一番人気の王子に振られましたが、推しがいるので幸せです
短編にしては長いかもですが良かっわたら世界観をお楽しみにください。(誤字や途中でへんな文章があるかもですがお許しください!)
目を覚ました瞬間、ミサキは自分がどこにいるのかを理解した。
天蓋付きのベッド。
白いレースのカーテン越しに差し込む柔らかな光。
空気には、微かに花の香りが混じっている。
(……落ち着いて。まずは深呼吸)
ゆっくりと起き上がり、鏡の前に立つ。
そこに映っていたのは、見慣れた——正確には、見慣れすぎた姿だった。
ピンク色のロングヘアはゆるくくるくると巻かれ、丸い青い瞳がこちらを見返してくる。
身長も、体つきも、細部まで記憶通り。
「……はい、完全一致」
これは夢ではない。
前世で何度もプレイした乙女ゲーム、
『Blooming Crown〜魔法と誓いのセレナーデ〜』。
しかも自分は、プレイヤーが名前も外見も設定できる主人公——ミサキそのものだった。
(よりによって、ここ)
理解した瞬間、胸の奥がざわつく。
理由は一つ。
この世界は、イベントが容赦ない。
「ミサキ様、王子殿下がお呼びです」
嫌な予感は、だいたい当たる。
(来たな……誰もが通るイベント)
玉座の間は、やけに広く感じた。
視線が集まる。空気が張りつめる。
金髪短髪、背の高い青年——王子カイトが、こちらを見下ろしていた。
「君との婚約を、ここで解消する」
高めで通る声。
言い切るような口調。
「君は王妃にふさわしくない」
貴族たちがざわめく。
同情、好奇、嘲笑。視線が痛い。
(うん、知ってる)
ミサキは、意外なほど冷静だった。
(だってこれ、推しルート解放イベントだし)
むしろここを越えないと、始まらない。
「承知しました」
あっさり答えると、王子が目を瞬いた。
「……泣かないのか?」
「特に理由がありませんので」
本音だった。
王子の顔が微妙に引きつるのを見て、ミサキは心の中でそっと手を合わせた。
(ありがとう。
あなたのおかげで、私は自由です)
数日後。
城の奥にある訓練場は、金属の音と掛け声に満ちていた。
剣がぶつかる音。
風を切る音。
そして、花の香り。
(……いた)
少し離れた場所に、目的の人物がいた。
青い髪は肩にかからない程度で、きちんと整えられている。
リムレス眼鏡の奥の視線は鋭く、表情はどこか硬い。
赤いスーツに身を包んだ姿は、周囲から少し浮いて見えた。
(アルファード)
画面越しでは何度も見てきたけれど、
実物は——思っていたより静かで、距離がある。
(この時点では、まだ他人。
好感度ほぼゼロ)
だからこそ。
ミサキは、自分から一歩踏み出した。
「あの……すみません」
声をかけると、彼は一瞬だけ驚いたようにこちらを見る。
「姫君、ここは危険です」
低い声。
落ち着いていて、事務的。
(あっ、これ完全に“職務モード”)
「見学していただけで……」
「それでもです」
彼は淡々と言いながら、自然にミサキの前に立った。
庇うような位置取り。
(距離はあるのに、動きは優しい)
「ご心配ありがとうございます。
……あの、騎士様」
そう呼ぶと、彼の眉がわずかに動いた。
「お名前を、伺っても?」
一拍、間が空く。
「……アルファードです」
名乗る声は低いまま。
けれどほんの一瞬、視線が揺れた。
(よし、聞けた)
「アルファードさんですね。
私はミサキと申します」
「……存じています」
即答だった。
(知ってるんだ)
それだけで、なぜか少し嬉しくなる。
「では、ミサキさん。
危険がないよう、こちらへ」
名前+さん呼び。
距離はまだ遠い。
でも、拒絶はない。
(この距離感……最高の序盤では?)
ミサキは、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
まだ推しは、こちらを見ていない。
ただの騎士と姫。
——でも。
(ここから好感度上げていくんだよね、知ってる)
ミサキは小さく笑った。
こうして、推しとのラブコメは、まだ静かに始まったばかりだった。
それから数日後。
ミサキは、城の中庭を歩いていた。
石畳の間から小さな花が顔を出し、噴水の水音が穏やかに響いている。
(ここ、ブルクラだとイベント発生地点だったな)
特に用事があるわけではない。
ただ、推しが近くにいる可能性が高い場所なだけだ。
(追いかけてるわけじゃないよ?
偶然を装って観測してるだけ)
そんなことを考えていると、前方に赤いスーツが見えた。
(……いた)
アルファードは噴水のそばで、花壇の状態を確認しているようだった。
しゃがみ込み、花の茎に触れる指先は驚くほど丁寧で、 剣を握る時とはまったく違う。
(花に触ってる推し、解釈一致すぎる)
声をかけるか迷ったが、前回は「職務モード」全開だったことを思い出す。
(今回は、軽めにいこう)
「こんにちは、アルファードさん」
そう声をかけると、彼はぴくりと肩を揺らした。
「……ミサキさん」
立ち上がる動作が、ほんの少し早い。
視線が一瞬だけ泳ぎ、すぐに噴水の方へ逸れた。
(おや?)
「何か御用でしょうか」
声音は落ち着いている。
けれど——
(声、ちょっと高くなってない?)
「いえ、たまたま通りかかっただけです」
「……そうですか」
彼は頷いたが、間があった。
眼鏡を直す。
それから、わざわざ一歩横にずれて、ミサキとの距離を一定に保つ。
(距離は取るけど、背中向けないの優しいな……)
「お邪魔でしたら、すぐ——」
「いえ!」
即答だった。
ミサキが言い終わる前に、アルファードは言葉を遮ってしまい、
はっとしたように咳払いをする。
「……いえ。業務の妨げには、なっていません」
今度は少し声が震えた。
(はい、嘘)
ミサキは心の中で静かにチェックを入れる。
(・即答
・声ブレ
・視線不安定
これは“来てほしくなかった”じゃなくて
“来てほしかったけど認めたくない”やつ)
アルファード本人は、まったく自覚がない顔をしていた。
「アルファードさんは、花がお好きなんですね」
そう言うと、彼の動きが一瞬止まった。
「……職務の一環です」
(出た、職務)
「でも、触り方が優しいです」
事実だった。
剣士の手なのに、花を折らないよう、慎重すぎるほど。
「……それは」
言葉に詰まり、彼は噴水の水面を見る。
「……当然です。
花は、守るものですから」
少しだけ、柔らかい声だった。
(あ、今のちょっと素)
ミサキは内心で息を呑む。
——まだ好意じゃない。
でも、人柄が滲む瞬間。
「ミサキさん」
不意に名前を呼ばれ、ミサキは顔を上げた。
「 先日は……その……」
アルファードは言いよどみ、
眼鏡を直し、また視線を逸らす。
「婚約の件……お辛かったのでは、と」
声が、ほんの少しだけ低くなった。
(あ、これは嘘じゃない)
「いえ、全然」
即答すると、今度はアルファードが驚いたように目を瞬かせた。
「……そう、ですか」
納得していない。
でも、それ以上は踏み込まない。
(まだ他人だからね)
ミサキは、あえて軽く笑った。
「お気遣いありがとうございます。
でも、私は大丈夫です」
「……なら、よかった」
その一言は、小さくて、ほとんど独り言みたいだった。
沈黙が落ちる。
噴水の音だけが、二人の間を満たす。
(今はこの距離でいい)
ミサキは、そっと一歩下がった。
「それでは、失礼しますね」
「……はい」
背を向けて歩き出すと、背後から視線を感じた。
(見てる)
振り返らなかったけれど、なぜかそれがわかってしまう。
——まだ、ただの騎士と姫。
好意なんて、きっとない。
でも。
(嘘が下手なところ、もう出てるよ)
ミサキは、心の中で小さく笑った。
こうして少しずつ、推しとの距離は、確実に縮み始めていた。
その日は、朝から風が強かった。
城の中庭に面した回廊を歩くたび、花の香りが流れては消える。雲の流れも早く、日差しはあるのに、どこか落ち着かない空だった。
(この天気、イベント起きがちなんだよなあ)
ミサキは自分の思考に苦笑しつつ、庭園の奥へ足を向けた。
噴水を中心に放射状に広がる花壇は、色とりどりの花で満ちている。
——だが今日は、その一角が妙に騒がしかった。
騎士数名が集まり、何かを確認している。
ざわつく声。
地面に刻まれた、見慣れない痕。
(……あれ、魔力痕?)
ゲーム知識が、警鐘を鳴らす。
本来なら立ち入らない方がいい。
そう思った、その時だった。
「ミサキさん!」
低く、はっきりとした声。
振り向くと、赤いスーツが風を切って近づいてくる。
アルファードだった。
「ここにいてはいけません」
言葉は短い。
けれど、その表情はいつもより硬い。
「何かあったんですか?」
「……説明は後で」
彼はそう言って、ミサキの手首を取った。
一瞬、ためらいがあったようにも見えたが、すぐに力がこもる。
(あ、触った)
驚きよりも先に、そんなことを考えてしまった自分に内心で突っ込む。
次の瞬間。
——地面が、揺れた。
花壇の一部が崩れ、魔力の奔流が走る。
空気が震え、耳鳴りがした。
「っ——」
ミサキが足を取られかけた、その刹那。
「下がってください!」
アルファードが前に出た。
剣を抜くよりも早く、彼の足元から花が咲き誇る。
薔薇、百合、名も知らぬ花々。
絡み合う蔓が盾となり、魔力の奔流を受け止めた。花弁が舞い、空気に甘い香りが広がる。
(……花魔法)
画面越しでは何度も見た。
けれど、現実で見るそれは、想像以上に静かで、力強かった。
アルファードは一歩も退かない。
背中が、視界いっぱいに広がる。
(守ってる)
理解した瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
数秒後、魔力は霧散し、騒ぎは収まった。
花々は役目を終えたように、ゆっくりと消えていく。
「……怪我は?」
振り向いたアルファードの声は、少しだけ掠れていた。
「ありません」
そう答えると、彼はほっと息を吐いた。
自覚のない安堵。
(あ、これ……)
「危険な場所に近づかないでください」
言葉はきつめ。
けれど、声が微妙に震えている。
(怒ってるふりして、心配してたやつだ)
「すみません。
でも、助けてくださってありがとうございます」
「……当然です」
即答。でも視線は合わない。
「職務ですから」
(はい、嘘)
ミサキはもう、その判定に迷わなかった。
「職務なら、手を離しても大丈夫ですよ?」
そう言うと、アルファードは自分の手に視線を落とし、慌てて放した。
「……失礼しました」
耳が赤い。風が吹き抜け、花の香りが残る。
「ミサキさん」
彼は少し迷ってから、続けた。
「……今日は、もう部屋に戻ってください」
「心配してくれてるんですか?」
「……っ」
一瞬、言葉に詰まる。
「いや……そういう意味では、ありません」
声が高い。
否定が早い。
(嘘が成長してないの、安心する)
ミサキは、柔らかく微笑んだ。
「わかりました。言う通りにします」
素直に頷くと、アルファードは少し困った顔をした。
「……その」
何か言いかけて、結局口を閉じる。
代わりに、彼は小さく頭を下げた。
「……無事で、よかった」
それは、ほとんど独り言だった。
ミサキは胸の奥に残る温かさを感じながら、踵を返した。
まだ、ただの騎士と姫。でも確実に。この人、私を“守る対象”として認識してる
それだけで、今は十分だった。花の香りが、いつまでも背中を追ってきた。
その日から、アルファードは妙だった。
——いや、正確には「さらに妙になった」と言うべきだろう。
廊下ですれ違えば、必要以上に距離を取る。
視線が合えば、なぜか一拍遅れて逸らす。
声をかければ、返事が一瞬だけ裏返る。
(あ〜……完全に挙動不審期)
ミサキは内心で頷いた。
乙女ゲーム『Blooming Crown』。
アルファードは攻略対象の中でも「中盤以降で一気に距離が縮むタイプ」だった。
つまり——
(今、フラグ立ってる最中だよねこれ)
だが、肝心の本人はまったく自覚がない。
その証拠に。
「……ミサキさん、今日は庭園に行かれるのですか?」
声が、わずかに高い。
「はい。少しだけ」
「……危険です」
「え?」
「いえ、その……」
アルファードは咳払いをして、視線を泳がせた。
「……花の手入れ中で、足元が不安定かと」
(嘘の組み立てが雑)
庭師たちは今日は休みだ。
しかも彼、朝一で報告書を読んでたはず。
「そうなんですね」
あえて突っ込まずに微笑むと、アルファードは一瞬だけ安心した顔をした。
(ほら、表情に全部出る)
ミサキはその様子を、ほとんど愛でるような気持ちで眺めていた。
——今までは。
*
庭園は相変わらず美しかった。
噴水の水音。陽光を反射する花弁。
甘くて、少し青い香り。
アルファードは護衛として、一定の距離を保って歩いている。近すぎず、遠すぎず。
けれど視線は、常にミサキを追っていた。
(……あ)
ふと、胸がざわつく。
推しを見ているだけ。
そう思っていたはずなのに。
(近いな……距離)
数歩後ろ。
でも、存在感がやたら大きい。
風が吹き、ミサキの髪が揺れた。
次の瞬間。
「——っ」
アルファードが無言で前に出て、風を遮る。
そして、さりげなく花魔法を使った。
足元に咲いたのは、小さな白い花。
蔓が絡み、ヒールの滑りを防ぐ。
「……風が強いので」
声が低い。
でも語尾がわずかに揺れている。
「ありがとうございます」
ミサキがそう言うと、アルファードは一瞬だけ視線を上げ、すぐに逸らした。
(あれ……)
胸の奥が、少しだけ熱い。
(今の、普通に……ときめいたかも)
自覚した瞬間、ミサキは立ち止まった。
——推しは推し。
それ以上の感情は、想定外だった。
「どうかなさいましたか?」
アルファードが不安そうに声をかける。
「いえ。少し、考え事を」
「……無理はなさらず」
まただ。
心配する言葉。
でも、それを「職務」と言い張る態度。
「アルファードさん」
ミサキは意を決して、振り向いた。
「私のこと、どう思ってますか?」
「……っ!?」
完全に虚を突かれた顔。
「ど、どう……とは」
声が裏返った。
「姫として、ですか?
それとも……」
そこまで言って、彼は口を閉ざした。
沈黙。 噴水の音だけが響く。
「……私は」
アルファードは、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「ミサキさんを……」
一瞬、覚悟を決めたような目をして——
「……守るべき存在だと、思っています」
(ほら、逃げた)
でも。 その声は、嘘じゃなかった。
「それだけですか?」
ミサキが尋ねると、彼は一歩後ずさった。
「……それ以上は」
耳まで赤い。
「考える必要は、ありません」
(考えたくない=考えてる)
ミサキは、くすりと笑った。
「そうですか」
笑顔を向けると、アルファードは困ったように視線を彷徨わせた。そして、不意にポケットから小さな花を取り出す。淡い青のトルコキキョウという花。見覚えがある。
「……これを」
「いただいていいんですか?」
「……はい」
短い返事。
でも手は、少し震えていた。
(花言葉……)
この花の意味を、ミサキは知っている。
——「あなたを想っています」
胸が、はっきりと高鳴った。
(あ、これ)
(もう“推し”だけじゃない)
ミサキは花を受け取り、静かに微笑む。
「大切にしますね」
アルファードは何も言えず、ただ深く頷いた。風が吹き、花が揺れる。
その赤いスーツの胸元で、何かが確実に芽吹いているのを、
ミサキは感じていた。
その日、城はやけに騒がしかった。
理由は単純。第一王子・カイトの帰還である。金髪短髪、整った顔立ち、背が高く、声がやたら通る。廊下に姿を見せただけで、空気が変わるタイプの人間だった。
「——ああ、君か」
ミサキを見つけたカイトは、値踏みするような視線を向けた。
「相変わらず……悪くはないが、やはり好みではないな」
(開口一番それ言う?)
ミサキは心の中で即ツッコミを入れた。
「そうですか。残念です」
心底どうでもよさそうに答えると、カイトは少し眉をひそめた。
「以前は、もう少し残念そうだった気がするが?」
「成長しましたので」
即答。
その様子を、少し離れた位置からアルファードが見ていた。
——いや、正確には「睨んでいた」。
本人は無表情のつもりらしいが、
花魔法を知るミサキにはわかる。
(周囲の花、ちょっと元気なくなってる)
感情が魔力に出ている。
「……ミサキさん」
カイトとの会話が終わるや否や、アルファードが声をかけてきた。
「少し、こちらへ」
「護衛ですか?」
「……はい」
語尾が弱い。
そしてなぜか、カイトから距離を取るように立ち位置を変える。
(完全に牽制してる)
それを見て、ミサキの胸が少しだけ痛んだ。
(あ)
(これ……私、嫉妬されてるって思ってる?)
——思ってしまった時点で、もう遅かった。
*
その後、城下へ出る用事ができた。
宝飾店が並ぶ通り。
祝い事用の装飾を確認する名目だが、実質は自由行動に近い。
「……人が多いですね」
アルファードは周囲を警戒しながら歩く。
「そうですね」
並んで歩く距離が、自然と近い。
ふと、ショーケースに視線が留まった。
——指輪。
華美ではない、細身のデザイン。
花の彫刻が施された、対になったもの。
(……これ)
ゲーム終盤で出てくるやつ。
108本のバラと一緒に渡される、あの指輪。
まだイベントは先のはずなのに。
「……?」
アルファードが、同じショーケースを見ていた。
無言で。
やけに真剣に。
「アルファードさん?」
「……いえ」
一瞬、言葉に詰まる。
「その……職務上」
(来た)
「姫に贈る装身具の傾向を、把握しておく必要があるかと」
(嘘が長い)
しかも声が、ほんの少し高い。
「そうなんですね」
ミサキは笑って頷いた。
「じゃあ、どれがいいと思います?」
「……っ」
完全に予想外だったらしい。
「私の、好み」
そう付け足すと、アルファードは真剣にショーケースを見つめた。悩む。本気で悩む。
数分後。
「……これが」
指差したのは、さっきミサキが見ていた指輪だった。
「派手すぎず……花の意匠も控えめで」
説明が丁寧。やたら丁寧。
「長く身につけても、負担にならないかと」
(将来前提)
ミサキの胸が、はっきりと跳ねた。
「お揃いですね」
何気なく言うと。
「——っ!」
アルファードは、明らかに動揺した。
「そ、それは……」
視線が泳ぐ。
耳が赤い。
「……偶然です」
(大嘘)
ミサキは、もう誤魔化せなかった。
(あ)
(私、この人が好きだ)
推しだからじゃない。観賞用でもない。守ろうとするところも。嘘が下手なところも。
花で想いを伝えようとするところも。
全部。
「ありがとうございます」
ミサキは、指輪から目を離さずに言った。
「すごく、嬉しいです」
「……え」
アルファードは、完全に固まった。
「……その」
何か言おうとして、結局言葉が出てこない。
代わりに、小さく咳払いをした。
「……気に入っていただけたなら」
声が低い。でも、震えている。
「それで、十分です」
その瞬間。 花屋の前に並んだバラが、一斉に花開いた。
(感情、漏れてますよ)
ミサキは胸の奥が温かくなるのを感じながら、思った。
(108本、いつかな)
(その時は……)
——ちゃんと、受け取ろう。
推しとしてじゃなく。
一人の女性として。
城の中庭は、午後の光に包まれていた。
日差しは柔らかく、噴水の水面がきらきらと反射している。その周囲を囲む花壇は、季節の花で整えられ、穏やかな香りを漂わせていた。
——穏やかなのは、景色だけだ。
「ミサキ、少し話がある」
不機嫌を隠す気すらない声。
第一王子カイトは、腕を組み、堂々とミサキの前に立っていた。
「今でなければいけませんか?」
「重要な話だ」
(重要=自分の話を聞け、だよね)
ミサキが内心でため息をつく、その直前。
「……申し訳ありません」
低く、抑えた声が割って入った。
アルファードだった。
「ミサキさんは、この後の予定があります」
「護衛が口を挟むな」
カイトの声が、ぴんと張り詰める。
その瞬間。
——花壇の花が、ざわりと揺れた。
風は吹いていない。
なのに、花弁が一斉に震える。
(あ)
(感情、だだ漏れ)
「……予定?」
カイトが怪訝そうに眉を上げる。
「何の予定だ?」
「……」
アルファードは一瞬、言葉に詰まった。
沈黙が数秒。
「……私と、庭園を歩く予定です」
言い切った。しかも、やけに真剣な顔で。
(言っちゃった)
ミサキの胸が、どくんと鳴る。
「ほう?」
カイトは面白そうに口角を上げた。
「随分と親しいな。
ただの護衛にしては」
「職務です」
即答。
だが——声が高い。
(はい嘘)
「職務、ねえ」
カイトの視線が、ミサキとアルファードの間を往復する。
「以前は、私に振られて泣きそうな顔をしていたのに」
「してません」
即否定。しかも食い気味。
「そうでしたか?」
ミサキは静かに微笑んだ。
「王子殿下に振られて、むしろ安心しました」
「……は?」
「おかげで、自分の気持ちに集中できましたので」
その言葉に。アルファードが、ぴくりと反応した。ほんの一瞬。でも、見逃すには近すぎた。
「自分の、気持ち?」
カイトが聞き返す。
「ええ」
ミサキは、アルファードの方を見ずに答えた。
「大切にしたいものが、はっきりしたんです」
——花が、咲いた。
今度は明確に。アルファードの足元から、淡い色の花が次々と芽吹く。
「……っ」
本人は気づいていない。だが、感情が魔法として溢れている。
(ああ)
(この人……)
「くだらない」
カイトは鼻で笑った。
「では、その“護衛”に任せるとしよう」
そう言い残し、踵を返す。
去り際。
「せいぜい、後悔しない選択をしろ」
その声は、もう届いていなかった。
*
しばらく、沈黙が続いた。
噴水の音。遠くの鳥の声。
「……すみません」
先に口を開いたのは、アルファードだった。
「私が、出過ぎた真似を」
「そうですか?」
ミサキは、ゆっくりと彼を見る。
「私は、嬉しかったですよ」
「……え」
「守ってくれたので」
それだけ言うと、アルファードは完全に言葉を失った。耳が赤い。視線が泳ぐ。
「……あれは」
言い訳を探している顔。
「職務、ですよね?」
ミサキが助け舟を出すと、彼は大きく頷いた。
「……はい」
だが。
その瞬間、花がまた咲いた。
今度は、淡い桃色。イカリソウだ。
(花言葉……)
——「独占」「あなたは特別」
ミサキは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
(もう)
(推しって言えないな)
観察対象じゃない。
遠くから眺める存在でもない。
「アルファードさん」
「……はい」
「これからも、そばにいてくれますか?」
彼は、少しだけ目を見開いた。
そして。
「……当然です」
短く、強い声。
「ミサキさんが、望む限り」
その言葉に嘘はなかった。
花が、静かに咲き続ける。
ミサキは、心の中でそっと呟いた。
(——好きだな)
まだ言葉にはしないけれど。この気持ちは、もう戻らない。
夜の庭園は、昼とはまるで別の顔をしていた。
月明かりに照らされた花々は、色を落とし、輪郭だけを浮かび上がらせている。
風は冷たく、噴水の水音も、どこか遠い。
アルファードは、一人で庭園を歩いていた。
——眠れなかった。
(……落ち着け)
何度目かわからない深呼吸をしても、胸の奥がざわついたまま静まらない。
理由は、はっきりしている。
ミサキだ。
彼女が笑うたび。自分の名を呼ぶたび。
他の誰かと話しているのを見るたび。
胸の奥で、説明のつかない感情が跳ねる。
(これは……)
思考が、そこで止まる。
——騎士としてあるまじき感情。
そう切り捨てようとすると、今度は別の違和感が生まれる。
(では、なぜ……)
守りたいと思う。触れられたくないと思う。笑顔を、自分だけが見ていたいと思う。
それは「職務」では説明がつかない。
足元で、花が咲いた。
夜に似合う、深い青。
静かで、控えめで、しかし確かな存在感。
「……」
アルファードは、その花を見下ろし、眉を寄せた。
(魔力が……勝手に)
感情が制御できていない証拠。
花言葉を、思い出してしまう。
——「秘めた想い」
思わず視線を逸らす。
(違う)
(まだ、違う)
名前をつけてしまえば、後戻りできなくなる。 だから、まだ。
*
一方その頃。
ミサキは、自室の窓辺に立ち、庭園を見下ろしていた。月明かりの下、赤いスーツが小さく見える。
(……やっぱり)
夜の見回り。それは建前だ。
(考え事してるとき、必ずここ来る)
ゲームの知識ではない。
これは、彼女自身が知った“アルファードという人”の癖だった。
胸の奥が、少しだけ痛む。
(嫌われたらどうしよう)
そんな不安が、ふいに浮かぶ。
——推しを見ているだけの立場なら、抱かなかった感情。
(……私、欲張りになってる)
守られるだけじゃ足りない。
そばにいるだけでも、足りなくなっている。
その事実に、ミサキは小さく息を吐いた。
(でも)
(今は、いい)
答えを急かしたくない。
彼のペースを、壊したくない。
だから。
*
翌日。
「ミサキさん」
朝の回廊で、アルファードが声をかけてきた。いつも通り。
……の、はずだった。
「おはようございます」
声が、少し低い。
視線は、珍しく真っ直ぐ。
(あれ)
違和感。
「今日は、花市場へ行く予定があります」
「花市場?」
「はい。……その」
一瞬、言葉に詰まる。
「城の装飾確認です」
(はい、嘘)
だが。
いつものような焦りはない。
嘘をついている自覚はあるが、隠す気が弱い。
「……よろしければ」
少しだけ、間を置いて。
「ご一緒いただけませんか」
その言葉は、ミサキの胸が、きゅっと鳴った。
「もちろん」
笑顔で答えると、アルファードはほっとしたように息を吐いた。
*
花市場は、色と香りで満ちていた。
バラ、百合、カーネーション。
束ねられた花々が、通りを彩る。
アルファードは、ひときわ大きなバラの束の前で足を止めた。
「……108本」
無意識に、呟く。
「え?」
「いえ」
すぐに否定する。
「……数が多いと、意味が変わる花もありますので」
(知ってるよ)
(108本は……)
——結婚してください
ミサキは何も言わなかった。
ただ、アルファードの横顔を見つめる。彼は真剣だった。騎士としてではなく、一人の男として。
「……まだ」
彼が、ぽつりと呟く。
「まだ、早いですね」
「何がですか?」
ミサキが聞くと、アルファードは少しだけ笑った。
「……いずれ、です」
その笑顔は、彼女だけに向けられた、特別なものだった。胸が、静かに満たされる。
(待てる)
(この人なら)
花市場の喧騒の中で、二人の距離は、言葉よりも確かに縮まっていた。
朝の光は、思ったよりも冷たかった。
カーテン越しに差し込む陽射しを見つめながら、ミサキは小さく息を吐く。
胸の奥に溜まった感情が、まだ名前を持たないまま居座っていた。
(今日も、会う)
それだけで心が揺れる。
——会えなかったら、不安になる。
会えたら、嬉しくて落ち着かない。
(……完全に恋だな)
ようやく、心の中で認めた。
推しじゃない。
観測対象でもない。
一人の人として、好きになっている。
*
回廊を歩くと、花の香りがいつもより強かった。季節の移ろいか、それとも——
(感情の影響、かな)
あの人の。
「ミサキさん」
低い声が背後から届く。
振り向くと、アルファードが立っていた。
赤いスーツは変わらない。
でも、その表情は、どこか違う。
疲れているようで、
それでも決意が滲んでいる。
「おはようございます」
「……おはようございます」
一瞬、間が空く。
(あ)
(今日、なにかある)
理由はわからない。けれど、空気が違った。
「本日は……」
彼は言いかけて、口を閉じる。そして、深呼吸を一つ。
「少し、時間をいただけますか」
声が低い。でも震えてはいない。
「もちろん」
彼はわずかに目を見開いた。
「……ありがとうございます」
*
案内されたのは、庭園の奥。
人の気配がなく、花の香りと風の音だけがある場所。
——最初に彼と出会った場所だった。
(ここ選ぶの、ずるいな)
ミサキは胸の奥を押さえた。アルファードは立ち止まり、しばらく黙っていた。
言葉を探している。というより、覚悟を固めているように見える。
「……私は」
ようやく、声が落ちる。
「騎士です」
当たり前の前置き。
「立場も、身分も……感情より優先すべきものが多い」
視線は前でミサキを見ていない。
「ですが」
そこで、一拍。
「あなたといると、それらが……揺らぐ」
胸が、きゅっと締めつけられた。
「守るだけでは足りないと、思ってしまう」
花が、咲いた。今度は、抑えきれないほどに。淡い色から、深い色へ。感情のグラデーションが、そのまま地面に広がる。
(……花、止まらない)
「私は、ずっと」
アルファードの声が、少しだけ低くなる。
「それを、否定していました」
ようやく、こちらを向く。真っ直ぐな目をしていた。
「騎士としてあるまじき感情だと」
でも。
「昨夜、はっきりと理解しました」
その瞬間。ミサキは、何も言えなくなった。
「あなたを失う可能性を想像して——」
言葉が、微かに震える。
「耐えられなかった」
それが、彼の恋の自覚だった。
*
沈黙が落ちる。風が吹き、花が揺れる。
ミサキは、胸の奥に溜まっていた不安が、ゆっくりとほどけていくのを感じた。
(……よかった)
選ばれた、というより。ちゃんと、向き合ってくれた気がした。それが、何より嬉しかった。
「アルファードさん」
静かに、名前を呼ぶ。
「私は」
一瞬、迷ってからミサキは言った。
「待つと決めていました」
彼が、驚いたように目を見開く。
「あなたが、自分で気づくまで」
花が、静かに揺れる。
「だから、今は」
ミサキは、柔らかく微笑んだ。
「その気持ちを、大切にしてください」
「……それで、よろしいのですか」
不安と期待が混じった声。
「はい」
ミサキは、即答だった。
「だって、逃げなかったでしょう?」
その言葉に。
アルファードは、ふっと笑った。
——あの、特別な笑顔。
「……ありがとうございます、ミサキさん」
胸が、温かく満たされる。まだ告白はない。まだ、指輪も、108本のバラもない。
けれど。もう、十分この人は、ここまで来た。
あとは——
花が、祝福するだけだ。
夜は、平等に訪れる。だがその静けさが、救いになるとは限らない。
アルファードは、自室の椅子に腰かけたまま、何度目かわからないため息を吐いた。
灯りは落としてある。窓の外から差し込む月明かりだけが、床に淡い影を作っていた。
(……眠れない)
目を閉じても、意識が落ちない。
浮かぶのは、ただ一人の姿。笑った顔。困ったように首を傾げる仕草。自分の名を呼ぶ声。
(……ミサキさん)
名前を思い浮かべるだけで、胸が熱くなる。
——逃げられない。
ようやく、そう理解した。
*
机の引き出しを開ける。中にあるのは、小さな箱。アルファードは一瞬だけ躊躇ってから、それを取り出した。
——指輪。
細身で、花の意匠が刻まれたもの。
城下の宝飾店で、無意識に選んでいた。
(職務だ、などと)
今思えば、苦し紛れの言い訳だった。
指輪を掌に乗せる。冷たいはずの金属が、なぜか温かく感じた。
(受け取ってもらえなかったら)
その可能性が、胸を刺す。彼女は優しい。
拒絶されるとしても、きっと笑ってくれるだろう。
(それが、怖い)
優しさごと失うのが。アルファードは指輪を強く握りしめ、静かに目を閉じた。
*
翌朝。
夜明け前の花市場は、まだ人影がまばらだった。だが、そこに一人の騎士が立っている。
「……これを、すべて」
低い声。
花商人は、一瞬驚いた顔をした。
「108本、ですか?」
「はい」
即答。
「理由は、聞かない方がよろしいですかね」
「……はい」
それだけで十分だった。バラは、一輪一輪、丁寧に選ばれる。色味、開き具合、香り。 どれも妥協しない。
(想いを、花に託すなら)
(嘘はつけない)
それは、彼の魔法と同じだった。花は、正直だ。感情を、隠してくれない。
*
城へ戻る途中、アルファードは足を止めた。庭園の一角。彼女と、何度も立った場所。
(……ここだ)
告白の場所を、ずっと考えていた。派手でなくていい。人目も、いらない。
ただ……花が咲く場所で
彼女に、すべてを伝えたい。無意識に魔力が流れる。足元から、小さな芽が伸びる。それを見て、苦笑した。
(……本当に、隠せないな)
*
その夜。再び、自室にいたアルファードは、108本のバラを前に立っていた。
赤で深く、強い色。
花言葉は、言うまでもない。
——結婚してください
騎士としては、重すぎる言葉だ。
だが。
(半端な想いでは、渡せない)
指輪の箱を、そっと胸元にしまう。深呼吸を一つ。
(怖い)
正直な感情。
だが。それ以上に彼女と共にいる未来を、失いたくない。それだけは、確かだった。
「……ミサキさん」
声に出して、名前を呼ぶ。すると、不思議なことに。バラが、一斉に花開いた。魔法ではない。感情に応えたかのように。
アルファードは、静かに目を閉じた。
(明日)
(すべて、伝える)
逃げない。誤魔化さない。騎士としてではなく。一人の男として。
夜は、ようやく静かに終わりを告げようとしていた。
朝の庭園は、いつもより静かだった。
空は澄み、風は穏やかで、花の香りだけがはっきりと残っている。まるで、この時間のために世界が呼吸を整えたみたいだった。
「……」
ミサキは、一歩足を踏み出してから立ち止まった。
(ここ)
(最初に、彼に守られた場所)
心臓が、静かに速くなる。理由はわかっていた。今日は、ただの散歩じゃない。
「ミサキさん」
背後から、低い声。振り向くと、アルファードが立っていた。赤いスーツ。いつもと同じ装い。なのに、どこか決定的に違う。視線は逸れない。姿勢は真っ直ぐ。逃げる気配が、どこにもない。
「おはようございます」
「……おはようございます」
互いに、少しだけぎこちない。
沈黙が落ちる。だが、不思議と苦しくはなかった。アルファードは、ゆっくりと一歩前に出た。
「本日は……」
一度、言葉を切る。
「私の、わがままにお付き合いいただきたく」
その言い方に、ミサキは小さく笑った。
「珍しいですね」
「……はい」
正直な返事。
「ですが」
彼は、深く息を吸った。
「どうしても、今日でなければならなかった」
その瞬間。
彼の背後で、花が咲いた。一輪、また一輪。赤いバラが、庭園の奥から現れる。
「……!」
ミサキは、息を呑んだ。数える必要はなかった。この世界で、この数の意味を知らない者はいない。
——108本。
アルファードは、バラの前に立ち、ミサキに向き直る。そして、ゆっくりと頭を下げた。
「私は」
声は低く、はっきりしていた。
「騎士として、あなたを守ることが役目です」
顔を上げる。
「ですが……それだけでは、もう足りません」
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
「あなたの笑顔を、他の誰かに向けられるのが、耐えられない」
正直な言葉。飾りのない感情。
「あなたが傷つく未来を、想像したくない」
彼の足元から、花が溢れる。抑えきれない感情が、魔法として表に出ていた。
「……ミサキさん」
名前を呼ぶ声が、わずかに震える。それでも、目は逸れなかった。
「あなたを、愛しています」
はっきりと、逃げ道のない言葉。アルファードは、胸元から小さな箱を取り出した。
「この想いに、嘘はありません」
箱を開く。そこには、見覚えのある指輪。
花の意匠が刻まれた、お揃いの指輪。
「どうか」
108本のバラに囲まれて。
「私と、共に生きてください」
——静寂。
風が吹き、花弁が舞う。ミサキは、ゆっくりと息を吐いた。
(……ああ)
(これ)
(夢じゃない)
前世で、大好きだった乙女ゲーム。推しだったキャラクター。その世界に転生して。一番人気の王子に振られて。
(でもそれで、よかった)
ミサキは、静かに微笑んだ。
「知ってますか?」
アルファードが、少し戸惑ったように目を瞬かせる。
「私、あなたのことを“推し”だと思ってました」
「……推し?」
「遠くから見て、幸せを願う存在」
ゆっくり、一歩近づく。
「でも」
彼の前に立ち、真っ直ぐ見つめる。
「今は違います」
ミサキは、胸に手を当てた。
「あなたの隣に立ちたい」
指輪に、視線を落とす。
「一緒に悩んで、一緒に笑って」
「——あなたを、好きになりました」
アルファードの目が、見開かれる。
「……本当に?」
かすれた声だった。
「はい」
彼は、震える手で指輪を差し出す。
「……後悔は?」
「しません」
迷いのない返事をした。指輪が、そっと指にはめられる。その瞬間。庭園の花が、一斉に咲き誇った。色も、香りも、すべてが祝福のように溢れる。
「……ミサキさん」
アルファードは、堪えきれないように微笑んだ。あの、特別な笑顔。
「私の人生で、一番の奇跡です」
ミサキは、胸がいっぱいになりながら答えた。
「私もです」
王子に振られたこと。推しを追いかけたこと。全部が、ここに繋がっていた。
それは、誰よりも幸せなエンディングだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
推しを「眺める存在」だと思っていたヒロインが、同じ目線で恋をするまでの物語を書きたくて、このお話が生まれました。
嘘が下手で、花に感情が出てしまう騎士アルファードを、少しでも愛おしく感じていただけたら嬉しいです。
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