第66話:王国の剣(三人称視点)
アスカたちが駆けだすと、ゴーマンたちもまた迎え撃つように駆けだす。
おのずと一対一の形になった。
まず相対するは、ノエルと3mほどの巨大なトロールになったダン。
両者は視線が合ったときから、互いに敵だと認めていた。
「あのときの女だな。アスカとともに行動しているとは驚いた」
「“魔族四皇”に堕ちるとは……貴様はそれでも冒険者か」
「ほざけ。修道会の高飛車女が」
ダンは手に持つ棍棒を振りかぶり、ノエルの頭目掛けて殴る。
彼女は即座に体勢を変え、ひらりと横に飛んで躱した。
棍棒が地面に衝突すると、砕けた石や土の破片が次々とゴブリンやコボルトに姿を変え、ノエルを襲う。
奇襲とも言える現象だったが、そこで遅れをとるような彼女ではない。
「《戦蛇連撃》!」
『『ギィィィッ』』
まるで蛇がうねるような、もしくは一筆書きを描くような魔剣の軌道。
陽光に魔剣が煌めいたと思った一瞬の直後、ゴブリンとコボルトの一団を何発もの斬撃が襲った。
ノエルに斬られたモンスターたちは、地面に接触する前に元の石や土やらに姿を戻す。
その光景を見たダンは嬉しそうに笑う。
「へぇ、やるじゃねえかよ。さすがは王国騎士修道会様だ。これくらい取るに足らないってか?」
「……どうやら、貴様が大事に持つそれには特別な力があるようだな」
ノエルが棍棒を指しながら言うと、ダンの笑みは不気味な笑みに変わった。
棍棒を黒いオーラがまとう。
「こいつには闇の力が宿る。触れたものをモンスターに変えてやるのさ。素材によって強さは変わるけどな。……お前はどれくらい強いヤツになるか楽しみだ」
「あいにくと、私はモンスターなどになるつもりはない」
ノエルが淡々と言うと、彼女の魔剣が白く輝いた。
闇属性に唯一対抗できる聖属性の光だ。
強力な分扱うには大変難しい属性だが、彼女は日々の厳しい修練により体得していた。
己の弱点である属性の光を見ても、ダンは不敵な笑みを崩さない。
「お前を倒したら俺も修道会に入れてくれよ」
「ふざける暇があったら攻撃してきたらどうだ?」
ノエルの言葉に、ダンの顔から笑みが消える。
それまでの飄々とした雰囲気も消失し、彼の顔には邪悪な怒りが表出した。
「……だったら、お望み通り殺してやるよ! 二度と減らず口を叩けないようになぁ!」
ダンは地面を何発も叩く。
大量のゴブリンやコボルドの他に、小型のゴーレムやガーゴイルも現れた。
地上と空からノエルを襲う。
「芸がないな。《月刀嵐》!」
ノエルの一振りと同時に、地上にいるモンスターの首が飛んだ。
返す刀で上空のガーゴイルたちが斬られる。
彼女の魔剣は聖属性の魔力が集まり、リーチが大幅に伸びていた。
魔力の消費量が大幅に増加するが、ノエルの疾風とも言える剣速がデメリットを補っている。
まるで嵐のような斬撃の後、モンスターたちは元の素材に戻り、またダンとノエルの二人となった。
ノエルの身体には、汚れの一つもついていない。
「チッ、雑魚どもが」
ダンは舌打ちするも、額には脂汗が滲んでいた。
「いい加減、違った種類の攻撃をしてきたらどうだ」
歩いて近づくノエルに、ダンはニタリ……とひと際不気味な笑みを浮かべる。
ダンのすぐ傍の地面に転がっていた鎧と魔剣を叩く。
モンスターにはぎとられた騎士の装備だ。
じわじわと鎧は姿を変え、一体の強力なモンスターが姿を現す。
「今度の敵は一味違うぞ」
「……ふむ、ランクはA+というところか」
白い甲冑に身を包んだデュラハン。
気品とも言える厳かなオーラは、他のモンスターとは一線を画す証明のようだった。
デュラハンが構えた魔剣に闇の魔力が宿る。
「さあ、その女を殺せ! 滅多打ちにしろ!」
ダンの掛け声を合図に、デュラハンは猛スピードで突っ込む。
そして、ノエルの前を駆け抜けた瞬間、バラバラに切り裂かれた。
「《霧散の一閃》」
「な……ん、で……」
鎧の破片が落ちる中、ダンはじりじりと後ずさる。
「手下ばかり増やしても私に勝つことはできない。なぜ、モンスターに戦わせる。まさか……自分で戦うのが怖いのか?」
ノエルが問いかけると、ダンの表情がピクリと動く。
彼はアスカが抜けた後の、トレントの敗北が忘れられなかった。
今まで勝てていたはずの敵に負けた……。
その事実は、いつしか、自分で戦う意志をダンから奪っていた。
「違う……」
ダンは言う。
絞り出すように。
「違う違う違う! 違ぁぁぁあう!」
大きく振り上げた棍棒を、ノエル目掛けて全力で振り下ろした。
「遅い……《天啓》」
ノエルは棍棒を避けると、目にも止まらぬ速さでダンの身体に登る。
再び地面に降り立ったとき、無数の斬撃が駆け巡った。
ダンは全身を襲う激痛とともに、意識が遠のくのを感じた。
「あっ……がっ……」
ダンの全身から、黒いもやが抜けるように放出される。
徐々にトロールの身体が小さくなり、やがて元の彼が現れた。
人間の頃のダン。
ずさりと力なく地面に横たわる。
もう二度と狂暴なトロールに姿を変えることはなかった。
「君が一から出直せることを祈ろう」
魔剣が鞘に納められる音が軽快に響く。
魔王を倒すべく旅を続けるアスカたちと、敵に魂を売ったゴーマンたち。
彼らの戦いは、ノエルの圧勝で幕を開けた。
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