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こんな異世界解釈違いだ!

ー4月5日 曇り

前世の記憶を思い出して一日が過ぎた。一度寝てみると案外冷静になれるものだ。突っ込みたい事としては、七歳になって突然前世の記憶が目覚めたこと(それまでは他人の記憶を覗いているような、朧気な感覚)だったり、今世の自分が美人すぎることだったり色々あるが、ここは一旦置いておこう。


とにかく一番突っ込みたいのは、この世界は何かが確実におかしいことだ。


むしろ、前世の記憶を思い出したのにその場で突っ込まなかった自分を褒めてやりたい。今日は、そのおかしな部分を箇条書きで書き出していこうと思う。


その一、そもそも名前からおかしい。百歩譲って俺の名前は転生特典で引き継がれているとしても、他が説明がつかない。この国でカタカナを使う名前の人を見たことがない。(まだ出会っていないだけかもしれないが)そしてこれはその二に繋がる。


その二、文字もなんかおかしい。文字がひらがな、カタカナ、漢字全てそのままなのだ。初めは転生者特典の自動翻訳機能を疑ったが、このような類では無いらしい。実際に母や凛花が文字を書く所を見ている。


その三、もう続けなくてもわかるだろう。この国の名前は大日旧日本国である。異世界らしさの欠片もない国名だ。そして俺の親が地主をしている街の名前は愛知街。ドコカデキイタコトアルナー(棒)


そしてこれらを総合的に見て、俺は気がついてしまった。実はここは転生はしたものの、未来の日本なのではないかと。


そんな設定の異世界とかどこに需要あるんだよと思ったが、言うだけ悲しくなるので言わないでおく。


この世界のことについて色々気になったので、今後調べて行こうと思った。





「むかし、むかし、ある所に地球という星がありました。そこには、人間が何百億人、何千億人と住んでいました。


しかし、地球は滅びてしまいます。何故なら、神様を怒らせてしまったのです。そこで神様は人間たちを殺してしまうために、魔素がとても濃く、まるで人間達が生きていけないような場所に人間を転移させてしまいました。


人間達は願いました。


『もう悪い事はしません』


『これからはお互いに助け合って生きて生きます』


『だから、どうか地球に戻してください』


しかし、とうとう神様が答えることはありませんでした。


魔素によって人間達の体は苦しめられ、多くの人が死んでしまいました。逆に、魔王軍や魔族、獣人などの悪しき者達は魔素の影響で段々と強くなってしまいました。


そんな時、捨てる神あれば拾う神ありとでもいうのでしょうか。突然、神々しいオーラを放つ青年が私達の前に現れ、浮かび上がったのです。


彼は神聖力という不思議な力を使って東京全体の魔素を消し去ってしまいました。


そして、他の地域では多くの人が亡くなったものの、東京では多くの人が生き残ることが出来ました。


そして青年はこのように一言、宣言されました。


『私は、大日旧日本の管理を執り行う神だ。』


青年の発言に驚きながらも、人々はその神に感謝を口々に述べました。


『命を救って下さりありがとうございました』


『ありがとうございます』


『名前だけでも。どうか、お教えくださいませんか。』


そして彼は少し悩む素振りを見せた後、端的に


『ノア』


とその名前をお告げになられました。人々は彼のおかげで生き残ったことを喜び、人々は彼を祀り、大きな教会を作りました。彼は大層その教会が気に入ったようで、その教会にお住いになられました。そして生ける神として今日まで私達を見守ってくださっているのです。」


「はい、これが日本で1番有名な昔話である『大日旧日本創造伝説』です。みんなも知ってるんじゃないかな?」


「知ってる〜!」


「絵本で呼んだよ!!」


すごすぎる。とにかく、違和感がすごすぎる。こういうのは、お決まりの展開だと『はるか昔に勇者が……』みたいなやつなのに、なんで地球の名前が出てくるんだ。そして、昔話に東京という名前が出てくるのも違和感がすぎる。本当に昔話か疑うぐらいには現代的すぎる。


俺が前世で読んでたラノベでも、もっとマシな設定してたよ。せめて横文字にしてくれよ。


愛さんも俺が寝る前に、よく寝物語や絵本の読み聞かせをしてくれた。しかし多くは愛さんが自分で作った創作の話だったので俺には馴染みのない話だった。


「葵君も何か言いたそうだね?このお話知ってたかな?」


悪意のない先生の笑顔が俺に突き刺さる。


「えっと……桃太郎とかは、昔話じゃないんですか?」


俺が言葉を放つと場の温度が5度ぐらい下がったような気がした。まずい。その後、先生が目を輝かせて俺を見た。


「葵君、桃太郎知ってるの!?凄いね!先生は、実は学校で昔の話の研究をしていたんだけど、そこで桃太郎を知ったんだよ。あの桃太郎という話は獣人や魔人が出てくるから不人気でね。でも私は、獣人と人間が仲良くなれるという可能性を描いた古典文学だと思っているんだ。桃太郎って初めは犬の獣人と仲良くなるでしょ?あれはね……

『キーンコーンカーンコーン』


「あ、授業終わっちゃったね。今日はここまでです。ありがとうございました。」


先生のオタク語りで授業が終わってしまった。まぁ、好きなものについて語りたくなる気持ちは、前世オタクだった者としてよく分かる。


「葵君すごいねー」


「葵、すげぇじゃん」


「葵、あんなの知ってたの?」


子供達が口々に褒めてくれるので少し照れくさい。しかし、褒められて悪い気はしない。


それにしてもこれだけは言わせてくれ。


「こんな(異世界の設定がマイナーすぎる)な転生解釈違いだっ!」


***


「初登校ってこんな緊張するんだな」


「いや、お前。緊張とか全くしてなかっただろ。俺なんて、今日先生としか話してないけど 」


「いや、めちゃ緊張したよ。ほんと、ほんと」


帰りの馬車で同じ町に住む加藤 健太かとう けんたが突如と緊張したとか言い出したが確実に嘘である。


こいつはなんていったって、いわゆる『陽キャ』である。小学生に陽キャも何も無いのかもしれないが、今後確実にそうなるタイプである。俺が前世だったら確実に関わってこなかったタイプの人間だ。


「それを言うなら、凛花もだろ。ずっと澄ました顔してたし。」


「私は、別に。ぼちぼち、友達もできたよ。」


こいつも、こいつである。友達作っておいて、ぼちぼちとか言いやがるあたり、どうかと思う。


「まぁ、葵の場合は顔もあるだろな。なんというか……話しかけずらい的な」


健太から痛い一言を貰ってしまった。確かに今世の顔はだいぶ美形であるが、美形過ぎるのも困りものである。こんなことが思える日が来るとは思ってもいなかったが。


「まぁなんにせよ、ゆっくりでいいんだよ。ちっと前までは俺とも話せてなかった訳だし、俺と話してるだけ成長だろ。偉いぞ」


そう言い、俺の頭を撫でてくれる。人見知りで今まで話していなかった訳では無いのだが、面倒なので訂正しないでおこう。


前世だったら名前も知らなかったであろうタイプなのに、こんなにも色々話して、仲良くなってしまうのはきっと、圧倒的に良い奴だからなんだよな。物語の最終章で俺を置いていけって言って死ぬタイプ。本気で性善説を信じきっているタイプだ。


理解は出来ないが、こんな人間もいるんだと思うと感心する。まぁ前世でやってこなかった事をするのも悪くないよな。



 町に戻ると三人で俺の家で遊ぶことになった。俺の記憶が戻る前には何度も遊んでいたようだが、なにせ、他人の記憶を覗いているような感覚で違和感がすごい。


 「そういえば、健太の家のお父さんって何してる人だっけ」


突然凛花が質問した。確かに気になることではある。健太の父親と俺の父親は仲が良い様子ではあるが、両名ともほとんど町で顔を見かけない。俺の父親の場合は職業の都合上であろうが、正直父親の仕事もよくわからない。


「言ってなかったっけ?騎士らしいよ。おおこくきしたん?ってやつらしい」


「王国騎士団のこと?」

 

「そうそう、それそれ。」


やはり、凛花はだいぶ頭が良いようだ。単純に健太が少しお馬鹿なだけかもしれないが。


「なんか父さんのお爺ちゃんのお爺ちゃんがしーおーけいやく?したらしくって……あ、やべ。これ誰にも言うなって言われてたわ。三人だけの秘密な!」


俺は一つとして単語が理解できなかったが、凛花は何かわかったようで、うんうん言って唸っている。


話しながら歩いているうちに自分の家に着いた。改めて自分の家を眺めてみると、本当に立派な建築だと思わせられる。外観を分かりやすく例えるなら、街で一軒は建っている、誰が住んでいるかよく分からない立派な和風建築、といった感じだ。まぁ、俺の家の場合は地主的なあれなので、町の皆んなは理解していると思うが。


「「ただいまー」」


「お邪魔します!!」


「葵、凛花ちゃん、おかえり。健太くんもいらっしゃい。」


何も言っていなかったのに、愛さんは健太が来ても優しく出迎えてくれた。やはり、母親という存在はすごいと思う。


この数時間後、少年少女の体力を舐めていたせいで酷い目にあうことになるとは、この時の俺はまだ知らなかった。

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