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第2話 ダメなおっさんは凄腕剣士

 カッチコッチカッチコッチ・・・ゴーン、ゴーン、ゴーン


 プリムローズが王都に着いたとき、時刻は昼の鐘三つだった。マオで街中に乗り付けるわけにもいかず、門のところで送還しているため徒歩で入った。

 街はいい天気なのに人気が少なく、ところどころにゴミが落ちており非常に荒れた印象を受けた。

「何これ・・・瘴気?」

風が吹くと紫の靄が一緒に流れるのを見た。そして街の隅にいたネズミが狂暴化し、騒ぎ始める。どうやら王に呼ばれた要件の魔物の影響がこんなところにまで出ているようだった。

 しかし!プリムローズは餓死寸前。仕方のないこととは言え、王への謁見を後回しにしてレストランへ寄ったのが運の尽きとなることをしらなかった。


「すみません、これとこれとこれください」

 サラダとスープとパンに、魚のムニエルを頼んだプリムローズは再び食事にありつけることの幸せに感謝していた。

「お師匠様、お父さん、お母さん、神様、ありがとうございます」

 お祈りを済ませて食べるパンの香ばしいこと、スープの塩気がほどよく疲れた体に染み入り、サラダの新鮮な葉が元気をくれる。そんな幸せの最後のムニエルが・・・。

魔物化していた。

 皿の上ではねるムニエル。

「え、え、え!?店長さん、お魚生きてますよ!?」

「なんだと?クソ、またか!くらえ、活殺自在流奥義・銀河爆発剣!!」

 店長、ゲイル・ベルンシュタインはムニエルがプリムローズの目の前でうねうねと触手を伸ばし始めたところで抜く手も見せない居合斬りを放つ。無音、無光の超絶技は皿の上の魚を一撃で仕留めたのだった。

「え、え、え!?何、何が起きたの!?」

 動いた魚が一瞬で沈黙すると同時にゲイルは代えのムニエルを設置する。

 しかしそれまで動きだしたのでもう一発奥義をたたき込んで亡き者とする。

「申し訳ない、最近ムニエルが魔物化してしまうんだ。俺も修行が足りないな・・・」

 本気で残念そうにうつむくゲイル。あまり知られていないがこの男は過去に勇者と、プリムローズの師と共に魔王退治に赴いたこともある伝説の剣豪の一人でもある。よって戦士ではない。料理人になろうと思い、素材を集めることに集中していたら剣技をきわめてしまっただけなのだ。

目の前で残念なことになったムニエルに視線をはがせない桃色の髪の少女と、それとは違う意味で目を離さない店長。重苦しい沈黙が発生した。

 おまけに変なにおいが元ムニエルから発生。死臭だった・・・。

「これって瘴気が原因なんでしょうか?」

 沈黙を破り、ぼそっと漏らすプリムローズ。

「瘴気?何か昔聞いたことあるような・・・あれだな、忘れた」

 首をひねって考えることをやめたゲイル。

「あれだな、フルブレイクに聞きにいくか」

 王を呼び捨てにするレストランの店長っていったい何者!?と思いつつもスルーする。

「あの・・・私はこれから王様に呼ばれて魔物をどうにかしに行くんですけど、もしかして退治できないとまともにご飯食べれないんでしょうか??」

 食事の途中で・・・メインディッシュに魔物化されてお腹が減りっぱなしのプリムローズは目の端に涙をためながら言う。

「何!?原因がいやがるのか!!俺も付いていくぜ!死んでいった食材のためにもそいつはぶち殺す!!」

 こうしてプリムローズはゲイルを仲間にしたのだった。ちなみにパンは無事だったのでたくさんもらって食べた。しかしムニエルはもう食べたくないモノリスト入りを果たしたのであった。


「わー、すごいお城ですね」

 初めて見る王城の真っ白な壁を前にしてプリムローズは感動していた。こんなところで晩餐会や、舞踏会をしているという貴族や王族の優雅さを思い浮かべうっとりする。

「ん、そうか?毎日見てるしな。舞踏会の最中に塀で立ちションしてる貴族の小僧とか飲みすぎてゲロ吐いてるおっさんがいるからその辺汚いぞ?つーか蝙蝠よってきてんじゃねえか」

 瘴気の影響か、尖塔には蝙蝠やら烏やらがたかっていた。

「ううう、人のロマンを壊さないでぇ・・・」

 ゲイルの見た目は金髪碧眼、高身長。年は40前といったところだが美中年と言える外見をしていた。ただし、性格は適当なおっさんそのもので妙に現実的なことばかり言うので、この短時間でプリムローズの精神を痛めつけまくっていた。

「ほれ、行くぞ」

 ずかずかと大股で王城に行くゲイル。あわてて追うプリムローズ。まるで似てない親子のような二人だった。

「ゲイル殿、お久しぶりでございます。本日は何用で?」

 門にいた銀色の鎧姿がまぶしい騎士がゲイルと親しげに話はじめた。

「おう、ジョッシュ。久しぶりだ!そこのお嬢ちゃんと魔物退治にきた」

 いきなり問答無用で機密を漏えいしまくるゲイルにジョッシュと呼ばれた騎士は、しー!しー!と止める。

「ちょっと、ゲイル殿!?なんでそのことを知ってるんです?というか機密なんですから誰かに聞かれたらまずいでしょう!」

「かたいこと気にすんなって。とりあえず入るぜ」

 門をあけて勝手に入ってしまうゲイル。プリムローズは茫然としていた。何しろその門は機械仕掛けな上、全高で10mはあるのだ。軽くあくようなものではない。

「はあ、あの人はまったく・・・。ん、そこの君は?賢者殿のお弟子さん?」

 プリムローズのお師匠様は王都では賢者で通っていたらしい。

「あ、はい。王様からのお手紙で来ました!」


 ぺこりとおじぎする桃色の髪のかわいらしい少女。ジョッシュは一瞬ドキっとしたものの現在の王宮における状況を考えて、こんな子で大丈夫かと心配になった。

「えと、あんまり状況がわからないんですけど、精一杯がんばるのでよろしくお願いします」

 健気だ!可憐だ!!守りたい!!自分はこういう少女を守るために騎士になった!!ジョッシュは昔の誓いを思い出し、奮起した。

「わかりました。自分もついていきます。盾になり、剣となりましょう!さあこちらへ!!」


「え、ジョッシュ様!門の警護の責任者はどうされるので!?」

 従騎士らしい髭面の男がジョッシュのいきなりの行動に突っ込みを入れる。

「バーンズ、お前に任せる。王国の一大事なのだ!この命に代えてこの少女は自分が守ろうと思う」

 乱心した主人を前にバーンズの表情は困惑を通り越して苦悩しているようだった。

「先代様…若のご乱心はバーンズめの教育が悪かったからでございます・・・なにとぞお許しを・・・」

 バーンズはぶつぶつ言っていたがジョッシュはプリムローズを連れて王城へ入っていった。


謁見の間


「よおフルブレイク、相変わらずデブってんな」

 いきなり王を捕まえてデブ扱いするゲイル。居並ぶ騎士達は何も言わない。

「おお、ゲイルか。ワシをデブ扱いとかお主しかおらんからすぐわかったぞ!」

 そういうフルブレイク王は両目が見えなくなっていた。

「お前、その眼はどうした?」

「ゲート、転移門と呼ばれる紋章があるのは知っているな?地下のあれだ」

 少し考えるゲイル。

「あれか、魔王城に行ったときに帰ってくるのに使った紋章」

 ゆっくりうなずくフルブレイク王。

「先日、あそこに強大な魔物が突如として出現したのだ。騎士団の精鋭とワシと数人のエルフの賓客が協力してようやく転移門内部に封印したのだが、正直そろそろ破れるころだろう。そのときに光を失ってしまった」

 フルブレイク王はゲイル、賢者、勇者とともに魔王と戦ったことのある王だった。剣の腕はゲイルに及ばず、魔法は賢者に及ばず、勇気は勇者に及ばぬものだったが、王族伝来の特殊能力、空間転移が使え不動の№2として活躍したことがあった。その王をして封印がやっと。

「なんで俺を呼ばなかった。みずくせえ奴だ」

「アホが!?散々呼んだのにいつも寝てたのはお前だ!!」

 頭をぼりぼりとかいて謝るゲイル。

「わりい。寝てるとわかんねえわ」

 実は兵士がたくさん呼びにきたのは数度にわたる。しかしゲイルは何故か全部寝ていた。

「あの、失礼いたします」

 プリムローズが謁見の間に入ってきた。

「お、きたか」

「む、賢者の弟子がきたか。お主だけが頼みの綱だ。地下のあ奴をなんとかしてほしい」

 事情を聞いて地下へ行くことになった桃色の髪の少女と、伝説の剣豪、更に白銀の騎士。

「ん?ジョッシュ?なんでお主がここに?門の警備は??」

 王の頭に?が殺到した。

「は、これなるは王国の危機、自分も魔物を退治にいきます!」

 断固ついていく意志が見える声に、フルブレイク王は許可を出したのだった。

「う、うむ。ではジョッシュもついていくがよい」


 地下は軽くダンジョン化していた。

「うわー、うわー、スライムがいますよ!」

 プリムローズは瘴気の効果の恐ろしさを眼で見て知っている。ムニエルが魔物化するのだ。生物の多い地下牢などは簡単に魔物が現れることが予想できていたのだが・・・。

「危ない!!」

 ジョッシュがプリムローズの前に立つと、スライムに猛アタックを仕掛ける。

ぐしゅぐしゅと音をたてて死ぬスライム。ちなみにこちらに気づいてもいなかったはずである。

「ジョッシュ、はりきりすぎんなよ?」

ゲイルは、適当に剣を振り回して歩いていく。

 飛んできた蝙蝠型の魔物はすれ違い様に3枚におろされて落下する。

「すごーい」

 少女の歓声がゲイルに行くとジョッシュはぎりりと歯ぎしりをしてゲイルの背を見つめた。


10分ほどかけて降りた地下3階には巨大なホールと、大型の、何か硬質な物体が鎮座していた。

「フルブレイクの言ってたのはこいつか」

 さすがのゲイルも見上げてあきれ果てていた。

 全長は20m、高さは15mはあるだろうか。全身が金属鎧のような光沢を持ち、かつその上を呪紋が帯をなして流れるその魔物は、ドラゴンもかくやというほどのプレッシャーを放っていた。外観は昆虫と人型の魔物を混ぜて巨大化させた・・・という感じか。

「これが、王国の危機・・・。私にしかできないこと・・・」

 その異様な姿にひるむプリムローズ。

 そしてジョッシュは・・・硬直していた。

「なんだこれは!?こんな化け物が城の下にいただと!?」

 恐怖、絶望。使い物にならない状態だった。しかも余計なことに大声のせいで魔物の注意がこちらへ向いた。


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