第81話:オークションハウス
街に戻ってきた頃には、すっかり日は暮れて夜になった。
道沿いに並んだ店は明かりをつけ、ヴァルメルシュは昼間とは違う様相を示す。
オークションハウスは他の建物より一段と煌びやかで、今夜から始まる"特別競売"を盛り上げるようだ。
ギドーと“鋼牙団”を引っ張りながら、俺たちは中に入る。
先刻と同じガゼルと警備がおり、一斉にこちらを見た。
それぞれの表情には動揺が滲む。
「て、てめえら、なぜ戻って……! どうして戻ってこれた……! それに、そいつらは……っ!」
「まるで、俺たちが二度と帰ってこられないと、確信していた言い方だな。……さて、聞きたいことがある。ジェロームはどこだ? この傭兵たち――“鋼牙団”とも顔見知りのはずだ」
俺が尋ねると、ガゼルたちは焦燥感の滲む表情で話し合う。
しばし何やら相談した後、昼間と同じ俺たちを侮るような顔つきに変わった。
「誰が教えるかよ。ジェロームさんはお忙しいんだ。お前たちに居場所を教えるわけがないだろう。どうせ、その傭兵たちといざこざでもあったんだろ? 尻拭いしてもらおうなんて虫が良すぎるぞ」
「会いたきゃ自分で探すことだ。この夜の暗さと人混みから見つけられるんならなぁ」
下卑た笑い声が室内に響く。
だが、ノエルが縄で縛られたギドーを突き出すと、雰囲気に気圧されたのかガゼルたちの笑い声は止まった。
一方のノエルは、極めて冷静に話を続ける。
「この男がギドーという名前であることや、ジェロームの命令により襲撃を企てたこと、そしてお前たちも“鋼牙団”の仲間であることは全てわかっている。この街は市長による自治が認められており、騎士団の駐屯地がなかったな。オークション中の警備体勢はジェロームが担うから、犯罪も隠蔽しやすかったというわけか」
「「……っ」」
空気は張り詰め、重さを感じるようだ。
何も話せない様子のガゼルたちに、ノエルはさらなる追い打ちをかける。
「今回の件は、私から王国騎士団に報告してもいいんだぞ」
「「ま、待てっ! 王国騎士団はダメだっ!」」
「お前たちは襲撃してこなかったが、裏では市民や観光客に恐喝を繰り返していたとも聞いた。これもまた立派な罪だ。……ジェロームの居場所を言えば、見逃してやらんこともない」
彼女の言葉を受け、警備たちの表情に迷いが生まれる。
素直に居場所を言って自分の身の安全だけは確保するのか、それとも主に対しての忠義を守るのか。
心の天秤が揺れる様子が目に浮かぶ。
逡巡するガゼルたちに対し、ノエルは腰の剣に軽く手を当てながら話す。
「こいつら“鋼牙団”の連中はアスカの回復魔法で治療してやったが、もう二度と立ち上がれないほどの重傷を負った。できることなら、お前たちには無事でいてほしいものだな」
実際はそれほどの重傷者はいなかったが、こう話した方が効果的だという彼女の方便だ。
最後の一言が決め手となったのか、ガゼルたちは懇願するような勢いで話し始めた。
「わ、わかった、全て話す! ジェロームさんはここにはいない! ついさっき、ハウスを出てどこかに行ったんだ!」
「だから、私たちはそれがどこかを聞いているんだ」
ノエルの身体から威圧のオーラが漂う。
彼女の表情は見えないが、ガゼルの反応を見ればどのような表情かよくわかった。
「し、知らない! 本当に知らないんだ!」
「最近、ジェロームさんはお一人で街のどこかに行っている! 今日もたぶんそこだ! でも、どこかは一度も教えてくれないんだよ! 嘘じゃねえ!」
「“鋼牙団”とは別の部下に"特別競売"の運営を頼んでいたから、たぶん会場じゃない! もう許してくれ!」
必死に捲し立てる様子から、真実だろうと推測された。
ガゼルとギドー、傭兵には一歩も外に出ないよう厳命し、俺たちは一旦街に出る。
"特別競売"の開催が迫っているからか、人通りはより激しくなっていた。
貴族風の若い男女や、品のある老夫婦、やんちゃに走り回る子どもたちに、祭りの雰囲気を楽しむ冒険者パーティーなど……。
一般オークションも佳境を迎えており、道端の人だかりも相当なものだ。
老若男女が入り乱れる光景を見ながら、ノエルとティルーは話す。
「夜になると、これほどすごい人混みになるのか……。この中から探し出すのは少々難義しそうだな。店も一軒一軒探すとなると、大変な労力だぞ。ある程度目星をつけた方がいいだろう」
「オークションの主催者ですから、やはり"特別競売"の会場にいるのではないでしょうか。先ほどの男たちが嘘を吐いている可能性も……」
ヴァルメルシュの街は広くて大きい。
地道に探すとなると、ノエルの言う通り労力も時間もかかってしまう。
おまけに、ほとんどが正装をしており、ジェロームの服装とも類似している。
ここは探知系の魔法を使ってみるか……と思ったとき、ナディアが力強い声で言った。
「私が探してみる。目には自信があるから。街を歩いているのなら、絶対に見つけてみせるよ」




