第96話:ナディアとティルーの戦い②(三人称視点)
コントラスは勝利を確信しているのか、敢えてゆっくりと近寄る。
ナディアとティルーに付与された磁力は大変に強く、離れることはおろか骨が折れそうなほどだった。
「ぜ、全然離れないよ! 圧迫されて骨が折れそう……!」
「私の水魔法を爆発させて、その勢いで無理やり引き剥がします! 少し痛いけど我慢してください……!」
ティルーは互いの身体の間に、水の膜を展開する。
魔力を巡らせ、勢いよく爆発させた。
「《スチーム・ブラスト》!」
小規模でも威力のある水蒸気爆発を起こし、コントラスの磁性を振り切った。
吹き飛ばされながら、ティルーはナディアの身を案じる。
「ナディアさん、お怪我はありませんか!?」
「だ、大丈夫! これくらい何ともないよ! ティルーだって痛いでしょ! 離れて戦おう!」
「了解です!」
爆発の衝撃を受けたナディアとティルーはボロボロになりつつも、戦闘の継続を誓い合う。 戦意を喪失しない二人に、コントラスは敬意を表する。
『未だ、意志が折れないのは素晴らしい。そのような敵こそ葬るに値する』
双刃槍の穂先に魔力が集中し、青と赤の《斬撃破》が何発も放たれる。
ナディアは即座に横に飛んで射線から退避するものの、《斬撃破》は追尾して襲い掛かった。
「くっ、磁性で追いかけてくる……うわっ!」
逃げる途中で磁性のある地面に触れてしまい、ナディアは足を滑らす。
バランスを崩したところを斬られ、ダメージを負う。
一方のティルーは水魔法で迎撃するが、《斬撃破》の勢いは衰えない。
(私の水魔法は切り裂かれてしまう! やっぱり、ナディアさんの攻撃じゃないと……っ!)
躱そうとするティルーもまた地面に足を取られ動きが止まり、身体を切られる。
どこに磁性が付与されてるかわからない以上、不用意には動けない。
かといって、動かずにいれば狙い撃ちにされる。
このままでは負ける状況において、ナディアとティルーは必死に突破口を考える。
((どんな状況でも、必ず何か策があるはず……!))
今まで経た戦いの経験から、諦めなければ必ず道は拓けると実感した。
コントラスとの戦闘を再度思い出し、有効的な攻撃を連携を探す。
無数の可能性を熟慮した結果、二人は同時にとある作戦を考えついた。
(……そうだ! ティルーがあの魔法を使ってくれれば……!)
(ナディアさんだったら、私があの魔法を使えば確実に倒してくれるはず……!)
突破口が見つかった。
だが、まだ問題がある。
互いの距離は離れているため。意志の疎通が難しい。
声を出して共有したら警戒されてしまう。
作戦の性質上、一度きりの攻撃しか有効的じゃないだろう。
どうやって意思疎通を計るか考えた二人は……計らないことを決めた。
((仲間を信じる))
アスカと一緒にみんなで旅をしてきて、その大切さを学んだ。
いつ如何なるときも、仲間を信じれば必ず勝てる。
二人はわずかにアイコンタクトを取ると、すかさずティルーが魔法を発動した。
「《ネオ・アドヒージョン》!」
コントラスの足下を、先ほどより強力な粘着性の水で捕らえた。
『またそれか。俺に同じ技は二度通用しない』
双刃槍を振るわれるや否や、水は弾け飛ぶ。
コントラスが反撃に転じようとしたとき。
遠く離れていたはずのナディアが目の前に迫っていた。
『なっ……うぐっ……!』
ナディアの存在を認識した瞬間、彼女の剣はコントラスの首を切り裂いた。
硬い鱗をも突破した深い斬撃は致命傷を与える。
大きなダメージを受けたコントラスは全身の力が入らなかった。
双刃槍を落とし、前方向に倒れる。
――な、何が起きた……? 猫人族の身体能力は、すでに限界値だったはず……。
コントラスはもう死は避けられないと感じながらも、最後の一撃に考えを巡らす。
ナディアは能力の限界を超えるほどの超高速で突進してきた。
――力を隠していたのか? それとも、ウンディーネが魔法を使ったのか?
どちらも違うという確信がある。
じゃあなぜと思っていたら、当のナディアがティルーと一緒に目の前に立っていた。
「違う色は引き合い、同じ色は反発する……って、あなたは言ったよね。私には青の穂先で斬りかかってきたから、青の磁性が宿っている」
ナディアの言葉を聞いて、コントラスは何が起きたのか理解した。
『……なるほど、吸引と反発を利用して急加速したのか……俺と同じように……いや、俺より速かった……』
斬りつけるだけじゃコントラスの硬い鱗は突破できなくとも、磁性の加速を乗せれば力が増す。
見切れないほどの急加速が可能だったのも納得できた。
一方で、種明かしはされたがまた別の疑問が浮かぶ。
『なぜ……的確に地面を移動できた。磁性の色は……貴様らには見えないはずなのに……』
ナディアが磁性を利用するには、赤と青の場所がわかっている必要がある。
疑問に思うコントラスに、彼女は答えを告げた。
「《斬撃破》が当たった場所、穂先が加速した場所、私とティルーが引き寄せられたり反発された場所……それらを全部覚えていただけ」
穂先の色と付与される磁性の色は同じ。
それを手掛かりに、ナディアは的確に地面を駆けたのだ。
『……なるほどな。もう一つ教えろ……。なぜ、タイミングが合った……? 作戦は共有されていなかった……はずなのに……』
「仲間を信じた。ただ、それだけです」
『……あぁ』
ティルーの端的な答えにコントラスは納得し、最後の頼みをする。
『俺を倒した貴様らの……名を教えてくれ……』
二人は再度端的に答える。
「ナディア・ロウ」
「ティルー」
『……もっと早く……聞くべきだったな』
名を聞いたコントラスは力尽き、激しい戦闘はナディアとティルーの勝利で幕を閉じた。




