第68話:目(三人称視点)
「やれやれ、私の相手は猫ちゃんですか。舐められたものですね。《シャドウ・カッター》」
「私は猫じゃない!」
レイスと化したカトリーナの全身から、黒く鋭い刃が大量に放たれる。
広範囲かつ高速の攻撃を、ナディアはそれ以上に素早く動いて避けた。
“猫人族”の俊敏性は、一般的な冒険者より格段に上なのだ。
「……なるほど、あなたは足が速いようですね。では、この攻撃ならどうでしょう《トキシン・ウィップ》」
カトリーナの腕が黒い鞭に変わり、あらゆる方向から三次元的にナディアを襲う。
不規則かつ高速の攻撃を躱し切るナディア。
鞭の触れた地面や建物は、強烈な毒に侵され朽ち果てる。
かすりでもすれば勝負は決まったが、ナディアに当てることすらできなかった。
「あなたの攻撃は私には当たらないよ!」
己の仕掛けた攻撃がことごとく躱されたのを見て、カトリーナの心には強い加虐性が生まれる。
彼女はすでに、残忍な心に支配されていた。
「まぁ、いいでしょう。少し遊んであげます。あなたの体を切り刻んでね……《シャドウ・サイズ》」
カトリーナの周囲に一振りで巨人の首も落とせそうなほど、巨大な黒い鎌がいくつも出現する。
迸る闇の魔力。
ナディアは直感で、絶対に触れてはならないと感じる。
それは正解だった。
触れたものを瞬時に腐敗させる鎌だ。
カトリーナの回復魔法は、今や真逆の効力になっていた。
ナディアが愛用の剣を硬く握ると、死の鎌が勢い良く襲い掛かる。
間一髪で避けながら、一直線にカトリーナに向かう。
アスカの戦いを間近で見るうちに、ナディアの体にも少しずつ彼の技術が蓄積した。
もう守られるだけの私ではない。
その強い思いが、ナディアをより強くした。
「ど、どうして、当たらないのですかっ!」
「アスカの攻撃は……もっと速かった!」
ナディアは目が良かった。
元々“猫人族”は良い目を持つ者が多いが、彼女はその中でもひと際優れた目を有していた。
攻撃の軌道を見破ることはおろか、敵の魔力の流れを見切ることもできた。
鎌は大型ゆえ、魔力の消費量も大きい。
死の鎌が出現してから、カトリーナの魔力は流れが明確になった。
ちょうど心臓の部分。
そこから全身に魔力が流れている。
最後の鎌を躱すと、心臓に達するルートが開かれた。
ナディアは走りながら、アスカとの旅を思い出す。
レッドサイクロプス、メドゥーサ、ヒュドラ……。
何度もアスカの戦いを見ているうちに、自分の動きが各段に良くなったのを感じる。
剣を構え、勢いよく足を踏み込んだ。
「ここだっ! 《心眼突き》!」
「ぅぐっ!」
剣が魔力の結晶体を割る。
リッチーロードの魔法は消え、レイスの不気味な黒い影が薄まり、どさりと一人の少女が落ちた。
モンスターと化したカトリーナ。
彼女は今や、元の小さな神官に戻っていた。
「やった……初めて一人で敵を倒したよ、アスカ!」
ナディアは喜びの声を上げる。
自分を成長させてくれたアスカへの感謝の思いを抱きながら。
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