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【コミカライズ化】無能と追放された最弱魔法剣士、呪いが解けたので最強へ成り上がる  作者: 青空あかな
「第三章」

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第84話:倉庫

 北に走ること、およそ五分。

 俺、ナディア、ティルー、ノエルは倉庫街の手前に到着した。

 今は建物の陰から様子を窺っている。

 倉庫街は煉瓦造りの頑強な建物が建ち並び、賑やかな街の中心部とは雰囲気がまるで違った。

 ある種の廃れた空気が風情を感じると言えば聞こえはいいが、実際は物寂しくてどことなく重く感じられる。

 人通りもない状況を見ると、自然と呟きが出た。


「立派な倉庫街だが、やはりもう使われていないみたいだな。廃墟のような雰囲気だ」

「そうだね。街やお店の人が言っていた通りだよ。建物も汚れが目立つし、忘れ去られた場所って感じ」


 街を走りながら、俺たちはヴァルメルシュの住民や店主に倉庫街について尋ねて回った。

 聞き込みをしたところ、倉庫街は街の設立に合わせて作られた場所とわかった。

 交易都市として発展した、街の象徴ともいえる場所だと住民は話す。

 この辺りはヴァルメルシュで唯一海にも面しており、潮の香りが鼻をくすぐる。

 以前は、海の近さを利用して港の用途もあったそうだ。

 潮風を感じながら、ティルーがノエルと言葉を交わす。


「街は賑わっていた分、なんだか寂しいですね。潮風は気持ちいいですが」

「ああ、まったくだ。街の中心部に繁栄が移って久しいのだろう」


 昔のヴァルメルシュは北が栄えていたらしい。

 だが、陸の街道が整備されてからは、危険な海の交易路は使われなくなり、徐々に街の中心部に人々は移動したと聞いた。

 それなのに……。


「なぜ、何隻も船が停泊しているんだ? しかも、ずいぶんと大型の船だ。見たところ、手入れもしっかりされている」

「私も気になってた。街の人の話じゃ、港も倉庫も長い間使われていないってことだけど……」

「ちょうど街から隠れる位置関係ですね」

「怪しいな。私たちもここまで来ないと見えなかった」


 倉庫街に隣接するように、大型の帆船が何隻も停泊する。

 古びた船が放置されているわけではなく、おそらく最新式の技術が搭載された帆船だ。

 "特別競売"に参加する富豪が乗ってきた可能性もあるが……。


「奴隷船かもしれない」


 俺の呟きに、三人は真剣な表情で頷く。

 セドリック曰く、捕まった"星詠神殿"の修道士たちは陸路でヴァルメルシュまで運ばれたらしい。

 だとすると、あの船は修道士たちをどこかに運ぶためか、もしくは別の奴隷を運んできたのか……。

 思案する中、ナディアが倉庫の一角を指した。


「ジェロームが入った倉庫はあそこだよ。扉に"03"って書かれている倉庫」


 倉庫の扉にはそれぞれ番号が刻まれており、03は最も海に近い場所に建っていた。

 人通りがない一方、03の周囲には数人の武装した傭兵がうろつく。

 おそらく、ジェローム及び奴隷商人の仲間だろう。

 庭園やセドリックの件を踏まえれば、警備や傭兵の類いは全てジェロームの仲間と考えた方がいい。


「ねえ、どうやって倉庫に入ろうか」


 騒ぎを起こすのは得策ではないし、"03"の入り口は海に面している。

 よって、船に誰かがいた場合、侵入を気付かれてしまうだろう。

 思案した俺は、迷彩魔法を使うことに決めた。

 

「よし、迷彩魔法を使おう。周囲の景色に溶け込むんだ。……《カムフラージュ》」


 俺たち四人の身体が少しずつ透明になり、やがて完全に透明になってしまった。

 互いの姿は薄っすらと見えるので、見失うことはない。

 準備が完了し、俺たちは静かに走り出す。

 入り組んだ倉庫街を進み、03の裏側に到着した。

 見張りの傭兵はいないことを確認し、俺はナディアたちに小声で呼びかける。


「これから、俺が魔法で壁に穴を開ける。入ったら、すぐに奴隷商人と戦闘になるかもしれない。心してかかろう」

「うん、剣も抜いて準備しておくよ」

「私も魔法の用意はできています」

「相手がどれだけいても、私たちなら大丈夫だ」


 四人全員の体勢が整った。

 俺は壁に手を当て、魔法を発動する。


「いくぞ……《オープン・スルー》」


 倉庫の頑丈な壁に異空間が生まれ、俺たちはゲートのようにして走り込んだ。

 魔法を解除すれば元に戻るので、傭兵に見つかる恐れもない。

 多数の奴隷商人がいると想定していたが、中はがらんどうで人も物資も何もなかった。

 空虚な空間を目の当たりにして、ナディアたちは警戒心を募らせたまま話す。


「おかしいな。ジェロームは確かにここに入ったんだけど……」

「誰もいないし何もないですね。もぬけの殻です」

「もう奴隷たちは運ばれてしまったのだろうか。港に停泊している船はダミーの可能性もある。だとしたらまずいぞ、アスカ」


 三人が話し、倉庫の中は緊迫感が漂う。

 ノエルが言うように、セドリックの仲間はすでに運ばれたのか?

 海に出るか街を探すか今後の立ち回りを検討したところ、ふと思いついたことがあった。


「みんな、ちょっと待ってくれ。《グロウ・ライト》」


 小さな光の玉をいくつか生み出して、明かりが外に漏れない程度に床や壁を照らす。

 

「もしかしたら、隠し通路や隠し部屋があるかもしれない。まずは倉庫の中を少し調べてみよう」

「たしかにそうだね。何か手掛かりがあるかも」

「では、私は右奥の方を探します」

「アスカ、こっちにも明かりを頼む」


 手分けして倉庫を調べて回る。

 ここの倉庫街はずっと使われていないという話だが埃は積もっておらず、やはり何かしらの人か物が出入りしていたと推測された。

 数分も調べた後、ノエルが手招きした。


「おい、みんな、来てくれ。隠し通路らしき物を見つけたぞ」

「ほんと!? さすが、ノエル」


 俺たちは彼女の元に集まる。

 一見すると、他の床板と何ら変わらない。

 ノエルは床板を軽く叩き、「コンコン」という音を出す。

 1メートルほど離れた床板を叩くと、「ゴンゴン」と重い音が鳴った。

 音の違いを示したノエルは淡々と説明する。


「継ぎ目も何もないが、ここだけ音が少し軽い。このような音は、下に空洞がある場合によく確認される。目視や手触りなどから、おそらくこの倉庫の床は高密度の石で作られているだろう。だから、石の下にきっちりと土があれば"ゴン"という重い音が鳴るはずなんだ」


 修道会の騎士は任務の他、罠にかかった冒険者の救助のためダンジョンを隈なく探索する機会が多い。

 そういった彼女自身の経験に基づく調査結果なので、非常に信頼性があった。

 ナディアが床板に耳をつける。


「よし、何か聞こえないか試してみるね。みんな少し静かにしてて」

 

 十秒ほど耳を澄ましていた彼女は、真剣な表情で頭を上げた。


「薄っすらだけど、人の声が聞こえるよ。何かこう、盛り上がっている感じ。まるで、オークションが開かれているみたいに」

「た、大変です! きっと、セドリックさんのお仲間が捕まっているんですよ。でも、どうやって中に入るのでしょう。押しても動きませんし」


 見たところ、床板にはとっかかりや窪みもない。

 物理的な方法で入れないとなると……やはり、魔法か。

 俺が魔力を込めると複雑な魔法陣が出現した。


「アスカ、何か出てきたよっ」

「これは防御の術式が組み込まれた、施錠の魔法だな。対応する鍵の魔導具か、解錠の魔法でしか開かないようにされているはずだ」

「だったら、私の剣で切り裂くか? この程度の魔法陣は何度も斬ったことがある」

「水魔法の準備もできていますよ」


 ノエルとティルーは身構える。

 二人の申し出はありがたいが、セドリックの仲間たちがいるであろうことを考えると、より安全策を取りたいところだ。


「……いや、この手の魔法陣は無理やり破壊すると、警鐘が鳴り響く術式になっていることが多い。だから、今ここで解錠の魔法を作る」


 魔法陣をよく読み解き、今まで学んできた魔法の理論を組み合わせ、頭の中で即興の解錠魔法を作る。


「《アンロック》」


 施錠の魔法陣は解除され、床板は少しずつ透明になり消滅してしまった。

 地下に続く大きな階段が現れると、ナディアたち三人は静かに、けれど笑顔で喜んだ。


「すごいよ、難しそうな魔法陣だったのにこんなすぐ解除しちゃうなんて」

「さすが、アスカさんです。魔法の腕で右に出る者はいませんね。もちろん、剣もですが」

「見事だ。私なら破壊することしかできなかったぞ」


 あまり大騒ぎしないところが経験値の高さを感じ、俺は頼れる仲間とともに足を踏み入れる。


「物音を立てないよう、静かに進もう。敵に俺たちが来たことを悟られないようにな」


 最低限の《グロウ・ライト》で足下のみ照らし、階段を降りる。

 ところどころ硬い物で引っ掻いたような傷が確認され、何か重い物――頑丈な檻の運搬が脳裏にチラついた。

 ナディアが聞き取ったであろう人々の喧噪も響いてきて、自然と身体が硬くなる。

 最下層につくと、目の前に城門を思わせる重厚な扉が立ちはだかった。

 鋼鉄製でかなりの重量があると推測されたが、力を込めれば簡単に押し開くことができた。 まず、目に飛び込んできたのは、高級宿のホールみたく開けた空間だ。

 天井からは豪奢なシャンデリアが垂れ下がり、隅々まで明るく照らされる。

 内装もまた貴族の屋敷を想像させる豪華さを誇り、地下とは思えなかった。

 ホールの光景を見たナディアたちは息を呑み、怒りの滲む声を上げる。


「アスカ、これって……!」

「こんなこと……許せません!」

「この場にいる全員を斬り伏せないと、私の感情は落ち着きそうにない」


 俺もまた、三人と同じように怒りに身が焦がれる。

 いくつもの檻が無造作に並び、中には多数の人間の他、大量のモンスターまで捕まっている。

 さらに奥には競売台が設置され、セドリックと似たような意匠の服を来た何組もの男女が競りにかけられていたのだ。


「……さあ、今回の目玉と参りましょう! "星詠神殿"の修道士たちです! みな、厳しい修練を積んでいるので純度の高い魔力を持っておりますよ! まずはこの若い女から金貨30枚で始めましょう!」

「金貨35枚!」

「俺は40枚出すぞ!」


 当初の懸念通り、この地下空間では奴隷オークションが開催されていた。

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