第82話:主催者の行方
「そうか、ナディアは目が良かったな。俺からも頼む」
「でも、死角が多いからどこか高いところに行かないと難しいかも。ハウスは大きいけど、きっと高さが足りないよ」
たしかに、この街は死角が多い。
俺には良い案があった。
「それなら、俺とティルー、ノエルで踏み台を作ろう」
「さすが、アスカ! それだ!」
三人で手を合わせ、その上にナディアに乗ってもらう。
準備する俺たちを見て、出し物と思ったのか観客が続々と集まった。
「お父さん、あれ見て。何かやってるよー」
「なんだ、大道芸か? いいぞ、景気よく一発決めてくれ」
「前から欲しいと思っていたバッグ、あなたたちの芸が成功したら絶対に競り落とすわ!」
無論、大道芸などではないのだが、瞬く間に歓声が沸き周囲は盛り上がる。
苦笑するティルーとノエルとともに、俺は息を整える。
「じゃあ、みんな行くぞ。……せーのっ」
「「それっ!」」
三人でタイミングを合わせ、ナディアを勢いよく上空に放り投げる。
彼女の体重は軽いこともあり、オークションハウスよりずっと高くまで飛ばすことができた。
周囲がどよめく中、ナディアが素早く視線を巡らす様子が下からも見えた。
長い滞空時間を伴って彼女がふわりと着地すると、群衆からは一段と大きな歓声があがる。
「お見事、お嬢ちゃん! あんなに高く飛んで怪我しないなんてすごいな!」
「踏み台になった三人もよく頑張ったぞ! タイミングと力加減を合わせるのが難しいだろう!」
「こんな大ジャンプと綺麗な着地は見たことない! 金払うからもっと飛んでくれよ!」
盛り上がった群衆はアンコールを求める。
だが、ナディアは情報を摑んだようなので、もう大ジャンプの必要はなさそうだ。
「すまないが、俺たちは大道芸人じゃないんだ。だから、もう解散してくれ」
「「なんだ、それじゃしょうがねえな……」」
残念そうにしながらも群衆は解散し、通りには人の流れが戻る。
すると、ナディアが両拳を握り締め興奮した様子で報告した。
「ジェロームは北の端っこにいたよ! 倉庫街みたいな場所があって、その一つに入っていくところだった!」
「なるほど、倉庫街か。よく見つけてくれた。ナディアの目は、俺の探知魔法より精度が高そうだ」
「ありがとうございます、ナディアさん。さすが"猫人族"ですね」
「身軽だし、私と同じ修道会に入っても活躍できそうだな」
ノエルとティルーにも感謝され、ナディアは嬉しそうだ。
ヴァルメルシュは交易都市なので、物資を保管する倉庫などの建物も多い。
"特別競売"の競売品を確認するためか、はたまた俺たちのギルドカードなど、違法に入手した物品の管理をするためかわからないが、さっそく向かうことが決まった。
「しかし、ノエル、ハウスの警備や俺たちを襲った傭兵団を見逃してしまっていいのか?」
取引ではあったものの、罪人を見逃す彼女ではないと思うが……。
そう思う俺の問いに、ノエルはニヤリと笑って答えた。
「嘘も方便……って、ヤツだ」
俺も微笑みで返し、北に走り出そうとしたとき。
誰かに呼び止められた。
「す、すみません、僕の話を聞いてくださいませんか?」
振り向くと、疲れ果てた様子の若い男が立っている。




