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似顔絵

作者: 通りすがり

女子高生の桜が通っている学校の近隣には大きなショッピングモールがある。そこには桜が好きなアイドルグループのショップがあり、同じようにそのアイドルグループのファンであるクラスメイトの友人星奈と月に2~3回くらいの頻度で通っていた。

ある日、桜は学校の帰りにショッピングモールに行こうと星奈を誘ったが、星奈はその日は別の予定があるために行けないと断られてしまった。

いつもならば一人では行かずに帰宅する桜だったが、その日は一人でそのショッピングモールに行くことにした。実は桜にはアイドルグループのショップ以外に目的があった。

そのショッピングモールには各所にフリースペースがあり、そこに出店できるようになっていた。

そして、そこには多数の似顔絵描きの店が出ていた。

桜は以前から似顔絵に興味があったが、似顔絵を描くとなると一緒にいる星奈を待たせることになるため遠慮をしていた。

一人であれば遠慮なく似顔絵を描いてもらえる。

桜はショッピングモールに着くなり、似顔絵描きのいる場所を見て周った。

似顔絵を描くといっても描く人ごとに絵の特徴が全然異なる。

写実的に描く人もいればデフォルメして描く人もいる。

それぞれ似顔絵を描くスペースには自身が描いた絵を飾ってあるので、どのような絵を描くのかの参考になる。

とりあえず一通り見て、どの人に描いてもらうかを決めようとショッピングモールの中を隈なく見て周った。

一通り見終わり、さてどの人に描いてもらおうかと悩んでいるとき、ふと目をやった先に、床に椅子を置いて座る女性の姿が見える。

そこはショッピングモールの端にあたる場所で周囲にはお店はなく、ほとんど人が近寄らないような場所だった。

その女性は黒いシャツに黒いズボンという全身黒といった服装。髪の長さが胸の位置くらいまであり、少し俯き加減のため顔は良く見えない。

女性が座る横に画材道具が置かれているので、この女性も似顔絵描きだろうと思えた。

だが他の似顔絵描きの人が自身が描いた絵を周囲に置いているのに対して、この人の周囲には絵は一切置かれていない。

あるのはなにやら小さな紙で作られた看板のようなものが女性の座る前にポツンと置かれているだけだった。

その女性がいるところと桜がいるところでは少し距離があったため、その看板らしきものに何と書いてあるのかわからない

桜はそこになんと書いてあるのか見ようと少しずつ距離を縮めて言った。

辛うじて看板の文字が読める距離まで近づく。それとなく看板に目をやるとそこには黒い文字で『似顔絵』とだけ書かれていた。

やはりこの人は似顔絵描きだった。

だが、どうして他の人のように自身が描いた似顔絵を飾らないのだろう。

どのような絵を描くかわからないと、この人に似顔絵を描いてもらおうという人はいないのではと思う。

その時、桜の存在に気づいたその絵描きの女性は顔をあげて桜を見る。

絵描きの女性と目があう桜。

その目は切れ長の一重で、少しだけ怖く感じられた。

桜は焦って慌てて目線をそらしてしまう。

桜はどうしようか少しだけ悩んだが、一旦この場を離れようと絵描きの女性とは反対方向に足を向けた。

その時、背後からその絵描きの女性に声をかけられた。

「似顔絵......描きますか」

低く掠れた声で聞きづらかったが、そのように聞こえた。

桜は一瞬どうしようかと悩んだが、無視して立ち去るのは失礼だと思い、振り返り絵描きの女性を見た。

「すみません、実は今どの人に似顔絵描いてもらおうか見て周っていたところです」

そこで少し間を空けて絵描きの女性の反応を伺うが、なんの反応もみられない。

「できればどのような絵を描くのか見本のようなものがあれば見せてもらいたいのですけど」

するとその絵描きの女性は表情を変えずに答えた。

「ないです」

「そうですか......」

桜はこのままその場を立ち去ろうかと思った。

だけど、なぜ他の絵描きのように見本を置かないのかがどうしても気になっていた。

桜は思い切ってそれを聞いてみることにした。

「あの、どうして見本を置かないんですか。他の似顔絵描きの人たちはみんな自分が描いた絵を置いてますよ」

その絵描きの女性は身動ぎもせず、ただジッと桜のことを見ていた。そこからはなんの感情も読み取ない。しばらくしてやっと絵描きの女性は口を開いた。

「私の描く似顔絵は他の人が描くものとは違うので」

違うとはどう意味だろう。似顔絵に違うもなにもないと桜には思えた。ハッキリしない会話に少しだけ苛立ちを桜は感じ始めていた。

「どう違うのですか」

言葉のイントネーションに苛立ちの感情が少しだけ出てしまって桜はハッとしたが、似顔絵描きの女性はまったく気にしていないのか表情は変わらない。

絵描きの女性はただ黙って目の前に置かれている看板を指さす。

桜は看板に目をやった。

そこには先ほど見た『似顔絵』の上に、それより小さい字でこう書かれていた

「霊の」

桜はそれを見て「えっ!」と声をあげたまま、しばらく何も言えなかった。

似顔絵描きの女性はその様子を見ても変わらず平然とした様子だった。

「この霊って......どういう意味ですか」

似顔絵描きの女性は不気味に感じるほど淡々とした口ぶりで話す。

「あなたに付いている霊の似顔絵を描きます」

桜はもはや何と答えていいのかわからなかった。

桜が何も言えずにいると、似顔絵描きの女性は桜に再び聞いてきた。

「似顔絵描きますか」

桜は目の前の似顔絵描きの女性に対して急に恐怖が込み上げてきた。その場にいることが耐えきれず、振り返ると全速力でそこから走り去った。



翌日、学校で桜は星奈に昨日ショッピングモールであった変わった似顔絵描きのことを話していた。

星奈はそれを最初は冗談だと思って笑って聞いていたが、真剣な様子の桜を見て本当の話なのだと思ったらしい。

「なにそれ、気持ち悪いね」

「怖くてそのまま家に帰ってきちゃったから、結局似顔絵も描いてもらえなかったし。ほんとうに最悪」

その時、クラスメイトの女友達、美月と結衣が、二人の会話が聞こえてきて興味を持ったらしく、横から話に加わってきた。

「ねぇ、何の話?」

「実はさ......」

そうして桜はあらためて昨日にあったことを美月と結衣にも話して聞かせた。

「ねぇ、それって、後ろにいる霊なら守護霊のことじゃない」

なぜか嬉しそうに美月がそう言うと、結衣も絶対そうだよといいながら、こちらも嬉しそうに笑っている。

桜と星奈がキョトンとした様子でそれを見ていると、美月がそれに気づいた。

「私たち、最近そういうオカルト系の話にハマってて、コックリさんとかもやってるの」

「自分の守護霊を見られるなんて最高」

美月と結衣は、桜にその似顔絵描きのところに連れて行ってくれるように頼んだ。

桜はもうあの絵描きの女性とは関わりたくないと思っていたため、行きたくはないと断った。

美月と結衣は、ならどこにいるのか場所だけでも教えてほしいと頼んでくる。

桜は自分が一緒に行かなくていいならと美月と結衣にあの似顔絵描きがいた場所を教えた。


その翌日、美月と結衣は学校に来るとすぐに桜に話しかけてきた。

美月と結衣は前日の学校の帰りにさっそくショッピングモールに似顔絵描きに会いに行った。

そして桜が教えた場所にその似顔絵描きの女性はいた。桜が話した通りの見た目だったのですぐにわかったらしい。

美月と結衣は、自分たちの守護霊の似顔絵を描いてくれるようにお願いした。

しかしその似顔絵描きの女性に「できない」とあっさりと断られてしまった。

まさか断られると思っていなかった美月と結衣は困惑した。そして、どうして描いてもらえないのかを執拗に聞いた。

すると似顔絵描きの女性は感情のない表情のまま答えた。

「違う。私が描くのは守護霊なんかじゃない。その人に取り憑いている霊」

似顔絵描きの女性はそこで初めて少しだけ語気を強めた。

「あなたたちの後ろには霊はいない。だから描けない」

そう言われてはどうしようもなく、美月と結衣は諦めて帰ってきたとのことだった。

桜はその話を聞いて一つだけ気になることがあった。あのとき桜は、似顔絵描きの女性に「描きましょうか」と言われた。

美月と結衣は描けないと言われたのに。

ということは、つまり.......。

そのとき美月が思い出したように言った。

「あっ、そういえば桜がその似顔絵描きは見本とか全然置いてないっていってたけど一つだけ似顔絵が置いてあったよ」

となりで結衣もそうそうと、頷いている。

「あの絵、上手だったな。女の子とその後ろに立つスーツ姿のおじいさんの絵。そういえばその女の子桜と似てたな」

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