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ラストバトル  作者: 野生
7/8

第6章 ラストバトル

 アキラと分かれ再び独りになった俺は、自分の状況を確認し始めた。

 体中裂傷・打撲のパラダイスだが、戦闘に影響を与えるような傷はない。

 そんなとき、ポケットに入れていた携帯が突然鳴り出した。

「はい、もしも……」

 取り敢えず電話に出ると、太く威圧感のある男の笑い声が、俺の鼓膜を破かんばかりに聞こえてきた。

『ハーッハッハッハ。聞こえているか? 俺様だ、俺さ……。ッピ。ツーーツーーツーー』

とりあえず五月蠅かったから切っとい……。

 ピピピッピピピピピ…ッーーツーーツーーーーー

「みゃ……」

 ピピピッピピピピピピピピピピピピピピ

「みょ………」

 ツーツーッ…ピピピピピピッピピピピピピ

 切っても再び鳴り響く着信音。

 あ~~~~、もう。

「何なんだよ?」

 俺は仕方なく会話ボタンを押し、嫌々ながらも受話器を耳にあてがった。

「ったく。誰だ、一体?」

『俺様だって、言ってんだろ。何切ってやがんだ』

「オレオレ詐欺なら間に合ってるぞ」

『何、寝惚けたこと言ってやがんだ。馬鹿がっ』

 耳を突く大声に、俺は顔をしかめながら、思わず携帯電話を耳から離す。

 そして、大きな溜め息を一発吐き出してから、再び携帯を耳に当てた。

「五月蝿ぇなぁ。―――それで、狂夜(きょうや)。何のようだ、一体?」

『んん。ああ、そうだ、忘れるとこだった。おい、一騎。てめぇ、残りの人数が何人か知ってるか?』

「残り? ……ああ、生存者か。そうだな…、俺が最後に聞いた時は50人て言ってたからなぁ。残り…3、いや20人てところか?」

 俺がそう答えると、携帯の向こう側で狂夜がばか笑いしている声が聞こえてきた。

『バーカ、ハズレだ』

 馬鹿はお前だろ。

 心の中で呟きながら、俺は狂夜の言葉を待った。

「――――今、この学園内でリングをはめていんのは、俺と、てめぇと、アイツの三人だけだ』

「3人!? おいおい、えらく減ったな」

 俺は同級生の行動力に今更ながら改めて感心した

「…それで、用件は何だ? まさか、俺と組んで二人でアイツを叩く気じゃないだろうな?」

 俺が訊ねると、またまた大きな笑い声が響いてきた。

『本当に馬鹿だな、お前は。せっかく学園公認で、てめぇらとヤれるってーのに。そんな勿体ないこと、するわきゃねぇーだろ』

「じゃあ、何なんだ?」

 一向に先の見えない話しに俺が苛立ち紛れに呟くと、狂夜がいつになく真剣な声で訊いてきた。

『一騎、お前は俺やアイツにタイマンで勝つ自信はあるか』

「俺が、狂夜やアイツに?」

 どう、だろうか…?

 負ける気はない

 けど……

「確実に、って保証はないな」

「そうだろ。俺様もだ。だからこその提案なんだが、どうだ、いっそのこと最後は3人でヤらないか? どうせヤり合うなら、少しでも全快の方がいいだろう。アイツには話をつけてある」

「三つ巴ってわけか……」

 狂夜の提案を聞いた瞬間、俺の中を稲妻のような何かが駆け巡った。

「おもしれぇ。ノッた」

『よし。場所は第一校舎のグランドだ。直ぐ来いよ』

 狂夜の電話はそれで切れ、俺の頬が歓喜につり上がった。

「言われなくても、より道なんかするわけないだろ」

 すでに切れた携帯に呟きながら、俺は振り返り、昂る気持ちを抑えながらゆっくりと歩きだした


 狂夜から連絡を受け数分。

 俺は無駄に広い桜花学園の中を1人歩く。

 通い詰めた学舎の至るところには、今日の闘いの傷跡がついていた。

「学園に来るのも、今日で最後か……」

 学園名物の千本桜の間を歩いていると、柄にもなく感傷が俺を襲った。

 思い起こしてみれば、始まりからやっぱりむちゃくちゃな学園生活だった。

 入学式での『入学おめでとうバトル』に始まり、新学期早々の『クラス対抗無人島サバイバル生活』。

 見ず知らずの他人同士をいきなり無人島に置き去りにするなんて、今考えても、やっぱり無謀な話だ。

 毎回必ず半死人が出る体育祭や、妖精と歌声を競った音楽祭。

 そして、俺たちが3年の時に行われた桜花学園祭。

「ホント、祭り好きの集まりだな」

 俺もその1人だけど・・・・・・

「うわっ」

 一陣の突風が吹き、桜弁が一斉に風の腕に拐われる。

 そして天高く舞い上がった桜は、ピンク色の雪となって俺の視界を鮮やかに彩った。

 ―――ありがとう―――

 自然と口が開きそうになる。

 でも、まだ早い

 この言葉は、最後の最後に残しておこう


 桜のトンネルが終わる


 目の前一杯に広がるグランドの真ん中で、背中に両刃の大剣を背負ったその大柄な男、雲牙(うんが)狂夜が、俺の姿を見つけ、幾多の傷を刻んだ、逞しく、そして大きな手を振った。

「随分とやられたな、一騎」

俺が声の聞こえる距離に近づくと、狂夜は今にも大剣を抜き放ちそうな、不敵で、それでいて自然な笑顔を、その傷跡だらけの無骨な顔に刻んだ。

「アキラ相手は、さすがにキツかった。見ろよ、この制服。心臓のところが、丸々持ってかれたんだぞ」

 俺は狂夜がよく見えるように制服を伸ばしながら、その屈強な体の隣に並んだ。

「アキラかぁ。あいつとはおれもヤってみたかったんだけどな」

 残念がるように肩を竦める狂夜に俺は呆れた笑いを零しながら、残り1人の姿を探し、辺りを見渡した。

「アイツは、まだ来てないのか?」

「ああ。だが、もう来る頃だと……」

 揃って辺りを見渡す、俺と狂夜。

「アラアラ。どうやら、私がビリだったみたいですね」

 その澄んだ声は、俺たちの頭上からした。

 上を見上げると、肩に羽衣を羽織り空に浮く箒に腰掛ける、滑らかな髪を腰元まで伸ばした、俺や狂夜と同じssランクの称号を持つ慈悲深げで柔和な顔立ちの女子。

 舞羽優風(まいはね・ゆうか)が微笑みながらゆっくりと降りてきた。

 そして……

「キャッ」

 見事に着地に失敗した。

「イタタタタ」

「たくっ。何やってんだ、っよ」

 俺は溜め息混じりに呟き、優風の手を取って引っ張り上げる。

 その俺の隣にいた狂夜は、箒を拾い上げ、苦笑を浮かべながら優風に手渡した。

「なんでそんな乗り心地の悪いやつ、いつまでも使ってんだ? お前なら、どんな魔術媒体を使ったって同じだろ」

「ああ、それは俺も前から思ってた。何でなんだ、優風?」

 俺と狂夜の共通の疑問に、優風をいつものようにほんわかと笑って、答えた。

「それは~…」

「「それは?」」

「“魔法使い”には箒が鉄則だからに、決まってるじゃないですか~。…って、あれ?どうしたの? 一騎ぃー。狂夜ゃー」

「「……」」

 俺たちは無言で、首を傾げる優風を睨み付けていた。

 言葉にしなくても、分かる。

 きっと狂夜も思っているだろう。

 そう……

 訊いた俺たちがバカだった。

「~~あ、にしても。この3人で色々やったよな~」

 俺は軽く頭を振り、今一度思い出に思いを馳せた。

「覚えてるか? 修学旅行の枕投げで宿が半壊したとき、封印されてた鬼神が復活した時のこと。あの時も、俺ら3人で鬼神を封印したんだったよな」

「それを言うなら、東京タワー爆破テロの時に、立て籠る犯人グループを全滅させたのも、俺様たちだっただろ」

「あ~~。あったな、そんなことも。んで、その後先生たちにこっぴどく怒られてな」

「それなら私は、海外遠征で超巨大迷宮の謎解きをしたことを推薦しますわ」

「それはお前が俺様たちを無理やり連れてっただけだろ。しかも、結局は迷宮をぶち壊して脱出したからな」

「あら、そうでしたか? 記憶にありませんが」

「「あのな~~~」」

 次々と甦る記憶に話の花が咲く。

 そんな俺たちの上空に、突然、巨大なスクリーンが出現した。

『さぁ、桜花学園全生徒の皆さん、遂にこの時がやって参りました。参加人数1236人。そして、やっぱり最後に残ったのは、SSの冠を携えたこの3人だーーっ』

 上空のスクリーンにマイクを握る女子が写ったかと思うと、そのマイクを力強く握りしめ声高らかに叫び始めた。

『まず紹介するのは、このお方ーっ』

 彼女の実況に合わせて画面が切り替わる。

 そして切り替わった画面には、力の限りに大剣を振るい暴れ回る、狂夜の映像が写し出された。

『語り告がれる伝説は数知れず、産み出される奇跡に終わりはない。どれ程の傷を受けても倒れないそのタフネスは、むしろバカか。身の丈ほど大剣は大地を割り、20ミリの弾丸を吐き出す大口径銃は荒ぶる神魔を黙らせる。『無界の覇者』『神代の破壊神』『完全無欠最強無敵の王』、“K(キング”雲牙狂夜ぁーー!!』

 実況と共に凄まじい歓声が、スピーカーから聞こえてきた。

「おいおい、すごい人気だな」

 そう言いながら俺が狂夜の脇腹を肘で軽く小突くと、狂夜は満更でもなさそうに、小さく「ふん」と笑った。

『次に紹介するのはこの御方ーーっ』

 叫ぶ実況と共に、再び画面が切り替わる。

 今度写し出されたのは、広域殲滅魔法を発動する優風の映像だった。

『壮大にして可憐、清楚に見えて天然。森羅万象全ての主・聖霊と盟約を交わし、あらゆる魔法を使いこなす。『天界の淑女』『清廉の乙女』『聖霊王の妃』、“(クイーン)”、舞羽優風ぁーー!!』

 再びスピーカーから、大音量の、特に男子の歓声が溢れだした。

「あらあら」

 その声援を受け優風が頬に手を当てて微笑むと、その可憐さに男女問わないため息が零れた。

 そして、いよいよ残すは俺一人だ。

『そして、最後に残すはこの男ぉーー』

 来たっ

 なんか、緊張するぞ。

 俺の期待を一身に乗せ、スクリーンの映像が…、

 …消えた。

「っえ?」

『すいませ~ん。時間の都合上、ここはカットで』

 っんな?

「ふっ、ふざけんなー。仮にも、この小説の主人公だぞー!!」

 実況の代わりに木霊する俺の声に、爆笑の嵐が吹き荒れた。

 ちなみに、俺のすぐ隣では、狂夜が腹を抱え転げ回りながら笑っている。

 一生笑ってろ。このバカ野郎が。

『あはははは、冗談冗談。失礼しました。では、改めてまして……』

 わざとらしく謝る司会の声と共に、スクリーンが俺の映像を写し出した。

『あらゆる武器を操るも、彼が最後に選ぶは腰に携えた愛刀《神楽》ただ一本。意外に女子から人気の高い、女泣かせの孤高の侍。しかし、その神速が繰り出す銀の軌跡は、時に時界をも切り開く。『気高き死神』『優しき阿修羅』『黒夜叉』、“(ジャック)”、萩原一騎ぃーー!』

 ようやく全員の紹介が済んだところで、俺たちは改めて向かい合った。

「あの時と、一緒だな」

「あの時、とは?」

 俺のその言葉に、二人の視線が俺に集中する。

 俺は小さく笑って、続けた。

「『入学おめでとうバトル』だよ。あの時も、最後に残ったのは俺たち3人だったよな。確か……、あの時勝ったのは………」

「一騎!」

 途中まで出かかった俺の言葉は、狂夜によって遮られた。

「別にいいじゃねぇーか、昔のことはよぉ」

「そうですよ。それより、今、この時を楽しみましょう」

「そう……だな。悪ぃ、不粋だったな」

 お互いに小さく笑い合う俺たちは、その言葉を最後に、誰が言い出したわけでもなく、ゆっくりと互いに距離を取った。

 十分に離れたところで、俺たちはただ静かに待つ。

 今日一日中喧騒が絶えることの無かった学園が、異様な静寂に包まれた。

 動かない、話さない、仕掛けない

 5

 4

 3

 2……

 ボーーンボーーーンボーーーン

 終焉の闘いの合図を担ったのは、奇しくもこの卒業式バトルの開始を告げた、中央のカラクリ時計だった。


 来たっ

 カラクリ時計のカラクリが発動すると同時に、俺は《神楽》を抜き放ち、疾走する。

 狙いは優風だ。

 いくらなんでも、学園最強の魔術師相手に遠距離戦は分が悪…

「いぃっ!!!!」

 理性じゃない、本能が俺を飛び退かせる。

 次の瞬間

 俺の今まで進んでいた地面が破裂した。

 それは、俺と同様に優風へ疾走した狂夜が俺に目掛け発砲した、大口型片手(一般人なら両手)銃によるものだった。

「あんにゃろ、よくも」

 激昂を吐き出し、俺は再び優風へと駆ける。

 しかし、やはり先手は狂夜に取られた。

 狂夜は俺に向けていた銃口を優風に定め、弾倉に残る全ての銃弾を撒き散らす。大気を焼く弾丸が、凄まじい銃声と共に銃口から吐き出された。

「うふふ」

 耳を撫でる、優風の自然な笑い声。

 狂夜が放った銃弾はその全てが、優風の回りに張られた不可視の結界によってひとつ残らず阻まれた。

 だが、狂夜はそんなこと承知の上だ。

 銃弾はあくまで囮。

 本命は大きく振り被った両腕から繰り出される、大地をも砕く豪剣の一撃だ。

 ガチィーーーーーン

「くそっ!」

 甲高い音と共に、狂夜の大剣は純白に身を染め上げた優風の使い魔が重ねる五本の剣に受け止められた。

 ちなみに、俺自身も突如として現れた純白の乙女×6と交戦している真っ最中だ。

 しかし、彼女たちは生物ではない。

 つまり、手加減は無しだ。

 俺は初めの一太刀で一番手前にいた奴の首を断ち斬り、返す刀で2体目の胴を上半身と下半身の2つに分ける。剣を振り下ろしてくる3体目は、すぐさま剣を握る手の手首を断ち、空を飛ぶ剣をキャッチ。背後から襲いくる4・5体目を振り向くと同時に放った回し蹴りでまとめて吹き飛ばし、俺が投げた純白の剣は最後の一体の喉元に深々と突き刺さった。

 俺とほぼ同時に5体を撃退した狂夜と共に、俺たち二人は、もう一度飛び出そうと全身の筋肉を緊張させる。

 突然、眩い光が辺りを覆った。

「な、なんだ?」

 グランドを焼く金色の閃光。

 その光が絶えると、頭部に立派な角を生やした気高き幻獣。ユニコーンが俺たちの目の前に現れ、荒々しく蹄で大地を打ち鳴らしていた。

「なんちゅうモノを召喚しやがったんだ」

 俺が悪態を呟くと同時に、計八発の銃声が轟いた。

 銃声は八発。

 その内、俺を狙った銃弾は三発。

 残りは全てユニコーンだ。

「またかよっ」

「ブルルルルル」

 俺は自分に向かって来る銃弾を《神楽》で斬り伏せ、ユニコーンはその角で銃弾を弾き落とした。

「ヒヒーーーン。ブルルルブルル」

 ユニコーンが吼える。

 そして、鋭い角をもって狂夜を串刺しにせんと、銃弾の如き速度で疾走した。

「やるか、かかってこい」

 狂夜は溢れ出る狂気にその顔面を染め上げ、凶暴な笑みをもって正面からユニコーンと対峙した。

狂夜が既に弾を充填し終えた銃を構え、ユニコーンに向けて引き金を引き、惜しむことなく全弾をばら撒く。

 ユニコーンは懸命に銃弾を叩き落としていたが、遂にその中の一発が角の根元に突き刺さった。

 大きくのけ反るユニコーン。

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー」

 そのひび割れた角の根元に、狂夜の大剣が食らいた。

 けたたましい音と共に根元から角が折れる。

「ヒ、ヒヒヒヒーーーン」

 力の源を無くしたユニコーンは、申し訳なさそうな眼で優風を見て消えた。

 さすがは狂夜。

 楽々伝説の幻獣を退けやがった。

 えっ、俺?

 俺はたった今消えたユニコーンの主、優風と死闘を繰り広げているまっ最中だ。

「うふふふふ。さすがは一騎、上手く避ますね。一度でも捉えることができれば、それで仕留められるのに」

「笑いながら怖いこと言うなっ」

 俺VS優風。

 その戦況は、俺がやや劣勢だった。

 優風の肩に羽織られていた羽衣は、ただの羽衣じゃない。その絹の軟らかさと鋼の強度を併せ持つ羽衣は何処までも伸び、獲物をとらえんと空中を動き回るそれに一度捕まれば、逃れる術はない。

「えいっ」

「熱っっっつ」

「たぁ」

「つ、冷てぇーーーー」

 俺の左肩が酸素を奪い去る業炎に焼かれ、右肩が絶対零度の冷気に凍らされる。

 羽衣の合間を縫って時折織り混ぜてくる魔法攻撃。

 ダメージは少ないものの、確実にこちらの体力が奪われる。

 でも……

「さすがにもう飽きたぞ」

 俺は空を駆ける羽衣の攻撃パターンを読み切った上で、満を持して優風に目掛けて駆けだした。

 その動きについてこれず、羽衣が俺の代わりに宙を掴む。

 羽衣の制空圏を抜け出した俺を待ち構えていたのは、より強力かつ絶大な魔術のフルコースだった。

焔に身をやかれ、氷塊に身を貫かれ、雷に腕を焦がされる。

「ぐっ」

 口から洩れる痛みを無理やり呑みこみ、全身に様々な傷跡を刻みつけながら、それでも俺は前へと踏み込んだ。

 そして優風目掛けて、袈裟斬りの斬撃を結界に叩き込む。

 しかし、結界は壊れない。

 ダダダン

 断続する銃声。

「オラァアアーーーー」

 雄叫びを上げる狂夜の声。

 本能の命じるまま急いで横手に飛び退くと、俺が今までいた場所越しに、銃弾と大剣が優風結界に突き刺さった。

 しかし、結界は壊れない。

「ちっ。まだか」

 悪態を洩らしながら飛び退く狂夜。

 そして、飛び退き様に俺に向けた眼は笑っていた。

「チクショウ。アイツ狙ってやがったな」

 憤激を闘志に替え、俺は狂夜目掛けて飛び出した。

 後退しながら俺に向けて銃の引き金を引く狂夜。

 俺は銃口から吐き出された瞬間に、その銃弾を切り伏せた。

 二つに別れた銃弾が、俺の両腕を掠め背後に流れる。

 両腕に刻まれる火傷の痛みを無視して、俺は更に踏み込み、下方から狂夜の左脇腹に《神楽》を走らせた。

 ニヤリと不敵に笑う狂夜。

 鈍い音と共に、横手から振るわれた大剣が《神楽》の腹を叩いた。

 その衝撃に、俺の身体が横に流れ、絶望的な隙を作る。

 繰り出される大剣の刺突。

 その切っ先が俺の胸を切り裂く前に、俺は《神楽》の流れに乗り、高速で体を旋回させた。

 狂夜の眼の前で俺の身体が一回転し、《神楽》の刃が狂夜の首筋に食らいつく。

 次の瞬間。

 狂夜の巨躯が宙を舞い、上空で激しい銃声が轟いた。

 鉛玉の礫が、容赦なく俺目掛けて降り注ぐ。

「しゃらくせーーー」

 高速から神速に達した《神楽》は、空中に銀光の軌跡を残しながら大気を焼く銃弾を刹那のうちに一つ残さず切り伏せた。

 だが、銃弾の次は再び大剣の重い一撃が、狂夜の笑みと共に出現した。

 豪力の命ずるままに大剣が大気を切り裂き、俺に襲いかかる。

「破っ!」

「んぐっ!」

 ぶつかり合う、叩き押し、潰して切断する大剣と、滑り、切り裂く太刀の刃。

「つぅ~~~~」

 雷撃のような一撃。

 上空から斬撃は《神楽》で受け止めたが、その有り余る衝撃によって腕が痺れ、俺の足下の地面が陥没した。

「はっはっはーーーー。よく止めたな、一騎」

「ったりめーーーっだ」

 地面に舞い降りる狂夜と俺の鍔迫り合い。

 鋼同士がこすれ合う甲高い音が辺りに木霊した。

「「!!」」

 迫りくる脅威を感じ取り、俺と狂夜が弾かれたように飛び退く。

 すると、俺たちが今までいたところに、七色に輝く魔法剣が突き刺さり、地面を粉々に吹き飛ばした。

「私をのけ者にするなんて、2人ともひどいですよ」

 俺と狂夜が睨めつける視線の先には、プンプンと分かりやすいくらいに頬を膨らませる優風が、俺たちに箒を向けていた。

「子供か、お前は」

 そのあまりにも子供っぽい姿に狂夜が呆れ気味に呟くと、優風は相変わらず使いにくそうな箒を振りかぶり、

「私も混ぜてください、ねっ」

 満面の笑顔で微笑んで、俺たち目掛けて思いっきり箒をフルスイングした。

 するとその軌道上に光の帯が出現。

 閃光を伴って強力強大な魔力の塊が俺たちに襲いかかる。

「っげ!」

「マジかよ」

 狂夜と俺は口々に絶叫し、その攻撃の射程圏外へと飛び退いた。

 が……

「まだまだ、行きますよ」

 その光の帯の攻撃は一度だけではなかった。

 ノリノリでバットをフルスイングする優風に合わせて、次々と生み出される光の帯が俺たちを襲う。

 高熱の纏った光の帯により、辺り一帯の温度が急激に上がった。

 だが、光の帯の攻撃はあくまで囮。

 優風の攻撃から逃げ惑う俺と狂夜の周りが、突然暗くなった。

「ん?」

「何だ?」

 二人揃って上空を見上げると、そこにはいつの間にやら作り出されていた超巨大な氷の彫刻が浮かんでいた。

「ヤマシナトカゲモドキです」

「「なんだそりゃ?」」

「いっ、せーーー、のーーー、っせ」

 優風の掛け声よろしく、氷の鉄槌が俺と狂夜目掛けて振り落される。

 だが、

「「いい加減にしろよっ」」

 その氷の鉄槌は、完全にハモッた俺と狂夜の掛け声と、氷の鉄槌目掛けて突き出された二つの刃によって粉々に砕かれた。

 辺り一帯の温度が元に戻る中、俺と狂夜は改めて優風へと飛び出した。

 しかし優風は、これまたとんでもない防御策を取ってきやがった。

「神代より生きし汝が守るは魔界の門。現代に生を受けし我が開くは魔境の門。今、我との盟約に応じ、ここに来たれ。冥犬ケルベロス」

 優風詠唱と共に暗い闇の穴が出来たかと思うと、その穴から三つの頭部を持つ地獄の番犬、ケルベロスが禍々しい瘴気を携え飛び出してきた。

「いっけーーーー、ケルちゃん」

「GAAAAAAA」

 優風の指揮に従い、人も簡単に丸呑みに出来そうな大きな口から涎を垂らすケルベロスが、俺と狂夜に疾走してきた。

「犬っころが、俺様の相手をする気かっ」

 心底楽しそうに大剣を振りかぶる狂夜の声が響き渡る。

 俺も負けてはいられない。

 狂夜が一番右の頭目掛けて跳ぶのを視線の端に収めながら、俺自身もケルベロスの頭部へ飛びあがった。

 二つの刃が、三つの頭部のうち左右二つに襲いかかる。

 しかし、次の瞬間。

「はぁ?」

「何ぃっ?」

 突如として俺たちの眼の前からケルベロスが消えた。

「スキあり」

 そして、優風の楽しげな声と共に、空間を割って出現した無数のダガーが空中で身動きの取れない俺たちに飛来した。

 俺と狂夜はガムシャラに刀を振るいダガーを叩き落とす。

 だが剣筋の間を縫って飛び出たダガーが、俺たちの身体をズタボロに引き裂いた。

 制服に幾多もの血を滲ませながら、俺たち二人は何とか五体満足のまま、血の緒を空中に残し地面に着地する。

「なんちゅうフェイントを入れやがんだ、あいつは」

「まったくだ」

 荒々しく苛立ちと興奮を吐き出す狂夜。

 俺も全くの同意見だった。

 だが、それどころじゃなくなった。

「創成の器、輪廻の門、汝が神を受け入れよ……」

 耳を打つ、優風の詠唱。

 それは対悪魔軍を想定して造られた、超広域殲滅絶神魔法の詠唱だった。

「「やべぇっ」」

 俺と狂夜が口々に叫び、優風へと疾走する。

 再び空を駆ける羽衣が俺たちに襲いかかるが、空を自由に駆ける羽衣を俺たち二人は渾身の力を持って剣を振るい、その凄まじい剣圧で羽衣を切り裂いた。

 そして同時に一足一刀の間合いに入り込むと、情け容赦ない全力の一撃を優風目掛けて繰り出した。

 ピキッ

 絶対無敵を誇る優風の結界に僅かなヒビが入る。

 しかし、詠唱を止めるには至らない。

「な、コラ」

「待てっ、優風」

「待ちませ~ん」

 優風は滑るように俺たちから距離を取り、最後の一節を口にした。

「四大天使ウリエルの名の下に裁かれよ。“ジャッジ・メント・フレア”」

 瞬間、既に夕暮れ時だった空が昼間のように明るくなり、光輝く黄金の焔柱が天上から降り注いだ。

 コレは、

 マジで、

 ヤバい!

 俺は後先を一切考えず、制御装置(リミッター)をぶち壊した。

 途端に俺の見る世界が変わる。

 そして、制御装置を壊したのは俺だけじゃなかった。

 俺と同じく制御装置を壊し、体中を赤黒く染め雄叫びを上げる狂夜。

 俺たちの最後の瞬間が始まった。


 俺は《神楽》を優風目掛けて投げた。


 矢の如く、空を駆ける《神楽》


 その矢は一本ではない


 狂夜も己の大剣を優風目掛けて投げていた


 ガシャンというガラスの割れる音が辺りに木霊する。


「きゃっ」


 同時、同所に突き刺さった2つの矢に、遂に優風の絶対結界が砕け散った。


 降り注ぐ焔柱


 その間を縫い駆ける俺は《神楽》を地面に落ちるスレスレで救い上げ、そのまま優風が持つ箒を断ち斬り、返す刀で袖口から覗く優風のリングを断ち切った。


 幻のように消える焔柱


「オラァーーーー」


 これは幻聴じゃない


 即座に振り反る俺の眼に、大剣を振りかぶる狂夜が映る。


 ダメだ。避けきれねぇ。


 俺の左腕の肘から先が、血の緒を引きながら宙を舞う。


 リングは………まだ割れてない!


 そして


 ここにきて、初めて


 初めて狂夜に隙が出来た


 だが、どうする?


 残る腕は右腕のみ


 これでは、狂夜の四肢の一本すら斬り飛ばすことは出来ない


 喉を貫いても、狂夜なら反撃……


 いや、まてよ……


 そうかっっ!


「ウオォォォォーーー」


 俺は即座に《神楽》を逆手に持ち替え、


 柄頭を狂夜の喉にねじ込んだ。


「ガハッ」


 喉に強打を撃ち込まれ、激痛に苛まれる狂夜


「呼吸を止めりゃあ、お前でもきついだろ!」


「…………」


 声にならない空気を吐き出し、狂夜はどこか満足したように笑って背中から地面に倒れ込んだ。


『けっ、けっちゃーくっ!! 総時間5時14分29秒の死闘に次ぐ死闘。その頂点に立ったのは、SSの“J(侍)”萩原一騎だぁぁぁー』


 太陽が地平線の彼方に沈む頃、長かった闘いが、今ようやく終焉を迎えた。


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