第一話 雨の日の猫
初めて書く小説なので、至らない点もあると思いますが、暖かく読んでいただけると嬉しいです。
一条零夜は、朱雀高校に通う無気力な高校生だった。
勉強も運動も平均以下。友人付き合いにも興味はなく、授業中はただ窓の外を眺めている。
隣の席には渋谷綾乃がいる。
黒髪ロングに整った顔立ち。成績優秀で、誰に対しても淡白なその姿から、クラスでは“高嶺の花”と呼ばれていた。
……もっとも、零夜にとっては関係のない話だ。
六月のある雨の日。
放課後の帰り道、ジュースを買うために近くのコンビニへ寄った。
買い物を終え、店を出る。
その時だった。
ふと視線の先に映った裏路地。
濡れたダンボールの中で、小さな影が震えていた。
「……猫?」
つい気になって裏路地へ足を向ける。
ダンボールの中にいたのは、雨に濡れた一匹の子猫だった。
「……ったく」
小さくため息を吐く。
子猫は弱々しく鳴きながら、じっと零夜を見上げていた。
「そんな目で見ても、俺にはどうにもできねーぞ」
そう言って立ち去ろうとする。
だが、足元へ小さな鳴き声が追いかけてきた。
「……にゃあ」
気づけば、子猫は震えながら零夜の靴へ身体を寄せている。
「……ったく」
零夜は頭を掻き、深くため息を吐いた。
「しゃーねーな……」
零夜はそう呟きながら、震える子猫をそっと抱き上げる。
その時だった。
「……一条くん?」
聞き慣れた声に、零夜はゆっくり振り返る。
裏路地の入口に立っていたのは、渋谷綾乃だった。
制服の上から薄いカーディガンを羽織った綾乃は、少し驚いたように零夜と子猫を見つめている。
「……渋谷さん?」
綾乃は零夜の腕の中にいる子猫を見つめ、小さく息を吐く。
「……よかった」
「え?」
「いえ……その子、前からここにいたので」
「どういうこと?」
「少し前に見かけたんです」
綾乃は零夜の腕の中の子猫を見る。
「……家では飼えなくて。たまに餌だけ持ってきてたんです」
周りから“高嶺の花”なんて言われているけど、意外と優しいんだな――渋谷さんって。
「とりあえず、これからは俺の家で飼いますよ」
そう言うと、綾乃は安心したように小さく息を吐いた。
「……そうですか。よかったです」
けれど、その表情はどこか少しだけ寂しそうにも見えた。
数秒の沈黙。
そして綾乃は、少し視線を逸らしながら口を開く。
「……よかったら、たまにこの子の様子を見に行ってもいいですか?」
「……別にいいですけど」
零夜は抱えていた子猫を見下ろしながら答える。
「こいつも、渋谷さんには懐いてるみたいですし」
「……ありがとうございます」
綾乃は小さく微笑んだ。
その表情を見た瞬間、零夜は少しだけ目を逸らす。
雨音だけが、静かな裏路地に響いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「じゃあ、また明日」
綾乃はそう言って帰っていく。
その背中を見送りながら、零夜は小さくため息を吐いた。
「……なんで俺なんだよ」
腕の中の子猫が、小さく鳴いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。




