第95話:ノエルの戦い②(三人称視点)
立ち上がったノエルは剣を構えつつも、自分の状態を迅速に把握する。
(毒を出すため、ずいぶんと出血してしまった。魔力で覆って簡易的な止血をしたが……長期戦は難しいな。深部まで切る必要があったから左腕の傷も深い)
剣は両手で握れているものの、ほとんどを右手の握力に頼っていた。
ノエルは深呼吸して精神を統一する。
(長期戦は厳しい……それなら、短期戦で決着をつけるだけだ!)
地面が砕けるほどの勢いで駆け出し、ブラッディに迫った。
(こいつのショーテルは、斬りつける度に毒を放出する。ならば……)
ノエルは剣を水平に構え、走った速度を乗せて突く。
「《神突》!」
『あなたは多彩な剣士ですね……!』
高速の突き技は、速さのあまり幾重もの残像が発生する。
ブラッディはショーテルの側面で防ぐが、何発かは防御を突破され、体表が抉れた。
たまらず、硬い翼を盾のように展開し全身を守る。
身体のどこかが負傷すれば、左腕のアドバンテージがなくなってしまう。
ノエルは突き技を主体として更なる連撃を浴びせ、毒の斬撃を封じ込める。
防御で手一杯となったブラッディは、剣撃を受けながら疑問を覚えた。
――先ほどまでと立ち回りが変わった?
左腕がほぼ使えなくなったことにより、ノエルの動きには微細な変化が生まれた。
斬撃とは打って変わった突き技も相まって、ブラッディは斬撃を切り出すことができない。 激しく響いていた戦闘音が、不意に途切れた。
ブラッディは異変を感じ、翼の陰から前方を見る。
そこにいるはずのノエルがいない。
――消えた? ……ぐぁっ!
直後、ブラッディの背中に猛烈な痛みが走った。
ノエルの剣が体表を貫き、心臓にまで深く達したことを直感する。
激しい痛みを感じながら、ブラッディはノエルの作戦を理解した。
『私は翼による防御を……あなたに誘発されたのですね。視界を塞ぐために……』
「ああ、そうだ。戦闘中は、常に敵を視野に収めておくべきだ」
素早い攻撃を仕掛け、翼の防御を敢えて誘発。
ブラッディの視界を塞ぐと即座に飛び上がり、空中で回転しながら背中を突き刺したのだ。
死が目の前に差し迫った敵に、ノエルは淡々と告げる。
「まさしく、貴様も強者だったな」
その言葉を最後にブラッディは意識が途切れ、命の終わりを迎えた。
強力なドラゴニュートとの戦いは、ノエルの勝利で幕を閉じた。




