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ぼくより1秒だけ長生きしてよ

作者: みちる

「健康診断はしっかり受けてね」


「いやまぁ会社から言われるからちゃんと受けるけど」


「去年みたいに仕事忙しくて流したりしない?」


「……多分」



多分じゃだめ、と若干怒り気味に言われる。

ちゃんと手を抜けるとこだけ抜いてるし、過労死とは無縁だと思ってるけど。

毎日お酒を飲むわけでも煙草を嗜むわけでもない。

だから、同年代の普通より血液検査の結果とかいいはず。



「……そんな不健康でもないよ、ぼく」


「知ってるけどさぁ」


「きみより長生きはしたくないけど」


「えっそれなんかイヤかも」



わたしが残されるってことでしょ?と目を見つめてくる。

その眼球に弱いってわかってるからたちが悪い。

白目がちな、その視線。


心にもないいいことを言いそうになっちゃうから誤魔化すように、ぼくの膝の上に乗せる。

温かい。


きみの肩に顎をあてて会話の続きをうながす。



「よくさぁ。残された悲しみを与えないために後に死ぬのが愛、とか聞くじゃん……?」


「残されたら死にたくなるからだめ。ぼくが先で」


「えぇ……自分勝手すぎる。私だってそうかもでしょ」


「ううん、そうでもないでしょ。あとどっちかっていうときみの方が身体弱いし、気をつけてもらわなきゃ」


「風邪を引きやすいだけですー」



風邪は万病のもとっていうのに。

まあそれでも、どうしようもないことがあるかもしれない。

人の生死なんて紙一重って思ってるし。

でもぼくはこういうときだけ言霊を信じるからね。



「ぼくが絶対先。でも残したあとに他の人のところにいっちゃだめ」


「そこは別の人と幸せになってねじゃないんだ?」


「…………やだ。だめ」



たとえそれが明日でも。

ぼくは心が狭いから許容できないと思う。


ひゅー、どろどろって音と共に化けて出ちゃうと思うよ?



「幽霊は怖いからNGで」


「ひどい」


「どっちが!?」



じゃあ、なにが一番いいのかな。

及第点はどこだろう。



「うーん、じゃあね、ぼくが死んだ1秒後にお迎えに行く」


「死神じゃん」


「天使かも」


「自己肯定感の塊すぎる」


「実際はその自己よりきみのが大切だけどね」


「うわ、ずるい」



うん、ずるいよね。

こうやって言葉で縛っておけばきみはきっとぼくを忘れないでいてくれる。

別れたとしても死んだとしても、他のやつと幸せになってもきっと。



「愛してるからね、ずるくもなるよ」


「それはわからないかも」



うん、わからないでいて。

きっと全てを言わないことで自己愛の塊に見えるから。

でもぼくの自己愛ごと全部受け止めてくれるでしょ?

そのかわりぼくなんかよりきみを優先して大切にして生きていくから。


願わくば一生、ぼくといてね。


そしてぼくより1秒だけ、長生きしてね。

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