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3 アリシアとロシュウ先生② ~アリシア、10歳~


 ――アリシアが学校へかよはじめて5年の月日がった。


 アリシア、10歳。


 最初の1年目はロシュウが危惧した通りのケンカの絶えない日々になっていた。

 けれど。

 隣町とのケンカ沙汰にも助っ人として駆り出されるようになった彼女は……いつしか学校の女番長と呼ばれるまでに成長してしまっていた。


 学校の調理実習の時間。

 材料を抱えて廊下を歩くアリシアの後ろを、何人もの男子が楽しそうについてきていた。


「おうアリシア! 今日は何を作るんだよ」

「ロシュウ先生にクッキー作って持っていくの」

「つ、ついにロシュウ先生を毒殺するのか?!」

「すげえ! さすがアリシアだ!」

「失礼ね!!」


 料理、裁縫、歌、ノーファンの女の子が得意とすることは全部ダメ。

 同じ学校の子とはケンカしなくなっても、むしろ同じ学校の男子を引き連れて隣町の悪ガキグループとケンカするようになっていた。


 あと2年経てば卒業。

 ノーファンの男の子は都へ進学するか、どこかの工房や牧場で働くのが相場だった。

 女の子は家か他家で花嫁修業をし、誰かに嫁ぐのがノーファンでの当たり前である。

 だがアリシアはそれどころではなかった。


「ロシュウ先生。どうしよう。勉強ぜんぜんついていけない。卒業できないかも…」

「まだ2年あるじゃないか。頑張ってみたら?」


 治療室でアリシアがもってきたクッキーを齧りながらロシュウは笑う。

 すると、


「そいつは無理だって」


 そう言ったのは、同じく治療室でクッキーをかじっていた幼馴染のフリックだった。

「うわ、不味マジぃ!」決して大袈裟ではない。

 控えめに言って塩辛くて固すぎてドロみたいなアリシア作のクッキーを「ペッ」と噴き出す仕草を見せた。


「ガッコー5年通って算数どころか字もまともに読めないアリシアがどこへ嫁ぐってんだよ。つか、ヤベえよ、この味…」


 口元を拭うフリックはアリシアより一足先に卒業し、彼も13歳になっていた。

 背が伸びて、一時追い付いていたはずのなのにアリシアよりも大きくなり、また見下ろされている。

 ロシュウは優しい笑顔で2枚目のクッキーを摘まみ「そうだ」


「この治療院を継いだ後、フリックがお嫁さんに貰ってあげたら?」

「冗談言うんじゃねえよ! バカオヤジ!」


 彼の口の悪さも相変わらずだった。

 けれどロシュウは――今日の学校のテストが壊滅的で机に突っ伏しているアリシアに。


「アリシアがうちのお嫁さんになってくれたら安心なんだけどな」

「……ロシュウ先生はそう思ってくれるの?」


 ふとロシュウの方へ向いたアリシアに怒鳴り声が飛んだ。


「冗談に決まってんだろ! こんな奴が嫁いで来たらうちの治療院が山賊のアジトにされちまうぜ」

「それ酷い―!!」

「オヤジもそういうのやめてくれよなー。他の女が勘違いしたらどうすんだよ」


 5年経っても代わり映えしない光景にロシュウは微笑む。

 男勝りでともすれば少年にも見えていたアリシアも少し髪が伸び、女の子っぽくなっていた。

 だけどやはり相変わらず、


「へー。フリックの相手してくれる子なんているんだ?」

「いっくらでもいるわ! だから間違ってもお前みたいなバカと結婚するかよ」

「あーーー! またバカって言ったー! クッキーあげたのに! 返せー!」

「いるかよ、こんな毒物。胃腸薬代払えよ!」

「ムキーーーッ!!」

「はいはい。2人共そこまでにしようか」


 ロシュウは2人の間に割って入る。


「フリックももう13になったんだから女の子には優しくね」

女の子(・・・)が相手だったらなー」

「どういう意味よ!」

「よし、2人共いい加減にやめよう。フリック、大人気ないぞ?」

「フンッ!」


 そうしてフリックは勉強のために、奥の部屋へと引っ込んだ。

 テストの結果に落ち込んでいたアリシアも少しは気が晴れたのか、ロシュウと一緒にクッキーを食べ始める。




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