第8話 聖騎士選抜会始まる
酒場ウェスタンラリアット
「あの、やめてください・・・」
「ああ!?ゴスペルの兄貴はなぁ聖騎士選抜会に出場される黒騎士様なんだぜ!その人に酒もつげねえってどういうことだ!?」
木造だが荒くれ者が長年通ってきたバーは現在聖騎士選抜会に参加する猛者でにぎわっていた。宿屋が満室で寝るところのないような連中は皆この酒場に来ている。ざっと30人はいるだろう客の中には手癖の悪い奴らもいるもので、先ほどから黒い鎧兜に身を包んだ大柄な剣士は微動だにせず、その手下と思しきチンピラ共が隣の席のパーティーを叩きのめし、女魔法使いを脅して猥褻な行為を働こうとしていた。
「うるせえなあ、いいからこっち来て酒の相手しろや!さっさとしねえとこの場で輪姦しちまうぞ!!」
リーゼントの知能の低そうな男が女魔法使いの服に手をかける。先ほどまで仲良く話をしていた男戦士2人とエルフの男盗賊はぴくぴくと痙攣をしていた。
酒場では怒号が飛び交っており、実はさっきから決闘まがいの乱闘がしょっちゅうだったのだが、店長のスタンはそのまっただ中で自らの肉体を武器に酔っ払いを蹴散らしまくるのに忙しく、こちらのことなどお構いなしだった。
「助けて・・・」
一瞬の隙をついてリーゼントの手を振りほどいた女魔法使いが走った先は酒場の入り口だった。
「へ、逃がさねえよ!」リーゼントが追いかけるより早く女魔法使いは足を止めてしまう。入口に壁が立っていたからだ。
「へっへっへ、観念したかお嬢ちゃんよ」
下品な笑みを浮かべるリーゼントを無視して更に怯える女魔法使い。
「Hey,basterd kick your ass!」
いきなり上から声がしてリーゼントは天井をみあげた。そこには世にも恐ろしい顔があった。
即座にシミターを抜き放ちその恐怖の相手に対峙するあたり、リーゼントはそれなりにできる悪党だったのだろう。しかし予告通りに声の主はリーゼントに蹴りをぶち込んだ。その巨大な鉄ブーツはリーゼントをくの字のまま滑空させると遥か遠くのカウンターまで一瞬でぶち込んでしまった。
「ん、あー、あれか。言葉がわからなかったか、すまんね」
しゅるしゅると息を吐くと適当な席を見つけて座る声の主。その全身は紫色の金属光沢に包まれ、尻からは極太の尻尾が伸びていた。ゆらゆらと遊ばせていたその尻尾を床にたたきつけると木製の分厚い板がバキっと音を立てて割れてしまう。
「て、てめえ!俺たちがゴスペルの兄貴の子分だと知ってのことか!?」
もう一人のチンピラが恐れ知らずにもカウンターに座る紫の塊に声をかける。
「おい、クソヒューマン、まずは風呂に入ってこい。臭くてかなわん」
それだけ言うとそのチンピラに尻尾の一撃をくれてやる。びしゃり!!と音がしてその皮鎧が千切れとび、血反吐を吐きながらのたうちまわるチンピラ。
「・・・そこの黒鎧、やるかい?」
ゴスペルと呼ばれた全身を黒い鎧兜に身を包んだ凄腕の剣士はその声に初めて反応をしめした。
「飲ろうか」
その後の酒場は先ほどの5倍は盛り上がっただろう。
「ゴスペルの旦那あああああ!!あんたに賭けてんだ、いけええええ!!」
酔っ払いが死ぬほど応援する。
「トカゲの旦那もがんばれえええ、俺はあんたに全財産かけたんだ、飲んでくれえええええ!!」
そう、二人は酒樽を抱えて飲み比べと洒落こんだのだった。
「鱗の、俺の名は黒騎士ゴスペル!お前の名を聞かせてもらおう」
樽からザバザバ酒をかっくらうゴスペルだったが、その声はやや呂律が怪しくなっていた。すでに樽は5個目である。
「我は南部山脈最高峰に住まう最強の竜人、ギガス・モータルレッド!」
伝説の竜人の降臨に更に湧く酒場。
「伝説の竜人!ふん、俺のま、け・・だ」
倒れるゴスペル。
「聖騎士選抜会でまた会おう」
ギガスは酒樽を飲み干し、勝利の咆哮を上げる。
直後に半数が倒れた。
「よう、久しぶりじゃねえか。まだ角は生えてこねえか」
ギガスはその昔、南部山脈の武神として存在した。しかし今から16年前に勇者が魔王討伐に行った際に勇者と決闘をしてその角を失っていた。店長スタンも一時勇者パーティに参加していたので二人は顔なじみだった。
「お前は老けたな。こうしてお前の店に酒を飲みにくるのは久しぶりだが・・・客層は相変わらず最低だな」
蹴り倒したリーゼントといいチンピラといい相手の力量も知らずにいきがる阿呆がいてうるさいといわんばかりだった。
「あ、あの、助けていただいてありがとうございました」
女魔法使いが礼の声をかける。
「驚いたな。さっきの咆哮波で半数はだまらせたつもりだったんだが・・・」
確信犯的に咆哮で客を蹴散らしたギガスだったが、まさか助けた女魔法使いが耐え切るとは思っていなかったらしい。
「あの、それで、お願いなんですけど。私とパーティーを組んでくれませんか?なんでもしますから」
きっと聞くものが聞けばわかるだろう。女魔法使いは命じれば本当に何でもするだろうと。しかし女魔法使いの願いはギガスには意味がわからなかった。
「ヒューマンはくさいから断りたい。というか顔の区別もつかないわ、我が種族をリザードマンと間違えるわ、尻尾も角も鱗もないのでは慰み物にすることすらできぬわ」
正直外見にはかなりの自信があった女魔法使い。まさかここまで露骨に全存在否定されるとも思わなかった彼女は滅茶苦茶いたたまれない表情になる。
「おい、ギガス。お前知らないのか?今回の聖騎士選抜会の予選はタッグマッチなんだぞ?」
スタンが思わぬ助け舟を出した。
「何!?仕方ない・・・まったく気は乗らないが、お前と組もう」
「あ、ありがとうございます」
泣きながら女魔法使いは礼を言ったのだった。
その頃のジョッシュは・・・。
「ゲイル様!?死ぬ!!本当に死ぬからこれ!!」
滝の真下にいるジョッシュに向かって先のとがった破城槌のような丸太をどかすか落とすゲイル。
ぎゃあああああああああああ!!
という絶叫がこだました。
聖騎士選抜会当日
ファンファーレが鳴り響き、風の魔法で拡大されたフルブレイク王の声が国中にこだまする。
「これより聖騎士選抜会を開始する。上位陣は勇者とパーティを組む可能性があるため優勝目指してがんばってくれたまえ!!」
「予選はタッグだと!?自分はどうすればいいのです!?」
山から帰ってきたジョッシュが驚愕する。安藤とプリムローズはタッグを組んでいた。ミルフィールはなんと宰相ギルダールと組んでの出場。
「任せろ、俺と組もうぜ!!」
ゲイルがジョッシュのパートナーになった。
「うわー、ゲイルさんとジョッシュのパーティって結構強敵かも?それに宰相って攻撃したら後から暗殺されそうだよね!?」
そわそわするプリムローズ。安藤はそれよりも気になる相手にガンを飛ばしまくっていた。
「やんのかテメエ!!」
安藤のすさまじいメンチ切りで起こる悪い空気を浴びてバタバタ倒れていく予選出場者。
「しゅるるる、しゃああああああ!!」
返す咆哮で更に気絶者を増やすギガス。
「安藤、だめだよ、いっぱい人倒れちゃったよ!?」
止めるプリム。
「ギガスさん、どうしたんですか!?」
狼狽える女魔法使い。
「そこまでにしてもらおうか二人とも」
そこに割って入るギルダール。その手には見たこともない不思議な剣が握られていた。
「テメエもやる気じゃねえか・・・」
安藤は強敵二人と視線で殺しあう。
「その凶悪な気、貴様は魔王だな!!」
ギガスが勘違いして警戒しまくる。
「トカゲの癖に人間様に調子くれてるんじゃねえぞ」
「貴様ああああああ!!」
怪獣大決戦が勃発しかけた予選控室だったが幸いにも3人ともブロックが分かれたため一旦ここで収まった。
第一ブロック予選・・・面倒だから全員集まってバトルロイヤルしてくださいー。勇者パーティなら乱戦でも強くないとねー。
眠そうな司会の騎士がそういうと同時に乱戦が始まった。
「くらえ!ウインドバスター!!」
「なんの、クロスラッシュ!!」
「俺が敗れるとは!?」
「ファイアボール!!」
いたるところで戦闘が発生し、プリムローズもシーフに絡まれる。
「お嬢ちゃん、ちくっといくよー!」
やぶにらみで背の低い男のダガーナイフがプリムローズを襲う!
「え、え、やめてください!」
思い切り振りかぶった杖、サウザンドテラーがシーフの脳天に炸裂。
「★○×▽!?!?!?」
賢者から受け継いだ由緒正しい魔導器サザンドテラーには封印されたさまざまな恐怖が幻術として備わっている。
思わぬ打撃を受けたシーフは1000の恐怖の幻で泡を吹いて倒れる。
さらに剣士や戦士が襲ってくるが片っ端からサウザンドテラーでぶったたくプリムローズ。
安藤は隣の第二ブロックで戦うギガスと相変わらずメンチ切り大会中だった。
「安藤も戦ってー!!」
結局安藤は第一ブロックのバトルロイヤル中ほとんどメンチ切りに時間を費やしたのだった。