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ロード・オブ・エリクシル  作者: ナムル
第一章 旅路の始まり
3/71

VSレッドドラゴン

 レッドドラゴン。それは最も個体数の多い竜種であり、出現の度に甚大な被害を討伐隊に与えたために、王国騎士団のマニュアルにもこう記載がある。


『これが出現した際には、必ず上級騎士を含めた7人以上の騎士隊で以て対応すること』


 要するに、大人の騎士でも普通は一人では勝てないのだ(例外もそれなりにいるが)。

 ラルク一人ではほぼ確実に死ぬという彼の見立ては正しい。


 今彼は金髪の少女を背に、赤いうろこの巨竜と向き合っていた。


「……あ、貴方は」

()()()()のラルクです。貴女を助けに来ました」

「騎士様!?あ、ありがとうございます!」


 ちらっと横目で見ただけだが、意匠をこらされ、宝石などのちりばめられたドレスを着ていることから、彼女はおそらく貴族であろう。

 そんな彼女は右足を包帯でぐるぐる巻きにしていた。骨折か。


 怪我をした守るべき美少女。強大な竜。

 彼はそんなこと意識しないが、英雄の戦闘としては完璧なシチュエーションだった。


 ……ただ一つ、


「ぐるるる、」

「……くっ、」

「グギャアアアアアア!!」


 相手があまりに、強大すぎることを除けば。


 竜が彷徨を上げる。大地が木々が激震する。

 軽く見積もってもラルクの5倍近い魔力量。なぜだかそれは少しラルクのことを警戒しているようだったが、実際は警戒するまでもないだろう。


「だけど、戦うしかないのなら、俺は戦おう」


「……騎士ラルク、いざ参る」


 勇気を振り絞って、ラルクは鋼の剣を振り上げ襲い掛かった。


 30m近い巨大。刃渡り1mほどのこの剣で胸を突いても心臓までは届かないし、手足を切っても機能不全に至らしめることは不可能だろう。

 ゆえに、狙うのはその首。動脈を裂けば、いかに竜とて致命傷になるはずだ。


 ラルクは木々を蹴り、縦横無尽に宙を駆ける。

 

「うおおおおお!!」


 彼が首に向かって跳躍するとともに、竜の爪が横なぎに振るわれる。まともに食らったら即死だろう。


「やあっ!」


 しかし彼は剣で前足を叩き、その反動で上昇する。

 しなやかで素早く、しかも力強い。

 

 彼は反動で飛びあがった後、彼のいた場所を通過していく竜の前足を蹴った。

 もはや竜の首は、目前だった。


 そのまま彼は、剣を竜の首に突き立てて……、



「硬っ!!?」


 しかし剣は竜の首の、表皮を裂いたところで止まった。

 瞬間、もう片方の前足がラルクを襲う。


 空中、竜の首を蹴って避けようとして……、間に合わなかった。


「ぐあああっ!!」


 ドゴン!

 ラルクは殴られた勢いで、錐もみ回転しながら後ろの大木に激突する。

 

「騎士様!?」

「ぐっ、大丈夫、です。受け身もとれたし、食らう寸前で後ろに飛べた」


 そうは言いながらも、彼は血塗れだった。骨折こそしなかったが、体中から血が流れ、まともに食らった右肩の関節は外れてしまっている。


「関節は、……ふん!!」


 彼は無理矢理に肩関節を別の手で入れこんだ。激痛が走る。だがしかし、動くようにはなった。


「……普通の技じゃ、通らないのか」

 

 レッドドラゴンは速度でいえばラルクより遅い。パワーも相当なものだが、彼を即死させられるほどではない。


 ただ、頑丈なのだ。

 鋼の強度を持つ分厚い鱗と、異常な密度を持つ肉に覆われた竜に対して、有効打を与えるのは至難の業だろう。


「やっぱり俺よりずっと強いな」


 認める。普通にやっても、勝てはしないと。

 ……矢庭にラルクは、剣を両手で上に構えた。


「天剣流、二の太刀要らず!」


 この世界には、二大流派と言われる剣の流派がある。

 まず一つ目が、片手の盾による鉄壁の防御と、もう片手の小剣による鋭いカウンターを軸とする『無敵流』。

 

 そして二つ目が、両手で剣を持ち、膂力と速度で相手を圧倒することを趣とする『天剣流』だ。

 これは王国騎士のほとんどが修めている流派で、自然ラルクも使い手であった。


 この攻撃的な流派の中でも、『二の太刀要らず』は全体重を前に預け、重心を叶う限り前に出し、できる限り速度を乗せ、両手で振り下ろした剣で相手を切断するという馬鹿げた技だ。

 これは避けられようものなら莫大な隙を晒すことになる。


「うおおおおおおぉッ!!」

「ぐるるるる、」

 

 しかし威力は絶大。膂力次第では相手の防御を貫通することもできる。

 対する竜は口を大きく開けた。その口の前に、巨大な火球が形成されていく。だが、


「遅い!」


 それより先に、爆発するような踏み込みでラルクは距離を詰めていた。

 竜の巨体の懐に、潜り込む。


「……速い、」


 金髪の少女がそんなことを呟く。竜も言葉こそ話さないものの、驚いているようだった。

 既に彼は刃圏の中に竜を収めていた。


「食らえ二の太刀要らずっ!!」


 ラルクが剣を振り下ろし、そして音を立てて、宙を舞った。


 ()()()()()()()()()()()


「……え?」


 剣は半ばから、溶かされていた。

 ラルクはここで気づく。10を超える火の玉が、竜の周りに浮かんでいることに。


「嘘、だろ、」


 そのまま竜が、無防備なラルクに向かって前足を振るう。何メートルも木々をなぎ倒しながら彼は吹き飛ばされていった。


「ぐあああああああっ!!!」

「騎士様!!?」


 貴族の少女が狼狽したような声を出す。ラルクの全身から血が噴き出し、直接攻撃を喰らった右わき腹は肉が裂け、中の肋骨まで折れてしまっていた。


「う、ぐ、」


 受け身を取れなかった。もろに食らった。

 激痛が走る。それだけでも想像を絶する苦しみだというのに、その上レッドドラゴンが一歩一歩、容赦なく距離を詰めてくる。


 速度は速くない。

 まるでそれは瀕死の獲物を嬲るように、ゆったりとした足取りで。


「う、ぐっ、このレベルの魔力制御、魔物がなんで、」

「……騎士様、」

「っ、」


 ふと、貴族の少女と初めて目が合った。逃げていないだろうかと、直前に声がしたのにありえない希望に縋ってしまった。


 逃げられてないのなら、戦わないわけにはいかない。震える膝に無理矢理力を入れて何とか起き上がるが、ダメージは大きい。


 そんな彼の思いが伝わってしまったのか、少女は気づけば口を開いて、


「騎士様、もう逃げてください!」


 情けないな、とラルクは思った。結果だけ見れば負けているが、何回か勝てるチャンスはあった。きっと弱気のせいで心配されているのだ。

 ……実際のところも、わかってはいたが。


「いえ、なんとか。まだギリギリ、戦えます」

「……ッツ、」


 彼の悲惨な姿に、彼女は眼を瞑る。


「……さて、」


 ラルクは後ろの少女のことは一旦意識から外す。

 すべての意識を、打倒すべき敵に向ける。


「……にしても、妙だ」


 ラルクは竜を見つめる。

 通常、竜族は魔力量こそあれど、魔術を使うことには長けていない。


 魔術とは、体内の魔力にイメージの力によって指向性を持たせる術のことを指す。

 そしてイメージするといっても、そのイメージがまた難しい。


 例えば火属性の魔法を使うとして、炎が燃え盛り、相手に飛んでいく様をイメージするとしよう。

 いったいどれだけの訓練を受けていない人が、不規則に揺らめき赤く青く燃え盛る炎を完璧に想像できるだろうか。

 いったいどれだけの人が、炎の始点と終点を定めて飛んでいく軌跡を完全に想像できるだろうか。


 想像が完璧でなければ魔法は発動されない。

 ゆえに人間は、魔法を体系化した。


 体系化された魔法は他人も使っているわけだから、換言すると他人の使っているのを見ることがあるわけだから想像がしやすい。

 それに名前(火球(ファイアーボール)など)がイメージを楽にし、また想像するためのコツが書かれた指南書などがさらに発動を容易にしている。


 人間などのごく一部の高い知能と社会性を持った生物だけが魔法を体系化し、うまく操れるようになっただけで、他の生物が魔術を発動させるのにはその生物なりの手順が必要なのだ。


 例えば竜は、吐息に火属性の魔力を乗せることによって、魔法を発動させる。これ以外の方法だとイメージが不完全となり、魔法は発動できないだろう。

 

 だからブレスの発動さえ間に合わせなければ勝てると、ラルクは判断したのだが……、


「……貴族様。コイツはレッドドラゴンの中でもとびきり知能が高く、魔法の扱いに長けた奴です」

「そんな!」

「まさか魔法を、人間の上位の魔術師とも変わらない技量で扱うだなんて。少なくとも俺は、こんな竜がいることを知りませんでした」


 彼がそう言うと、その竜は眼を細め、ニタリと笑ったように見えた。


「でも絶対に勝てない相手ではない。攻撃を与える部位によっては、致命傷を与えることも可能なはずです」

「……騎士様」

「首はたぶんさっきので警戒されました。次は眼を潰します」


 今度は彼は、片手で剣を突き出すように構えた。


「天剣流、曲刺突」


 再び彼は、竜の顔めがけて飛び掛かる。 

 瞬間、竜の魔力が高まった。魔法の前兆。


「目を潰せば、貴族様を追うどころじゃなくなる。刺し違えてでも潰す」 

 

 このときラルクは、怒りもなければ恐怖もない純粋な眼をしていた。竜は魔法の発動に専念しているのか、体を動かさない。


 首に向かって、剣を突き出す。


「なぜまた首に!?」


 少女が叫ぶ。先ほど首は、貫通出来ないと知ったはずだ。それとも突きならいけるのだろうかと彼女は思って、


「言ったでしょう?目を狙うって」


 その瞬間、ラルクは自らの剣の腹を蹴り上げて、剣の軌道を上に変えた。

 天剣流上級技『曲刺殺』。

 それは自らの肉体を剣の腹にぶつけて、無理矢理に軌道を曲げる技だった。


「うおおおおお、喰らえっ!!」


 剣が竜の右の瞳に吸い込まれていく。そして、


「避けてくださいっ、騎士様っ!!」

「なっ!?」


 気づくと火球が、竜の眼の前に浮かんでいた。剣が一瞬で、溶かされていく。


「ばかな、なんで、」


 対応されたと言おうとして、その時にはもうそれは追撃を行っていた。

 即座に竜が前足を振るう。


 なんとかラルクは飛びのいて、それを躱す。が、


「がっ、ああっっ!?」


 爪の先が、掠っていた。

 爪とは言ってもそれは、人間の爪などとは比較にならない。鉄板以上の強度を持ち、人の手ほどもある、まさに獲物を狩るための武器だ。


 皮膚が裂け、ドバドバと右腕から血が流れ出る。

 ラルクはマズイと思った。


 筋肉が断裂して、右腕が、上がらない。


「……う、ぐっ、」


 ふと、竜の爬虫類のような双眸が、彼を見竦めていた。

 強大な捕食者としての竜。地平の王者、絶対者としての竜。


「……最後の願いです、逃げてください」


 後ろの少女がそんなことを言ってきた。やはり勝てないと判断されたのだろう。

 今なら逃げることも不可能ではないから、それはとても正しい判断だった。

 それでも彼は、首を振った。


「断ります」

「……貴方がいても、勝てる見込みは」

「それ、友人にも言われました」


 友人。アルマがこの場にいたら、それを聞いてどんな反応をするのだろうか。

 ともかくも彼は、巨大な怪物に向き直った。


「……なぜ、」

「ん?」

「なぜ貴方は、逃げないのです?」


 彼女は心底不思議そうにそんなことを言ってくる。彼は振り返ることもなく、


「それを言うことは、できません」


 それを言うことは、醜悪である。

 少女は一瞬目を見開いて、しかし首を振った。


「……質問を変えましょう。ここで騎士様はおそらく無駄死にになるというのに、なぜそれでも戦うのです」

「それも、決まっています」


 ふと、彼の脳裏にはアルマの言っていたことが浮かび上がっていた。命に対して責任を持てと。

 思うところはある。


 自分のやっていることは、自分の命に対して真摯ではない。自分のやっていることは間違っているという気すらする。


 ただ彼は、強く剣を握って、


「ここで逃げたら俺はきっと、また逃げてしまう」


 そう、とラルクは思う。


「アイツはきっと、いつだって錬金術師として責任と向き合ってきたんだ。でも俺はそうじゃない。人の命に関わることなんて殆どない」


「ここで逃げたら、今後も俺は誰一人救えない。命を失うことは怖いけれど……、魂を失うことは、もっと怖いんだ」


 ラルクは睨みつける。自分より遥かに巨大で強大な竜を。震える体を、鍛えてきた筋肉で抑えつける。

 

「奮い立て、俺」


 剣を体の横に構える。この怪我ではもう、剣を振り上げることはできない。

 だから今この状況で放てる、最も強い技を。天剣流、『空薙ぎ』。


「やってみせろ、俺ッ!!」


 既に距離はなかった。

 次の瞬間、凄まじい勢いで竜が再び前足を振るった。人の全身よりも遥かに大きいそれが、眼前に迫る。


 彼はこれを喰らってでも、剣を投擲しようとした。体を振る力で、竜の眼へと。

 

 当然彼は死ぬだろうが、構わなかった。少女を救えるのならそれで。

 刻一刻と、永遠のような一瞬の中で爪は彼に迫って、

 


 ぱあん。



「……え?」


 音がして、それの頭部が横に折れ曲がった。

 首の骨折。即死。


「え、はっ?」


 彼は呆気に取られた。


「一体、なにが、」


 竜の頭のあった場所の向こうを見ると、そこでは木々が何本もなぎ倒されていた。ラルクは気づく。

 

「魔法……?」

「ああ。魔法の中の、錬金術の応用だな」

「ッツ!?」


 彼が声のしてきた方を見ると、アルマがそこには立っていた。


「魔石と素材を合成して作るのは何も、薬だけじゃない。魔石から魔力自体を抽出することもできるわけだ」

「……お前、逃げるって、」

「ん?ああ、」


 驚いている彼と腰を抜かしている貴族の少女を彼は一瞥して、


「あれは嘘だ。おそらくあの竜が人語を理解できているからな。油断させるために言った」

「人語を理解できているって、そんなわけ、」


 ない、とラルクは言おうとして、あっと気づいた。


「そういえばアイツ、最後なんで曲刺殺に引っ掛からなかったのかと思ったけれど、そういうことだったのか……?」

「まあ正直真正面からでも十中八九勝てたが、先ほども言ったように、俺はまだ死ぬわけにはいかないんでな」

「ほえー」

 

 ラルクはすごい観察眼と発想だなあと感心する。

 これが錬金術師の知恵かと思って。


「……ふざけないでください。貴方のせいで、騎士様はこれほどまでに深い傷を負ったのですよ!?」


 それを聞いた貴族の少女が、キッとアルマを睨みつけていた。助けられたとはいえ、こんなことを聞かされれば嫌に思うのも当然だろう。


「待ってください貴族様」


 されど彼は彼女を制する。


「……騎士様、」

「悪そうに見えるけど、コイツは意外と良い奴ですから。……責任って、やつか。よりたくさんの人を助ける責任」

「……まあな」


 彼は一瞬だけ言い淀んだが、首肯した。


「俺も、いつかは、」

「こんな責任を持つことを推奨はせんがな」

「……あんなに俺に言ってたのに?」

「あれは竜を騙すためだ。敵を騙すなら味方からというだろう?」


 アルマは仮面で覆い隠された表情のまま、


「ただまあ、責任を持つことは悪い事じゃない」


「無能なりに弱者なりに、お前はお前の信じた責任を果たせ」


 ……本当に、凄いなとラルクは思った。

 風に木々と共に揺れる彼のコートが、どこか美しさと気高さを感じさせた。 


「すごいな。考えをしっかり持って、何でも知ってて。5年後10年後には俺も、そうなりたいや」

「……俺も弱者に変わりはない」

「え、そんなはずは、」

「俺は大切な者を守ることもできなければ、知るべきことすら知っていない」

「……?」


 表情は仮面で見えないが、苦々し気な声を出すアルマを不思議に感じた。

 どういうことなのかと聞こうとして、


「まあいい、まだ話すべきことではない」


 それだけ言うと、彼はコートをばさりとはためかせ山を下って行った。


「わっ、速いって!……貴族様、失礼かもしれませんが、貴女様をおんぶしてもいいでしょうか?」


 ラルクは拙い敬語で、歩けない貴族の少女をおぶろうとして、


「レイシア・ブライトハートと申します。貴族様ではなく、レイシアと呼んでください」


 矢庭にそんなことを言われた。

 ラルクは内心驚きながらもそれをだすのも失礼かと思って、


「レイシア様」


 そう、彼女の名前を呼んだ。

 にっこりと少女は微笑んだ。

 おそらくはラルクと同年齢くらいだろうか、ともかくも花のような笑顔だった。

 綺麗だなとラルクは思って……、


「……って、ブライトハート!?この辺りを治めてる侯爵家じゃないか!!」


 驚愕に彼は、目を見開いた。ラルクにとっては低位貴族でも雲の上の人間なのだ。公爵に次ぐ位の貴族に、少し委縮してしまう。

 しかし一方でレイシアは、身分など気にしてなかった。上目遣いに彼を見つめて、


「その、騎士様。大変申し訳ないのですが、馬車も壊れてしまって、王都まで帰れないので連れてってくださいませんか?」

「あっ、そうか、」

「勿論お礼はさせていただきます」


 ちらりとアルマの方を見ると、彼はどうでもよさそうにそっぽを向いた。

 まあ一応約束は果たしたから、名残惜しいというか、まだ恩を返せていないというかだが、お別れでいいかとラルクは思って、


「えーと、王都のどの方ですか?」

「南西部、王立魔導学園のある方です」

「それなら丁度良い。俺、夏休みだから帰省していたけど、そこの高等部の学生なんです。お連れいたしましょう」


 それを聞いてレイシアはパァーっと顔を輝かせた。輝かせて、



「……待て、お前学園生といったか?」


 と、そこでアルマが口を挟んできた。レイシアは話を遮られたことに少しむっとして、ラルクは不思議そうに目を瞬かせた。


「そうだけど、何だい?」

「……ふむ、」


 アルマは仮面の表情のまま、彼を見つめて、


「ならお前にやってもらいたいことがあるのだが、いいか?」

「っ!ああ、勿論。二度目、はちょっと違うけど、とにかく二度も命を救われているんだ。どんなことでもやってやるよ」

「それは助かる」


 ラルクは彼に頼りにされた(といっても過言ではない気がする)のと、恩を返せるのが嬉しかった。

 

 まあ王国どころか世界でも最高峰の学園と謳われ、次代の王国騎士団長候補と言われる男も在籍している学園の生徒ともなれば見る目も変わるかとラルクは思って……、


 実際はそんなことは全くなかったのだということを、すぐに知ることとなる。


「学園生ということは、全校武闘大会への参加権があるわけだな?」

「……?まあ、そうだけど、」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……へっ?」

「優勝景品に用があるからな」


 そう言うと彼は、卵の乗った車を押して下山を始めた。

 ラルクはただ、呆然としていた。


「……へぁっ?」


 王国最高の学園の大会で優勝しろ。換言すれば、王国最強の学生たちを打倒しろ。

 そんな無茶苦茶で突拍子もないことを、彼は当然のように頼んできた。

 

 ラルクの試練は、まだまだ始まってすらいなかったのだ……。



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