気に満ちていた。瓦葺の屋根に白く光が跳ね返り、木造の家は戸口を大きく開け放ち、室内に風を通していた。土のままの道を足袋を履いて笠をかぶった旅人が往来する。時折、道端にゴザを敷いて何やら売っている商人と会話する。

--そんな様子を王宮からウラナは眺めていた。廂に取り付けられた赤い提灯が風にゆらゆら揺れる。

「…ウラナ様、王の間へ」

臣下のハラスが静かに声をかける。ウラナは窓から離れ、着物の裾を持ち上げて、踏まぬように気をつけながら素早くハラスの傍に寄った。

「…よいか、ハラス。何を王に問われたところで、お主は何も答えるな」

ハラスは静かに頷いた。ウラナは満足そうに微笑みハラスの後に続き王の間へ向かった。


「ウラナ・クナタ、参りました」

ウラナは王の前で深々と礼をした。王は眉間に皺を刻んだまま重々しく頷いた。

「…左大臣シラク・ナヤカから、右大臣クナタ家当主たるおまえが北方の男と文のやりとりをしていると聞いた。これは事実か?事実であるならば何故に?」

王の冠の金の飾りがちらちら光る。ウラナは面を下げたまま答えた。

「…畏れながら申し上げます。左大臣の申したことは事実でございます。私は北方のオーリエなる街を代々治めるオーリエ家の現当主、オルファン・オーリエと文の交換を行いました。南北両民族の停戦と和解のためでございます」

部屋の中の空気がピタリと凍るのがわかった。

「…北方民族との和解だと?」

王は絞り出すような声で言った。丸い顔が青くなる。

「あの者らは、我らが祖王の姫君たるメノニ姫を殺めたのだぞ!」

怒声が部屋を突き抜けた。王の側に控えていた者たちもびくりと体をこわばらせるほどの物だった。

「…存じております。百年ほど前、現在の南北境界線にあたる山岳地にて北方民族の騎士にメノニ様が殺められた事件でございます」

王の怒気にもウラナは冷静だった。そして彼女は部屋が再び静けさを取り戻すのを待った。

「…しかし、王」

ウラナは顔をあげ、その黒く澄んだ瞳で王を見つめた。

「百年もの昔の王族の確執が民にとってなんだと言いましょう!」

今度は皆がウラナの剣幕に怯える番だった。

「メノニ様のことは決して許せることではございません。しかし、王!北の民との争いは、今、ここで生きている民を苦しめているのです!たとえメノニ様の仇と説いたところで、今、ここで兵となった父を失った子らにとって、兵となった我が息子を失った母にとって、一体なんの意味をなすと言えましょう!?」

ウラナは一つ息をついた。

「…王は、民のためにあるべきと存じます。王よ、どうぞ民のためにご英断を」

王は押し黙った。再び静けさが部屋を支配した。

再び王の間は沈黙に包まれた。

「…お主は…我が王家の仇を赦せと申すか!和平交渉など、そのような愚行よく口にできたことだ!」

王はウラナに向かって怒鳴った。ウラナはおもわず唇を噛み締めた。

「和平などしたが最後、我らの肥沃な大地は北方の蛮族どもに食い荒らされるであろう!」

ウラナは王から目を背けた。

(…王は…)

--何も見えていない。いや、何も見ようとしていない。考えてみれば当たり前のことだ。生まれてこのかた、まともに外を出歩き、民との触れ合ったことなどないのだから。

「…もうよい、去れ」

王の言葉を聞き、ウラナは諦めたように目をつぶり深々と礼をして立ち去った。


 臣下のハラスと王の間を辞したウラナはゆっくりとした足取りで廊下を歩いていた。沈黙の中顔を上げると、ずらりと並ぶ真木柱の陰に人影が見えた。二人は立ち止まる。

「これはこれは。左大臣シラク・ナヤカ殿」

ウラナが声をかけると、あごひげを生やした中年男性が二人の前に立ちはだかった。

「おや、ウラナ・クナタ右大臣殿。王との謁見をなされていたのですか?」

シラク・ナヤカは「今、あなたがいることに気がついた」とでも言うようにわざとらしい笑みを浮かべた。

「何やらお咎めを受けていたようですな」

薄ら笑いを浮かべてシラクは続ける。

「北方民族との文のやり取りのことか。お前が王にお知らせしたそうではないか」

ウラナも皮肉な笑みを浮かべて答える。

「この度のことで我ら右大臣家の信用が失墜すれば、左大臣殿に出世の機会も訪れることだしな」

シラクは目を丸くしたが、臆することなく挑戦的に答えた。

「いえいえ、あなたがたクナタ家に対して、そのような野心など…。まあ、あなたのような若い女性がいかにして王に気に入られたかは大変興味深いことですが…。やはりその若さですかね」

ウラナはシラクを睨み付けた。

「…その言葉、私に対する侮辱と取れるが?貴様が私を侮辱するなど大罪であるとわかっておるか?」

ふん、とシラクは笑った。

「まさか、そのようなことは」

まさか、そのようなことは」

ウラナは薄情そうなその顔を一瞥し、ゆっくりとその場を立ち去る。

シラクはそのままウラナを睨んでいた。


<次回part11 5月15日(日)更新予定>


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