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第四話 熟練者(ハードプレイヤ―)

戦闘回です。

初戦闘にして中ボスクラス登場です。

初戦闘描写なので描写が多くなりますがよろしくお願いします。

 ゲームと現実は違う。

 

 頭では分かっているが、言うは易し、行うは難しということわざがまさにそれだ。

 

 ステータス画面があるなんて要素は生まれた世界にはないが、遊び(RPG)では存在した。遊び(RPG)の知識があり、それを自分が体感となると、混同してしまう。

 

 けれど、よくよく考えてみれば、成績表・身体測定で自分の能力ステータスが分かるから、形が違うだけでそんなに大差がないじゃないと思う。

 

 そして大差ない理由としてもう一つ挙げられる。


 ―――唐突に死が迫ることだ。


 

 俺とノエルが迫り来る足音に身構えたとき、目の前の巨木に手が現れた。

 

 ミシ!ミシ!っと手に掴まれた木からの悲鳴が聞こえてきた。

 

 その様相から異常な握力を持っているのが見て取れる。

 

 そして、間を置かずに手が出てきた木の根元の方から子供が飛び出してきた。


 外見は10代前半に見え、色白だが容姿端麗だ。


 そして、肩まで伸びる緑髪に耳が長い。

 

 ただ、背後に迫っている者から逃げる為に必死の形相だった。


 「エルフか?」


 俺は思わず言葉を出した。

 

 「ただのエルフじゃないです……ハイエルフです」


 ハイエルフは簡単に言えばエルフの上位種だ。

 

 彼らはエルフ達から崇められたり、統率したり、秘境に住んでたりしている。


 そういった高い能力ぶりからエルフ達よりも精霊や妖精の方に近いとされている。

 

 それ故に多種族より狙われている場合が多く、数が少ない。


 ……この世界ではどういう存在かは知らないが、森の中といえ出てくる様な者ではなかった。


 少女ハイエルフは俺たちの姿を見ると、方向転換してこちらに走ってくる。


 その後ろから少女ハイエルフを追う姿が出てくる。


 目測より身長3~4m、幅2mの巨体、その手は片手で人一人がすっぽり収まる大きさ、それはまさに巨人と言える。


 その様相に俺は言葉を失う。


 レベルが1になってる為か、相手とのレベルが圧力となって全身を包んだ。


 ただ、経験上どういう種族かは推測ができた。


 そしてすぐに目の前にメッセージが出てくる。

 

 スキル習得:鑑定眼


 スキル習得メッセージの後直ぐに出てきた者のすぐ傍に文字が見える。


 一方、走ってきた少女がノエルの後ろに隠れ、ノエルは言葉を出した。


 「有り得ない……あれは間違いなくトロールです。魔界に住んでいるはずなのに精霊界に近いこの場所で出てくるなんて……」


 その言葉は俺の耳にも聞こえ、文字を見る。

 

 文字はレベルと名前とランクが表示されていた。

 

 ランクはひとつしか出ていないため、鑑定された対象の最も高い能力値が表示されるようだ。


 LV20 トロール STR:C 

 

 トロールは巨体と強靭な腕力で、知力は低く鈍重な動きとはいえ、一撃の破壊力とタフネスに定評がある巨人族。

 

 ただ、どの世界でもカタコトなりの言葉は話すはずだが、こちらを見つけても何も話さない。


 そして、少女ハイエルフの姿を見るとこちらに向かってきた。


 まずい……狙いがこの子である以上、こちらが手を出さなければ安全かもしれないが……


 俺は後ろに視線を向けると、少女ハイエルフがノエルの後ろで服にしがみついている。


 ノエルは俺の視線の意味を理解したのか、首を横に振っている。

 

 この子を助ける。

 

 そう言っているように思えた。


 視線を戻せば、ゆっくりとこちらにトロールが向かってくる。


 近づくほど圧力が大きくなる。

 

 レベル差があるならば、逃げるのが得策だ。


 けれど、逃げる選択肢が無ければ……戦うしかない。


 そう覚悟した時、俺は思考を切り替えた。


   

―――ノエル視点―――


 この子を助けたい。

 

 祐也がこちらを見た時、その子を渡すか?と言ってるように思え、私は思わず首を横に振って否定した。


 祐也はそれを見て、視線をトロールに向けた。

 

 敵との距離は近づいてくる。


 どうしよう、何か方法は……私たちでは勝てない。


 なら、この子を連れて逃げるしかない。


 そう思った時、祐也から言葉が来た。


「ノエル、支援を頼む」


 その言葉の真意を理解する暇なく、祐也は歩き出す。


 トロールは祐也が向かってきても歩みを止めない。


「祐也!! 逃げてください!! あなたには勝てません!!」


 私の言葉に意を返さないかのように彼の足は止めない。  


 二人の距離が縮まり、トロールの腕が祐也に当たる距離に近づいた時にトロールが先に動いた。

 

 悠然と歩く祐也にトロールは豪腕を祐也に向けた。


 それを待っていたかのように祐也はその場で後ろにジャンプをし、トロールの拳が着地した祐也の目の前で止まる。


 祐也は伸びきった拳を掴み、引っ張った瞬間、トロールが前のめりに倒れる。

 

 さらに間髪を置かずに祐也は片手にナイフを持ち距離を詰め、トロールの片目に突き刺した。


 「がぁああああ!!」


 刺された痛みで叫び声をあげたトロールの口に祐也は小瓶を放り込んだ。


 「あああっ!?」


 叫んでいる中で異物が口から入ったことで、トロールは叫ぶのをやめ戸惑う。


 その瞬間、祐也はトロールの顔を踏み台にして、背中の上を通り背後に移動した。


 後ろに移動した祐也は先ほどの拳が飛んできた位置よりも近い場所で離れずに立っている。


 近すぎる。


 ノエルから見た祐也とトロールの立ち位置はそれほどまでに近かった。


 トロールは顔を押さえながら、苦しんでいた。


 一方でそんな優位な状況でも彼の表情は冷めていた。


 そして、彼の目が見透かしているようにじっとトロールの動きを眺めていた。


 淡々と仕事をこなしている様な立ち振る舞いに、先程まで話してた彼との姿が違いすぎてノエルは思わず


 ―――怖い。

 

 そう思えてしまった。


 {ノエル、魔法攻撃を頼む}


 チャット画面に短く祐也からの文字が来た。


 {祐也、大丈夫ですか?}


 別人になってしまった彼に返信したが、


 {問題ない。ただ、あいつの肌にナイフの刃が通らない。ノエル攻撃を}


 見ればトロールは起き上がり、背後にいる祐也に振り向いて怒りを出している。そして、祐也の両手のナイフは両方とも根元から折れていた。


 恐らく、背中を通る際にトロールのどこかを切りつけた時に折れてしまったのだろう。


 その場で折れた武器を捨て、新たなナイフを構える。


「――――――風の奔流よ。敵に刃となり切り裂け……風刃ウインドブレイド!!」


 私が放った風のウィンドブレイドは無防備になっているトロールの背中を切り裂く。


 トロールの強固な肉体はナイフが通らないが、その分魔法には脆い。


 背後からの攻撃にトロールは再びこちらを振り返ろうとしたところで、


風刃ウィンドブレイド!!」


 トロールの左足の関節部分にナイフを突き刺し、ナイフから魔法攻撃が放たれる。


 その衝撃にナイフが再び折れる。


 祐也の攻撃にトロールは片膝を付く。


 そして祐也は再びさっきまでいた位置に移動した。


 怒涛の攻撃だが、トロールはまだ余裕があるようだった。


 当たり前だ。


 私達は二人共LV1の為、決定打が足りない。


 {ノエル、「今です!!トロールに攻撃を!!」って言葉を叫んでくれないか?}


 私の思惑とは別に祐也からの言葉に


 どういう意味?


 そう思いつつも、指示に従う。


「……今です!! トロールに攻撃を!!」


 その言葉が周囲に響いた後、少しして無数の矢がトロールに降り注ぐ。


 風刃ウィンドブレイドに切り裂かれた皮膚に矢が突き刺さる。


 片膝を付いたトロールは無数の矢の攻撃にうつ伏せに倒れた。


 そして……トロールはそのまま幾度と痙攣を繰り返した後、生命活動が停止した。


戦闘終了フィナーレだ」


 祐也の言葉を聞いて、ようやくノエルはトロールに勝ったことを実感するのだった。



―――十六夜 祐也 視点―――


「祐也!! 逃げてください!! あなたには勝てません!!」


 ノエルの言葉を受けるが、そんなことはどうでもよかった。

 

 歩きながらトロールを倒す手段を考察する。


 経験から幾つかの策をとりあえず思いついたので試そうか。


 トロールを見れば、目の前のゴミを払おうとする感じで拳が飛んでくる。


 まずは、先制打イニシアチブをいただこうか。


 軽く後ろに下がり、拳が目の前で止まる。


 昔、合気道をしていた友人に技をかけられたことがあったので、それを思い出しながらトロールの拳を引っ張った。


 そんなに力を入れてもないにも関わらずにトロールは盛大に前のめりに倒れた。


 へぇ、合気道もすごいな。


 次はナイフで肉質が柔いとこに一撃におまけも付けてやる。


 そのままダッシュで距離を詰めつつ、アイテムボックスから調合用に取っていたヒュドラの毒液が詰まった試験管を取り出す。


 無防備になった片目にナイフを突き刺し、試験管を口に投げ入れた。


 うまく、試験管が口の中に入ったのを確認したとこで顔を踏み台にし、背中の上を通る。


 ナイフが通るか確かめるために、腰に全力でナイフを突き刺す。


 ギィィン!!の音と共にナイフが折れた。


 空いた片手にナイフを取り出し、もう一度同じ場所を突き刺した。


 ギィィン!!とまたナイフが折れた。


 二度突き刺したトロールの肌には小さな傷があるだけだった。


 ……ち!! 物理耐性はあるか。


 やはり魔法攻撃しないといけないか。


 そう思ったときに小さくパキッというガラスが割れる音がする。


 ようやく試験管が割れたか。これで毒が回るぞ。


 実際、大きなダメージは与えていない。


 しかし、やっと一手を与えることができた。


 後は長引くほどこちらが有利になる。

 

 トロールは態勢を整えて、ようやく俺を敵と認識した様子でこちらを睨みつける。


 {ノエル、魔法攻撃を頼む}


 敵の目の前にいる為、ノエルに簡潔に用件を伝える。


 {祐也、大丈夫ですか?}


 困惑した様子の文字が返ってきた。


 ノエルには攻撃が通じていると勘違いをしてるのかなと思い、 


 {問題ない。ただ、あいつの肌にナイフの刃が通らない。ノエル攻撃を}


 と、返事をするとノエルの呪文詠唱が聞こえトロールの背中に命中する。


 習得 魔法:風刃ウィンドブレイド 消費MP:3


 ノエルが唱えたであろう魔法を習得した。


 条件は分からないが、活用させてもらう!!


 ノエルの攻撃にトロールは無防備に振り返ろうとしている。


 俺はトロールの左足の関節部分にナイフを突き刺し、


風刃ウィンドブレイド!!」


 魔力の流れをナイフに伝導させ、ナイフの先に集中し、風刃ウィンドブレイドを発動させた。


 これは強い魔法力を持たない俺が、魔力を循環し操作することにより任意に魔力をチャージめるという気功術に近い発想で作った魔力循環法マジックサイクルだ。


 ナイフ先から発動した風刃ウィンドブレイドはナイフの突き刺した箇所の体内で発動し切り裂く。


 そして、片膝を付いたトロールは再び立ち上がれずに毒に苦しんでいる様子だ。


 ―――さて、後一手をどうするか。まだ、切り札はあるが毒が効いている以上使う必要はなさそうだが、時間はかかるしなぁ。


 そう思ったときに視界の端に動くものがあった。


 周囲を軽く観察すると、いくつものエルフが潜んでいるのを確認できた。


 ああ、そうか。


 ようやく状況が飲み込めた。


 村で少女ハイエルフがいなくなってるのに気づいたら? 


 森でトロールの叫び声が響いているのを聞いたとしたら?


 当然、確認するために森を巡回するはずだ。


 そして、俺達が戦ってるのを確認したら仲間を呼び様子を伺うとの構図ができそうだ。


 さらにいえば、彼らから見れば俺達は敵か味方か分からない以上動けないし、最悪は俺とトロールの両方に攻撃が来る恐れがあるな。 


 そう考えたところで、ある案が出てくる。


 そして、ノエルにチャットで指示を送った。 


 {ノエル、「今です!!トロールに攻撃を!!」って言葉を叫んでくれないか?}


 その言葉にノエルは躊躇したが、


「……今です!! トロールに攻撃を!!」


 とノエルの言葉が響いたあとで、周囲のエルフは弓を構えトロールに矢を放った。


 俺の方には攻撃が来なかった以上、敵ではないということを理解してもらえたようだった。


 ノエルは神族で、エルフ達と不仲ではないと仮定した上で、エルフ達にとっては攻撃対象の指定した言葉が聞こえたら指定した方に意識が向くという言葉の誘導がうまくいったようだった。


 無数の矢が突き刺さったトロールは、そのまま倒れる。


 そして毒が完全に周り、痙攣を繰り返したトロールは動かなくなった。


戦闘終了フィナーレだ」


 俺は勝利宣言を行い、ノエルたちの方に戻ることにした。

 

第四話読んでいただきありがとうございます。

初戦闘描写の為、どう書くか悩みました。

最初は祐也中心に戦闘を書こうかなと思いましたが、彼は熟練者の為、ノエル側(初心者)から見た祐也の動きがどう写っているのかを先に描写をしたら良くなるのかなと思い、それぞれの視点からの描写をしました。

この辺は初めて書く描写ばかりのため、こういった別視点を描写した書き方は読者に受け入れられるかはわからないため。

この話についての感想がある方は書いていただければありがたいです。

今後の参考にさせていただきます。

次は戦闘後の話を中心となります。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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