王都へ
レッドドラゴンとの戦いの後ラルクは村でアルマに治療を受け、レイシアも足を治してもらい、その二日後に三人は王都へと旅立った。
まあ旅立ったとは言っても、せいぜい歩いて5時間程度の距離だが。
その道中の街道、ラルクはうさぎ跳びをしながらアルマに話していた。
「なあアルマ。やっぱりいろいろ考えたけど、優勝はきついと思うぞ」
「ふむ?お前も決してそこまで弱くはないと思うが」
「そりゃまあ俺は、学力テスト9回連続最下位の中在籍できているだけあって、一応学園でもそこそこ強い方だと思う」
「は……?」
「正直誰を相手取ったとしても、運が良ければ勝てなくはないはずだ」
「なら、」
「学園三傑を除いて」
学園三傑?とアルマが首を捻る。
「何だその、ミーハーな」
「今年の3年にはやたら強い人がいるんだよ。今までの代と比べても、格が違うって言われている三人が」
「ふむ、格が違うか。どの程度?」
「俺じゃたぶん10秒もたない。アンタでも、勝てるかどうか正直怪しい」
「それは厄介だな」
そうは言いながらも、彼は軽い口調であった。
「それは厄介って、そう思っているんなら」
「勝てそうにないのはそいつらだけか?」
「え、ああ、うん」
「分かった、なら俺がなんとかする」
「なんとかするって……、」
この時ラルクは、仮面の奥から微かに覗く漆黒の双眸を見た。
黒い決意に染まった、純粋な瞳。
「俺は、目的の為なら悪にもなろう」
「……それは、」
ラルクは、アルマが単純に善人と呼んでいい人間ではないことを理解していた。
確実な勝利の為にラルクの大怪我を許容したように、彼には目的達成の為ならどんなことでもしかねない悪癖があった。
と、そこでラルクの鋭い目に気が付いたのか、彼はふむと一息ついて、
「まあ、自分から頼んでおいてなんだが、俺に協力するかどうかは少し考えると良い。少し小用に行ってくる」
アルマはラルクの不安げな視線と、レイシアのどこか嫌なモノを見るような視線を背に受けながら、向こうに歩いていった。
しばらくして、彼がいなくなったのを確認してからレイシアが口を開く。
「……騎士様」
「はい、なんでしょうか?」
「貴方は本当にあの男に、付いていくのですか?」
「……」
彼女はアルマがいる時、意図的に口を閉ざしていた。彼女がアルマを嫌っているのは明白だった。
「言っておきますが、レイシア様。アルマは貴女を助けた、いわば命の恩人なわけですよ」
「でも彼は貴方が傷つくリスクを、あるいは死ぬリスクを許容しました。自らの安全の為に」
「……それは、」
否定はできなかった。
レッドドラゴンとの戦いで、アルマが助けに来るより先に、ラルクが死んでも全くおかしくはなかった。アルマがラルクとレイシアを救ったというよりかは、ラルクが先に危険を押して助けに来たというのが正しいところなのだ。
彼女はおそらくそれで、アルマのことが嫌いになっているのだ。思わず彼は擁護するために口を開いて、
「でも、アイツはやるべきこと、責任があると言っていました」
「……それは仲間を見捨てる理由になるのですか?」
「確かに……、いやでも、」
「私、目で見た相手の能力が分かる『ギフト』を持っているんです」
ギフト。それは人間が先天的に極低確率で持つとされる特殊能力のことだ。
魔法や魔力とは一切関係がなく、なぜこんなものが存在するのかはいまだに謎に包まれているが、レグ二アヴェクスという高名な宗教者が、ギフトを著書の中で神が授けるモノとしたことが名前の由来となっている。
ラルクはへえと感心して、
「珍しいですね。ギフト持ちなんて、今までに3、4人しか見たことがないですよ。……ん、でもそれがどう話に関係するんです?」
「これは具体的には魔力量、筋力、敏捷性、体力などと言った、いわば戦闘能力に関することが分かるギフトなのですが……、あの男は途方もなく強い。あの人、レッドドラゴン相手なら100回やって100回勝ちますよ。それも無傷で」
「……!?」
それは実に、妙な話だとラルクは思った。
ならなぜアルマは颯爽と、彼女を助けに行かなかったのか。なぜラルクを危険に晒したのか。
「そもそもの話ですが、仮面を着けている時点で、換言すれば身元を隠している時点でやましいことがあると言っているようなものでしょう」
「……それは、そうかもしれませんが、」
「騎士様。清く在りたいのなら、貴方は彼と、金輪際関わらないでください」
きっぱりとした断言だった。そしてアルマが悪人である可能性を、どうもラルクは否定しきれなかった。いや、彼の頭の中では否定しきれていたのだが、それをレイシアに説明することは不可能だった。
だから彼は、仕方がなく、
「……俺は清くあるより、正しく在りたい。アイツには、命の恩があるんです。妹の命の恩が」
「それが、」
「例えアイツが悪人だとしても、人に迷惑を掛けないうちは助けるのが道理でしょう」
「……」
不安そうにレイシアが見つめてくる。
ああ、くそ、言葉を間違ったなと彼は内心悪態をつく。
たとえどれだけ不審な要素があろうと、納得できないことがあろうと。
俺の妹を助けていたとき、あんな顔をできる人間が、悪人のハズはないのにと。
「話は終わったか?」
そうしてしばらくして、アルマが戻ってきてしまっていた。10分ほど、流石に十分な時間だと思ったのだろう。
「ええ、終わりましたとも」
「……まあ、終わったということでいいかなあ?」
「なら行くぞ」
彼ら一行は、再び歩き始めた。
先頭のローブの男を睨むレイシアを横目に見て、これから先もずっと、アルマはその暗い道を歩み続けるのだろうかと、そんなことを思った。