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第7話:ザコモンスターの群れ(Side:ゴーマン②)

「あ゛ーっ、いくらなんでも暑すぎんだろ」


俺達はちょうど、ヤボクの森に入ったところだ。スワンプドラゴンがいる沼地は、ずっと奥にある。ここの木々はうっそうと茂っていて暗いし、とにかくジメジメするのが不快でしょうがなかった。おまけに、足元がぬかるんでいて歩きにくい。


「こんなに湿気が多いんじゃ、汗が止まらないですわ」


カトリーナの方を見ると、奴の服はところどころ汗で透けていた。ずいぶんと、なまめかしい格好じゃないか。クックック、スワンプドラゴンを討伐したら今夜は……。


「ほんと蒸し暑すぎぃ」


そうだ、バルバラの魔法で何とかしてもらおう。


「なぁ、バルバラ。《エア・ウォーク》使ってくれよ。水の上とか歩くときに、よく発動してくれただろ。歩きにくくてしょうがねえよ」


「私からもお願いします、バルバラさん」


「わかった、《エア・ウォーク》…………《エア・ウォーク》! あれ? どうしよう、魔法が発動しないよ」


バルバラは一人で慌てている。


「んなわけないだろ。いつも魔法で俺たちを助けてくれてたじゃないか。もう発動してんじゃないのか? …………いや、何も変わってねえな」


ちゃんと《エア・ウォーク》が発動していれば、空中に浮かびながら歩けるはずだ。全然浮かばねえぞ。


「どうなってんだ、バルバラ」


「あ、あたしにもわからないしぃ」


何がわからないしぃ、だ。真面目にやれってんだよ。


「ふざけん……」


ドガァッ!


「ぐわあああああああ!」


俺が怒鳴ろうとしたとき、後ろの方からダンの叫び声が聞こえた。あいつは最後尾で、周辺の警戒にあたらせていたはずだ。


「おい、ダン! どうした! 何があった!?」


「ゴ、ゴブリンだ!」


何だ、ゴブリンかよ。最弱クラスのDランクモンスターごときに、一撃喰らってんじゃねえ。まぁ、いちおう心配してやるか。


「大丈夫かぁ? ダン」


「ゴ、ゴーマン!」


「ま、周りを見てください!」


突然、バルバラとカトリーナが叫ぶ。言われたとおりに辺りを見ると、俺たちはいつの間にかゴブリンの群れに囲まれていた。ざっと見たところ、40匹ほどはいる。


「おい、ダン! お前には周囲の警戒を頼んでたはずだろ! 何で群れに囲まれてるんだよ!」


「す、すまない。しゅ、集中できなくて」


「何が集中できないだ! ふざけんな! こいつら、結構な数だぞ!」


いくらDランクモンスターとはいえ、こんなにいては討伐に苦労する。


『ギイイイイイイイ!』『ウウウウウウウウウ!』


ゴブリンはジリジリと間合いを詰めてきた。いや、待て。俺たちはめちゃくちゃ強いパーティーじゃないか。何でゴブリンなんかに圧倒されている。


「こうなっちまったら、もうしょうがねえ! さっさと倒してスワンプドラゴンのとこまで行くぞ!」


『ウガアアアアアアアアアア!』


俺の言葉が合図かのように、ゴブリンはいっせいに襲い掛かってきた。ハッ、こんな奴ら俺一人でめった打ちにしてやるよ。俺は目の前のゴブリンに斬りかかった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


ブンッ! スカッ!


あれ? 今ちゃんと当たったよな?


ドゴォ!


「ぐああああああ!」


なぜか俺の攻撃は空振りし、ゴブリンのこん棒が俺の脇腹へしたたかに当たる。何で俺の攻撃は当たってねえんだよ! こんちくしょう! 俺はなりふり構わず剣を振り回す。


「このやろおおおおおおおおおおおお!」


ズバアアアア!


『ギャアアアアアアアア!』


ゴブリンの首を切り落としてやった。ざまーみろってんだ。そうだ、他のメンバーは大丈夫か!?


「おい、お前ら! 大丈夫か!」


「私は大丈夫! 《ファイヤーボール》!」


バルバラは得意の《ファイヤーボール》でゴブリンを倒している。さすが、“業火の魔女”だ。


「カトリーナ! ダン! そっちはどうだ!?」


「わ、私はダンさんが守ってくれてる!」


カトリーナは重装備を身に着けたダンの後ろに隠れていた。


「はっ! くらえ! それっ!」


しかしダンが振り下ろす斧は、素早く動き回るゴブリンに全く当たらない。振るスピードが遅すぎて、全然奴らの動きに追いついていない。何やってんだ! このノロマ!


ズガアアアアアア!


「きゃあっ!」


カトリーナがゴブリンのこん棒を喰らった。


「何やってんだよ、ダン! そのでけえ盾でしっかり守れよ!」


「す、すまん。お、重くて」


そんなでかかったら当たり前だろ!


「もういい! 俺がそっちに行く!」


俺はダンたちのところへ向かう。クソッ! ぬかるんでて歩きにくいんだよ!


ガァン!


……ゴブリンにこん棒で頭を叩かれた。こいつらはぬかるみの中を巧みにジャンプして、俺たちに飛びかかっている。……このクソモンスターがああああああああ!




数十分たったころ、俺たちはようやくゴブリンの群れを討伐しきった。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ。やっと全部……倒しきったか……」


こんなに疲れるとは思わなかった。湿気と足場の悪さで、ムダな体力を使わされてしまった。だが、ゴブリンから受けたダメージは、それほどひどくなかったのが幸いだ。所詮、最弱のDランクモンスターだな。これくらいなら、カトリーナに回復魔法を使わせるまでもない。回復ポーションで十分だ。


「みんな、進む前に一旦体力を回復させた方が良い。回復ポーションを出してくれ」


しかし、誰もポーションを出そうとしない。そういえば、<荷物持ち>は誰がやってるんだ?


「どうした、みんな」


なぜか、3人とも顔を見合わせていた。それどころか、アイテムを探す素振りも見せない。


「早く回復ポーションをくれよ」


「え、あたしは持ってないよ」


バルバラが金切り声で言ってきた。


「私も持ってきてませんわ」


どうやら、カトリーナも持ってないらしい。


「俺もポーションなど用意してないぞ」


そうか、ダンも持ってきてないのか……。って、おい。


「回復ポーションは、どんなクエストでも一応持っていくことになってるだろうが! 何で誰も持ってきてないんだよ!」


俺は怠慢なメンバーを怒る。疲れと蒸し暑さもあって、イラつきが治まらない。


「バルバラ、《エア・ウォーク》くらいちゃんと発動させろ! ダンも、ゴブリンごときに攻撃外してんじゃねえ! そんなんじゃ、いつまでたってもSランクなんてなれねえぞ!」


まったく、こいつらは……。


「じゃあ、ゴーマンはポーション持ってきたの!?」


「お前こそ人のことは言えないだろう!?」


バルバラとダンが反抗してきた。声を荒げて文句を言ってくる。予期せぬ反応に、俺は思わずひるんでしまった。


「お、お前らリーダーの俺に向かって、そんな口のきき方して許されると……」


「リーダーだったら、もっとちゃんとしてよ!?」


「お前の剣だって空振りしていたじゃないか!?」


バルバラとダンは俺に詰め寄ってくる。今にも殴りかかってきそうだ。クソっ、俺に歯向かいやがって! 一度ボコボコにして、力の差を思い知らせてやる!


「《オール・キュア》」


カトリーナが唱えた全回復の魔法が、俺たちを優しく包み込んだ。たちまち、体が楽になっていく。


「皆さん、いったん落ち着きましょう。まだクエストは始まったばかりです。なぜバルバラさんの魔法が発動しなかったかは不明ですが、最終的にはゴブリンを倒してくれたわけですし。ダンさんだって、必死に私を守ってくださいました」


体力が戻って、落ち着く余裕ができた。……たしかに、カトリーナの言うとおりだな。今のはリーダーとして、少々みっともなかったかもしれん。


「すまなかった、バルバラ、ダン。俺は少し混乱していたようだ」


俺はバルバラとダンに謝る。


「あ、いや、あたしも上手く魔法が発動できなかったのが悪いし……ごめん」


「俺こそ悪かった。反省する」


バルバラとダンも謝り返してきた。何となく全体が安心した空気になった。俺は明るい声で言う。


「さあ、みんな! これをクリアすれば念願のSランクだ! 頑張るぞ!」


「「「オー!」」」


俺が上手く場をまとめたおかげで、パーティーのピリピリした雰囲気も消えて無くなった。やっぱり俺は優秀で立派なリーダーなんだな。ハッハッハ! しかし、カトリーナの回復魔法はさすがだ。まぁ、一番簡単な《ヒール》でも良かったんだけどな。

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