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第4話 極道の世界

 プリムローズによる召喚の前日。

その日、火山会、極竜組若頭の安藤 富士雄≪あんどう ふじお≫は相次ぐ鉄砲玉に辟易していた。

「もうちょい鍛えてから出直せや」

 三人目の鉄砲玉に念入りに蹴りを入れて、そう声をかけると近所のドブになげこんだ。

午前中に三人バラで突っ込んできた。一人目はドスで、二人目は車で、今捨てた三人目は何を勘違いしたのかメリケンサックで来た。無論全員殴り倒した。

 携帯で舎弟を呼び出し、戦争の号令をかける。

「ヤス、サブと若いの連れてこっちこい。風林会の伏虎組と戦争だ。オヤジにはもう許可を取った」

 安藤は鏡を見てヘアスタイルをしっかり整える。少し長くなってきた髪をポマードでかっちりとオールバックに撫で付けるとダイヤの入ったロレックス、純金のネックレス、どこかのブランドのえらい高い財布と悪趣味なほどに金のかかった装備を身に着けていく。今日死ぬかもしれない。そんな時にケチな恰好で行けるわけがない男だった。特にこだわりはないが、粋でないことだけはしたくなかった。洒落者、傾奇者、着道楽、安藤は周りからそう見られていた。だが彼が恰好にこだわるのは死に装束故の意地であった。

 今日死ぬ覚悟があるから他の奴に後れを取ることはない。これは結果論だが、上の年寄達は安藤のその気概を高く買っていた。それこそ29歳という若さで武闘派の組織を任せる程に。

 のし上がってなんぼの世界だ、当然よく思わない者も多い。伏虎の組長、虎居 正治≪とらい せいじ≫はその最右翼だった。

 系列が違う組同士が抗争すれば警察も黙ってはいない。そんな危険を冒してでも戦う必要があるのか?虎居はよく他の幹部にそう言われた。しかし虎居の目は確信を持って未来を見据えていた。安藤がいる限り自分達の居場所はなくなると。少しでも早い段階で安藤を消さなければいけない。その思いが今回の戦争の引き金を引いた。


「オラァ!!」

 ヤスとその手下の若い衆は虎居の事務所を襲った。安藤は虎居を追い詰めていた。

「クソが、てめえは渦だ・・・悔しいが俺にその器はなかった。しかしだ・・・てめえもそのうち負い目になる日が必ずくる」

 素手ゴロのタイマンで決着を着け、アバラを5本、鼻と頬骨、顎、大腿骨を粉砕骨折している虎居はしゃべることもできないような状態にもかかわらず、安藤に啖呵を切って気絶した。

「起きろ」

 しかしここで許さないのが安藤という男だ。虎居の首でしばらくこの戦争を終わらせないといけないのだ。

 数発蹴り飛ばし、意識を戻させてから書類に判子をおさせる。

「これでお前らのシマは俺達がいただいていくぜ」

「・・・」

 もう虎居からは何も返事はなかった。

「兄貴、お疲れ様でした!!」

 外に出るとヤスとサブの二人が車の準備をしていた。

堂々たる凱旋。これで火山会は更に大きくなる。そう思うとこの抗争によって乾いた安藤の心も少しは癒された。


夜の火山会本部祝賀会

 火山会にとって伏虎組の存在は関西への足掛かりだった。これでようやく風林会との本格的な抗争ができる。全国統一へ向けて動けると臨時で祝賀会が設けられたのだ。

 武田 十郎多≪たけだ じゅうろうた≫は今年70になる。今の火山会の会長だ。

「よう富士雄、大活躍だったみたいだな」

 会長自ら安藤に目をかけていることもあり、他の幹部も軒並み安藤の評価は高かった。

ただ一人を除いて。

 高倉 健≪たかくら たける≫この男だけは安藤の本質を知っていた。

「おい、富士雄。虎居の奴、なんで殺さなかった?ガキの一人二人お勤めさせて禍根を絶っておくのが幹部ってもんじゃねえのか?」

 安藤は滅多なことでは殺しはしない。組のシノギを上げるのに最近ではクスリが流行っていたが、安藤はケンカはするもののクスリには一切手を出さなかった。売春、密輸、そのどれもが安藤の嫌いな単語だった。

「健さん・・・俺は自分の腕力だけでのし上がりたいんです・・・」

「死山血河を築いてこそでかい男になれるのが極道ってものだ。いつまでも戯言で済む世界じゃない。お前、組辞めろ」

 健は何も嫌味で言っているわけではなかった。安藤が優秀な男だということも、その覚悟が本物だということも知っていた。しかしその道がどこまでも過酷だということも理解していた。かつての自分がそうであったのだから。

「おいおい、健?富士雄はこれからなんだから、あんまりいじめるなよ。兄貴らしく面倒みてくれや。かっかっか」

 武田は呵呵大笑しながら上席へと上がった。

「健さん・・・」

「よく考えろ。お前はまだ若い。俺みたいになるぞ」

 そう言うと健も上席へ移動してしまった。


 この晩は呆れるくらい酒を飲んだ。大盃で日本酒を一升、二次会で幹部連中に連れられて行ったキャバクラでナポレオンを一本、久しぶりに高級な酒で腹を満たした安藤は、同伴で帰ったキャバクラ嬢の家に上がり込んで寝ていた。

「ねえ、いいでしょ?安藤さんのこと前からいいなーって思ってたの」

 狭いベッドで上目使いに安藤を籠絡しようと必死なキャバクラ嬢。

 しかし安藤は気分が乗らなかった。

「悪ぃ、酒飲みすぎたわ。起たねえ・・・」

 酒のせいにしてやんわりと拒絶した。

「えー、じゃあお水持ってくるね」

「ああ、すまねえ」

 安藤の頭の中は健の発した言葉でいっぱいだった。

 健は安藤にとって本当の兄貴のような相手だった。かっこよくて頼りがいがあって、粋な本当の漢。まだ半人前で飯が食えない頃から面倒を見てくれ、誰よりも安藤の相談に乗ってくれたのが健だった。強気をくじき、弱気を助けるヒーローでもあった。しかしのし上がるにつれて段々と変わってしまった。それは誰よりも安藤が感じていた。それだけに曲げられないのが今の自分だった。

「俺は、どうすれば・・・」

 安藤は女の家を出て自宅へ戻った。


グガア!!ギャウギャウ!!

 ワンルームのマンションに住む安藤は一人暮らしだ。少し前から爬虫類を飼い始めた。昔からウルトラマンの怪獣は好きなほうだったから抵抗なく飼っている。変わった種類のイグアナだ。

 赤い鱗はルビーのよう、鱗からトゲや角が生えたその顔は知性を感じる程に凛々しい。イグアナの背びれにしてはめずらしく1対生えたその背びれは、まるで翼のようにばたつかせて飛ぶこともできる。首にはアンディと掘られた銀か何かのプレートがついていた。

「お、元気だな。どうした?」

 アンディは少し前に部屋の前で転がっていたのを拾ったのが縁で安藤の部屋にいる。名前も似ているし、組の名前にも縁のありそうなこのイグアナは最近のお気に入りだった。

「ん、エサ食うか?」

 冷蔵庫からステーキ肉を取り出すとアンディに投げる。

 空中でキャッチし、むさぼるアンディ。

「お前は悩みなさそうだな」

 ソファで眺めているうちに安藤は眠りに落ちていた。


ガゴン・・・ギギギ、ガチン!

 ドアのチェーンと鍵が壊される音が響く。

「安藤富士雄殿とお見受けします。風林会、暗殺営業部担当の佐藤と申します。短いお付き合いになるかと思いますが、よろしくお願いいたします。さて、名残惜しいことですが、お命頂戴させて頂きます」

安藤の部屋に侵入したのはさっそく動いた風林会の刺客だった。まるでサラリーマンにしか見えない中肉中背、リクルートスーツに七三分けのメガネの男は、音もなく安藤に近寄り、その頸動脈に名刺カッターで切りつけようとしたその瞬間

「これは!?」

 アンディに作動していた赤黒い光が不安定に安藤を巻き込み、赤黒い魔法陣となって輝く。

 佐藤の目の前で安藤は消えてしまったのだった。


 安藤は佐藤の動きを察知していた。しかし目は閉じたままだった。殺気をまとった動きが起きる瞬間、安藤はとらえた!!…魔物の角を。


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