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白い女

掲載日:2026/10/28

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おお、つぶらやくんもコーヒーブレイクかい?

 君はいつもブラックだよねえ。昔から、けっこう飲み慣れていると見た。

 私? 私は見ての通りのミルク派さ。コーヒーの元の黒色が、薄い茶色へ染まっていく姿を確認しないと、落ち着かなくてね。


 ――ん? カフェオレ、カフェラテ派閥の手先か?


 なんだい、某きのこたちのような論争でも開くつもりかね?

 カフェオレはフランス語でミルク入りのコーヒー、カフェラテはイタリア語でミルク入りのコーヒー。そこのどこに違いがあるというのかな?


 ――違う! カフェオレはドリップで、カフェラテはエスプレッソのはずだ?


 ほう、さすがによく知っているね。

 さらにいうなら、カフェオレがコーヒーとミルクが同程度に対し、カフェラテはコーヒーの4倍ほどミルクをぶち込むというところかな。

 だが、あいにく私は派閥に属しているものじゃない。マーベリック、いわば異端のミルク派なのだよ。

  ミルクを摂取することが目的じゃない。ミルクを混ぜることによって予防しておきたいことがあるんだよ。むしろ、つぶらやくんのブラックのほうが危険性高いかも。

 ふふ、そういわれたらおもしろくない気持ちになるよね。以前に父親から聞いた、コーヒーをめぐるお話、聞いてみないか?


 父が学生だった時分は、今よりも喫茶店の数が多かったという。

 純粋にお茶をしばくメニューのみで、現代までしぶとく生き残り続けるのは難しい。できるとしたら、相当に商売がうまいのだろうな。

 ともかく、父の時代は時間の空きを見つけては、お店でコーヒーをたしなむ人の数が多かったというわけだ。

 その地元の店の一軒で。お客のひとりが救急車で搬送される事態が起きた。

 常連客のひとりで、その日もブレンドコーヒーを頼んで席へ着く途中だったという。

 普通の運びであればコーヒーを提供したお店側が、真っ先に責任追及されそうなところだが、彼が注文直後であり、コーヒーは一口も飲んでいないのは居合わせた大勢の客たちが証明している。

 彼に特別な持病はなく、唐突に発作を起こすとも考えづらかった。みなが首を傾げていたものの、一部の人がこう話したそうだ。

「白い女」を見たんじゃないか、とね。


 白い女は、当時の父親の地元ではよく知られた都市伝説のひとつだ。

 文字通り、白づくめの姿をした女で、端的にいうと死神のたぐいであるという。

 彼女の姿は直接見ることはかなわない。ただ別のものに映った姿のみを見ることが可能なんだ。

 すなわち、黒い色をしたもの。黒の表面を通してのみ、彼女はその姿を見せるというわけ。

 ここのところ、地元では不可解な突然死が増えていたのも確かで、白い女は考えられる原因のひとつだった。

 今回の場合、白い女がブラックのブレンドコーヒーの表面に現れたのではないか……と考えられたわけだ。

 まあ、科学的なアプローチを求める公的組織の面々には、たいして重視されないのも無理ない説。でも父親たちにしてみれば、いよいよ自分たちの近くまで白い女が来たのだと、ちょっと緊張が走ったと話していたよ。


 白い女を目撃して、即死に至るかは個人差がある。

 死はいつ訪れるかは、誰にも分からないもの。50年先も平気かもしれない、こうしている今も次の瞬間にはお陀仏かもしれない。

 あくまで彼女の姿を見るのはきっかけにすぎず、でも目撃したことでストレスを溜めてしまうのはほぼ間違いない。すでに話を知ってしまっているのだから。

 父親たちはそこから数か月の間、黒い色をしたものからは距離をとるようにしていたようだ。白い女そのものを見ないようにしなければいいのだから、と。

 喫茶店での事件も、一か月ほどするといくらか落ち着きを見せ、白い女の話も一時期ほどの勢いを失っていった。

 そのために、父親もどこか気を抜いていたのかもしれない、と話していたな。


 事件から一か月半ほどして、父親は路上の自販機で缶のブラックコーヒーを買って飲もうとしたんだそうだ。

 だが、プルトップを開けたとたんに、たちまち中身が泡立ってあふれてきてしまった。炭酸飲料でもないはずなのに。

 つい手をかぶせてしまうまでの間で、一気にあふれ出た缶の中身がアスファルトを濡らす。その黒々とした水たまりの中で、すうっと横切っていく白いワンピース姿の女がいたんだ。

 えっ? と顔をあげてみても、父親のまわりには他に誰もいない。もう一度視線を落とすと、その白い女は水たまりから外れて、歩いていくところだったという。


 父親が胸に強い痛みを感じて、救急車で病院へ運ばれたのはその直後のことだった。

 検査を受けても、目立った異常は見つからなかったらしいものの、今でも父親はふと胸の痛みを感じるときがあると話す。

 あのとき、白い女に目をつけられたのかもしれない、とね。

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― 新着の感想 ―
コーヒーのウンチクで始まって、後半はホラー。 白い女のいわれというか、なぜ彼女が出現するのかな が爺さんにはイマイチ謎だった ってか、この書き込み自体がホラーか(๑•﹏•)
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