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第3話 ジャパニーズゴクドー

「くるぞ!!」

 ゲイルの声が真剣なものに変わる。

甲虫の脚のような器官がプリムローズの真上に振り下ろされる。

「活殺自在流・昇竜斬!!」

 真上に衝撃波を放ち、脚をはじくゲイル。プリムローズはその隙に距離を取り、召喚魔法を放つ。

「盟約に答えよ猛々しき炎の魔獣、フウ・クリムゾン!!」

ガオン!!

と、ひと声啼いて炎の虎は無数の火炎弾を空中に浮かべ、それをマシンガンのごとく叩きつける。

 数百発に及ぶ火炎弾の乱舞は甲殻の魔物の表面を焼いたものの、ぼろりと表面がはがれ、すぐに再生してしまった。

 複眼が炎の虎にレーザーを放つ。直撃こそ避けたものの前足をやられてしまう。

「く、送還!!」

 傷を負ったフウをひっこめる。召喚獣のダメージの十分の一は召喚者に返ってくる。もしあのまま放置しておけば次は直撃を受けていたかもしれない。

「隙ありだぜ!!活殺自在流禁じ手・末代祟り!!」

 ゲイルの放つ神速の突きが甲殻の魔物の股間を砕く!そのままゲイルは上に上り、関節の至るところを斬りつけていく。

「自分は、自分は!!」

 ジョッシュはそれを見て完全に何もできない自分にイライラしていた。

「これでもくらいな!!えーと、なんだっけな。忘れちまったぜ!!」

 技の名前を忘れたゲイルが適当に魔物の後頭部を陥没させて降りてくる。

 次の瞬間、魔物が羽を広げた。

 ドン!!

という衝撃波が全方位に放たれる。

「きゃあ!!」

 プリムローズは、しかし無事だった。目を開けると目の前にはゲイルがかばうようにして立ち尽くしていた。

「くそ・・・ヘマしちまったぜ。俺はもうだめだ・・・。後を頼む」

 血の塊を吐きながら倒れるゲイル。

「ゲイルさん!?私を庇って・・・」

「も、もうだめだ!逃げましょう!!」

 ジョッシュがプリムローズを引っ張って逃げようとする。魔物は羽をひろげたまま傷の回復魔法を展開していた。じわじわと治っていく。

「いいえ、逃げられません!!ここで逃げたら、来た意味がなくなりますから!!」

 袖を引くジョッシュを振り切り、プリムローズは集中する。手持ちの召喚獣の中でも最強の火竜アンディ・ヴォル・ヴァーミリオン、その召喚の準備を行う。

 触媒に火竜の牙、詠唱、そして完全なる魔方陣。

「出でよ、盟約の王、火竜アンディ・ヴォル・ヴァーミリオン!!」

 魔方陣が煌めくと同時に出てきた竜は伝説とも言える存在、レッドドラゴン!赤い鱗は魔物の装甲にも負けぬほどに硬く、その煌めきはルビーのごとく。口から吐き出す数万度の炎はもはやプラズマと化す。プリムローズの召喚に答えたアンディは、ジェットプラズマブレスを放った!!

 白熱する魔物の装甲、己のブレスでふきとばない思わぬ強敵に更に強打を与えようと増幅呪文を起動するアンディ。苦し紛れに魔物は羽ばたくがアンディには全く通じない。そう、アンディには。

 か弱いプリムローズに膝をつかせるには、その余波だけで十分であった。あと一歩というところで魔力が途切れ、アンディは強制送還されてしまう。

しゅうしゅうと泡を吹き、上半身の半ばまでをブレスで溶断された魔物は全力で回復魔法を発動。その少なくなった命をつなぎとめようとする。それと同時にプリムローズこそが今の強敵の主と認識した魔物はとどめをささんと頭部の角を振り下ろそうとした。

「待てい!!じ、自分が相手だ!」

 ジョッシュはなけなしの勇気をもって兜を投げつけた。ちょうど先ほどゲイルの斬りつけた関節の傷にはまった兜は殺すターゲットをジョッシュにかえさせるだけの痛みを魔物に与えた。激しい地響きを立てながらジョッシュへと移動する魔物。

「う、うう・・・もう一度!出でよ、盟約の王、火竜アンドゥ・・・あう、舌噛んだ!!」

召喚呪文の途中で真名を言おうとして振動に襲われたプリムローズは失敗した。

赤黒い召喚魔方陣が起動し、アラート音が鳴る。魔方陣の文字がエラーを示すものに反転してやがて・・・。

ぼふん!!

小爆発と共に黒い煙が舞った。

 ジョッシュから魔方陣へと注意のそれた魔物は今度こそプリムローズへと角をたたきつけようと突撃した。

 ガゴオンッ!!

 金属と石がぶつかればこんな音を発するだろう。ただしその何十倍も大きな音だったが。ジョッシュはプリムローズがつぶされる瞬間を見てしまい、腰を抜かした。せっかくがんばったのにこの様である。あとは自分もあの魔物につぶされておしまい。そう思って魔物をみていると・・・。

 魔物はのたうちまわっていた。ただし角がついた頭部だけは動かさずに全身で。頭部は動かしたくても動かせないのだった。

 それは人間の手だった。煙が晴れて現れたのは身長190センチ近い見たことのない髪の色の男。烏の塗れ羽色の髪を後ろに撫で付け、頬に十字傷。レンズまで黒いメガネに見たこともない服装・・・スーツ姿の魔人≪ヤクザ≫が魔物の角を掴んで離さない。

「なんだてめえ、どこの鉄砲玉だ?」

 さっぱり状況のわかっていない魔人は気だるげに声を発すると、そのまま角をへし折り、20m近い魔物を壁に投げつけた。

「でけえ割に軽いな?てめえ、キグルミって奴だな?なめやがって」

 そこから先は一方的なリンチだった。ヤクザキックの一発一発が魔物の装甲を砕き、内臓を破壊する。さらに適当に拾ったがれきを傷口に詰めて蹴る蹴る蹴る。やがて魔物はキラキラと輝きを残して消滅してしまった。

「我に従え甲殻の魔獣!!」

キラキラに向かって契約魔法を発動するプリムローズ。

ビービービー!!

警戒音が鳴り響き魔法の効果は消えてしまった。

「え、なにこれ!?」

 初めての召喚失敗に、暴走召喚、あげくの果てには契約失敗とプリムローズは自分の知らない事態の連発に追いついていけなかった。

「ち、あぶねえ!!」

 漂っていたキラキラは爆発した。それは小さな家ならふきとぶ程の火力でもって炸裂したのだが、召喚した魔人が覆いかぶさり盾となり、プリムローズは助かったのだった。

 素性は不明だが、戦闘力といい高度な判断力といい非常に優れた召喚獣に違いない!プリムローズは確信した。・・・直後に優しく立たされ、再び沈められた!!

「いったああああああい!?何するの!!」

 魔人は起こしたプリムローズに拳骨をくらわしたのだった。

「ガキが抗争中に紛れ込んでるんじゃねえ・・・さっさと帰れ」

 階段を見つけるとズカズカと上に行く魔人。

「え、え、え!?ちょっとどこ行くの!!あんまり離れちゃだめだよ!!」

 召喚獣は召喚者から距離を取ると行動不能になってしまう。具体的には密度が薄くなり、脆くなったり、力がでなくなるのだ。しかし魔人は基本ステータスが異常に高いのかプリムローズを振り切って謁見の間に上がるまでまったくとどまることはなかった。


「お主は何だ!?」

 上がってきたいかついメンチを飛ばし、殺気をまるで押えない魔人を感じ取ったフルブレイクは、地下の魔物が上に現れたのだとばかり思っていた。

「こらああああ、ダメでしょ勝手に行っちゃ!!」

 プリムローズがようやく追いつく。

「おお、プリムローズよ!こやつは何物だ?」

 困惑する王に少女は戸惑いながら答える。

「えぇと・・・私も実はわかんないです・・・」

 小さい声だった。

「は?」

 王は間抜けな返事をした。

「いえ、召喚に失敗したらこの子が出てきたんですけど、全然わからないんです」

 困った王は質問を変えた。

「転送門の魔物はどうなったのだ?」

 ようやく答えられる質問になって少女の顔が明るくなる。

「はい、この子が倒してくれたんですよ!・・・でも、私をかばってゲイルさんが・・・」

「俺がどうしたって?」

 フルブレイクの横でコルセットをまいてもらっているゲイルがいた。

「え、え、え!?死んじゃったはずじゃ??」

「はっはっは、バカ言うな。単に腰が痛くなったからもうダメだと言っただけだ。あんなもんで死んでたらもっと昔に死んでらあ」

 どうやら腰が痛いからとさっさと引き上げてきたらしい。

 そして地下からずたぼろになりながら出てきたジョッシュは魔人と少女とおっさんを見て

「ば、化け物だ・・・」

と言って倒れてしまったのだった。

 

 それからしばらく静かにしていた魔人だったが、意味のわからないことを言い出した。

「おい、夢じゃないようなのはわかったが・・・ここは日本じゃないのか?」

「ニホンって、なにそれ?」

 素でわからないと答えるプリムローズに魔人・・・安藤 富士雄≪あんどう ふじお≫は自分が異世界トリップに巻き込まれたと知ったのだった。

 

 



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