第80話:庭園での戦い
◆◆◆(三人称視点)
アスカの敵は四人だ。
オーソドックスな長剣が二人に、頑強な両刃斧が一人。
最後の一人は太い棍棒を構える。
並の人間では気づかぬほどスムーズに戦列を整える様子から、アスカは彼らの作戦を推測する。
(動きの早い長剣で隙を作り、破壊力のある斧と棍棒で仕留める計画か)
その推測を証明するかのように長剣の傭兵たちは雄叫びを上げ、アスカに襲い掛かった。
「四聖を倒したら名が上がるぜ! 最後の留めは俺が刺してやる!」
「焦るなよ! じっくりいたぶってやれ! こっちは四人だ!」
二本の長剣がアスカを襲う。
どちらも頭や心臓など、急所を狙った刺突の一撃だ。
(最短距離の攻撃故に、軌道が見切りやすい)
アスカは最低限の動きで剣を弾き、二人の全身に激しい斬撃を与える。
「は、早……っ!」
「なん……だ、こいつ……っ!」
長剣の二人組は一瞬で倒され、アスカは斧と棍棒の傭兵に迫る。
残りの二名は大きく振りかぶると、思いっきり叩きつけた。
「はっ、舐めんな! 叩き潰してやる!」
「死んでも恨むなよ!」
速度も力もそれなりにあるが、アスカの身体を傷つけるには至らなかった。
アスカは剣に魔力を込め、一太刀。
「《ボルト・ブレード》!」
雷魔法が宿ったアスカの剣は切れ味が格段に増し、いとも簡単に傭兵の斧と棍棒を切り裂いた。
傭兵たちの身体には強力な雷撃まで流れ、彼らは気を失う寸前に呟くことしかできなかった。
「「お前……剣士じゃないのか……?」」
「俺は魔法剣士だ」
アスカが剣を振るっているとき、ナディアもまた己の敵と戦っていた。
傭兵は三人。
いずれも彼女より大柄だが、ナディアは素早い動きで翻弄していた。
「ちくしょう、なんだこいつ! ちょこまかと逃げやがって!」
「逃げるんじゃねえ! 殴らせろ! まずはこいつの動きを止めろ!」
「クソッ、なんでこんなに動きにくいんだ! 何か魔法を使いやがったな!」
(動きが全部……視える!)
ナディアは躱すだけでなく、傭兵たちの重心移動をも見切る。
相手の重心のバランスを崩す繊細な立ち回り。
傭兵たちは何か見えない力で身体を押さえつけられているような、不気味な感覚に陥っていた。
「私は何もしていないよ」
ナディアは攻撃を躱しながら、傭兵たちの手首や肩、足の腱を的確に狙う。
「うぐっ! 力が入らねえ……!」
「やべぇ、武器が……!」
手首の腱を傷つけられた傭兵たちは手に力が入らず次々と武器を落とし、肩の腱も切られては殴打することもできず、脚の腱を切断されては立つこともできない。
ナディアの優勢で決着がつくと思われたとき。
彼女の真後ろに立つ傭兵が、腕に隠した仕込みボウガンを放った。
(死ね、小娘!)
死角から放たれた鋭い矢は、一直線にナディアの頭に飛ぶ。
傭兵は突き刺さると確信を持つ。
だが、あっけない幻想で終わった。
ナディアはまったく見ずに回転して躱し、そのままの勢いで傭兵の胸を切り裂いた。
「な、んで……っ」
「それも、視えてるよ」
庭園のまた別の一角――噴水の周辺では、ティルーが四人の傭兵と対峙していた。
ティルーは戦闘が始まってすぐ広場の奥に向かって退避したが、追いつかれた形である。
彼女は隅に追いやられ、後ろには建物の壁が迫る。
一方、噴水の近くにいる傭兵たちは、短弓やボウガンといった遠距離用の武器の他、杖も構えて余裕のある表情を浮かべた。
「ウンディーネとはこれまた珍しい。競売品に出せば高値がつきそうだ。駆け込みになるが、運営も喜ぶだろう」
「お前らの一族は水魔法が得意なんだよな? しっかり対策させてもらったぜ。ほら、いいだろ、この盾」
傭兵の一人は魔法を打ち消す、貴重な魔封じの大盾を所持しており、ティルーの表情は硬くなった。
「その盾で防御しながら、弓やボウガンで攻撃するというわけですか。魔法の使い手もいるようですね」
「ああ、そうさ。お前の体力・魔力が尽きるまで攻撃してやるよ!」
その言葉を合図に、傭兵たちは一斉射撃を始める。
鋭い矢と土魔法で生み出された岩塊の攻撃だ。
すかさず、ティルーは水の防壁を展開させた。
「<アクア・シールド>!」
矢も岩塊も水の防壁に吸収され、勢いを消す。
ティルーはあくまでも冷静に問う。
「あなた方の矢や魔力にも限界があるのでは?」
「安心しろ、俺たちには近距離用の武器もある。ウンディーネの連中は近接戦闘に慣れていないようだからな。ククッ、水を補給できる噴水はこっちのテリトリーだ。お前はジリ貧になるんだよ」
先頭の傭兵が話すように、彼らはみな小型のナイフや短刀を所持している。
噴水の周辺も陣取り、ティルーに補給させない意志が感じられた。
(矢や魔法で押した後は、近接戦闘で片を付けるつもりですか。たしかに、私はあまり剣などが得意じゃありません。このままじゃ消耗するだけ。だったら……)
ティルーは水の盾を巨大な槍に変え、高速で傭兵たちに放った。
「《アクア・ランス》!」
「はははっ、だから無駄だって! この盾は魔法を打ち消すんだよ!」
傭兵が笑う通り、《アクア・ランス》は大盾に当たるや否やたちまち打ち消され水に戻る。 魔導具が機能して傭兵たちの空気が緩んだ瞬間。
ティルーは温めていた"仕掛け"を発動させた。
「<ブルー・ハンド>!」
突然、噴水から水の手が三つ出現し、"大盾を持っていない"傭兵たちを掴んで空中に持ち上げた。
彼らが抵抗する間もなく、即座に大盾の傭兵に放り投げる。
たまらず魔封じの盾で受け止めた傭兵は、仲間を激しく叱責する。
「うぐぉっ……! 馬鹿やろう、なに油断してんだ!」
「馬鹿はお前だ! その盾で俺たちを防いだら……!」
あっ、と思った瞬間、傭兵たちの頭に水弾が激しく炸裂した。
高圧縮された水の硬さに意識が刈り取られる。
気絶する寸前、ぼんやりとティルーの姿が見えた。
「て……めぇ、噴水を囮にしやがったな……。ここに逃げたのも……全部誘導か……。クソッ……油断さえしなきゃ……勝ってたのに……」
力尽きる傭兵たちに、ティルーは淡々と呟いた。
「戦いでは一瞬の油断が命取りになる。この旅で学んだ通りでしたね」
広場のさらに別の一角では、ノエルが傭兵に囲まれていた。
まだ帯刀せず腕を組んだままの彼女を見て、傭兵はニヤニヤと笑う。
「おい、どうした。怖じ気づいたか? まぁいい、金を出せば見逃してやる」
「この中じゃ、あんたが一番金持ってるだろうな。なんせ、ダレンハート家の令嬢なんだからな」
「今回の報酬で何をしようか。酒に女に賭博に……ヒャハハッ、金はいくらあっても足りねえ。……なに、ジッと腕を組んでるんだよ」
「この女も諦めたみたいだし、さっさと倒して金にありつこうや!」
傭兵たちが一斉に飛びかかったとき、ノエルは小さく言った。
「お前たちに使われる金は可哀想だと、考えていたところだ」
抜刀と同時、美しい円の軌道が描かれる。
たったそれだけで傭兵たちは致命傷を負い、もう立ち上がることはできなかった。
あっという間に手練れの傭兵が全滅した光景を見て、ギドーは腰が抜けわなわなと座り込んでいた。
「そ、んな……無傷で全員倒しただと……? やべぇ、早く逃げ……」
逃げようとして後ずさると何かにぶつかった。
恐る恐る振り返ると、散々馬鹿にした四聖が見下ろしている。
「船の仲間にも投降を勧める。傭兵稼業ができなくなるのは嫌だろう?」
アスカが降伏を促した瞬間、上空の浮遊艇から高速で白旗が上がった。
□□□
戦闘が終息し、庭園には徐々に静けさが戻る。
散り散りになっていたナディアたちも合流し、戦いは浮遊艇で待機していた“鋼牙団”の残りも捕え、戦いは俺たちの完全勝利で終わった。
ノエルはギドーを睨みつける。
「この襲撃を命じた人物については、お前を締め上げれば答えがわかる……と言っていたな?」
「ノエルはこういうとき容赦しないからね! 謝ってももうダメだよ!」
「あなたは弱い方が悪いとも言ってました! だから、どうなっても構いませんね!?」
女性陣に詰められ、ギドーは観念したように叫んだ。
「ま、待て、全部話す! だから、もう許してくれ! お前らが予想している通り、ジェロームさんだよ! あの人から情報を貰って“鋼牙団”を動かした! でも、奪ったプレートとカードはジェロームさんが持って行く約束だ! 俺は単なる下っ端でしかないんだよ!」
ギドー曰く、ジェロームはときたま裏でこのような荒稼ぎをしていたらしい。
貴重な品々を持った訪問客の情報を部下に流し、傭兵団に襲わせる。
奪い取った宝物はカタログ外の競売品として出品。
部下には幾ばくかの金を支払い、自分は暴利を貪る。
ただで入手したような物だから丸儲けだと、ギドーは語った。
脅迫して口止めすることで市長に伝わることも防いでいたとも。
話を聞いたナディアたちは憤り、さっそくジェロームの元に行こうと相談する。
「みんな疲れていないか? おそらく、ジェロームは独自の傭兵を雇っているはずだ。連戦になると思うが……」
そう尋ねる俺に、三人は笑顔で応えた。
「全然大丈夫! 少しも疲れてないよ! むしろ、どんと来いって感じ!」
「私も問題ありません! あと一勝負も二勝負もできます!」
「このまま行こう。私たち以外に誰かが襲われないとも限らない。オークションの警備を担うジェロームが襲撃を命じたとなると、警備の連中も信用できんな。この傭兵どもは拘束して連行しよう」
度重なる激闘を経て、みんなさらに成長したようだ。
かくいう俺も旅を始めた頃よりさらに強くなった実感を覚える。
話はまとまり、ジェロームのいるオークションハウスまで戻ることが決まった。
ギドーと“鋼牙団”の全員を証人として連れ、俺たちは庭園を後にする。




