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続・永遠の蛙  作者: 十々木 とと
本編
6/37

6. 連れておいでよ


「何を企んでいるんだ」


 シモンはアーベルからの招待状を前に、渋面になっていた。一般的な形式の何の変哲もない招待状には、ヴェラも共に招く旨が添えられていた。

 あれから呪いの件がどこから漏れたのか調べたものの、使用人を含めトールボリ家に穴はなかった。ルンドバリ家で事情を知る者は当主夫妻だけだが、此方も誰にも漏らした形跡はない。社交界に噂が流れているといったこともないから、アーベルが独自に入手したとみてよい。


「ファルンバリ公って王位継承権放棄してませんでしたっけ」


 シモンの前に返信用の便箋を用意をしながら、ベルントが問うた。


「うん。僕が成人する頃だったかな。第七王子だし特に揉めたりもしてなかった」


 政治的にはこれといって力を示すわけでもない公爵家の養子に入り、国政からは距離を置いている。多分野に渡る研究者の育成に力を入れている人物だ。とはいえ婚約の申し込みはあるだろうに、妻はおろか婚約者も据えず、節度を保った恋愛巧者。どの派閥とも程良く距離を取る、毒にも薬にもならない公爵閣下という周囲の評価だが、つまりはおそろしく対人能力が優れた人物なのだろうと、シモンは思っている。権力欲がないのは明らかだから、尚更意図が掴めない。


「一番ありそうなのは、若奥様を排除して自分の息のかかった娘を送り込むやつですけど。結婚で女性がいけることを証明することになりましたからね。若奥様のことは道をならしてくれたくらいにしか思わないでしょうし」

「閣下にその目はないかな」

「では暇潰しとか。ほら皆結構暇じゃないですか。普通に遊び歩いてる分にはいいですが、高貴な方々の遊びって、えげつないことありますからね」

「そういう悪趣味さはなかったと思う」

「じゃあもう純粋に若奥様に興味があるとしか」


 シモンは黙った。

 どういう興味なのかが問題だ。女性としてか、呪いの件か。シモンは少しばかり不愉快になりながらも、招待を受ける旨認めた。


 シモンは当日、ヴェラが体調を崩したという姑息な手段を使った。想定内だったのか、アーベルはあたりわさりの無い労りの言葉を返し、応接室に通す。

 シモンは魔女研究の発展が国防の強化に繋がるとの認識を持っていること、祖父の表明が現当主とシモンにも受け継がれていること、この件はセランデル伯の意向でもあるということを改めて話した。


「魔法伯としての立場を失いかねない話を、よく認める気になったね?」

「一つの家に頼っている現状の危うさを理解できない程、父も僕も蒙昧ではないので」


 感心する素振りで探りを入れるアーベルに、シモンは穏やかに答える。


「それに直様失うような、簡単な話でもないでしょう」


 目的が同じであるなら、現段階で潰し合うのは得策ではないから、追い落とされることにはならない。また、表舞台に立つ手助けをすることで、トールボリ家は恩を売れるのだ。圧倒的に力の差があるうちに手を差し伸べることの意味を、アーベルも判らないわけはないだろうが、憂国のみを訴えても胡散臭いものだ。利害を匂わせたことで納得を得られたのか、アーベルは従者に小さな白木の箱を持ってこさせた。箱の蓋を開けた時点で、シモンは長椅子から腰を浮かしかけた。その気配をちらりと見て、アーベルが口元を笑ませる。


「これが何か、もう解ったみたいだね」


 取り出されたものは陶器の香炉に見える。重心が下にあるずんぐりとした丸い形で、蓋に花弁状の穴があるが、中蓋があるのか中を見通すことはできない。だがシモンには中身が解る。


「魔力」


 自分の行使する力と似た気配を、そこに感じるのだ。


「閉じ込める器を開発したということですか」

「私達は便宜上、魔器と呼んでいるんだけどね」


 アーベルは頷く。

 魔力は捕まえられるものではない。無機物の中に捕え、留まらせる技術はこれまでなかった。シモンの知る限りでは。それにこの国で他者に分け与えられる程の魔力を有する人間は、トールボリ父子しかいない。シモンは父から何も聞いておらず、シモンも勿論協力した覚えはない。


「まさか…魔女ですか」


 随分微弱な気配ではあるが、僅かな期待を込めて目線を上げると、アーベルはゆっくりと首を振った。


「残り香のような物を集めたということだ。魔女とは言い切れないらしい。刺激を与えても何も起こらないんだ」

「……それもそうですよね、こんなふうに閉じ込めたら呪われるだけでは済まないでしょう」


 ただ、これをシモンに見せたということは、魔女研究の成果ということだ。


「随分多くの研究者が命を落としたということだよ。長いことかけて、漸くここまで辿り着いたわけだけど」

「これを発展させれば、ゆくゆくは魔操者が現場に居なくても魔術を発動できるということですね」

「要求が高いなぁ。勿論それを目指しているけれど、人を選ばず活用できるようになるまでにはまだまだ道のりは長いよ」


 アーベルは溜め息混じりではあるものの、シモンの好意的な反応に満足そうに目を細めた。


「魔操者との確執の弊害ですね」


 隠れて細々と研究せざるを得なかった分、時間が掛かっている面は確実にある。アーベルが後ろ盾になっているとはいえ、資金集めには苦労していたことだろう。


「その弊害が取り除けそうで嬉しいよ」

「僕もです」

「君の話によると協力要請は可能なのかな」

「ええ。ですが内容によります」

「そうだね、その辺りの詳しいことは直接話し合ってもらった方がいいね。その時には是非、夫人にも同席してもらいたいな」

「……何故、妻なのですか」


 呪われていなくてもこれは当然の疑問だ。アーベルは首を傾げた。


「おや、見当はついているんじゃないのかな」

「妻には魔操者の素質も素養もありませんから、お役には立てないかと」

「トールボリ家の断絶を皆が心配する程女嫌いだった、ノルデラン子爵が溺愛している女性だからね。どんな女性なのか気になるんだよ。このくらいの餌でもなかったら、会わせてくれないんだろう?」


 ヴェラが同席しなければ、研究者には会わせないと言っているのだ。

 シモンには穏やかに微笑むアーベルが、国防に関することと、たかだか女性一人を天秤にかける程色ぼけしているようには見えなかった。ここまできて、この話が破談になることも望んでいないだろう。彼らはきっと、シモンの祖父の代から慎重にトールボリ家の真意を探っている。シモンの本気を計る側面もあるのかもしれない。そして色ぼけでないのなら、呪いという形でも魔女と関わりのあるヴェラに、興味があるということではないか。その場合は何某かの被験者の役割を期待される可能性は否めない。


「妻に危害を加えないと、お約束いただけるのなら」

「勿論。女性を傷つけるのは本意ではないよ」


 シモンが敢えて警戒を隠さない態度で答えると、アーベルは笑みを深めた。






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