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【十六・死闘】

   【十六・死闘】


 詰所の前でベルダネウスがボーンヘッドと共に出てきた時、ルーラは屋根の

上にいた。

 そこでベルダネウスの説得が始まったが、彼女は最初から相手にしなかっ

た。というのも、昨夜の打合せの際

「私が捕まったら、お前を油断させるために何らかの形で説得させようとする

かも知れない。けれど本当にエクドールたちを拘束して問題が解決した上でお

前を呼びに出るかも知れない。

 合図を決めよう。本当にお前と連絡をつけたい時、私は最初に『私だ。ザン

・ベルダネウスだ』とフルネームで語りかける。それをしなかったら私の語る

内容は嘘だ」

 と決めていたのだ。だから彼女は無視した。それと同時に、まだ彼が無事で

あることにほっとした。

 ヴァンクに先行して詰所に戻った彼女は何度か屋内をのぞき込み、だいたい

の状況は掴んでいた。ベルダネウスの右腕右足が折られていることも、ソーギ

レンスはエクドール側につかず地下牢に閉じ込められていることも。

 問題はみながロビーに集まっていることだ。出来ればアーシュラとファ

ディールが一人になったところを襲って魔玉の杖を奪っておきたかったが、さ

すがに用心して二人はなかなか一人にならなかった。

 先ほどアーシュラがベルダネウスと一緒に詰所を出た時はチャンスだと思っ

たが、もしもへたなことをして彼女が彼に危害を加えたらと思うと、襲いかか

るのがためらわれた。それをルーラは後悔している。

 こうなっては出来るだけ早く行動を起こすことだ。時間が経てば経つほど

ヴァンク襲来に備えてエクドールたちの警戒心が強くなる。

 間もなくヴァンクが来る。少しなら待ってくれるだろうが、我が子を取り戻

そうというヴァンクはかまわず攻撃を始めるかも知れない。出来れば到着と同

時に攻め込みたかった。

 頭の中でやることの優先順位をもう一度整理する。あれもこれも一度にやろ

うとして、おたおたして結局何も出来ないなんて事態は避けたい。

 中が騒がしくなった。エクドールがベルダネウスにナイフで襲いかかり、

ボーンヘッドとマスカドルに止められるのが見えた。

 中に飛び込みたくなるのを必死で押さえたルーラに、精霊たちの心がすり抜

けた。

 ヴァンクが来たのだ。

 ルーラは詰所前に降りると、精霊の槍を構えた。最初の勢いでどれだけ自分

の目的が達成できるかが勝負だ。

 背後にヴァンクの気配を感じると、ルーラは中の様子を思い浮かべる。精霊

石を通じて、それはヴァンクにも届く。檻の中の幼獣の姿を思い浮かべると、

怒りと哀しみが逆にルーラの胸の内に流れ込んで来る。

「行きます!」

 周囲の空気が震える。戦いの時が来た。

 詰所を風が渦巻き、無数の雷が轟音と共に詰所の壁を舐め、破壊していく。

爆発したように壁が、天井がはじけ飛び、窓や扉が粉みじんに砕け散った。

 風の精霊たちが詰所に入り込み激しく駆け回り、暖炉の炎を通じて炎の精霊

が飛び回る。

 そこへルーラが風の精霊に乗って飛び込んだ!

「ザン!」

 既にめざす相手の場所は把握している。

 中央に幼獣の檻があり、床が上下に揺れるのに合わせて激しく揺れる。ヴァ

ンクが大地の精霊の力で檻を揺らし、転がして壊そうとしているのだ。しか

し、精霊たちはアークド銀にたじろぎ、横転させるまでにはいかずただ揺り動

かしているだけだ。壁際にはセシルが寝かさせ、マスカドルとアーシュラが彼

女を守るような形で身構えている。

 そしてソファにはベルダネウスとボーンヘッドがいる。

 ルーラは迷わずベルダネウスの方に向かう。と見せかけて方向転換した。彼

女の狙いはベルダネウスでも幼獣でもない。アーシュラだ。

「え?」

 まさか真っ先に自分たちの方に来るとは思わなかったのか、アーシュラの反

応が遅れた。

 とっさにマスカドルが彼女をかばおうとする、不慣れなせいか動きが鈍い。

彼の構える剣を槍で払うと、そのままルーラは彼の肩を踏み台にしてアーシュ

ラめがけて跳んだ。

 着地と同時にルーラは槍を彼女の魔玉の杖に絡め、絞るようにひねる。

 アーシュラの手から魔玉の杖が離れた。素早くそれを拾うと、ルーラは思

いっきりそれを砕けた天井の穴の先、外をめがけて放り投げた。魔玉の杖が無

ければ魔導師はほぼ無力だ。

 だが、ルーラもやはり焦っていたのだろう。投げられた魔玉の杖は、天井の

穴の端にぶつかり、そのまま二階に転がり落ちた。

「ファディール、私の杖!」

 アーシュラが叫ぶが、上からは

「何ですか。うわっ」

 へっぴりなファディールの声が返ってくる。崩れてくる壁や天井の中、それ

どころではないらしい。あてにならないと思ったのか、アーシュラは二階に上

がろうと階段を見、崩れ落ちているのを知ると詰所奥の階段に向かって走り出

す。

 マスカドルの剣を受け流すとルーラは幼獣の檻に走った。

 風の精霊の力を借り、檻の上に飛び上がると、そのまま檻の向こうにいる

ボーンヘッドめがけて跳びかかる。

 しかしボーンヘッドのその動きを読んでいた。愛用の剣でルーラを迎え撃

つ。とっさに吹いた精霊の横風がルーラを横に弾き、彼の剣を躱させた。

 槍を構えてルーラがボーンヘッドに挑む。だが、ボーンヘッドはその槍を適

格に、余裕を持って弾き、流していく。二人には明らかに戦士のとしての技量

に違いがあった。

 ルーラが穂先を床につけると、いきなりボーンヘッドの足下の床が抜けた。

前にも使った、大地の精霊による地面陥没の落とし穴だ。が、床がある分陥没

までわずかな間があった上、同じ手は食わないとばかりにボーンヘッドは素早

く移動し、転落を避ける。

 精霊の槍を握るルーラの手に汗がにじむ。まともにぶつかっては彼には勝て

ない。

 ボーンヘッドの向こうで、ソファに横たわったままのベルダネウスが目で合

図をした。その意味を知った彼女は、激しく左右に動く。それに合わせてボー

ンヘッドも常に彼女と向き合うよう体を動かした。

 ボーンヘッドが自分のすぐ前に来た時、今だとばかりにベルダネウスが思

いっきり左足で彼の膝の裏を蹴りつけた。ルーラの動きは彼の隙を窺うためで

はなく、彼を動かし、ベルダネウスの足の届くところに行かせるためだった。

 背後からいきなりの攻撃に、たまらずボーンヘッドは膝を崩した。そこへ

ルーラが精霊の槍を構えて突撃する。

 とっさにボーンヘッドは横に転がり、今し方まで自分のいた場所を剣でなぎ

払う。それはちょうど突っ込んできた彼女を両断する位置だ。

 このまま突っ込んだら両断される。とっさにルーラは槍の柄で剣先を受け流

したが、その際に体勢を崩し、勢い余って床を転がっていった。

 この隙にベルダネウスは立ち上がり、不自由な足で廊下に向かう。

「逃がすな!」

 ボーンヘッドがマスカドルに叫ぶが、彼は背後のセシルを気にして動こうと

しない。仕方ないので自分がベルダネウスを止めようと走りかけた時、高低入

り交じった声と共にヴァンクが壁を突き破ってきた。アークド銀のせいで精霊

たちが動きにくいことを感じ取り、自らの我が子を助けるべくやってきたの

だ。

「本命の登場だ!」

 ボーンヘッドの気がヴァンクに向いた隙に、ルーラはベルダネウスに駆け寄

り抱きついた。そのまま風の精霊に自分たちを裏口めがけて飛ばしてもらう。

 すでに裏口は雷によって破壊されている。ルーラたちはそこを通って馬小屋

近くの雪山に突っ込んだ。

「ザン、大丈夫?!」

「気にするな。すぐに戻れ」

 苦悶の表情でベルダネウスは右足を押さえる。不自然な体勢で突っ込んだせ

いで治りかかっていたのをまた痛めたようだ。

「でも」

「行け!」

 その一喝がルーラに決心させた。精霊の槍を強く握ると、破壊の音が聞こえ

る詰所に駆け戻る。次の目標はファディールだ。

 彼女が二階への階段を駆け上がるのに合わせて、ソーギレンスが荷物を抱え

て地下から上がってきた。

「ベルダネウス殿、無事でしたか」

「ソーギレンスさん。どうやって牢を?」

「マスカドル殿が、危険を感じたら逃げろと渡してくれた」

 そう言って取り出したのは牢の鍵だった。さらに彼は牢に放り込まれてあっ

たベルダネウスの荷物を置き、鞭を取り出した。

「使いますかな? もっとも、その足では」

「大丈夫。足はあります」

 鞭を受け取ると、ベルダネウスは痛みに顔をしかめながら立ち上がった。


 ルーラが階段を駆け上がると、炎混じりの突風と共にアーシュラが吹き飛ば

されてきた。その手に魔玉の杖はなく、炎の精霊の攻撃を受けたのか、髪や服

に焦げ跡が見える。

「大丈夫!?」

 今は敵同士であることも忘れてルーラが彼女を抱き起こした。

「大丈夫なわけ無いでしょ。めちゃくちゃ痛いわよ」

「どこかに隠れてて。戦いが終わったらすぐに治療を。歩けますか?」

「歩けなかったら、転がっていくわ」

 あんたには世話にならないとばかりにルーラを押しのける。どうしようかと

迷ったルーラだが、ロビーの方から聞こえるヴァンクの叫びと、精霊とは違う

魔導の熱気を受けると顔つきが変わった。

「下まで行けばザンがいますから」

 そう言うと、アーシュラをその場に残して走り出した。

 崩れた壁に隠れながらロビーに向かう。爆炎魔導の音と共に熱気が伝わり、

ヴァンクの悲痛な叫びと同時に痛みの心がルーラを貫く。

(ヴァンクが苦しんでいる)

 苦戦しているのだ。さらなる傷を負っているのだ。

 焦るのを押さえつけ、隠れながら前に進む。

(いた!)

 へっぴり腰で魔玉の杖を構えたファディールが崩れた床の端に立っていた。

杖の魔玉が輝き、稲妻が発せられる。アーシュラと比べるとかなりショボい電

撃だが、それでもヴァンクの苦痛の叫びが響く。

「もう一発だ!」

「早く、早く仕留めて!」

 下からボーンヘッドとエクドールの声が聞こえる。

 ルーラは精霊の槍を構え直すと、まっすぐファディールに向けて突進する。

「ファディール!」

 雄叫びに思わず振り向いたファディールめがけてルーラは思いっきり殺気を

ぶつける!

 たじろいだ彼に一気に詰め寄ったルーラは精霊の槍を振るい、彼の魔玉の杖

を絡め飛ばした。

 飛ばされた杖は壁に、床に当たり先端の魔玉が砕け散る。

「僕の魔玉が」

 慌てふためくファディールにルーラは精霊の槍の柄で打ち据え、突きとばし

た。

「ヴァンク!」

 崩れた床の先から階下を見下ろしたルーラは言葉を失った。

 ヴァンクは全身にアークド銀の槍や矢が突き刺さり、全身を血に染めてい

た。

「まだ倒れねえか!」

 全身をヴァンクの返り血に染めたボーンヘッドとマスカドルが両手にアーク

ド銀の槍を手に走り回っては、ヴァンクを突いていく。全身にアークド銀を巻

き付いているので精霊たちも彼らには及び腰だ。それを良いことに彼は動き

回っては思うように動けずにいるヴァンクを突き刺している。

「早く、早く倒してください!」

 幼獣の檻の陰でエクドールが弓を構えては、矢を射っている。勢いはない

が、至近距離のせいで確実にヴァンクに突き刺さっていく。

 ヴァンクが力を振り絞り突進、幼獣の檻に激突した。檻が吹っ飛び壁に激

突、柵がひしゃげ、緩むが壊れるには至らない。

「この野郎!」

 ボーンヘッドが渾身の力で突撃、毒を塗ったアークド銀の槍をヴァンクの右

前足に突き刺した。今度は抜かずにそのままにする。苦痛の叫びと共にヴァン

クが倒れた。

 初めて感じた勝利の手応えにボーンヘッドがにやりとして次の槍を構える。

 ルーラが焦った。飛び降りようと思ったが、先ほどの戦いを思い出してたじ

ろいだ。まともにぶつかってもボーンヘッドには勝てない。精霊たちも彼がま

とっているアークド銀は苦手だ。

 だったらとばかりにルーラは手近な瓦礫を掴むと、ボーンヘッドめがけて投

げつけた。それは見事に彼の右肩を直撃する。

 たまらず槍を取り落とし、床に転がるボーンヘッド。

「てめえ、何しやがる」

 痛みに耐えながら槍を拾って起き上がると、また落ちてくる瓦礫を何とか躱

していく。槍を構えようとして右肩の痛みに顔をしかめる。

 ただ投げ落とすだけといっても、力自慢のルーラが選んだ瓦礫が二階の高さ

から落ちてくるのだ。直撃したらタダでは済まない。崩れた天井や壁のおかげ

で瓦礫には不自由しない。

 舌打ちしたボーンヘッドは左手で瓦礫を拾い上げると、二階のルーラめがけ

て投げつけた。倒れたヴァンクの体に隠れながら次々と彼女に瓦礫を投げつけ

る。左手なので狙いは悪いが、彼女だってヴァンクに当たるのを恐れてか狙い

は悪い。

 戦いはルーラとボーンヘッドの瓦礫の投げ合いになってきた。

 ヴァンクが身を震わせ、尾をしならせてボーンヘッドを打とうとする。さす

がにボーンヘッドも表情が引きつり始めた。

「エクドール、援護しろ!」

「もう矢がない」

「剣があるだろ!」

「そんなこと言ったって」

 アークド銀の毒を塗った剣を持ってはいても、戦士でもないエクドールは、

ヴァンクの勢いと振り回される尾の前に尻すごむだけだ。

 ヴァンクの叫びがそれが近づく音を消していたのだろう。最初にそれに気が

ついたのは、一歩下がって様子を見ていたマスカドルだった。しかし、彼はそ

れをボーンヘッドたちに告げることはしなかった。

 通路から長毛種の馬が飛び出した!

 背中にベルダネウスを乗せたグラッシェだ。瓦礫を跳び越え、エクドールに

迫る!

 悲鳴を上げて剣を振り回すエクドールに、ベルダネウスの鞭が襲う。左手で

扱っていてもその狙いは正確に彼の剣を持つ腕を打つ。

 エクドールの腕の皮が避け、血しぶきが上がった。たまらず剣を落とした彼

をさらに二度、三度とベルダネウスは鞭で打ち据える。

「ベルダネウス!」

 身構えるボーンヘッドに、ベルダネウスはグラッシェと共に前進、鞭を打

つ。体を支えるため手綱をしっかり右腕に巻き付けているため、動く度に激痛

が生じるものの、決して鞭の攻撃を緩めない。

 ボーンヘッドも槍で牽制するが、さきほど瓦礫の直撃を受けたせいか、その

動きは鈍い。

 それを狙ってヴァンクの尾がしなり、風を切ってボーンヘッドの背を打つ。

さしもの彼もたまらず倒れた。そこへグラッシェがいななき、全体重をかけて

彼の背中を踏みつぶす。

 これでボーンヘッドも終わりと思われた。だが、彼はそれでも立ち上がり槍

を振り回す。しかしその動きはかなり鈍い。

「もういい。倒れてください!」

 ベルダネウスの叫びに、彼は不敵な笑みを返し槍を構え直す。

「冗談じゃねえ。こんなやりがいのある戦い、途中で止めてたまるかよ!」

 投げつけるための瓦礫を拾い上げたルーラは背後からの微かな光を感じた。

彼女は階下の戦いに気を取られすぎたのだ。

 振り返ったルーラの目に、稲妻を帯びたアーシュラの魔玉の杖を構えたファ

ディールの姿が映った。

 しまったと思う間もなく、ルーラの体をファディールの稲妻が駆け抜ける。

全身を自分でない力が貫き、彼女は倒れた。手から離れた精霊の槍が階下に転

げ落ちた。彼女自身は崩れた床の端で止まり、階下に落ちずには済んだが、

(動けない……)

 意識はあるものの、まるで体が人形になったかのように動かない。

 ルーラの異変を知ったベルダネウスの動きが止まる。それを見逃さないボー

ンヘッドではなかったがダメージを受けた体は、彼の思い通りに動いてはくれ

なかった。

 そこをヴァンクの足が頭上から下ろされた。グラッシェ以上の大きさと重量

を持つヴァンクの足は、今度こそ本当にボーンヘッドを押しつぶした。

 しかし、ヴァンクもまた悲痛の叫びを上げて倒れた。その足にはボーンヘッ

ドの槍が深々と突き刺さっている。踏みつぶされる瞬間、彼はとっさに槍を

ヴァンクの足の裏に突き立てたのだ。

 手足を変な方向に曲げて倒れたボーンヘッドは、自分の最後の攻撃がかなり

の効果を上げたのを見届けると、満足げに微笑み、血を吐いて動かなくなっ

た。

 半ばヤケ気味の雄叫びを上げてファディールが二階から飛び降りた。彼の手

にある魔玉は稲妻を帯びている。

 彼はヴァンクの背中に飛び降りると、傷口の一つに杖の先端をねじ込み、あ

りったけの稲妻を流し込んだ。相手の体内に直接電撃をぶちかますという捨て

身の一撃だった。

 これは効いた。

 全身を激しく痙攣させたヴァンクから、その手足と尾の力が抜けた。もとも

と満身創痍で、気力だけで戦っていたヴァンクにとって、この一撃はあまりに

も強烈すぎた。

 倒れたまま、動く様子はない。

 二階で動けずにいたルーラは、階下からヴァンクの思いが消えていくのがわ

かった。

 ベルダネウスも、突然のことに驚きを隠せない。

「……やりましたよ。勝ったんです」

 ファディールがヴァンクの背で立ち上がった。ヴァンクの返り血で汚れてい

るが、肉体的ダメージは大した事がなさそうだ。

「はは……やった。やった! 万歳!!」

 勝利の実感が湧いたエクドールが小躍りする。

「……喜んで良いんですか」

 その姿に、冷ややかな目を向けるベルダネウス。

「何を言っている。私たちの勝ちだ!」

「私たち……ですかね」

 ベルダネウスの目は、ヴァンクの背に立つファディールに向けられたまま

だ。

「次に殺されるのはあなたの番かも知れませんよ」

「はあ、なんで彼が私を殺すんです?」

「殺さない理由があるんですか。あるとすれば、ヴァンクの羽根を金に換える

術を知らないというぐらいですが、本当に知らないとは限らない。それに彼は

あなたがタマリアン家の依頼でヴァンクの幼獣を捕らえたことを知っている。

あなたを殺し、幼獣をタマリアン家に引き渡して礼金をもらうという手もあり

ます。あなたがもらうはずの金よりいくらか割り引けば、先方も特に文句は言

わないでしょう」

「馬鹿なことを言わないでください。僕はそんなことはしません」

 息を整えながらファディールが異議を唱えた。

「そうだ。ファディールはそんなことをする奴には見えない。むしろベルダネ

ウス、あんたがやりそうな手だ」

「そうですかね。ファディールを見かけ通りの奴と思ったら痛い目に会うぞ」

 ベルダネウスの口調が変わった。

「この男は金のためなら平気で人を殺しますよ。おそらく、生き残った者を皆

殺しにしますよ。自分一人が生き残れば、いくらでも都合の良いよう言えます

からね」

「随分な言い草ですね」

 ファディールが薄ら笑いを浮かべ、魔玉の杖を構えた。

「あんたにとっては、それが一番金になる方法だ」

「でしょうけど、あいにくとそこまで僕は人でなしじゃないですよ」

「私はそうは思わない」

「どうして?」

「あなたは、すでに二人の人間を殺しているからだ。エリナとフィリスの二人

を」

 その言葉にマスカドルが息を飲む。気のせいか、彼にはファディールの口元

が微かに微笑んだように見えた。


【次章予告】

戦いの中、殺人犯を告発したベルダネウス。

その根拠は? 証拠はあるのか?

ベルダネウスの告発の中、ルーラは少しずつ、確実に力を取り戻していく。

次章【十七・あなたが殺した】

逆転のチャンスは一度



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