第98話:褒美
デュラハン卿の言葉を受け、緊迫感が辺りに漂う。
最後の魔族四皇――マリオネット王女。
未だ消息不明で手掛かりがまるでない敵。
現時点で最も欲しい情報ともいえ、俺は慎重に頼む。
「……詳しく教えてくれるか?」
デュラハン卿は頷くと、静かに話し始めた。
『あの女は今、西の孤島――エリュシオン島にいる』
「「……なに?」」
その島の名を聞き、俺とノエルは疑問の声を出す。
まさか、そのような場所にいるとは思わなかったからだ。
ふと、俺の服をナディアがおずおずと引っ張った。
「アスカ、エリュシオン島ってどこ? もしかして、強いモンスターがたくさん棲む怖い島?」
「いや、王国の大貴族、グランド辺境伯が治める島の名だ。住民も多数住む、とても島とは思えぬ巨大な島と聞く。資源が豊富でモンスターはおらず、治安も良いという評判だ。国内有数の観光地としても知られている……まさか、襲撃を仕掛けているのか!?」
慌てて問う俺に、デュラハン卿は違うと答える。
……襲撃ではない?
ナディアの言うように、モンスターが多く棲息する島などは魔族四皇のイメージや性質と結びつきやすい。
一方、エリュシオン島は長閑な島だ。
何が目的だ……。
「だったら、なぜマリオネット王女はそんな場所にいる? 辺境伯とはどのような関係だ? 俺たちの知らないところで何をやっている」
『わからない。あの女は秘密主義で、そこまで情報を明かさないのだ。安心しろ、襲撃が目的じゃないことはたしかだ。……そういえば、詳細は不明だが、近く大々的な"イベント"を行うと喜んでいたな。予定が変わっていなければ、次の満月がそのイベントの日だ』
「イベント……?」
どういう意味だ?
俺と同じように、ナディアたち三人も疑問を話し合う。
「モンスターの群れを使って、これから大規模な襲撃でも仕掛けるのかな」
「今は街に侵入して、防衛の穴を探っているんでしょうか」
「修道会を通じて注意を促すべきか……。いや、相手の出方がわからぬ以上、安易に刺激するのは得策ではないな。島には辺境伯の私兵が多数いるはずだから、彼らに助言して……」
次の満月は、およそ三週間後。
エリュシオン島は遠いが、十分に間に合う猶予だ。
実際に訪問することで話がまとまったところで、俺はデュラハン卿にマリオネット王女以上に重要な情報を尋ねる。
「最後に教えてくれ。"魔王"について何か知らないか? 俺たちはずっと行方を追っているが、未だに足取りも掴めていないんだ。外見や拠点、使う能力など、何でも良いから知っていることを教えてほしい」
『……すまないが、何も答えられない。何も知らないからだ。元々、"魔王"様は我らとそれほど接触しない。必要なときだけ接触されるが、お姿はいつも膨大な魔力のオーラに隠されている。魔族四皇でも、直接お顔を拝見した者はいないのだ。ただ……強い人間を探せ、と我は命じられた』
強い人間か……。
おそらく、"魔王"の存在を脅かす強者を始末しろという意味合いで……いや、違う。
「"殺せ"ではなく"探せ"という命令だったのか?」
『そのように記憶している』
不意に、リッチーロードの存在が脳裏に浮かんだ。
ゴヨークを裏で操り、修道会と冒険者を衝突させようとした。
もし大規模な内乱に発展した場合、互いに戦闘集団なのだから多数の死傷者が出かねない。
当然、騎士にも冒険者にも強者がいる。
彼らが戦い共倒れになったら、そもそも"魔王"の望む強い人間が減ってしまうと思うが……。
思案を重ねる俺に、デュラハン卿の力ない声が届いた。
『そろそろ限界のようだ。我はもうじき死ぬ。頼みがあるのだが、我が斬った強者の首は……埋葬してもらえるだろうか。みな、理由はどうあれ命を賭して戦ってくれたのだ。首の前には名を刻んだプレートもある』
「ああ、丁重に埋葬する」
『そうか、感謝する。……これからも鍛錬を積め。歴史上、最高の剣士になれ。それにしても、アスカ・サザーランドとは……』
そこで言葉を切ると、デュラハン卿は満足気に呟いた。
『……本当に良い名だ』
漆黒の鎧と剣が、徐々に白色に変わる。
全体にヒビが広がり、音もなく細かい破片に朽ち果ててしまった。
これでまた一体、強力なモンスターがこの世を去ったことになる。
激しい戦闘の余韻が漂う中、ナディアが元気よく言った。
「魔族四皇を三体も倒すなんて、やっぱりアスカはすごいよ。実はね、ドラゴニュートと戦っているときアスカに助けられたんだよ」
彼女に続き、ティルーとノエルも俺に感謝の言葉を述べる。
「私もアスカさんに救われました。今まで一緒に旅した思い出や経験が蘇って、どうにか勝つことができたんです」
「それを言うなら、私もそうだ。相手は手練れでだいぶ厳しい状況に陥ったのだが、アスカの存在に力を貰った。私一人では立ち上がれなかったかもしれんな」
俺の存在は仲間たちの助けになっていたのか……。
勝利の余韻に浸るのはそこまでとし、俺は今後の計画を伝える。
「エリュシオン島に行くには王都を経由することになるし、まずは王都に戻ろう。三人とも身体を休めた方がいい。神殿の遺体についても埋葬の手配を進める必要がある。おそらく、彼らは各地の冒険者たちだ。できることなら、彼らの生まれ育った地に帰したい」
「そうだね。私たちも手伝うよ」
「神殿も大きく壊されてしまいましたね。セドリックさんたちはショックでしょう」
「修復は修道会の騎士にも声をかけてみよう。みなで力を合わせれば、また元通りになるさ」
彼女たちも賛同してくれ、一旦の目的が定まった。
強者の首は、森の材木を利用して簡易的ながらしっかりした作りの木箱を用意した。
デュラハン卿を倒そうとしてくれた彼らの首は、ここに納める。
数が多く運搬は難しいので、神殿の一角に安置させてもらう。
その後、俺たちはヴァルメルシュに行き、セドリックたち修道士に事の経緯を伝えた。
改めて深く感謝された後、俺たちは王都に向かって歩を進める。




