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第1話 ヒロインなのに餓死寸前

この小説は過去に短編で書いた世界とはまた少し違う設定です。パラレルワールドだと思ってください。

 晴天の空、風もなく如何にも散歩日和な天候の中、薄桃色の髪に白い肌、まだ色気を感じる程には育っていないが、それでも将来確実に美人と言われるだろう可愛いらしい顔だちの少女が街道を歩いていた。

少女の名前はプリムローズ。

今年17歳になる召喚士で、魔術の才能にも秀でた天に二物も三物も与えられた稀にみる天才だった。

しかし・・・・。

プリムローズは困っていた。

 それはもう困りに困り、困り果てていた。おまけにこの困難は現在進行形で彼女を困らせ続けていた。

 今は王都ルナブレイクへ王様から呼ばれて行く旅の最中。まず最初に困ったことは、彼女が住処としている森の一軒家から王都までの街道に店が一軒も見当たらないことだった。

 その次に困ったことはしっかり舗装されたこの街道には、モンスターの侵入を防ぐために高さ30mを超える鋼鉄の装甲が設けられ、外に出ることはできないということだった。

 そして最後に・・・食糧が尽きた。


「は、はうう・・・お腹へったのにお店が一軒もないなんて・・・おまけにあと三日も歩かないとつかないとか私死んじゃいます!?」

 目の端に涙をいっぱいに溜めて、ぐぎゅるるとお腹を鳴らして歩くプリムローズの姿はかわいそうだが可愛いかった。もし街でこのまま行き倒れようとしていたのならば、きっと誰かしらはお金ないしはパンなどをめぐんでくれたことだろう。

 しかしここは王国13番緊急街道。プリムローズ以外通る者などいない道なのである。

 安全な道中を、と思ったフルブレイク2世はプリムローズの家からもっとも近いこの緊急街道を解放してくれたのはよかったのだが・・・実態については理解していなかったようだ。プリムローズ自身も街道だしお店くらいあるだろうと誤解していた。ここは非常用の軍事施設の一端なのであった。

 鞄に入れてきた非常食は最初の三日で尽きた。次の三日は薬草をむしゃむしゃしていた。

 そして最低でもあと三日はかかるのにもはや薬草すらないのだ。

 幸いなことに宿泊可能な設備は街道の定点に配置されていた。トイレ、風呂、水の補給はできたのだが・・・めったに使われない施設のため食事が可能な場所などなく、人もいない。食い物などないのだ。

 召喚獣に乗って走る!!・・・というのは実はすでにやった。やってやってやりきってMPを8割消費したので歩かざるを得なくなったのだ。人にもよるが、大抵の人類は9割使うと昏睡して場合によっては死んでしまう。8割までで止めておくのは無難と言えるだろう。

 それでも夕方が過ぎ、星が出るころまで頑張って歩いたプリムローズ。しかしお腹の減り具合は最早限界に近かった。

「もう何でもいいから食べたいですぅ・・・あっ」

 眩暈がした瞬間、プリムローズは石ころに躓いてしまう。

 びたん!!

 そうとしか聞こえない音を立てて思いっきり地面に転んでしまう。

「うううぅ、痛いよぉ」


 空腹と痛みと心細さでプリムローズは遂に泣き出してしまった。

 そもそもプリムローズは今回の旅ができる程まともなメンタルではない状態で出発した。

 去年まで一緒に暮らしていた老魔術師はその長い人生の中で最後にプリムローズを育てられたことが誇りだ、と言って死んでしまった。250歳だっというから大往生だろう。それから一年の間はヤケクソ気味に老魔術師の課した修行と召喚獣の契約を行い、近隣の街で依頼されては魔獣退治、遺跡調査など、精力的な活動をしてきた。しかしそれは、そうしていないと一人ぼっちになってしまう自分に他者とのかかわり合いを持たせたかったから、その一点が全てだった。そうしてあっという間に1年が過ぎ、老魔術師の命日がきた日、思い出に浸るプリムローズのもとに転送魔法で手紙が送られてきたのだった。

 その内容は恐るべきものだった。城の転移門から現れた凶悪な悪魔を封印し、己の召喚獣とせよと書かれていた文面を見たとき、自分しかやれないことならば!と、その時は決心したものの・・・。心身共にボロボロの今のプリムローズは非常に危うい状態だった。


 転んだ膝に擦り傷は無かった。プリムローズの装備は魔法強化が全てに施されている。

 白いローブも、猫耳がついたフードも、膝上まであるハイニーブーツも。勝手に朽ちることもなければ、ちょっとした魔法攻撃くらいなら無効にできるほど強力なエンチャントがなされている、ただし転べば痛い。当たり前だろう。破れない服を着ているからと言って転べば衝撃は中に伝わるのだ。鉄の箱に豆腐を入れて横からたたくと、豆腐は潰れる。故に転んだプリムローズは痛かった。それはもう泣くほどに。 

「あ、今日はここで泊っていこぅ」

 ぐすっと半泣きになりながら宿泊可能な設備をみつけたプリムローズ。

 そこは街道中にいくつか点在する軍事施設の一つであった。

 石作りの部屋がいくつもあり、何千人もの兵士や騎士が寝泊まりできるようになっている。水道か、空調か、ガインッ、ガインッと金属のこすれる音がするが、広さは十分だろう。


適当な寝床を定めて召喚魔法を使う。

「契約において出でよ、マオ・ホワイト!!」

魔力が迸り地面に瞬時に魔方陣が描かれると、プリムローズの髪と同じ薄桃色の光が上がる!光が一際強くなり・・・。

 ニャー

そんな鳴き声を上げて5mはあろうかという猫が召喚された。

「今日もよろしくね、疲れちゃった・・・お腹へったよぅ」

 プリムローズはマオの真っ白な毛皮に倒れ込むとすやすやと寝息を立ててしまった。

ニャー

 マオ・ホワイトは目じりの涙を尻尾でふき取ってやると、困った顔をして夜空の二つの月を眺めていた。



 翌朝、マオ・ホワイトは気になる物を発見していた。まだ寝ているプリムローズを起こさないように、ゆっくりと床に移し移動をする。昨夜は換気設備か、水道の部品の音かと思っていたガインッ、ガインッという金属音が気になって仕方ないのだ。

 猫の勘が告げていた。この音は絶対に調べなくてはいけないと!!

ニャー

 意味もなく啼きながら壁に向かうマオ・ホワイト。音の根源はその壁からだった。

 ぱしん!!

猫パンチで壁を砕くと・・・そこには黒い革の大きな本が埋め込まれていた。本には鍵がかかっているのか開かず、マオ・ホワイトには開くことができなかった。しかしこれはプリムローズがほしがるだろう、そう思った猫は本を口にくわえると眠っているプリムローズのもとに戻った。

 本からの音は止んでいた。マオ・ホワイトはまだ寝ているプリムローズを背中に乗せると尻尾を膨らませて日笠にし、そのまま街道を歩き始めた。時速300キロ程度で。



 プリムローズは夢を見ていた。老魔術師・・・と言っても見た目は20歳かそこらのイケメンの夢を。

「お師匠様!!プリム頑張りました!!頭なでてください」

 プリムローズは老魔術師に頭をなでてもらうのが好きだった。幼くして両親に死なれた彼女を親代わりに育ててくれたのが老魔術師だったのだ。彼には名前がたくさんあった。多すぎてどれが本当だか本人にもわからなかったそうなので、お師匠様と呼んで下さいと言っていたのが今では懐かしい。

「そうだな、この旅が終わる頃にはなでてあげれるかもしれませんね。もう少しだから頑張ってください?」

 老魔術師は腕を組んで笑っていた。なでてはくれないようだ。

やがて、メガネをくいっと上げると彼は真剣な声で話始めた。

「時間がないから手短に話しますが、これはただの夢ではありません。プリムの身に降りかかる最大の火の粉についての暗示です。良いですか、マオに黒の書を預けてあります。そのアイテムはきっとお前の力になるから使ってください。私の封印した魔本の中でも最強の書です。しかしこれがあっても今回の災厄をしのげるかどうかは難しいところです・・・」

 いつも自信満々、私に間違いはありません!と豪語していた、それこそ寿命で死ぬときでもかっこつけてななめに立っていたプリムローズのお師匠様が困る程の災厄。夢で逢えて嬉しかった気持ちが急速に恐怖に染まっていく。自分で果たしてなんとかできるのだろうか?

「その恐怖こそが最大の敵です。恐れてはいけません。召喚士たるものいつでもクレバーであれ、ですよ?」

 そういうと薄くなるお師匠様。待って、まだいかないで・・・。その思いが通じたのかお師匠様は最後にこう言ってから去った。

「空腹でしょう、マオが運んでくれているから安心していいですよ。すぐ王都につくから。あまり無駄遣いしちゃダメですよ?」

 

「お師匠…さま?」

 寝ぼけながら目をこするプリムローズは己がマオの上に横たわり、マオは時速300キロ程で走っていると知って絶叫を上げた。

「きぃやああああぁぁぁぁぁっ!?」

 がっしりとマオの毛を掴むと、マオはゆっくり減速していった。そこで気づく。魔本があった。おまけに触れているとMPがどんどん回復していく。マオが走り続けたのもこれの力のおかげらしい。

「お師匠様、ありがとうございます」

 プリムローズは魔本に礼を言うと、マオを王都へ急がせた。



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