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遅く来た名声と春

かつて勇者と名乗っていたバンフェルズ・ライシェルは女性に依頼されて……。

「仕事の依頼?」


 目の前にいる色気がたまんねえ女に依頼されて、なんでオレなんかにと思い首を傾げた。


「ええ、そうよ。頼みたい依頼は強くて勇敢な人にしか無理なの」

「そんならオレなんかよりも強えヤツは、その辺にゴロゴロと居るじゃねえか」

「いいえ……貴方ほど腕の立つ者はいないはずよ! 勇者バンフェルズ・ライシェル」


 勇者と言われオレは首を横に振る。


「オレの名前は確かにバンフェルズ・ライシェルだ。だが勇者なんかじゃねえ!」

「隠す必要なんてないと思うのだけど?」

「隠すも何も違うって言ってんだろ! 四十二のオッサンが勇者なんてあり得ねえ!!」


 なんなんだ……この女はよ。確かに昔は勇者なんて呼ばれて喜んでた。

 だけど今は勇者でもなんでもない……タダのオッサンだぞ。今更、勇者の真似ごとなんてできるわきゃねえだろうがよ。


「クスッ、それでも貴方は勇者なのよ」

「いったいなんなんだ! オレはもう勇者を引退したんだから……好きに生きさせてくれよ」

「いえ、それは貴方が勝手に決めたことよ。神がそれを許す訳ないわ」


 神だと! ふざけんな!? 思い出させるんじゃねえー!!


「帰れ! オレの人生を滅茶苦茶にしたヤツらの話なんかするんじゃねえ!! もう二度とオレの前に現れるな……不愉快だ」

「随分な言われようね。私たちが貴方の人生を滅茶苦茶にしたって言いがかりをつけて、そうやって逃げるのかしら?」


 ちょっと待て! この女……私たちがって言ったのか?


「何をそんなに驚いているのかしら? あー……そういえば、ちゃんと名乗っていなかったわね。私は大地の女神シェルノアールよ」

「そんなのどうでもいい! なんで、こんな酒場に堂々と人間の姿で現れてる!?」

「それは大丈夫よ。ここに居る人たちを、みんな魅了しておいたから」


 魅了……って! なんだ……このとんでも女神は……。


「そんなことしても、あとから来たヤツに話の内容を聞かれたらどうすんだ!」

「それなら問題ないわ。私が居るだけで、ここに居る者の全てを魅了できるのですもの」

「とんでもない……女神だな」


 どうにかして、この場をやり過ごしたい。

 もう勇者なんて懲り懲りだ。

 勇者になったためにオレは家族と絶縁。

 彼女ができる訳でもなかった。

 人のために尽くして来たのに、なんの報いもない。

 魔王を倒した時だってそうだ。

 最初だけ祝ってくれたが、あとは何もなかったように振る舞われる始末。

 その後、何もすることのなくなったオレは今いる町……サラノアに辿り着いた。

 この町では誰もオレが勇者だったことを知る者なんていない。だから居心地は最高に良かったんだ。

 それなのに、ずっと音沙汰もなかった神が……なんで今更オレの前に現れる?


「褒めてくれて……嬉しいわ。そうそう依頼なのだけど受けてくれるわよね」

「オレは神の願いを聞く気なんてない。それに勇者になれるような若いヤツは他にも居るだろ」

「神が選んだ勇者は一人だけよ。そう貴方は死ぬまで勇者なの。だから……依頼を受けてくれるわよね」


 死ぬまで……オレは一生、勇者であり続けないといけないのか……。


 それを聞いたオレは絶望で何も考えられなくなる。


「受けるも何も……殆ど強制じゃねえかよ」


 オレは泣きたくなった。


 その後、仕方なく依頼を受ける。

 内容は邪龍マッドギオンを倒すことだ。

 仲間を募って討伐する訳じゃない。

 そうオレは一人で邪龍の討伐に向かった。

 苦戦するも邪龍を倒して女神シェルノアールに報告する。


 その後、再びサラノアの町に戻って来たオレは目の前の光景に驚き絶句した。

 そう町の入り口では、この国サーデア……バギアス城からの使者が待ち構えていたからだ。


「女神さまからの啓示が司祭さまへと降りました。そのため勇者バンフェルズ・ライシェル様……貴方を御迎えに……」

「待て! なんでオレだって分かった? そもそもおかしいだろ。誰にも告げず町を出てって……討伐から帰ったらバギアス城の使者が待ってるってよ!」

「身なり……風貌、年齢を女神さまは司祭さまに告げられました」


 そういう事か……どうする? できれば逃げ出したい。これ以上、関わりたくないからな。

 それに褒め称えられるのは最初のうちだけだ。


「オレは疲れてる」

「そう思いまして馬車を用意させておりますので御安心くださいませ」

「どうしても行かないと駄目か?」


 ニコッと笑い使者の男は頷き手をオレに差し出した。


「なんのつもりだ?」

「疲れているとのこと……僭越ながら私が馬車まで誘導させていただきたく」

「そういう事か……分かった。そこまでしてくれるってなら城に行く。だが、そのあとは知らないからな」


 それでもいいと城の使者に言われて、オレは渋々手をとり誘導してもらって馬車に乗り込んだ。


 その後、城に着くなり待っていたようで歓迎されパレードが行われる。そして邪龍を討伐した英雄として勲章をもらった。


 まあ、ここまでは予想通りだ。

 この時のオレは何時もの通り数ヶ月、長くて数年も経てば何もなかったように忘れ去られる存在になるんだろうと思っていた。

 そうかつて、そうだったようにな。


 だが予想とは裏腹にオレのことを忘れないため勇者……英雄バンフェルズ・ライシェルの像がたった。

 それだけじゃない……書物にオレの今までの業績や歩んで来た道のりが記載されたのだ。


 今まで、こんなことをされた覚えがない。

 嬉しさのあまりオレは涙を流しそうになる。

 その後も目を疑うことが続いた。

 そう、この城の王女と結婚して欲しいと言われたのだ。


 この城の王女は、アリーネ・B・サルジェ。二十歳になったばかりでオレからすれば若すぎる。

 それだけじゃない……国王には男子が授からず五人ともに女子ばかりだ。

 それに噂だと第一王女は性格が悪くて容姿もそんなによくないと聞いている。

 そのせいもあって結婚できなかったらしい。

 ってことは要はオレに押し付けたくて……まあ、でもそれだけでオレに国を任せるなんて言葉を王が言う訳ないのだろうけどな。

 それにオレは一生……結婚なんてできないと思っていたから政略でもなんでもできるならいいかと思った。

 そんな覚悟の下で、オレは了承してアリーネと対面する。


 逢う場所は城のバラ園にあるガーデンテラスに設置されているテーブルや椅子が置いてあるスペースだ。


 こんな所を指定してくるなんて思ってたよりもロマンチストなのか?


 そう思いながらバラ園の門を潜り待ち合わせ場所へと向かった。


 待ち合わせ場所まできたオレは間違えたのかと思い他を探すため立ち去ろうとする。

 そうそこには美しい女性が居たからだ。


「待ってください! 勇者バンフェルズ様」


 そう呼び止められオレは振り返った。


「何処に向かわれるのですか?」

「待ち合わせをしている王女アリーネ様の所に……だが場所を間違えたようだ」

「クスッ、それなら……ここで良いのですわ」


 その言葉を聞き自分の耳を疑い首を傾げる。


「まさか……いや聞いていた噂とは全く違う。貴女のような美しい女性が……アリーネ王女なはずがない」

「どんな噂を聞いたのか分かりません。ですが……ワタシは紛れもなくアリーネですわ」


 強い口調で言われ一瞬たじろいでしまった。かなり気が強い女のようだ。


「じゃあ婚約を、みんな断られ続けたって噂も嘘なのか?」

「それならば逆ですわ。ワタシが全て断りましたの」


 なるほど……アリーネに断られた連中が、ありもしない噂を流したってことか。


「それじゃあ、オレとの話もなかったことにするのか?」

「それはあり得ません。だってワタシが望んだのですもの……勇者さまとの結婚を」


 今まで言われたことのない言葉を耳にしたオレは信じられないと思い、これって夢なんじゃないかと考えてしまった。


「信じられない……これは夢だ。そうだ……女神がかけた夢の魔法に違いない。こんなオレに、いいことが続くなんておかしいからな」

「いえ夢じゃないわ。それに女神さまの魔法なんてかかっていない。でも、もしそうだとしてもワタシは嬉しいです。かつて夢みていた勇者さまと結婚できるのですから」


 オレのことを? それとも御伽話に出てくるような勇者とか?

 後者だとしたらオレのことを知って残念に思うんだろうな。


「御伽話に出てくる勇者とオレは違う……そんなに好意を持たれるような存在なんかじゃないぞ」

「そんなのは当然ですわ。ワタシは勇者バンフェルズ様のことを言っているのです。昔、単身で魔王を討ち取った武勇伝をナイギゼアの国で聞いた時には胸を躍らせました」

「ナイギゼアと言ったら……魔王の討伐を依頼された最初の国だ。そういえば……魔王を倒すのに何年も時間を費やしたせいで忘れていた」


 なぜあの時ナイギゼアの国のゼッセル城に赴きカルムゼア王に報告しなかったのかと悔やんだ。

 今アリーネから聞いた話が本当で立ち寄っていたなら何か今とは違った道を歩んでいたのかもしれないと思ったのである。


「そのおかげで、こうしてワタシはバンフェルズ様を知り逢うことが叶いました。これも神の導きですわよね」

「これも運命だって言うのか?」

「ええ……ワタシとバンフェルズ様が逢うためのですわ」


 そんなロマンチックなことが現実に存在していいのか?


「そうだとしても……オレは四十二歳でオッサンだ。アリーネ王女には、もっと相応しい若い男がいいんじゃないのか?」

「ワタシが嫌いですの?」

「いや嫌いじゃない! 貴女が……あまりにも綺麗で若い。だからオレなんかには勿体ないと思って……な」


 そんなことを言ったオレを否定するどころかアリーネは笑みを浮かべている。


「そんなことはありません。バンフェルズ様は素敵な殿方ですわ。それにワタシは歳なんて気にしませんのよ」


 そう言われオレは断る理由を失った。いや嬉しかったのだ。

 こんなにオレのことを好きになってくれる相手に巡り会えた。それも、こんなに美人でしっかりした性格の女性にである。


 その後オレは暫くアリーネと話した。


 それから数ヶ月間、忙しい日々を過ごす。

 そう婚約を正式に行なったあとオレは結婚式までの間、色々な準備や覚えることなどがあったためである。

 そんな日々の間……なぜか絶縁だった家族がオレに逢いたいと面会を求めてきた。だが最初オレは断る。

 しかしそのことを聞きつけたアリーネに逢った方がいいと言われた。そのためアリーネと共に逢うことになる。

 そのことについては失敗したと思った。

 なんとなく予想はしていたのだが家族は絶縁をなかったことにした見返りに役職を求めてきたのだ。

 それを聞いたアリーネは最初、当然のことだと言ってくれた。

 だが家族と話をしているうちにアリーネの怒りが頂点に達したらしく喧嘩になる。

 そのためオレは完全に家族と絶縁になったのだ。

 まあ、それで良かったのだけどな。


 そして月日が流れてオレは無事にアリーネと結婚することができた。

 その後のオレは充実な毎日を過ごし男子二人と女子三人、計五人の子供を授かる。


 ……――今までの道のりを、ふと思い返していた。

 自分の歩んで来た道のりは、そんなに平坦じゃなかったが充実していたんだと思い脳裏に浮かべる。

 そして前国王が亡くなり、オレはこの国の王となった。

 更に気持ちを引き締めていかないとと思い大変だが楽しい日々を満喫する。



 ――そしてバンフェルズは生涯をこの国のために捧げ充実した毎日を過ごす。

 それから月日が経ち九十歳になったある日、病を患い家族に看取られながら人生の幕を閉じたのだった――

読んで頂きありがとうございますo(^-^)o


また書く機会がありましたら、よろしくお願いします(*´ω`*)

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― 新着の感想 ―
バンフェルズ、報われて良かったです。 面白かったです。
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