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~自称幽霊少女との邂逅~

俺は今、この世でもっとも贅沢な時間を過ごしている。

自分の部屋で大好きなアイドルゲームを堪能しつつ、右手にコーラ、左手にはトッポが握られていた。推しのアイドルは今日も可愛い。


「ちょっと、あんたいつまでダラダラしてるのよ?もうGWも最後でしょ?」

「うるせえ、ニートの俺には世間の休日なんて関係ないんだ。てか、勝手に部屋に入ってくるなよな。今いいところなんだから」


ノックもせずに部屋に乗り込んできた俺の母親こと、ババアがだらだらと文句を垂れてくる。


「開きなってるんじゃないよ。あんた、またゲームやってるの?なにこの子『さすが、プロデューサーさんですね。私、一生ついていきます!』って」

「やめろ!俺の推しの子に汚いだみ声でアテレコするんじゃねえ!今後、この子のセリフが脳内でババアに変換されるじゃねーか!…って、これはなんだ?お小遣い?」


声を荒げて必死に訴えかけていると、ババアが、1000円札を机に3枚置いてきた。


「これで外でも行って友達と遊んできなさい、少しは日の光を浴びなきゃだめよ?」

「は?やだよ、せっかくの休日なんだ。俺はダラダラ過ごしたい」

「毎日休日のあんたが何言ってるんだい。あんたの部屋が臭いから掃除したいんだよ。そのごみ箱から特に異臭が…」

「わかったから、勝手に触んな!あとこれは俺が捨てとくから!」


慌ててゴミ箱の中身を処理した後、3000円を手に取ってサンダルを足に引っ掛ける。


「行ってらっしゃい」

「はぁ……、行ってきます」


玄関の扉を開けて外へ出ると、日の光が眼を焦がす。

うわ、まぶし……!


「ただいま~、ふぅ、疲れた」

「いいから、行け!」

「わっぷ!わかったから尻を蹴るなって!」


我が子を陰に突き落とすライオンがごとく、外へ無理やり追い出された俺は、家のマンションを出たあたりでさっそく途方にくれることとなった。


「せっかく外に出たわけだし、3000円でなんかするか…」


一人焼き肉、一人カラオケ、一人ボーリング、などなどいろいろ考えてみるが、どれもしっくりくるものがこない。ババアは友達と遊べとかぬかしてやがったけど、俺に友人なんていないのだ。


「こうなればもう、久々にあそこへ行くとするしかないかな……」


※※※


高校時代によく通っていたゲーセンにやってきた。

久しぶりに来たけど、いろいろと新しくなってるんだな…。

とりあえず、軍資金である3000円を両替しようとすると、両替機を前に立ち尽くす不思議な少女を見かけた。長い茶髪のツインテールに、派手な稲妻の髪飾りをつけている。GWにもかかわらず、中学校の制服を身にまとう姿はどこか場違いなようだった。

後ろでしばらく待っていても、少女はいっこうにどく気配がない。

だんだんイライラしてくるも、声をかける勇気がない俺はさりげなく存在をアピールすることにした。


「ごほん!」

「……」

「うぉっほん、うぉっほん!びゃくしょい!!!」

「……」


なんだこいつ、なぜこんなにわざとらしく、邪魔だから早くどけムーブしてるのに動じないんだ?ついにイライラが限界に達した俺は大人としてこの少女をしかりつけるべく、意を決して、怒鳴りつけることにした。


「あ!……あ、あああ、あの、両替をし、したいんですけど……」

「え?」


え?じゃねーよ!ちゃんと聞いとけよ!ぶっ殺すぞ!JCなんて常識を捨てたニートの俺からしたらワンパンだから!そういう音声作品いっぱい知ってっから!


「……えっと、だから……それ、使うつもりがないならどいてもらえると」

「それって、私に言ってるんですか?」


なんだこいつ、メスガキか?お?生意気だな?わからせてやるぞ?


「いや、キミしか、いないでしょ……」

「私が見えるなんて……」


いや、電波系だった。


「実は私、幽霊なんです」

「……もしかしてキミ、中学生2年生かな?」

「中二病じゃないですから!!」

「じゃあ、あの花とか好きだったりする?」

「めんまに影響されて、真似しているわけでもありませんよ!本物の幽霊なんです!」

「そういわれても……、いいからそこどいて欲しいんだけど……」

「待っててください!今本物だって証明して見せますから!」

「お、おい…!」


そう言って、少女は俺の手を取って、自分の胸元へ持って行った。

驚くべきことに、俺の腕はするりと少女の胸を貫通する。


「なんでおっぱい揉めないんだ…?」

「驚き方が最低なのはおいておいて、これが何よりの証拠です。…あと手をわしわししないでください。いくら揉めないとはいえ、気持ち悪いですよ?」

「これは何かのトリックに違いない!そうなんだろ?」

「トリックを見破ろうとしている体をとっても誤魔化されませんよ?私の胸を必死に揉もうとしているだけですよね?」


いくら手をにぎにぎしても、女の子の胸が揉めないなんて…。これは本当に彼女が幽霊だっていうのか…、それとも…。


「童貞の呪い、か……。俺は一生、女の子の胸を揉めない呪いにかけられていたのか。だから俺は今でも童貞なんだ。全部呪いのせいだったんだ」

「幽霊は信じないくせに、なんで呪いは信じるんですか!童貞なのは自分のせいじゃないですか?そのキモい性格と、キモい顔と、キモい手の動きのせいですよ、間違いありません」

「……え、待って、じゃあ、本当に幽霊なの?」

「だから、そう言ってるじゃないですか!」


「あのさぁ、さっきから一人でぶつぶつ言ってないで、両替機の前からどいてくんない?」

「あ、あああ、その、え?一人?あ、わかりました。どきます、どきます……」


いつの間に俺の後ろに並んでいたのか、怖そうなお兄さんに話しかけられた俺は、慌ててその場を離れた。


「お前のせいで怒られたじゃないか!」

「なんか急に口調が雑になりましたね」

「俺をキモいとか言ってきたやつに遠慮はしない。あとなんかお前弱そうだし、さっきの発言で恋愛対象からも外れたからいい恰好する必要もないなって」

「だから、童貞なんですよ。というか、また一人でぶつぶつ言ってていいんですか?私以外からも気持ち悪がられますよ?」


周りを見渡すと、確かに視線が痛い気がする…。この子の突拍子もない発言のせいかと思ってたけど、どの視線も俺一人だけに向けられているような……。

俺はさっきよりも小声で語り掛けるようにして少女との会話を続けた。


「他の人からはお前のことが見えていないってことなのか?」

「幽霊ですから当然です、私のことが見えたのはあなたが初めてですよ。だから、今久々に人と話せて嬉しいんです!」

「まあ、これまでのことから一応それは信じるけどさ……」


じゃないと、俺の頭がおかしくなってしまったことになるしな…。俺の頭は正常だ。異常なのは目の前のこいつの方だ。


「ありがとうございます!それで、いきなりのお願いになってしまうんですけど……」

「おい、待て、このパターンはまさか……」

「私を成仏させてくれませんか?」

「やっぱり、めんまじゃねーか!電波女ァ!」

「ちーがーいーまーす!」


名も知らぬ幽霊少女は、ぽこぽこと俺の胸を叩こうとする。が、見事にすり抜けて派手にすっ転んだ。


「白か」

「パンツ見ないでください!あと、口にするところが本当に気持ち悪いです!」


俺はこの時初めて、久しぶりに外へ出てよかったと思えたのだった。

更新は不定期で、あまり長くは続かないシリーズになるかと思います。

本題にすら入っていませんが、少しずつ進めていく予定ですので、よろしくお願いいたします。

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