プロローグ
プロローグ
薄く暗い暗闇の中、僕は一人、刹那に願います。
お願い、僕をここから出して…。
誰か、僕を助けて。
そんな事を考えながら僕は待ちます。
僕を助け出してくれる誰かを…。
しかし時というものは残酷で、刻一刻と僕の命の灯火は消えかけていきます。
まだ、死にたくないよ……。
怖いよ、悲しいよ…。
暗い絶望。
希望は見当たらない。
『普通』が当たり前だった毎日。
その『普通』は、今、脆く儚く崩れさった。
今思えば、『普通の日常』はいつも『非日常』と隣り合わせだった気がする。
それをただ紙一重で避けていただけだった…?
じゃあ、今の『非日常』が本当は『普通』?
あの幸せな日常は普通じゃなかったのかも。
じゃあ、僕がこうなっているのも当たり前。
じゃあ、無駄な抵抗は止めよう。
運命に逆らわず受け止めよう。
それが必然なのだ。
どうせ誰も助けに来ない。
そう全てを諦めかけた時、色鮮やかな希望の光がさした。
まず初めに見えたのは、美しく艶のある長い水色の髪。
次に目に入ったのは、周りの全てのものが色あせて見える程美しく整った顔。
その次が、本物のラピスラズリすらも見劣りするほど綺麗な紫の瞳。
その輝く瞳に僕は光を見た気がした。
「おい、ガキ」
そして、その全てに似つかわしくない発言。
しかし、その汚い言葉を紡ぐ声はどこまでも透き通っていて…。
「君は……誰?」
「オレか?オレは…オレはな、神威 夜斗だ」
「かむ…い?」
「そうだ。かむい やと」
彼女はそう言うと花のような笑顔を浮かべた。
「神威さ、んは…どうして僕を助けてくれたの…?」
「嫌だったのかよ?」
「……そうだね」
「じゃあ死ね。それともオレが殺そうか?」
彼女が不適に笑う。
その妖艶な美しさには、きっと閻魔大王だってひれ伏すであろう。
「うん、殺して…」
あんなに助けて欲しいと刹那に願ったはずなのに、なぜだか今はもう生きる気力がない。
それに、いざ本当に助かると何のために生きたら良いのかも分からなくなったから。
僕が殺してと言うと、彼女は雪のように白い頬をほんのりと桜色に染め、頬を膨らませている。
どうやら僕の回答が気に入らなかったようだ。
「お前みたいに死を望んでる奴を殺してもちっとも楽しくない。だから、お前は殺さないでいてやるよ。そして、お前が刹那に生きたいと望んだ時に、このオレ様が殺してやる」
彼女は僕を睨みつけて言った。
「だから…、ほら。さっさと来いよ」
僕に手を差し出した彼女は、どんなものより温かい笑顔だった。
僕は差し出された彼女の手を取ってゆっくりと歩き始めた。