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第五話 選択は自分で掴み取れ

 前回の投稿から幾分か過ぎましたが、よろしくお願いします。

「さて、トロールは片付けたが……どうしようか?」

 

 ハイエルフって扱いを間違えたら、捕まるのは俺達……いや、この場合は俺だけだと思う。

 

 しかも周辺のエルフ達は様子見で、こっち来ないしどうしようか。

 

 俺はノエルの服を掴んでいる少女ハイエルフを見つめる形で、


 「怪我はないか?」

 

 と落ち着いた声で尋ねる。

 

 エルフ系は見た目と実年齢はあんまり当てにならない。

 

 実際に外見年齢14歳位で精神年齢550歳のエルフを子供扱いしたときは、なんというか酷い目にあったしな……あくまでも例外のケースだったけど。

 

 その経験を踏まえて、ペーシングを行うことから始める。

 

 ペーシングは、喋り方、仕草、表情などの部分を相手に合わせることで、相手の警戒心を和らげる効果を持つコミュニケーション技法だ。ただし、相手への対応を間違えると酷い目に遭うことがあるので初対面の時は慎重にしなければならない。


 「……」

 

 じーーーーと俺の顔を見ている少女は、困惑でも恐怖でもないなんとも言い難い表情だった。

 

 黙っていたらペーシングできないし、どうしようか。

 

 そんな俺の困惑をノエルは察知してくれたのだろう。


 「祐也、近くの村につれていきましょうか」


 「そうだな。落ち着いた場所の方がいい考えが出るかもしれないし、向かうとするか」

 

 ノエルの提案に賛成し、少女を背中に背負って村に向かった。

 

 ん、トロールはどうしたって?

 

 村に向かう前にアイテムの回収はしたけど……

 

 ドロップ品 

 ドロールの肉(毒)レア:D ×5

 

 後でノエルに聞くと本来のランクはCだけど、毒入りでランクが下がったみたいだ。

 

 ちなみに使用したヒュドラの毒液は入手した世界では金貨100枚の価値があるため、実際は大損だ。

 

 俺が戦闘での支出計算をしている中で、背中の少女は安心したのか寝ていた。

 

 そんな姿を見ていると俺も親父に背負われているときに寝ていた頃を思い出した。

 

 家族を大切にする性格の親父は、小さい頃に行方不明になった。母は俺が異世界に召喚される前に亡くなったが、最後まで親父のことを悪く言わなかった。

 

 一応俺も親父の捜索をしたが、結局は見つからなかった。

 

 どうしていなくなったのか理由は知らないが、きっとどっかで生きているだろうとそう思うしか俺にはできなかった。

 

 やがて森の中に小規模な村に到着した。

 


 

 エルフ里:ランドノット

 

 神界に最も近く、その恩恵か魔物も弱く、豊かな大地に恵まれた土地の中にある小規模な村だ。

 

 宿屋、酒場、武具と日用品を扱っている店の3店以外は全て住人の家しかなかった。

 

 村に着いたときに自警団に囲まれたが、ノエルの姿を見てとりあえず難を逃れることができた。

 

 なんでも、豊穣の女神であるノエルとこの村とでは交流があると説明してくれたが、どっちかというと俺に警戒をしていたようだった。

 

 ノエルの話ではこのへんではレベル10程度の魔物しか出ない為か、それを倒した俺がトロール以上のレベルの持ち主だとか、勘違いされまくってるなあ。

 

 自警団に案内されて村の村長であるラステルに会うことになった。歳は数百歳みたいだが、30代後半のメガネをかけた若い人だった。

 

 とりあえず知り合いであるノエルにこれまでの経緯を説明してもらい。俺は座らずに壁に寄りかかることにした。連れてきたハイエルフの少女はノエルの隣に座っている。

 

 ノエルの説明を聞いた後にラステルはしばらく考えた後に口を開いた。


「……ノエル様の事情は分かりました。こちらでの滞在についてはご用意させていただきます。」


「ラステル様、ありがとうございます。」


「ノエル様、頭を下げてもらってはこちらが困ります。我々はノエル様のおかげで、里は作物に困らなかったのですから……ただ、ハイエルフ様の件ですが」


「あの子がどうしたのですか?」


「いえ、正直にいえばこちらで預かることは難しいと思います」


「難しいというのは?」


「この子を連れてきた組織についてだろ」

 

 ノエルの疑問に俺が答えた。

 

 俺の声に驚いていた表情でノエルから俺の方に視線を向けたラステルは問いかけた。


「あなたがノエル様の話であった異界人の……」


「十六夜 祐也だ。呼ぶときは祐也でいい。―――それで、どうなんだ?」


「ええ、恐らくは奴隷商人から逃げ出してきたと思われます」


「……その根拠は?」


「ハイエルフ様の胸に刻まれていますが、それは奴隷刻印と呼ばれる奴隷に対しての従属を強いる術式でございます。」


 奴隷。


 罪人・身売り・誘拐などで奴隷商人へ売買された身分だ。


 扱う種族は多様で、俺がいた元の世界では人間しかいなかったが、奴隷の扱いはそう変わらなかった。


 家の家事メイド・護衛・性奴隷など求められる用途は様々であったが、奴隷側にとっては生涯の底辺に堕ちるようなものだった。希に良い主人につけば、幸せになるかもしれないが、大抵は使い捨てられたりするものだった。


 そして、奴隷を行使するための首輪となるのが奴隷刻印だ。


 世界を旅している中で、刻印の形状は違うが効果としてはどれも同じだ。


 効果は主人に反逆したら、強い強制力で奴隷を使役するというものだ。


「既に誰かの所有物ということか?」


「いえ、奴隷刻印は刻まれたあとで所有者の血を刻印に与えることで発動しますが、ハイエルフ様の状態では刻印だけの状態と思われます」


「だとすれば、いずれこの場所にこの子を狙って来ると」


 ノエルの言葉に俺も内心同意をした。


 未登録の奴隷自体は、価値は下がらないため奴隷商人が奪還に来る可能性は高い。


 むしろ、奪還者がさっきのトロールだとすれば説明がつく。


「そう考えられます。ハイエルフ様程の方ならば奴隷商人にとっては大事になるはずですが……」


「どうしてこの近くに来たのかですね」


 それからしばらくは、二人の会話が続いた。


 組織の規模、この子の住んでいた場所、奴隷商人はどうやって捕まえることができたのか?


 そんな感じのやり取りがしばらく続いたところで、終わらない内容に嫌気が差した俺は口を挟むことにした。


「……論点がズレてきているな。今、俺達はどうしてこの子がここにいたのかではなく、この子をどうするのかを話してただろ。だったらもう決まってるじゃないか」


 これの言葉に二人が俺に振り返る。


 俺はノエルが座っている方に歩き、肩に手を掛けて宣言した。


「―――この子に決めさせる。」


「祐也!!それって」


「祐也殿それはあまりに……」


 俺の言葉に否定を入れようとする二人に対して、強い口調で続けた。


「二人は黙ってな!!黙って聞いていれば、二人が話してるのはこれからの先の可能性しか話しているだけで、重要なことをほんの一言で済ましたら、この子の意思はどうなんだ!!ついでに言えば、わからない部分が多い以上かもしれない可能性を考えるのは早計過ぎるぞ!!」


 俺の口調に驚いた二人はポカンとしていた。


 そんな二人を気にせず、言葉を続ける。


「―――そんなことで勝手に決められた生涯を他人が最後まで責任持てるのか?……悪いが俺の経験上ではほとんどいない。そして聞くが、全員がこの子のこれからのことを決めて、最後まで面倒を見る気はあるか?」


 俺は世界を旅する中である経験をした。


 それは自分の意思を反映されず、周りが強要するのを目にし嫌悪したことだ。


 周りは家や地位を保持するためにそいつに強要していく中で、評価を得ようとそいつは努力する。


 才能あれば親の七光りで本人は評価されず、才能なければ家族すら見放す。


 かと思えば見放しても新たな才能に気づけば、手のひらを返す。


 最悪なのは王族の一族だからといって、周りが勝手に決めて讃えたり、殺そうとしたことを経験した時はもう救えないレベルだと実感した。


 とはいえノエル達とは全く関係ない話だったが、家族でもなく親族でもない赤の他人である俺達がこの子の選択を決めることではなかった。


 結局は子供だから誰かが決めるというのは俺にとっては理由にならなかった。


「―――だからこそ、決めるのはこの子だ。自分で決めた選択肢が正解かどうかは別問題だが、大切なのは自分の意思だ。俺はそれを尊重する。」


 初対面の時は答えてもらえなかったから、俺から問いかけることにする。


「聞くのが遅れてしまったが、君の名前は?」


「シルメリア……シルメリア・アズハ・エルヴィス」


『……え?』


 ノエルとラステルからの声に気になったが、それは後で聞くとするか。


「シルメリア、君の意思で決めて欲しい。ここに残るか、俺達と旅をするか。ここにいれば、いずれ迎えが来るかもしれない。けれど俺達と一緒に旅をするなら、君は強くならなければならない」


「強くなれるの?」


「それはシルメリア次第だ。強くなりたいならば協力してやる。ただ、危険がある。命を落とすかも知れない。」


 これの言葉にしばらく沈黙した後にシルメリアは答えた。


「―――連れて行ってください」


「それでいいのか?ここにいるのが安全だと思うが」


「構いません。」


「なら、その覚悟を見せてもらう」


 俺は取り出したナイフで、自分の腕を切り、シルメリアの手に血を乗せた。


「……」


 シルメリアは困惑をした様子で見つめている。


 ノエル達からも困惑した様子で尋ねてくる。


「祐也!?ナイフで自分を切ってどうするのですか?」


「見ての通り血を与えた。これを奴隷刻印につける……シルメリア自身でな」


「しかし、そんなことをすれば所有者はあなたになってしまいますが」


「むしろ、それが狙いだ。現状、旅に連れて行く時に誰かの血を与えなければ、どんな奴でも所有者になってしまうのは問題だ。それを解決するための所有者登録だ」


「祐也、それ以外の方法は?」


「ないな。刻印を無くしても、新しく刻めば済むし、仮に旅の途中で誰かの血を与えられて、寝込みを襲われたら、俺達は全滅だぞ。ここで所有者が決まっているならば、奴隷商人も簡単には手を出せないと思う。ちなみに所有者が決まっても、所有者が殺された場合はどうなるんだノエル?」


「……刻印は残りますが、所有者いないため、血を上書きすれば新たな所有者となります。」


「なら、ここの誰かが仮に登録してもそいつを殺せば済むということか。だったらここに残る場合でもあまり意味はないが、俺達は移動するから登録は必須だ。いずれ、然るべき時になったら彼女を解放するつもりだが、その間の勝手な行動については制限させてもらう。……それが旅をする中で最低限の条件だ。」


 俺の言葉がそこで終わった後、部屋の中に沈黙が訪れた。


 いくらかの間が過ぎた時にシルメリアが流血を続けている腕をそっと触れて、話しかけてきた。


「あなたのその腕痛くないですか?」

 

 シルメリアの答えを具体的に言えばHPが毎秒1ずつ減っている状態だ。

 

 ステータス画面には流血というバットステータスが表示されている。

 

 一定の傷を負った場合に発生するステータス異常だろう。

 

 他には継続で痛みが体力減少と同時に来ているからこの世界の理は、俺の世界に近いものだと実感できた。


「正直に言えばすごい痛い。けれどな、これは回復魔法で癒せる。……ヒール」


 回復魔法を掛けたところは、負った傷を癒し流血を止めた。


 出血した血を拭えばそこには綺麗は肌が残り、傷があった様子は消えていた。


 体力も全快したからか、気分が幾分か落ち着いた感じだ。


「しかし、癒すことができないものが世の中には多いし、過ぎてしまったものは巻き戻せない。それは生きていく中では付き纏う。……シルメリア、その血を付けるということは後戻りできなくなるということだ。それを踏まえて決めてくれ」


 そう言って、俺は扉に向かう。


 その様子を見てノエルが尋ねた。


「何処へ行くのですか?」


「先に宿へ戻る。俺が言いたいことは全部言ったからな、ラステル、宿の場所は?」


「……出て左にいったところのアズラ武具店の隣だ」


「ん、ありがとな」


 そう言って俺は村長ラステルの家から出て宿に向かった。


 二人が彼女の名前を聞いたときのリアクションについては今夜ノエルから聞き出そうとするか。


 道沿いを歩く中で、少しばかり頭が冷えてきたのだろうか大分落ち着いてきた。


 自分が言った言動を振り返ってみると、気に入らないから自分の意見を押し付けただけの身勝手な男の行動だった。


 そして、目の前にウィンド画面が出た。

 

 奴隷登録

 奴隷:シルメリア・アズハ・エルヴィス 所有者:十六夜 祐也


 「やっちまったなあ。……後で謝って許してもらえるかな。」

 

 頭を下げるか、それとも土下座の方が許してもらえるかなどの謝罪計画を立てながら俺の足取りは宿に向かうのだった。

 

 第五話読んでいただきありがとうございます。

 今回は出会った少女とそれに関係した話となります。

 内容から主人公は短気な性格だと思われますが、少し違います。

 実際は過去に起きた失敗経験がトラウマという形で残っているための感情の爆発ということになります。

 次回はおとなしめの話となる予定です。

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