第71話:情報
「“魔王”の正体……だと?」
リッチーロードの叫び声に、俺は思わず聞き返した。
“魔王”の正体……。
未だかつて、人類の誰もがたどり着いていない情報。
討伐にあたっての、最も重要な情報だった。
『知っていることは全て話ス! だ、だから、見逃してくレ! 共に“魔王”を倒そうではないカ!』
リッチーロードはどうにかして上体を起こし、必死に叫ぶ。
嘘を言っているようには思えない。
だが、相手は“魔族四皇”だ。
信じるに値するか判断が難しい。
命乞いの隙に俺たちを殺すつもりかもしれない。
警戒心を解けずにいたら、ナディアたちが言った。
「聞いてみようよ、アスカ」
「情報の真偽は後ほど調べましょう」
「少しでもおかしな素振りを見せたら、即座に私が斬る。騎士たちも集まってきた。こいつが暴れてもすぐに対処できる」
リッチーロードはすでに半身を斬り落とされている。
周囲には修道会の騎士が集まり、剣を構え警戒中だ。
たしかに、みなの言う通りだ。
『お前たちがワタシを信用できないのもよくわかル。だから、まず話しておくことがあル。冒険者排斥運動についてダ。どうしてこのような運動を起こしたのか説明すル。そうすれば、お前たちもワタシを信用してくれるはずダ』
「……話してくれ」
俺が促すと、リッチーロードは静かに話し出した。
『冒険者と修道会、両者を同士討ちさせるのが目的だっタ。冒険者の中には血気盛んな人間もいる。もちろん修道会にもナ。軋轢が深まれば、大規模な戦闘が起きることは容易に想像ついタ』
「人間の数を減らすのが目的ということか?」
『そうダ。……いや、ただの人間ではない。強い人間を減らすのが目的だっタ。あの愚かな教皇を唆したら、排斥運動は簡単に始められタ。元々、修道会の騎士は冒険者が嫌いだったようだナ。そういった背景もうまく利用できタ』
今、冒険者排斥運動の目的が明らかとなった。
まさか、騎士と冒険者の同士討ちが狙いだったとは……。
両者の不和を利用されたのだ。
周囲の騎士たちにも動揺が広がる。
「まったく想像もつかなかった……クソッ、やられたな……」
ノエルは悪態を吐く。
彼女もまた、真相を初めて知ったようだ。
『どうダ? ワタシのことを信用してくれたカ?』
「ああ、信用する。……“魔王”の正体を俺たちに教えてくれ」
『もちろんダ。いいか? 落ち着いて聞ケ。“魔王”の正体は……ぐあああッ!』
突然、リッチーロードの胸を巨大な剣が貫いた。
辺りを激しいどよめきが包む。
俺ではない。
騎士たちでもない。
剣は後ろから刺さっている。
リッチーロードが倒れるとともに、攻撃した者が明らかとなった。
「倒した……倒したぞおおお! “魔族四皇”は私が倒したあああ!」
ダグードだ。
具現化した魔力の剣で、リッチーロードの胸を貫いた。
おそらく、瓦礫に隠れて近寄ったのだ。
距離を考えると、リッチーロードとの会話は聞こえていたはずだ。
「何をやっている、ダグード! もう少しで“魔王”の情報が得られたのかもしれないんだぞ!」
掴みかかったが、すぐに腕の力が抜けてしまった。
ダグードは……目の焦点が合っていない。
俺はおろか、その目には何も映っていない。
「ハハハハハッ! 私は四聖だ! 誰も私に勝てることはない! 私が最強なのだ! 私は世界最強の剣士、ダグードだあああ!」
ダグードは両手を広げ、天に向かって高笑いする。
そのまま、フラフラと踊るように歩きまわるばかりだった。
「ア、アスカ、あの人……」
「ああ……精神が錯乱してしまっている」
俺に負けたことや、信じていたゴヨークの真実などが、心の重荷となって積み重なっていたのかもしれない。
以前対峙したときの、ある種の気高さはもう感じられない。
ただただ、自分の業績を自慢する男になっていた。
そして、リッチーロードは動かない。
完全に死に絶えてしまった。
“魔王”に関係する重要な情報源を失い、やるせない思いがあふれる。
拳を硬く握っていたら、騎士たちの明るい声が響いた。
「アスカさん! “魔族四皇”を倒してくれてありがとうございます!」
「リッチーロードなんて強敵、俺たちだけじゃ絶対に勝てませんでした!」
「たとえ勝ったとしても、何人死んでいたかわかりません!」
修道会の騎士たちが、俺に労いの言葉をかけてくれる。
「そうだよ! アスカのおかげでみんなは救われたよ!」
「“魔王”の情報はまた調べよう」
「詳しく調べれば、絶対に情報があるはずです」
周りの仲間と騎士たちの声で我に戻った。
……そうか、“魔王”の情報は入手できなかったが、王都の平和は守ることができたんだな。
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