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怖い、辛い、苦しい……………。

過去の記憶がオレの夢の中で蘇る。

あれはオレのせいじゃないんだ………。

オレは知らなかったんだよ……。

頼むから、許してくれ………………。



「助けてくれええぇ!!」



深い暗闇の中で叫ぶ。

夢と現実の狭間で呻く。



「そんなに助けてほしいのか…?オレ達の事を奈落の底へ突き落としておいて、自分だけ逃げるのか?」



不意に足元から聞こえた低いしゃがれた声。

それに続いて足を誰かに足を掴まれる様な感覚。

驚いて足元に目をやると、三人の子供がオレの足に群がっていた。



「ねーねーお兄ーさーん。お兄さんは、何て言うの?」




茶色の長い髪をツインテールにした女の子が無邪気に聞いてくる。

……………なんだ、子供か…。

内心安堵しながら、オレはその子に優しく話しかける。



「お兄さんかい?」


「うん、お兄さん」


「お兄さんはね、耕司って言うんだ。高山 耕司」


「高山 耕司…?」



女の子が可愛らしく首を傾げる。

すると今度は、髪をショートカットにした大人しいイメージの女の子と、活発な感じの男の子も話に入ってくる。



「お兄さんは、高山 耕司さんって言うの……?」


「へぇ…兄ちゃんは高山 耕司って言うんだ」



三人はみんな似たり寄ったりな言葉を発すると、恐ろしい目つきでオレを睨んでくる。




「「「オレらを殺した男の名前も、高山 耕司って言うんだ。ねぇ、お兄さん(兄ちゃん)………その人を…………知らない?」」」


「知らないっ!!た、他人の空似じゃないのか!?」


「「「お兄さん(兄ちゃん)のウソつき。私達を殺したのはお兄さん(兄ちゃん)のクセに、自分一人だけ助かろうとするなんて……酷いよ」」」



子供達がオレの足にしがみついてくる。

オレは必死にその手を振り払おうとした。

けど、無理だった。

オレは彼らには触れられないのだ。

なぜなら彼らには肉体というものがないのだから。


彼らはドンドンオレを奥の陰湿した闇の底へ引っ張り込もうとする。

嫌だ、怖い……。


誰か………タスケテ………!!



「アナタの願い、確かに受け取りました」



背後からいきなり声がし、顔だけ振り返ると、そこには茶髪で仮面を被った長身の男性が居た。



「初めまして、高山 耕司様。我々は“ワルツ”の者でございます」



男性がゆっくりと頭を下げる。

願いを叶える…?

助けくれるんなら、早く助けて。

段々と深い闇の底に引っ張り込まれてくよ……!!

そんなオレの内心を理解したのか、男性は、まぁ、そう焦らないでください、なんて呑気な事を言いやがる。

もう時間がないんだ!!

ほら、手の位置が、もうオレの胸元まで…………!!!!



「もう何でも良いから早くしてくれ!!!!」




オレは男性に痺れを切らせて声を張り上げた。

すると男は、ゆっくりと右手を上げ始めた。

そしてその手で、ある一点の場所を指差す。



「高山様、勘違いなさらないでくださいませ。私はあくまでもサポーター。実際にアナタと契約するのは、あちらのオーナーでございます」



オレは急いで顔を男性の指差す方向へと向ける。

先程まで何もなかったその空間の中に、オーナーと呼ばれた、黒いフード付きのロングのローブを着ている人物が居た。

表現は…………分からない。

性別も何もかもが分からない謎の人物。

こいつらは………何なんだ?

そんな事を悠長に考えているうちに、どんどんどんどん手を上に上がって来ていて、オレの首にまで達していた。



「ご契約内容の方なりますが…」


「待て!!」



男性がまたもやゆっくりと話し始めようとすると、オーナーが男性の言葉を遮る。



「余計な言葉はいらない。そうだろう?アンタだって急いでるんだから」



ローブから微かに見える口元だけでオーナーは笑った。

その様子は、口元だけのハズなのに、とても妖艶で……。

すっかりオーナーに見入っていたオレは、口元まで上がって来た“手”によって、ハッ!!と意識が戻る。



「契約内容は、アンタの助かりたいという願いを叶える。その代わりにアンタは、アンタが叶えられる範囲のオレの願いを絶対に叶える。……………どうだ?」



「わ、分かった!!分かったから早く助けてくれえぇぇ!!」



最早目元にまで迫った手の恐怖に、オレはそう叫んでいた。



「………契約完了」



オーナーはそう言うと同時に、オレに群がっていた奴らを一瞬で斬り捨てる。

あまりの早業にオレは、何が何だかよく分からなかった。

オーナーの手にはいつの間にか、黒光りする、オーナーの身長の何倍もある鎌を持って立っていて、オレの足元には死んだ奴らがゴロゴロと……。



「いくら何でも遣りすぎじゃないのか!?老人や子供達まで斬り捨てるなんて……。必ず何か他に方法があったハズだ!!」


「老人や子供達?遣りすぎ………?」



オーナーが低い声で話し始める。



「老人や子供達なんて居ないよ。アンタは、こいつらに騙されてたんだよ」



何だって?

こいつら、頭がおかしいんじゃないのか?

確かにオレを引きずり込もうとした奴らの中には老人と子供達も………。

オレはとっさに足元に目をやる。

そこには、オーナーの言ったとおり、老人や子供達の姿はなかった。

代わりにそこにいたのは、背中にコウモリのような羽をつけて、お尻には尻尾があって、頭には山羊のように大きい角が生えている生き物だった…。



「あ、悪魔…っ!!」



オレはとっさに後ずさる。



「悪魔………か。正確に言うと、こいつらは夢魔だ。他人の夢に入り込んで、嫌な夢を見せて面白がる…。オレらはその夢魔退治専門のクラーチマンだな」


「そうなのか……。とにかく、助けてくれてありがとう」



オレは心の底から感謝して、奴らに頭を下げた。



「お礼等は結構でございます。我々のやっている事はただのビジネスですので」



……………。

忘れていた。

契約は確か、オレに叶えられる範囲内で、奴らの願いを叶える、だったハズだ。



「あぁ、分かってます。オレに叶えられる範囲内でアナタ達の願いを叶えれば良いんですよね?」


「そのとおりでございます。その件に関しましては、後日改めて……。では高山様、また後日………」




奴らはまるで消えるかのようにスウゥー…と姿を消した。

その次の瞬間、オレは目を覚ました…。

夢、だったようだ。

あれは現実だったのだろうか?

それともただの夢?

まあ、どちらでも良い。

いつもどおりの楽しい毎日がおくれるのなら……………。

オレはそう思い、ベッドの周りを見渡す。

狭い部屋を埋めるくらいのゴミの量のゴミだめ部屋………。



「うん、オレの部屋だ」


「でしょうね?それ以外に何があると思われたんですか?」



再び背後でした、夢の中での男性の声………。

オレはゆっくりと声がした方へと向き直る。

そこには、茶髪にオレンジ色の瞳を持つ、長身の青年が居た。


そしてその横には、目を疑う程に美人の少女。

透き通るように白い肌、サラサラのロングの水色の髪。

そして、本当の宝石すら見劣りする程に美しい紫色の瞳…。



「高山様、約束の願い事を叶えてもらいに参りました」



青年のその声でオレは正気に戻る。

あまりにも美しい彼女にすっかりと見入ってしまっていた。



「あぁ、分かりました。で、オレは何を叶えれば良いんですか?」



オレは軽い口調でそう言った。

どうせ、大した願い事ではないのだろうから……。



「では高山様、死んでくださいませ」



青年はニッコリと笑いながら、オレにそう告げた。

死ぬ?

冗談じゃない、

そんなのは絶対に無理だ!!



「そんなの無理に決まってるじゃないか!!」


「おやおや、困りましたねぇ…」



クックック、と青年はさもおかしそうに笑った。



「な、何がおかしい!?」



オレは慌てながらそう聞いた。

すると青年は笑いながらオレにこう言った。



「それは無理な相談だ。だって高山様……アナタはもう死んでらっしゃいますでしょう…?」



オレはふと、男の隣に居た少女が居ないことに気がついた。

そこで、部屋の中を見渡すと、部屋の隅っこの方にその少女は立っていた。

そう……人間の拳程のピンク色の物体を持って…………。


あれじゃあまるで……………心臓?

あれ………?

胸元がやけにヒリヒリする…。

オレが自分の胸元へと目をやると、そこには穴が空いていた。

………そう、人間の拳程の大きな穴が。

オレの身体がゆっくりと前のめりに倒れて行き、オレは意識をなくした……。



†††††††††††





「高山様、『ワルツ』のまたのご利用、お待ちしております……」



青年は、一人の床に倒れている男性の死体にお辞儀をした。




「まぁ、もうご利用できないとは思いますが」



青年はそう小さく呟くと、自分より先に行ってしまった、小さな少女を追いかけて部屋を出て行った……。






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