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ラストバトル  作者: 野生
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第4章 告白パートⅡ

「お~~~~、いって~~~」

 工学部の巨大ロボを撃破した俺は、桜が立ち並ぶ学園の第4校舎の裏を、全身の打撲を擦りながら歩いていた。

 さっきまた放送があった。

 その放送によると、現在の生存者は既に50人を切っているらしい。

「だいぶ、減ったなぁ」

 ここまで減ると、あと残っているのは相当な手練れか、自分の力量をわきまえて敵を選んでいるヤツか……

「後は、何かの目的の為に意図的に闘いを避けてるヤツだな。・・・・・・」居るんだろ? 出て来いよ」

 俺は足を止め、校舎の隅、小さな林と化した藪の中にいる二つの気配に向かってごく自然に呼び掛けた。

 そして、その返事は意外なほどあっさりと帰って来た。

「やっぱり、分かっちゃいましたか。さすが、萩原さん」

 そう言って、藪の中から出てきたのは、目に戦意を宿していない、二人組のごくごく普通な女子生徒だった。

 見覚えは……無いと思う。

 と言うより、俺は他人のことを覚えるのは大の苦手だし、1000を優に超す桜花学園の生徒全員を覚えるのなんて不可能だ。

「あ、あの……」

 そんな悩んでいる俺に、女の子たちの内の一人、髪をショートカットに切り揃えた小柄で大人しそうな女子の方が、オドオドしながら話しかけてきた。

「わ、私。あなたと同じ3年D組だった皆本愛架みなもと・あいかです。覚えてますよね」

 ……

 って、同じクラスかいっ!!

 俺の胸の中が、ものすごく申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 そんな心の内が顔に出ていたのか、皆本の後ろに控えていた切れ目で勝ち気そうな女子が、今にも噛み付かんばかりに俺を睨みつけつつ、愛架の肩をポンと叩いた。

「ほら、愛架。アタシの言った通りでしょ。コイツ、同じクラスのアタシたちのこと、まったく覚えてなかったわよ」

「あ、ああ…。……申し訳ない」

 その抗議に対しては、ただただ頭を下げるしかなかった。

 そんな頭を下げる俺の耳に、皆本の自己紹介が流れてきた。

「ランクはC。好きな科目は現文で、嫌いなのは数学です」

「ちょっと愛架、聞いてる?」

「好きなものはぬいぐるみと少女マンガで、嫌いなものは虫です。ああそれから、特技はお料理で、ええっと、後は……」

「はぁ、ダメだこりゃ」

 一向に自己紹介を止めようとしない皆本に溜息を洩らした切れ目の女子は、いきなり俺の方を向いたかと思うと、ビシッと俺を指差して有無を言わさない口調で俺に言葉を叩きつけてきた。

「おい、萩原一騎っ」

「な、なんだ?」

「今から愛架がアンタに大事な話しをするから、ちゃんと聞いてよ。それから、愛架は落ち着いて」

「え、あ、美喜みきちゃん」

「たくっ、ようやく気づいたか?」

 マシンガンの如く自己紹介をする皆本を落ち着かせ、切れ目の女子は「行ってこい」と、皆本の小さな体を俺目掛けて突き飛ばした。

「っきゃ」

小さな悲鳴を洩らし、俺の本当に目の前に倒れ込んできた皆本は、一瞬背後で手を振る切れ目の女子と目を合わせると、顔を真っ赤にして、震える声で思いっきり、

「大好きです、萩原さん。付き合って下さい」

 と叫んだ。

 桜が舞い散る中の告白。

 俺は怯えるように震える皆本を前に、あらかじめ用意しておいた返答を吐き出した。

「悪いな」

 皆本の緊張した告白に対し、俺の返答はごくごくあっさりしたものだった。

「っえ、何で」

 どこか焦るように問いただしてくる皆本に、俺はどう説明したものかと、頭を掻いた。

「萩原さんは、私のこと嫌いなんですか?」

「いや、嫌いとかじゃ無くて」

「じゃあ、イイじゃないですか!!」

 今にも泣きそうになりながら懇願してくる皆本に、俺は頭を悩ませる。

「もしかして、彼女とかいるんですか」

「いや、いねぇーけど」

「それならっ」

「ア~、もう。そうじゃなくてだな」

 さっきよりも強引に、俺は頭を掻きむしる。

 こういうのが、一番苦手なんだよな……

 単なる喧嘩や、北馬みたいに実力行使とかなら分かりやすいんだけど。

「あ~、ん~と。俺、恋愛に関しては無頓着だから」

「そんなの、私は構いません」

「いや、構う構わないじゃなくて…」

「……何で、私じゃダメなんですか?」

「いや、だから皆本がダメとかじゃなくて」

 堂々巡りだった。

「告白してくれるのは嬉しいけど、俺は色恋沙汰が苦手なんだよ」

「大丈夫です。恋愛のマニュアル本なら10冊以上読破していますから」

「だから~~」

 どう説明すりゃいいんだよ?

 こうなるのが嫌だから、きっぱりと断りたかったんだけどな。

 そんなやりとりが両手の指で数えられなくなったころ、漸く皆本は頷いた。

「告白を受け取って貰えないことは、分かり……ました」

「そうか、悪いな」

 説得開始から約10分。

 なんとか円満解決したことに、俺はホッと胸を撫で下ろした。

 でも……

「じゃあ」

「ん?」

 その考えは甘かった。

「実力行使で、何がなんでも認めて貰います」

「っえ?」

 その言葉と同時に、鋭利な何かが俺の左腕と右足を切り裂いた。

 俺の体に傷を刻み付けたソレはそのまま空中を旋回し、立ち並ぶ桜木の枝を数本切り落として、再び皆本の手に舞い戻る。

薄い銅鉄板製の輪で、外側に鋭利な刃を備え付けたソレは、古代インドから伝わる投擲具、『チャクラム』だ。

「チッ!」

 舌打ちを鳴らし、血の緒を引きながら俺は皆本から飛び退き、警戒するのに足りる十分な距離を取る。

 でも、相手は皆本一人じゃなかった。

 俺の背中に突然激痛が迸る。

 背中の皮が引き千切られ、制服の下から鮮血が飛び散った。

 それは、途中から傍観に徹していた、美喜と呼ばれた女子が操る、長い鞭による攻撃だった。

「美喜ちゃん!」

「愛架、約束忘れないでよ」

「うん、わかってる。萩原さんは私と美喜ちゃんで半分こね」

「よしっ!」

「よしっ! じゃ、ねぇよ」

 俺の抗議に、二人の女子は妖しく笑った。

「結局、こうなるんだよな…」

 まぁ、分かりやすくていいんだけど。

 俺は悲しいのやら嬉しいのやら分からない溜め息を溢しつつ、ゆっくりと鞘から《神楽》を引き抜……

 Piiiiii!

「えぇ!?」

 突然、辺りにけたたましい警笛が辺りに鳴り響いた。

「な、何だ?」

「はい、そのバトル。少し待ってもらうわよ」

 笛を鳴らし現れたのは、眼鏡を掛けた凛々しい感じの女教師だった。

「先生。どうしたんすか?」

「萩原一騎。貴方は今回のバトルに限り《神楽》を没収させて貰うわ」

「えっ!! 何で?」

 俺が驚きながら訊ねると、先生は大きく張った胸のポケットから、一枚のカードを取り出した。

 それは、バトルをより面白く、かつ実力が公平になるように学校の何処かに隠された、EランクからBランクまでの生徒だけがA、S、SSランクの生徒に対して使うことができる特別ルールカード。

 でも、このカードはそう簡単に見つからないように、先生たちが学園のいたるところに様々な技術を使って隠していたはずだ。

「良く見つけたな~~」

「貴方の為に頑張りました」

 手をぐっと握り自分のことをアピールする皆本。

 俺は改めて、この学園の女子を敵に回すことの恐ろしさを思い知った。

「は~~~~。それで、先生。今回はどんな特別ルールなんですか?」

「今回、皆本愛架・大畑(おおばたけ)美喜の両名は『武装解除』のカードを提出したわ。いいわね、萩原君」

「俺に拒否権て有りましたっけ?」

「もちろん、無いわ」

 きっぱりとむしろ気持ちいいくらいスッキリとした即答だった。

 まぁ、なんにしろルールじゃ仕方ない。

 俺は腰から鞘を抜き、《神楽》を収めて先生に渡した。

「他に武器は持って無いようね。いいわ、三人とも思う存分やりなさい」

「存分にって、俺は武器取り上げられてんですけど?」

「「「男が細かいことを気にしない!」」」

 皆本・大畑・先生。

 見事なハモリだった。

「理不尽だ」

 ため息交じりに肩を落とし、俺は世の中の不条理に小さく嘆く。

「まぁ。それでも、なんとかなるかぁ」

 首をコキコキと鳴らし、俺は《神楽》をすんなり諦めて、気を取り直して皆本と大畑に向き直った。

「確認しておくぞ。この勝負、俺が負ければお前らの彼氏でも奴隷でも、何にだってなってやる。反対に俺が勝てば、潔く俺のことは諦める。いいか?」

 念のため確認する俺の問いに、皆本は頬を紅潮させ、大畑は猛獣使いのように鞭をしならせて頷いた。

 俺との戦いに身構える二人の女子の意気は、俺に悪寒を走らせるのに十分だった。

「萩原さん。絶対に私に惚れさせて見せますから」

「『黒夜叉』と呼ばれた侍も、剣が無ければただの人。苦痛の快楽をアンタに教えて、ア・ゲ・ル」

「御免被りたいところだけどな……」

なんとも背筋が底冷えする返答と共に、あまり俺の望まない闘いが始まった。


「行きます、萩原さん。いえ、一騎」

「呼び捨てかい!?」

 ほどよいボケは置いといて。

 皆本は新たに二枚のチャクラムを取り出し、計四枚になったチャクラムを俺に向けてかまえる。

「やっ!」

 軽い掛け声とともに、皆本がチャクラムを投げつけた。

 その数は二枚。

 残りはまだ皆本の手の中だ。

 軽く身を捌き先に飛んできた二枚を避けた俺の目の、前にチャクラムを振りかぶる皆本の顔がアップで映る。

「接近戦もできんのか?」

「はい。あなたの隣に立つために」

「あ……そう」

 目を見張る俺に、かなり様になった動きで皆本がチャクラムを振りかざす。俺の制服を縦に裂くチャクラム。

「さすがに、素手で受け止めるのは痛そうだな」

 呟きを残し、俺は背後から飛来したチャクラムを身を屈めて避けつつ、後方へと大きく飛びのいた。

「っぅ!!」

 突然左腕に走る激痛に俺は息を飲む。

 バチっと空中で音速越えの音が鳴る。

 俺の左腕を血みどろに染めた鞭が、再び主である大畑の手の中に収まった。

「私を忘れるなんて、あんまりだぞ。一騎」

 満面の笑みで俺を責める大畑。

 そして、大畑の鞭が振るわれた。

 鞭の先端が再び音速を超え、俺の体に伸びる。

「チッ!」

 小さく舌を打ち、俺は横手に飛び大畑の鞭を避けた。再び飛来するチャクラムの刃。

「またかよっ」

 苛立ちを吐きだしながら、俺は腕を振り上げ、飛来する二枚のチャクラムの腹を殴りつけた。回転が不規則になり浮遊力を失ったチャクラムが空しい音と共に地面に落ちる。

 それを眼の端で確認しながら、俺は鞭を握り直す大畑へと飛び出した。

 が…

「んげぇ!」

 風を切り裂き、唸りながら迫る刃。

 しかも今度のチャクラムは大きさが先ほどまでの5倍はあるぞ。

 まともに食らえば、俺の体も真っ二つになりそうだ。

 ―萩原さんは私と美喜ちゃんで半分こね―

 まさか、本気じゃないだろうな?

 俺の背中に嫌な汗がん流れる。

「しかし、よく投げたな」

 半ば感心しながら、俺は鞭を構える大畑を警戒しながら身構えた。

 飛来する4つの刃。

 そのうち二つが俺の目前で急速にその進路を上空へ変えた。

 俺は残りの二枚を横手に飛び避けながら、バラバラに飛ぶ4枚のチャクラムの位置を気配と音を頼りに把握する。

 そのとき、

 上空から断続的に何かが切り落とされる音が響いた。

 それは、チャクラムによって桜木の枝が次々と断ち切られる音だ。

 切り落とされた桜の太い枝が、重力の手に捕らえられ、太陽の光を覆い隠しながら俺目掛けて降り注ぐ。

「おいおいおいおいおい」

 殺す気かっ!?

 確実に仕留める気で繰り出される攻撃に、俺は前後左右から襲うチャクラムと、こちらの隙を突き的確に急所を狙ってくる鞭の猛攻を避けながら、降り注ぐ枝の隙間を見極め、安全地帯へ体を滑り込ませた。

だが、桜の枝を切り落とした意図は、もっと別のところにあった。

上から舞い散る桜弁と下から舞い上がる桜弁に、俺の視界が鮮やかなピンク色に埋め尽くされる。

「どわっ!!」

 散り乱れる桜弁を切り裂き、突然チャクラムが出現。寸前で身を屈める俺の髪の末端が、その刃に刈り取られる。

 次の攻撃は背後。

 俺は無様に地面を転がりその一撃を避けた。

「っ!」

 俺の肩胛骨辺りの皮を剥ぎ取ったチャクラムは、再び桜弁の中に消え、新たな二枚の見えないチャクラムが左右の桜弁の中からか俺を狙う。

 でも、もう見えない攻撃は慣れた。

 今度の攻撃を、俺は余裕をもって避ける。

 しかし、それは慢心だった。

「……ッチ。油断したか」

 一陣の風と共に、桜吹雪が晴れる。

「フフフフフ。捕まえた」

 俺の左手首は、大畑が操るヘビのように動く鞭に捕らえられた。

 俺の腕に巻きつく鞭を絞り上げながら、大畑は俺に向けて欲情したように顔を赤らめながら口を開く。

「萩原。アンタは丈夫だから、大抵のことには堪えられるよな」

「ああ。一騎。これでようやく貴方は私の物に」

 別々の意味で恍惚とした笑みを浮かべる女猫皆本と女豹大畑。

 かなり恐い光景だった。

 しかし、そこはやはり桜花学園の生徒か。

 愉悦に浸って、俺を取り逃がすようなことはない。

 ギリギリと骨を砕かんばかりに絞まる鞭に俺は多少顔をしかめながら、皆本と大畑を睨み付けた。

「な~に、その目は?」

 だが、勝利を確信した大畑は俺の眼光を余裕で受け止め、懐からもう一本鞭を取りだし、皆本と頷き合った。

「萩原一騎」

「その心と体。私たちが貰います」

  叫ぶ二人の興奮に呼応するかのように、二本目の鞭が唸り、4枚のチャクラムが俺目掛けて飛翔する。

 でも……

「甘いな」

 静かな呟きを残し、俺の両腕がその双撃を迎え討った。

 俺の左手が大畑の攻撃に合わせて、踊る。

 手首を返し絡み付く鞭を握り、力ずくで大畑から奪う。さらにその鞭を操って迫りくる二本目の鞭を空中で絡めとり、同じく力ずくでその鞭も奪い取る。

 俺の右腕が皆本の攻撃と共に、加速する。

 風を切り裂くチャクラム。

 その軌道は、もう見切った。

 最初の二枚のチャクラムを、俺は指と指の間で掴み取り、さらにその刃を利用して残りの二枚を叩き落とした。

「う、嘘」

「そんな、ことって」

 大畑と皆本が驚きに眼を見開き、愕然とする。

 今や彼女たちの武器は、完全に俺が支配していた。

「お前らの武器、返すぞ」

「えぇ!」

「キャッ!」

 そして、俺はこの戦闘で初めて攻撃に転じた。

 大畑が操る鞭がヘビなら、俺の操る鞭は竜だ。

 俺の手首の動きに合わせ、意のままに空中を駆ける鞭は、大畑の細い胴に絡み付き、その身体を捕縛する。

 そして、鞭を操ると同時に皆本に投げつけたチャクラムは、寸分違わず皆本の制服に食らいつき、一切肌を傷つけず制服だけを細切れに切り裂いた。

「キャーッ!」

 肌を腕で隠し、その場に蹲る皆本。

「このっ、ほどけぇー」

 そして胴に巻き付いた鞭から、懸命に逃れようとする大畑。

 誰から見ても、勝敗は明らかだった。

「こら、萩原。素手の相手に武器を使ってくるなんて、テメェは人でなしか?」

「そうです、そうです」

「あのなぁ。お前らがそれを言うな! お前らが」

 身勝手な言い分に俺が脱力していると、それまで闘いを見守っていた先生が俺たちのもとへ歩み寄って来た。

「リングは割れていませんが、皆本・大畑は戦闘不能と判断します。よって、この勝負。勝者、萩原一騎」

「どーも」

 なんともアホらしい闘いだったが、取り敢えず無事に済んだことに、俺はスッと肩を撫で下ろす。

 しかし、そんな勝利の余韻は、長くは続かなかった。

「っ!!」

 一帯の空気が、凍る。

 そして、背中に直接銃口を押し付けられるような、強烈なプレッシャーが俺の身体を支配した。

 額に冷や汗が流れるのを感じながら、ゆっくりと振り向く。

 そこには嵐のような殺気を纏った、一人の男子が立っていた。


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