~幽霊少女とホッケー~
「それで、どうやって成仏させればいいんだよ」
「おや?意外とやる気ですね」
「俺もあの花は好きだからな。どうせすることもなくて暇だったし」
「その気持ちわかります!私もこれ以上の暇は嫌だからとっと逝こうかと思っていた所です!」
そう言って幽霊はぐっと俺の方に距離を詰めてくる。
そして漂う女の子の匂い…はしない所から見て、やっぱりこいつは幽霊なんだろう。
「あー、でも、肝心の成仏の方法についてはさっぱりなんですよね」
「だったら俺にどうしろと…。まぁでも、あれだろ。Angel Beats!的に言えば、今のお前が満足したら成仏すんじゃね?」
「それですよ!やっぱりオタクはこういう非日常な時にこそ輝きますね。普段の生活ではくその役にも立ちませんが」
「お前、だんだんと口が悪くなっていってないか?まぁいいや。面倒だし、とりあえずテキトーにゲームでもして遊ぶか。そうすりゃ満足して成仏すんだろ」
「私はそんなにちょろい幽霊じゃありませんよ!でも、遊ぶことには賛成です!少なくとも暇ではなくなりますし!」
俺が適当に遊べそうなものを探していると、ひょこひょこと幽霊がついてくる。
「そういやお前、なんていう名前なんだ?」
「私は飴川猿美ですよ。一応言っておくと名前以外の記憶はほとんどありません。でお前は?」
「俺は……冴島彦根、てか。お前って…仮にも俺は年上なんだが」
「私はお前という相手にはお前と言い返すことにしているんです」
「うわ、めんどくさ」
「あ!見て下さい!あれです!あれであそびましょう!」
ぶんぶんと腕を振りながら、飴川がホッケー台に近づいていく。
「懐かしいな。友達がいたころはよくこれで遊んでたっけ」
「ほら、今は私が遊んであげますから、早くお金を入れてください。…いっちに、さんっし」
「どこまでガチでやるつもりなんだよ」
当然のようにおごられるつもりの幽霊は台の向こう側に立ち、軽快に準備運動を始める。
お金を入れると、俺の方の台の下からホッケーが排出される。
「さぁ、どこからでもかかってきてください!」
「なんでそんな自信満々なんだよ。ほら、いくぞ。おりゃ!」
「甘いッッ!!!!!」
すかっ。
俺の解き放ったホッケーに対し、飴川は気合たっぷりの咆哮と共にすかった。
というか、そもそも打ち返す道具さえ持てていない。
「い、いったいどんなトリックを!?」
「お前が幽霊だからだろ!あー、ちくしょう、俺もやる前に気づきゃよかった」
このホッケーはどちらかが得点を取りきらないと終わらないため、俺は向こう側にホッケーを得点しては、回収を繰り返すことになる。
「ひそひそ……、おい見ろよ、あいつ一人ホッケーやってるぜ」
「ひそひそ……、うわ、ボッチもこじらせるとあそこまでいくんだな」
そんな俺の様子を遠くから見つめる陽キャグループが何かを囁いているが、俺は何も聞こえちゃいない。だから、メンタルも傷つかない。
「……なんかごめんね?」
「はぁ?なにが?俺は何も聞こえてないけど?俺は幽霊のお前が見える特別な主人公属性なだけだから。別に惨めとかじゃないから」
「うんうん、そうだね」
飴川が俺の頭をよしよしとすり抜ける。
「でも、困ったな…、こんなんじゃ全然楽しくないじゃん」
「じゃあ、成仏は諦めるんだな」
「いや、諦めるにはまだ早いよ!今度は、自分がやるだけじゃなくて見ることで楽しむ!てことで、次はゲーム実況して楽しませて!」
「はぁ?ゲーセンで?しかも一人でやれってか!?一人ホッケーより惨めだろうが」
「お兄ちゃん、頑張って!」
「可愛くいってもお断りだ」
「あ、見て!あれなんか面白そう!」
「ったく、お前はほんと人の話を聞かないな」
飴川が指さしたのは、今、ネット界隈でも大流行中のダンスゲーム「ダダダ!ダンス!」だった。
そのままずんずんとゲームの前にまで進んでいくと、目をキラキラさせながら飴川がつぶやく。
「ダンスが私を呼んでいる……」
「お前やっぱ中二だろ」