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【コミカライズ化】無能と追放された最弱魔法剣士、呪いが解けたので最強へ成り上がる  作者: 青空あかな
「第三章」

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第90話:神殿にて(三人称視点)

 "星詠神殿"はこの世を作ったとされる偉大な女神を讃えるために、遥か昔に建造されたと言われる。

 石造りの建物は荘厳で、訪れた者はみな身が引き締まった。

 元々この辺りは静かな場所だが、修道士が誰もいなくなったためより一段と静寂が深い。

 周囲に広がる森の中では、一人の男が神殿の様子を窺っていた。


 ――Sランク冒険者、"血斧の豪傑"ギュスターヴ。


 常人には持つことさえ叶わぬ武器を軽々と振るっては、モンスターの血で染め上げるのだ。 赤紫色の髪は硬い質感で、同じく赤紫色の瞳は鷲のような鋭さを持つ。

 鍛え抜かれた肉体にはいくつもの傷が刻まれ、歴戦の重みが感じられる。

 背中に担がれた斧の重さは、およそ100kg。

 頑強な肉体で攻撃を受け止め、強力な斧の一撃で敵を屠る。

 通常ならばパーティーで挑む難関クエストも悉く達成してきた。

 神殿を見据えるギュスターヴは、自然と拳を硬く握る。


(デュラハン卿が持つという大量の財宝……。それがあれば、故郷の孤児院を存続させられるかもしれない)


 彼は王国の北方に位置する、小さな村の孤児院出身だ。

 旅人だったらしい両親に捨てられたギュスターヴを、孤児院は優しく暖かく育ててくれた。

 森の中で放置されていたところを救われたので、シスターたちはまさしく命の恩人だ。

 成長したギュスターヴは、恩を返すため冒険者になった。

 最初はギルドの教官に稽古をつけてもらい、めきめきと実力をつけた。

 幼少期より体格に恵まれたこともあり、わずか一ヶ月ほどで教官を追い抜いて独り立ちした。

 それ以来、金を稼いでは仕送りを続ける日々だ。


 ところが、先日の手紙で孤児院が閉鎖の危機にあることを知った。

 ただでさえ、運営には金がかかる。

 元々経営は逼迫していたが、モンスターの襲撃が大打撃になった。

 建物は破壊され、貴重な食糧や薬なども全て失った。

 徐々に厳しい冬が近づいていることもあり、このままでは孤児やシスターは路頭に迷うだろう。

 村自体は裕福でもなく、寄付金の当てもない。

 ギュスターヴはSランク冒険者なので、毎度のクエスト報酬も高額だ。

 だが、自分がそうされたように困った人間には金銭を分け与えていたので、大金持ちというわけではなかった。

 巡り合わせの問題か、最近は高額報酬のクエストがないことも焦りに拍車をかけた。


(今すぐにでもまとまった金が必要だ。シスターや孤児たちの生活を守るためにも、俺は必ずデュラハン卿を倒す)


 決意を新たにしたとき。

 神殿の入り口に、漆黒の鎧――デュラハン卿が姿を現した。


(来たか!)


 ギュスターヴは全身の血が冷たくなる感覚を覚える。

 強者と戦うとき、彼はいつもそう感じるのだ。

 このまま様子を窺うか隙を見て攻撃するか考える中、デュラハン卿はギュスターヴの潜む木陰に向かって話しかける。


『其方は強者だろう? なぜ隠れる。自分の力に自信があるのなら、正面から挑めばいい』

「……全てお見通しというわけか」


 誤魔化すようなことはせず、ギュスターヴは素直に木陰から出る。

 相棒の斧を構え、問う。


「一つ尋ねるが、お前が大量の財宝を持つという噂は真実だな?」

『ああ、真実だ。この神殿の奥に置いてある。中には誰もいないから、我を倒せば全てお前の物だ。さて、我からも一つ尋ねてよいか? 其方の名はなんだ?』

「……はっ」


 問いに、ギュスターヴは笑う。


「モンスター如きに名乗る名は……ない!」


 斧を振り上げ、駆け出す。

 一方のデュラハン卿は腰の剣を引き抜き、今ここに生死をかけた戦いが始まった。

 冒険者になったときから、ギュスターヴは徹底してソロ活動にこだわった。

 誰かと組めば、その分報酬が減るからだ。

 孤児院への仕送りを考えれば、少しでも多く金が欲しかった。

 そのようなギュスターヴは100kgの重さなど物ともせず、軽快に斧を振る。

 ただ戦うだけではなく、間合いを計りながら、戦闘スタイルを分析しながら攻撃を繰り出す。


(こいつの武器は一般的なロングソードか。俺の斧より小回りが利くな。斧の柄を使って、うまく防いで立ち回ろう)


 出の早い技を駆使して隙を作り、大振りの攻撃を喰らわすプランを組み立てる。

 ギュスターヴは不意に斧を押し出した打撃により、デュラハン卿のバランスをわずかに崩した。

 その一瞬を見逃さず、斧を大きく振りかぶる。

 叩きつけた瞬間、集めた魔力を一気に破裂させた。


「《バースト・インパクト》!」

『……っ!』


 閃光が迸り、巨岩をも粉々に砕く激しい爆発が発生する。

 

(やったか? ……いや!)

 

 爆煙を切り裂くように漆黒の剣が振るわれ、ギュスターヴはすかさず斧で防御する。

 大きな刃面で身を隠したが、防ぎきれぬ斬撃が全身を襲った。


(くっ……! 全てを防ぐのは無理か!)


 急所だけは防御するつもりで斧を構える。

 爆煙を霧散させるほどの剣圧は重く、たとえ防いだとしても常人は瞬く間に肉塊と化しただろう。

 ギュスターヴは一旦距離を取り、間合いを保った。


「なかなかやるな、さすがは魔族四皇か」

『其方も相当の実力者とみた。Sランク冒険者なのは確実だな。予想以上の猛者で、我はとても嬉しいぞ。その斧も匠の技が感じられる』


 デュラハン卿の指摘通り、ギュスターヴの斧は名だたる鍛冶師が打った傑作――星砕斧だ。

 いくら敵を叩き斬っても研磨の必要がまったくなく、武器としての質の高さがより彼を強くした。

 それでも今は刃こぼれし、表面は傷だらけになっていることから、デュラハン卿の剣術の凄まじさが伝わる。


(今は危なかったが……いける。このまま圧せば勝てる)


 たしかな自信を感じ、ギュスターヴは駆け出す。

 デュラハン卿との戦闘は互角。

 ほぼほぼ両者拮抗、わずかにギュスターヴ優勢と言える状況だった。


「お前を倒して、必ずみんなを救う!」

『素晴らしい。立派な心がけだ』


(っ、動きが変わった?)


 デュラハン卿はギュスターヴの戦闘スタイルを分析し、立ち回りを変えた。

 むしろ星砕斧を集中的に狙い、防御に手一杯な状況を作る。

 高速の剣撃は猛烈な力で襲い掛かり、斬りつけるたび星砕斧の表面を深く抉った。


(馬鹿な……どんな敵の攻撃でも防いできた俺の斧が……!)


 必死に防御するギュスターヴに対し、デュラハン卿は余裕のある声音で話す。


『いい武器だが、我の剣には負けるようだ。だが、気にするな。其方の問題ではない。鍛冶師の腕の問題だ』

「くっ……この斧を馬鹿にするな!」


 ギュスターヴは剣撃の嵐の中を無理やり突破し、デュラハン卿に迫る。


(この際、防御は捨てる! 多少の剣撃は身体で受ければいい!)


 頑強な肉体を魔力のオーラで覆い、防御力を高める。

 襲い来る剣撃を先ほどより浅く留めたが、デュラハン卿から漂う余裕は消えなかった。


『うむ、やはり悪くない。……しかし、惜しいかな。この場合は、斧も魔力で覆った方が良い』

「だ、黙……っ!」

『《冥撃》』


 直後、デュラハン卿が横に振るった一撃で、ギュスターヴの首が飛んだ。

 咄嗟に星砕斧で防御したが、スポンジでも切るようにあっさりと切断されてしまった。

 度重なる重い剣撃により星砕斧には深刻なダメージが蓄積しており、終ぞ防ぎきることができなかった。

 ギュスターヴの胴体と斧が、力なく地面に崩れ落ちる。

 激しい戦闘の音が消え、神殿には徐々に静寂な空気が戻った。

 

『……我は死した武器には興味がないのでな』


 主を失ったからか星砕斧にもう力強さはなく、デュラハン卿が剣を振るうと完全に砕け散ってしまった。

 デュラハン卿はギュスターヴの首だけ回収する。

 即座に魔力のオーラで覆い、腐敗と出血を止めた。

 不要な胴体部分は魔力で燃やし、誰もいなくなった神殿に一人歩を進める。

 



 □□□



 "星詠神殿"の中に位置する祈りを捧げる巨大な空間――聖堂には、王都にあるルトロイヤ教会の物より五倍ほど大きい女神像が安置される。

 その聖堂で、デュラハン卿は女神像を見上げていた。

 女神像は彼の剣技によりすでに首を落とされ、空間全体には歪な雰囲気が漂う。

 しばし独特の空気を味わっていたデュラハン卿は、像の下の長大な祭壇にギュスターヴの首を置く。

 祭壇にはいくつもの首が――彼が今まで倒した猛者の首が鎮座しており、ギュスターヴはその"コレクション"の一つに収まった。

 ギュスターヴの目を丁寧に閉じたところで、ふとデュラハン卿は聖堂に繋がる通路に魔力を感じ取った。


『……戻ったか。予定より早かったな』


 暗がりから人間の男女が二人、姿を現す。

 どちらもデュラハン卿の前まで歩くと、膝をついて首を垂れた。

 男は黙り、女が話す。

 

『師匠、ただいま戻りました。想定外の事案が発生し、予定を切り上げて帰還した次第です』


 男女の手首には魔石の埋め込まれた銀色の腕輪が装着され、差し込む陽光を受けて上品に煌めいた。

 デュラハン卿は軽く手を振って応える。


『そうか、ご苦労。もう変身を解いてよいぞ。ついさっき猛者と相まみえたばかりでな。人間を見ると、余韻で気持ちが昂ぶってしまう』

『御意』


 男女が腕輪を外すと、彼らの身体が不気味に変容する。

 人型は維持したまま、頭からは二本の角が、背中からは翼が生え、腰からは長い尾が生える。

 瞬く間に、ドラゴニュートと呼ばれるドラゴンの血を引く人型モンスターに姿を変えた。

 男は青色の、女は赤色の鱗を持つ。

 女ドラゴニュートは、今取り外したばかりの銀色の腕輪を差し出す。


『この魔導具を使えば師匠も人間の姿になれますが……。いっそのこと、直接戦いに行かれてはいかがです?』

『我はどうしてもそれが好かなくてな。剣を振るえない時間が苦しいのだ』


 デュラハン卿は手を振って拒絶の意を示す。

 この腕輪は"魔王"より授けられた特別な魔導具で、装着すると人間の姿に変身できる。

 人間になっている間は本来の力が発揮できないが、硬度な探知魔法でも見極められないほどの精度を誇った。


 ――強い人間を探せ。


 それが、デュラハン卿が"魔王"から受けた命令だ。

 デュラハン卿の"強者と戦いたい"という自己の目的とも合致しており、今までその命令に忠実に生きてきた。

 二体の側近に強者を探させては根城に誘導するよう仕向け、勝負を挑み、屠る。

 倒しきるとまた別の地域に移動し、また新たな強者を探す……。

 それが、彼らが定期的に場所を移動する所以であった。

 女のドラゴニュートは祭壇に置かれたギュスターヴの首に気づく。


『また一つ、師匠のコレクションが増えたようですね。強かったですか?』

『ああ、最近戦った中では最も強かった。名は聞けなかったが、人間の世界ではSランク冒険者と評価されるだろう。斧の高い練度が非常に印象に残っている。我流ではあるだろうが、才覚あふれる人物だったのは間違いない。願わくば、もう一度戦いたいところだ』


 猛者たちの首を眺めるデュラハン卿からは、顔が無くとも楽しげな様子が伝わる。


『師匠は人間との戦いを話しているときが一番楽しそうですね』

『ああ、猛者しか持ち得ない努力と才能の密度……それを感じながら剣を振るい、勝利する瞬間の感覚は何物にも代えがたい。首を集めるのは我には無い物だからかもしれんな、わはは』


 デュラハン卿は鎧を揺らして笑う。

 彼は冷酷冷徹でありながら、陽気な一面も持つ奇特なモンスターであった。

 そこまで話したところで、女ドラゴニュートは思い出したように話す。


『申し訳ありません、ご報告が遅れました。潜伏していたヴァルメルシュですが、人間は地下で奴隷売買を行おうとしていたようで、ちょっとした混乱が起きました。そして、その混乱を鎮圧したのが、"あの"アスカ・サザーランドです』

『……詳しく話してくれ』


 アスカの名を聞いたデュラハン卿は纏う空気が変わり、女ドラゴニュートはヴァルメルシュで起きた出来事を淡々と説明する。

 奴隷商人による"違法競売"とアスカの活躍によるその壊滅を聞いたデュラハン卿は、祭壇の前に腰を下ろした。


『ふむ、アスカ・サザーランドか。ヴァンパイア伯爵とリーチーロードを倒した実力は本物のようだな。話を聞いただけで気持ちが昂ぶるわ』

『……そうですか』

『どうした? 何か不満がありそうだな』


 わずかな心の機敏を鋭敏に感じ取ったデュラハン卿に尋ねられ、女ドラゴニュートは慌てて真意を口にする。


『あ、いえ、不満というわけでは……ただ、あの人間は同胞であられる魔族四皇を殺した仇敵だと思い……』

『別に恨みなどはない。弱者が強者に負けるのは、世の常。特に、リッチーロードはなぜか我の目的に相反する活動をしていたし、むしろ消えてくれて清々する』


 魔族四皇は不仲ではないが、協力関係にあるわけでもない。

 完全な個人主義の世界。

 少なくともデュラハン卿は、同胞が死んでも『弱い方が悪い』という考えでいる。

 ただ、気になるのはリッチーロードの動向だった。


(なぜ、彼奴は冒険者と修道会の衝突を煽ったのだ?)


 もし互いの怨嗟が積み重なり大規模な内乱が発生したら、"魔王"に命じられた"強い人間を探せ"という目的が達成困難になる。


(我に対する嫌がらせか? 疎まれるようなことをした覚えはないが……。もしくは、"魔王"様の目的が変わった可能性がある。……だとしたら、なぜ我にその旨を知らせない)


 デュラハン卿はしばし考え事をしていたが、女ドラゴニュートの声で我に返った。


『こちらから仕掛けますか? アスカ・サザーランドたちの道程はある程度推測が可能ですが……』

『いや、ここで待つ。やはり、神殿のような祈りを捧げる空間は良い。精神が落ち着き、我の剣技が一段と研ぎ澄まされる。猛者の来訪を楽しみに待とうじゃないか。この祭壇にアスカ・サザーランドの首が並ぶと思うと、非常に心が躍る』


 デュラハン卿は胸の昂ぶりを感じながら願いを告げる。


『この世に生きる猛者たちよ。この空虚な身をもつ我を楽しませてくれ』

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