第92話:アスカの戦い①(三人称視点)
常人が振るうよりずっと早く、アスカとデュラハン卿の剣は斬り結ばれる。
両者の剣は火花を散らしながら打ち交わされ、静寂に包まれた神殿を瞬く間に戦場に変えた。
アスカは嵐のように襲い来る剣撃を、その威力を体感しながらも確実に捌く。
(……力も速度も凄まじいな。特筆すべきは手数の多さと、攻撃の組み立て能力だ。防ぐか躱すたび、こちらが不利な体勢になるように斬撃の配置が全て計算されている)
序盤は斬撃を捌けても、小さな負担が徐々に積み重なる。
戦いが長引くたびにその負担は強さを増し、普段ならどうとでもない動きにも大きな制限を与えた。
ところが、アスカはデュラハン卿も考え得ない正解を導き出して対処する。
わずかな負担も生じさせなかった。
そのような地力の強さを、デュラハン卿は文字通り実感する。
――鋭く重く、無駄がない。最も脅威となるのは、この柔軟な対応力だ。基礎的訓練の密度に基づく、応用力の広さを感じる。間違いなく、我が今まで戦ったどの強者より強い。
不利な体勢を強制しているはずなのに、まったく動きが衰えない。
数多の強者とは確実に違う実力に、デュラハン卿は気持ちが昂ぶった。
片やアスカは冷静に剣撃を見切り、針の穴ほどの隙を見つける。
(……ここだ)
アスカの立ち回りは逆にデュラハン卿の動きに小さな負担をかけ続け、わずかな制限を与えたのだ。
剣の握る手を強め、踏み込むと同時に勢いよく振り下ろした。
「《月影》!」
剣撃による嵐の間隙を縫うように、ここしかないという軌道を描いてアスカの剣はデュラハン卿に到達した。
鎧の胸部を切り裂く瞬間、デュラハン卿は咄嗟に身を引く。
直感で"死"を感じ取ったからだ。
アスカの剣は鎧を抉り、斬撃の大きな傷をつけた。
一度距離が開かれ、両者の間には張り詰めた緊張感と沈黙が横たわる。
睨み合う中、先に言葉を発したのはデュラハン卿だ。
『我の身体が傷つけられたのはいつぶりだろうか。……いや、今回が初めてだな。其方のせいで手入れが必要になってしまったぞ』
鎧の胸部分に深く刻まれた傷を見て、デュラハン卿は確信を得る。
『その様子だと、我の弱点にはもう気づいているようだな』
「ああ、胸部の中心だろう。そこだけ魔力の密度が一段と濃い。思った通り、魔石があったか」
アスカは切り結ぶだけではなく、同時にデュラハン卿の弱点も探っていた。
剣撃の応酬の最中、漆黒の鎧から滲み出る魔力密度のわずかな違いを感じ取り、弱点部位を浮き彫りにするに至ったのだ。
鎧の斬痕から確認できるのは、高純度の魔力があふれる白色に輝く魔石。
デュラハン卿の力の源で、頑強な鎧を斬って初めて見ることができる存在だった。
『素晴らしい、さすがだ。この短時間で気づけた人間は他にいないぞ。攻撃しながら分析していたとは賞賛に値する』
父母から受けた濃密な基礎訓練と、この旅で戦った多くの強敵との経験値。
その両者が掛け合わされ唯一無二の実力に昇華した。
魔石を確認したアスカは、今一度剣を強く握る。
その手には、斬撃の重い感触が残っていた。
(思った通り、鎧そのものも相当に硬いな。魔石を破壊するにはもう一撃が必要か)
立ち回りのイメージを迅速に思考する。
『我の』
デュラハン卿の剣に膨大な魔力が流れ込まれるのを感じ、アスカは身構える。
『死んでくれるな! 《冥導波》!』
研ぎ澄まされた魔力で刀身が著しく延び、神殿全体を切り裂く。
頑強な石造りでもとうてい耐えきれず、衝撃で瞬く間に廃墟と化した。
敵を冥府へと導く一撃――《冥導波》を躱したアスカは、土埃が舞う中デュラハン卿の行方を探す。
(どこに消えた? ……!)
直後、煙の後方から強い魔力と殺気を感じ取った。
アスカは後ろを振り返るとともに剣を振るう。
デュラハン卿の剣と衝突し、鍔迫り合いの状況となった。
両者の力と力がぶつかり、足場の石材にヒビが入るほどだ。
『大技はあまり好みではないのだがな。やはり、こうして切り結んでいる方が我の性分に合っている』
「純粋に剣術だけで戦うかと思っていたが、魔法も使うんだな」
『剣の道について思案を重ねた結果、我は魔法との組み合わせに新たな可能性を導き出したのだ』
「なるほど、魔法剣士というわけか」
鍔迫り合いは終わり、再び両者の剣が相まみえた。
下段から振られたアスカの剣に、デュラハン卿は弾き飛ばされる。
『やはり強いな。其方相手ならば出し惜しみする必要もなさそうだ……《龍撃閃》!』
着地したデュラハン卿が剣を振るうや否や、刀身から漆黒の龍が三体出現した。
高速でアスカを襲い、激しい爆発音が轟く。
――倒したか? ……いや。
土埃が風に吹かれて現れたのは、頑強なバリアで守られたアスカだった。
傷一つついていない様子を見て、デュラハン卿は感嘆として呟く。
『魔法の練度も非常に高いな。これほどの強者と戦えて、我は嬉しい』
バリアを解除したアスカは短く伝える。
「俺も、魔法剣士だ」
『……面白い』
そこで会話は止まる。
ほんの一瞬沈黙が訪れた後、死闘の第二幕が開かれた。




